光明寺の「もみじ参道」で、紅く染まる石畳に魅せられて

2018.10.25 更新

京都府の南西に位置する長岡京市は『竹取物語』の舞台になったともいわれる、いにしえより自然豊かな地です。なかでも随一の歴史を誇る「光明寺(こうみょうじ)」は、紅葉の名所としても知られています。頭上を覆う紅葉の枝々と、石畳を埋め尽くす落葉。その二つが織りなす「もみじ参道」の美しさは必見です。

▲薬医門と紅葉に染まるもみじ参道

信仰に守られた自然美

JR京都線・長岡京駅からバスで約20分、または阪急電鉄・長岡天神駅からバスで約10分。鳥ヶ峰(とりがみね)の山腹に広大な寺域をもつ「光明寺」は、西山浄土宗の総本山です。
この辺りは、粟生広谷(あおひろだに)と呼ばれ、浄土宗の開祖で平安後期から鎌倉初期に活躍した法然上人(ほうねんしょうにん)が、初めて「南無阿弥陀仏」の念仏の教えを人々に説いたといわれる地。厚い信仰に守られて、美しい自然が今も残っています。
▲門前には「浄土門根元地(じょうどもんこんげんち)」の碑

そんなお寺の歴史や建物、そして法然上人の教えを広く知ってもらおうと、光明寺では参拝客をお寺の方がガイドする「諸堂案内」が行われています(事前予約。法要や混雑時は中止)。
▲今回「諸堂案内」を担当いただいた、本山部主事の新田隆幸(りゅうこう)さん

訪れたのは、山々の緑が深みを増す7月下旬。この日の諸堂案内は総門前からのスタートです。

「法然上人が仏の道を求めて苦悩する青年僧だったころ、この粟生の里で一夜の宿を求めた際、手厚くもてなされました。その時、里人から『すべての者が平等に救われる教えが見つかったら、ぜひ私たちに最初にお説きください』と願われたのだそうです。20年後、約束を守ってここで初めてお念仏を説かれたと伝わっています」と、やさしい語り口調の新田さん。
諸堂案内をお願いする場合は、総門から表参道を上り、観音堂、阿弥陀堂、御影(みえい)堂、釈迦堂をめぐり、薬医門からもみじ参道を下って総門に戻るコースが一般的。内容にもよりますが、所要時間は30分~1時間が目安です。

諸堂案内で数々の伝説を辿る

総門をくぐると参道は二つに分かれていて、左が秋の紅葉で有名な「もみじ参道」。こちらは帰りに通って降りてくる予定。
右の表参道は、傾斜が緩やかで女性やお年寄りでも上りやすいことから「女人(にょにん)坂」と呼ばれています。よく見ると、きれいな小石がびっしりと埋め込まれていました。
▲右が「女人坂」とも呼ばれる表参道。左が「もみじ参道」

「信者の方々が一つひとつ念仏を唱えながら敷き詰められていったもので、石のおかげで歩きやすくなっているんですよ。ありがたいことです」と新田さん。

二つの参道の分岐点には大きな石碑が。近寄ってよく見ると、馬の背に逆さに乗っているお坊さんの姿が刻まれています。
▲参道前に立てられた「東行逆馬(とうこうさかうま)」の碑

これは、『平家物語』や謡曲『敦盛』で有名な熊谷次郎直実(なおざね)の「東行逆馬」の故事にちなんだもの。光明寺の開山は法然上人ですが、建久9(1198)年の創建に力を尽くしたのがこの直実で、源平の合戦のあと、法然上人の弟子になり、法力房蓮生(ほうりきぼうれんせい)と名前を変えました。そしてこの地に「念仏三昧院」を建てたのが、光明寺の前身です。

蓮生法師は、関東へ布教の旅に出るときも「阿弥陀様がいらっしゃる西へ尻を向けて進めない」と馬に逆さに乗ったとか。元荒武者らしい熱い信仰心ですが、少し行き過ぎでは?と思えなくもありませんよね。
▲女人坂を上り詰めたところから総門を振り返る

緩やかな坂とはいえ、上りきるころには息が切れるほど。山全体が境内ということもあり、坂や階段が多いので、やはり歩きやすい靴や服装で参拝したいところです。
▲塩田紅果(しおたこうか)の句碑

参道を上りきったころ、左手に見えてくるのは昭和初期に活躍した歌人・塩田紅果の句碑。「うつし世の楽土静けし花に鳥」とは、光明寺を詠んだものです。句の通りの静寂さは今も昔のまま。
▲法然上人像の向こうは「御影堂」

御影堂前には、さまざまな遺物が残されています。例えば御影堂の右手前、石の柵に囲まれているのは法然上人の「石棺」。
▲法然上人の「石棺」

上人は建暦2(1212)年に亡くなり、東山の大谷の地に埋葬されていましたが、念仏の教えが広まるにつれ、それを快く思わない人々によって上人の墓を暴こうという企みがあることが発覚します。そこで弟子たちが遺骸を密かに東山から太秦へ、嵐山へと、西へ西へ運んでいたところ、石棺から不思議な光が放たれ、粟生の地を指したことからこの地に安置されたのだそうです。

光明寺が浄土宗の重要な寺院に位置づけられているのも、法然上人のお墓があるからなんですね。
▲「法然上人袈裟掛の松」と、右手奥に見えるのが「経蔵(きょうぞう ※経典を入れておくための蔵)」

また、経蔵の前にあるのが、法然上人がこの地で初めて教えを説いた際に袈裟を脱いで掛けたとされる松。もとは本山の裏山の小さな谷に生えていたものを、株分けしてここへ移したそうです。
▲参道を登ってすぐ右にある「観音堂」

以前は観音堂に、平安中期の僧、恵心(えしん)の作といわれる千手観音立像が安置されていましたが、重要文化財に指定されて以降は京都国立博物館に収められています。現在は、近隣にある粟生観音寺の十一面千手観音像が安置されています。
▲御影堂から向かって右側にあるのは「阿弥陀堂」

阿弥陀堂に安置されているのは阿弥陀如来像。高さは2m近くあり、法力房蓮生が法然上人に弟子入りする際、近江(現在の滋賀県)の琵琶湖畔にある堅田(かたた)の浮御堂(うきみどう)から背負ってきたという伝承が残っています。
▲阿弥陀堂の内部。中央が阿弥陀如来像(堂内は撮影禁止)

山腹に巡らされた回廊を渡って

いよいよ、光明寺の中心的な建物である御影堂内へ。普通の寺院様式では本堂に当たる建物に相当し、御影とは法然上人のお姿のことで、それをおまつりしてある御堂を指します。
▲十八軒四面(約33メートル四方)、総けやき造りの御影堂

応仁の乱をはじめ、何度も火災にあっており、現在の御影堂は宝暦4(1754)年に完成したもの。ここにご本尊としてまつられているのは法然上人が自らつくられたという「張子の御影」で、上人のお母様から送られた手紙を水にひたし、張子にしたことからその名で呼ばれています。
▲手前に見える木の柵が結界で、その奥は極楽浄土を表した内陣(堂内は撮影禁止)

ご本尊の周辺は宮殿(くうでん)と呼ばれ、黄金の蓮や天蓋で美しく飾られています。内陣に縦に並ぶ畳は九つの等級に分けられた「九品(くほん)浄土」を表し、その外にある外陣の畳の列は「六道輪廻」を表すなど、一つひとつに意味があり、御堂そのものがこの世界のことわりや極楽を表しているのだそう。

「御影堂にいらしたなら、ぜひ心静かに、お経に説かれた極楽のようすを想像してみてください」と新田さん。意味を知ると、目の前のものが違って見えてくるから不思議です。
▲御影堂で授与されるお守り(各500円)と、洛西の竹で作られたしおり(各300円)

また、最近SNSなどで話題になっているのが、御影堂の「ハートマーク」。欄干の接ぎ木が偶然にもハートの形になっていて、見つけることができれば恋愛にご利益があるとか、ないとか。お参りの際には、どこにあるのかぜひ探してみてください。
▲見つけると恋愛にご利益がある!?と言われる御影堂のハートマーク

御影堂からは回廊をつたって移動します。靴を持って長い廊下の向こうへ。
▲御影堂から続く回廊。右手奥、御影堂の裏には法然上人が眠る御本廟が

御影堂の奥は、山の斜面の形に沿うようにして回廊が階段状に下っています。その回廊を下りきった先にあるのが「釈迦堂」。深い軒の目の前には枯山水の「信楽庭」があり、奥に見えるのが「勅使門」。
▲釈迦堂の前には信楽庭と勅使門

釈迦堂を過ぎると「小書院」や「大書院」があり、玄関から再び外へ。もとの総門へと戻る道が、お待ちかねの「もみじ参道」です。
▲紅葉時期には、石畳までが紅く色づくもみじ参道

秋が深まる頃には、もみじ参道は紅葉のトンネルになり、その下をくぐれば、天地左右のどこを見ても赤や黄の鮮やかな色彩で埋め尽くされています。陽の当たり方によって微妙に異なる葉の色が、幾重にも重なることでまるで万華鏡のような美しさです。
▲薬医門の向こうにも紅葉の並木が見える

もみじ参道だけでなく、一帯が燃え上がるような色に染まり、毎年11月上旬から12月上旬まで行われる紅葉特別入山の時期には5万人もの人が訪れるといいます。
錦秋の美しさを楽しめるのも、ここが信仰の場、修行の場として大切に受け継がれてきたから。訪れる際には心静かにマナーを守って鑑賞したいですね。
▲境内に巡らされた回廊も赤や黄色の木々に覆われる

なかには樹齢150年以上の楓もあり、紅葉のシーズンはもちろん、青もみじの頃もおすすめです。
▲青もみじもまた格別の「もみじ参道」
楓のトンネルはまるで現世から切り離されたかのように美しく、思わず幾度もシャッターを切りたくなるほどでした。
賑わう季節をあえて外して、諸堂を案内してもらいながらゆっくり境内を巡ってみるもよし。深い山々に抱かれた信仰の地は、心おだやかな時間を過ごすのにぴったりな場所です。
※紅葉の写真は2017年以前のものです。
若林扶美子

若林扶美子

フリーのライター&プランナー。京都をはじめ関西を中心に、雑誌、書籍、PR誌の企画・執筆を手掛け、伝統文化や地域情報などを発信している。6匹の猫とともに滋賀在住。

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