「半兵衛麸」創業320余年の京都の老舗で伝統の麸とゆばに舌鼓

2019.01.03 更新

麸といえば、もちもちの生麸…だけではありません!江戸時代に京の町で麸の専門店を創業した「半兵衛麸」では、焼き麸や精進生麸など工夫を凝らした麸とゆばを提供しています。本店には飲食スペースや日本庭園、博物館も併設。今回は、買うだけでなく、味わったり見学したりもできる「半兵衛麸 本店」の魅力をたっぷりご紹介します。

▲低カロリー、高たんぱくの麸は、僧侶が食す精進料理のほか、美と健康を意識している若い女性たちにも支持されている

京都で古くから親しまれている麸やゆばの歴史は、今から約700年前の室町時代までさかのぼります。もとは中国で修行をした僧が伝えた食材で、主に京都の寺院や宮中で食されていました。

中でも小麦を原料とする麸は、小麦の作付けが少なかった日本では高価な食材だったそう。今でこそ普段の料理で幅広く利用されていますが、伝来した当時、口にできたのはごく限られた位の高い人々だけだったと推察されます。

創業320年余り、麸づくり一筋の老舗「半兵衛麸」

そんなお麸の老舗として知られるのが「半兵衛麸」です。京都市内を南北に走る私鉄・京阪本線の清水五条(きよみずごじょう)駅から徒歩1分ほど。鴨川沿いの川端通りから一筋東に入ると、レトロな洋館と伝統的な京町家が目に飛び込んできます。
▲手前の京町家と、奥の洋館が店舗
▲京町家の屋根には「京麸」の文字が。実は「半兵衛麸」のつくる麸のみが「京麸」として商標登録されています

創業は江戸中期の元禄2(1689)年。宮中の料理人を務めていた初代が京都の町で麸屋を開き、9代目が寺院の要請を受けてゆばの製造を開始しました。以来、水や小麦などの材料にこだわった麸やゆばづくりを続け、現在は11代目が店を守っています。それでは、店内に足を運んでみましょう。
▲洋館1階の販売スペース

半兵衛麸の本店は洋館と京町家が繋がっているつくり。右側の洋館は、1階が販売スペース、2階は無料で見学できるお辮當(べんとう)箱博物館です。
▲生麸に粟を練り込んだ「あわ麸」(税別440円)などの定番商品を購入できる

販売スペースには、よもぎ入りやごま入りの生麸、麸まんじゅう、焼き麸、精進生麸など定番商品をラインアップ。生麸にみそが付いた田楽セットやすき焼きに重宝する焼き麸セット、贈答用などラッピング商品も多数揃っています。
▲本店のみの限定品も。禅寺の修行僧のたんぱく源としてつくられた麸のしぐれ煮「精進生麸 禅(山椒)」(950円、箱入り1,100円 ※ともに税別)は、まるで肉のそぼろを食べているかのような食感!ほかに生姜味とごま味もある

左側の京町家は、入ってすぐの場所が麸に関する文献や道具の展示スペースになっていて、その奥に日本庭園、麸料理を提供している茶房が広がっています。
▲京町家の入り口すぐの資料スペースには、麸づくりに使われてきた道具の数々が展示されている
▲間口が狭く奥行きのある京町家独特の構造「うなぎの寝床」。この奥に茶房と日本庭園がある
▲今となっては珍しい、昔ながらのおくどさん(かまど)もそのまま残されている

茶房で「むし養い」を食べよう

一言で「麸」と言っても種類はさまざま。生麸に焼き麸、利久麸、麸のそぼろ…。これらの麸にだしを含ませて煮たり、酢で和えたり、または揚げたり焼いたりと、調理法や味わい方は無限大です。広報担当の置山淳(おきやまじゅん)さんによれば「どうやって食べるといいの?という問い合わせも多い」とのこと。

そこで11代目が始めたのが、麸とゆばづくしの料理「むし養(やしな)い」(税別3,500円)の提供。「むし養い」とは、お腹の虫を養うという意味から転じて、空腹を紛らわせる食べ物のことを指します。「販売のみならず、麸とゆばを使った料理を提案することで、食べ方や調理法のヒントになれば」との思いでつくられる料理は、京町家の奥にある茶房で完全予約制で味わうことができます。
▲店内ののれんをくぐり、茶房へ。提供メニューは「むし養い」のみ
▲坪庭や和室に臨む茶房は、最大20席の大広間。靴を脱いで上がる

ほどなくして、煮物、酢の物、揚げ物、焼き物、汁物などの料理が一度に運ばれてきました。その品数の多さに圧倒されます!
▲全11種類の麸とゆば料理にご飯や漬物がつく。米と野菜以外は全て麸かゆばでつくられている

麸とゆばだけで、これほどの料理がバリエーション豊かにつくられるとは驚くばかり。どれから食べようか迷ってしまいますが、まずはくみ上げゆばをひと口。
濃厚な大豆の風味と豊かな香り、かすかな甘みが口いっぱいに広がります。とろとろの口当たりも心地よく、トッピングの生姜を混ぜたり醤油をひとたらししながら味の変化を楽しみます。
▲ゆばが固まる寸前にくみ上げるので、舌触りがなめらか

次に焼き麸の煮物を。同茶房では、全ての料理にかつおと昆布でひいた出汁を使用しています。たっぷりの出汁で煮た焼き麸は、箸で持ち上げるとずっしり重みを感じるほど。少し箸に力を加えるだけで出汁がしたたり落ちます。
▲しずくが今にも落ちそうなほど、おいしさをたっぷりと抱え込んだ焼き麸の煮物

そのしずくを逃さないよう、ひと口で。途端にじゅわーっとうまみがあふれ出てきました!そして舌に感じる麸のキメの細やかさ。

「焼き麸は、グルテンに小麦粉を加えて練って焼くと膨らみます。その膨らみをしっかり抑えることで、細かな気泡が詰まった、キメの細かい麸に仕上がるんですよ。いかにキメを細かくできるかで麸の善し悪しが決まります」と置山さん。

気泡が細かいほど水分をたっぷり含むので、このポイントはとても重要なのだそう。この焼き麸がつくれるのは、320年以上もの歴史を持つ半兵衛麸の技術があってこそですね。
▲秋を感じさせる柿の生麸は、煮物などの料理に添えるだけでパッと華やぐ。左は、小巻ゆばとふきよせ麸、白玉麸の揚げ物

そして「ああ、秋だなあ」と季節を感じさせてくれる生麸。もちっとした食感はグルテンに餅粉を混ぜて蒸し上げているから。これが一つあるだけで、料理の素晴らしいアクセントになります。
続いて生麸の田楽を。白味噌と木の芽味噌それぞれをのせたあわ麸と、赤味噌をつけたごま麸の計3種が味わえます。こんがり焼いた表面の香ばしさと、甘みのある味噌の風味が絶品。餅のような食感とあいまって食べ応えも満点!むちむち、もちもちとした歯ごたえがクセになります。
▲京都らしい白味噌味の田楽。味噌の甘みが生麸と好相性

動物性の食材がほぼないからか、ボリューム満点ながらぺろりと完食できました!
食べてみて気づいたことは、どれも調理法が意外なほどシンプルだったこと。奇をてらった料理は一切なく、焼いたり揚げたり、煮たりと、おなじみの家庭料理とさほど変わりません。

「そうなんです。だから調理もプロの板前さんではなく、主婦の皆さんにご協力いただいているんですよ」と置山さん。プロでなくては使えない素材ではなく、誰でも料理に活用できる…そんな麸の気軽さが身近に感じられる料理の数々でした。
▲茶房でお運びさんと調理を担当している皆さん。「え~恥ずかしいわあ」とはにかみながら撮影に応じてくれた

伝統を守り続けてこられた理由

320余年もの歴史がある半兵衛麸。その理由の一つに、2つの家訓が大きく関係しています。

1つは、社会や人の役に立つ商いをし、それによって得た利益を世の中のために使う「先義後利(せんぎこうり)」。もう1つは、先祖から受け継いだ教えや考えを守り、新しい技術を研究して時代のニーズにこたえる「不易流行(ふえきりゅうこう)」。初代から受け継がれているこれらの教えが、半兵衛麸で働く人々の中にしっかりと息づいているからこそ、商いが続いています。
▲店内では、和室に敷かれた美しい鍋島緞通(なべしまだんつう)や、季節を感じる屏風などの調度品も見どころ

その姿勢が特に表れたエピソードをご紹介しましょう。
昭和時代、戦争の影響で政府による金属回収令が発令された際、命よりも大切な商売道具でさえも「役立つのであれば」と釜までも供出。また、戦中戦後の食糧難で小麦粉が自由に買えなくなった時は、「のれんを汚してまで商売をしては、ご先祖様に失礼だ」として闇市の小麦に決して手を出さず、やむなく麸づくりを中断しました。
▲実際に宮内庁へ納めているもみじ麸の木型

そんな真面目な働きぶりもあり、美智子皇后陛下のお誕生日には毎年もみじ麸を宮内庁に納めています。皇室からも愛される、京都を代表する麸。一生に一度は食べてみたいですよね。

見事なコレクションに脱帽!お辮當箱博物館

食事を楽しんだ後は、洋館2階にあるお辮當箱博物館も見物していきましょう。
ここでは初代の頃からコレクションされたという数々の弁当箱を無料で見学できます。この博物館を開いたきっかけは、食文化の担い手として、お弁当という日本独自の文化を紹介したいという思いがあったからだそう。展示されている品々は、芸術品や文化財と言っても過言ではないほどの素晴らしいものばかりです。
▲花見用に作られた、漆塗りの豪華な弁当箱がずらり

展示物は、花見用や紅葉狩り用など季節のお出かけに合わせたものや、おかずを衛生的に保つために竹で編んだ夏専用の弁当箱や1人用など機能性を高めたもの、茶釜や舟形を模した変わり種などさまざま。
▲螺鈿細工を施した豪華なお弁当箱。船の形が珍しい変わり種

これらおよそ50点の展示物は、季節ごとに入れ替えて公開しています。ただの弁当箱と侮るなかれ。昔の人々の暮らしが小さな箱1つから垣間見えてくるのが、たまらなく面白いですよ。
▲窓の外に広がる日本庭園に癒やされる。奥の井戸は今も現役

麸をこんなに味わい深く楽しめるとは、思ってもみなかった体験になりました。320年以上も守り続けてきた伝統にあぐらをかくことなく、その時代に沿ったチャレンジも忘れない。麸を購入できるだけじゃなく、食べて、見て、楽しめる「半兵衛麸 本店」へ、足を運んでみませんか?
中河桃子

中河桃子

編集・ライター、京都出身滋賀育ち。大学在学中に京都でライター業を開始。以後、関西・東京の出版社や制作会社で、グルメ・エンタメ・街情報を中心に18年以上携わる。新しいもの・おいしいもの・興味のあることは自分で体感しないと気が済まない現場主義。今は酒蔵巡り・和菓子作り・美術鑑賞・旅にハマり中。

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報は直接取材先へお問い合わせください。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。

こちらもおすすめ

もっと見る

関連エリア

PAGE TOP