姥湯温泉「桝形屋」 渓谷に佇む秘湯の一軒宿で露天風呂に癒される

2018.10.12 更新

秘湯というミステリアスな響きに心弾ませながらやってきたのは、山形県米沢市にある姥湯(うばゆ)温泉「桝形屋(ますがたや)」。福島県との県境にまたがる吾妻(あずま)連峰の北側、標高1,300mのところに立つ一軒宿です。冬期は雪で閉ざされるため、営業は4月末から11月上旬にかけての期間限定。秋の紅葉シーズンを前に、人里離れた秘境に湧く温泉を満喫してきました。

▲渓谷に包まれた露天風呂「山姥の湯」(写真提供:米沢市産業部観光課)

どこまでも続く山道、運が良ければサルたちに遭遇できるかも!?

国道13号から米沢市板谷方面へ曲がり、40分ほど車を走らせたところに、秘湯ファンが愛して止まない温泉宿があります。それが姥湯温泉「桝形屋」。周辺の山々には奇岩怪石がそびえたち、その雄大な風景には言葉を失うほど。木々が色付く紅葉シーズンは、日本画の中に入り込んだような美しさを体感できる温泉宿です。
▲紅葉の中に佇む姥湯温泉「桝形屋」(写真提供:桝形屋)

JR山形新幹線を利用して向かう場合、上りは福島駅で、下りは米沢駅でJR奥羽本線に乗り換え、無人駅の「峠駅」で下車。桝形屋の宿泊客であれば、峠駅と宿の間を無料送迎してくれます(要予約、すべての電車発着時刻に対応することはできません)。ちなみに、峠駅から姥湯温泉までは車で15分ほど。歩いて行こうとすると、2時間20分ほどもかかるそう!
▲山の中に存在する木造の駅舎。周囲には建屋が2~3軒あるだけ
▲1日に停車するのは、上下それぞれ6本のみ

今回は自家用車を利用して姥湯温泉まで向かうことにしました。道幅は車1台通るのがやっと。ただし、対向車とすれ違うことができるよう数十m間隔で道幅が広くなっています。

木々が覆い被さってできた緑のアーチを通り抜け、葉っぱの隙間から差し込む木漏れ日に心癒されながら車を走らせていると、視線の先に何やら動くものを発見!車の窓を閉めて徐行しながら近づいてみると、なんと動いていたのはサルの軍団でした。
▲サルたちと遭遇するのは決して珍しいことではないそう。それだけでも山深い場所に入ってきたことを実感できます
▲姥湯温泉まであと3km。きつい勾配とカーブの連続で距離が長く感じます
▲ようやく建物が見えてきました!

姥湯温泉は、桝形屋の初代・遠藤大内蔵により室町時代の1533(天文2)年に発見された、開湯485年の歴史をもつ温泉です。入浴施設は「桝形屋」1軒のみ。木々の深々とした息遣いが聞こえそうな山あいにポツンと立っています。
▲駐車場から旅館までは約250m。吊り橋を渡り、坂を上っていきます
▲旅館が近づくにつれ、硫黄の臭いがしてきます
▲旅館側から吊り橋を眺めた様子。旅館までのアプローチは勾配があるため、ワイヤーロープに吊るしたゴンドラで荷物を運びます

2005年に全面改装、情緒あふれる木造2階建ての宿

▲息を切らしながら、ようやく桝形屋に到着!

2005(平成17)年に全面改装した2階建ての建物は、どことなく湯治場の雰囲気を漂わせています。
▲懐かしさを感じる館内の佇まい

館内には13の客室、浴室などがあります。客室は3~6人定員の純和風な造りで、洋室はありません。渓谷を見渡すことができ、客室にテレビはありますが、ここに来たら雄大な自然を眺めながら時間を過ごすのがいちばんの贅沢だと感じさせられます。
▲5人定員の「石楠花(しゃくなげ)」。右手にも畳の部屋があるので、ゆったりと過ごすことができます

どの客室にも内風呂はありません。男女それぞれに分かれた館内の内湯か、旅館から坂を少し上ったところにある3ヵ所の露天風呂を利用します。自慢の露天風呂へ足を運ぶ前に、まずは内湯を軽く覗いてみましょう。
▲内湯は宿泊者のみ利用可能です(24時間制)
▲こちらは男湯。渓谷を眺めながら、4人くらいならゆったりと入れる広さ

内湯は男女とも同じ広さで、造りもほぼ一緒。浴場はこぢんまりとしていますが、洗い場にはシャワーが一つ付いており、シャンプーやリンスも用意されています。
▲浴室を出たところにある洗面台の蛇口までもノスタルジック

秘湯中の秘湯!雄大な自然を眺めながら入る露天風呂へ

館内を巡ったところで、本館から150mほどの場所にある待望の露天風呂へ行ってみましょう。18代目当主の遠藤哲也(てつや)さんに案内していただきながら、開湯の由来をお聞きしました。

「初代の大内蔵は鉱山師でした。鉱脈を求めて歩いているうちに、川べりで昼寝をしてしまったらしく、そのとき夢に出てきたのが湯浴みをしていた山姥。恐ろしい形相の山姥に“この湯の湯守になりなさい”と告げられた初代は、この湯を姥湯と名づけて旅館を始めました」
▲先祖の思いを受け継ぐ哲也さん

3つある露天風呂は、手前が女性専用で、奥の2つが混浴。露天風呂は宿泊客だけでなく、日帰り客も入浴できます。利用時間は9:30~15:30(宿泊客は22:00まで)、日帰り入浴料金は大人600円・小人300円(ともに税込)。
▲いちばん奥にある「山姥の湯」(混浴)。野趣あふれる露天風呂です(写真提供:桝形屋)

見渡す限りの山々に囲まれた「山姥の湯」は、周囲のダイナミックな景観が魅力です。特に10~11月に見頃を迎える紅葉シーズンはおすすめ。紅葉やナナカマドなど鮮やかに色付いた木々に囲まれ、ゴツゴツと切り立った雄大な渓谷美を眺めながら岩風呂に浸かれば、最高に贅沢な気分になることでしょう。
▲雄大な自然を眺めながらの入浴は至福のひととき(写真提供:米沢市産業部観光課)

源泉は6つあり、すべて泉質は単純酸性硫黄泉。胃腸病、皮膚病、婦人病、糖尿病などに効果があるとされています。ピリピリ感がなくやわらかなお湯は、ずっと入っていたくなるほどの気持ち良さです。
▲いずれの露天風呂も白濁の湯で、すべて源泉掛け流し。源泉は52度で温泉の温度は42度です
▲こちらは「薬師の湯」(混浴)。「山姥」と同じ源泉から湯を引いているそうです

混浴の湯舟に設置されている脱衣所の入口は男女それぞれに分かれており、脱衣後は一旦外に出てから湯舟に入ります。「混浴はちょっと…」という方には旅館の受付でレンタルしているバスタオルを巻いて入浴することもできますよ(バスタオルレンタル料270円・税込)。なお、各露天風呂に洗い場はありません。
▲一番手前にある女性専用の「瑠璃の湯」は、他の露天風呂とは別の源泉から湯を引いています。3つの湯とも湯の花が沈殿していて、手で触れる度に浮遊します
▲温泉に含まれる水素ガスの作用で白くなった粘土質の岩肌

大自然と一体化したような気持ちになれる絶景の露天風呂。誰にも邪魔されることなく、開放感に浸りながら入浴ができます。秘湯ファンに人気があるということに心から納得です。

米沢のソウルフードに舌鼓

絶景露天で癒された後は、お楽しみの夕食です。食事は、地元の季節の食材を使った郷土料理がメイン。山のもの、川のものがお膳に並びます。江戸時代から地元で食べられてきた鯉料理や山菜、きのこ料理など味わい深い料理ばかり。
※季節によってメニューが変わります
▲この日の夕食には、米沢市特産の鯉の刺身が登場(写真提供:桝形屋)
▲こちらは筒切りにしてまるごと甘辛く煮た鯉の煮付け。臭みがなく、身厚で食べごたえがあります。しっかり味のしみ込んだ極甘の美味しさに箸が進みます(写真提供:桝形屋)
▲山形といえば芋煮汁。牛肉や里芋はもちろん、きのこなど山の恵みもふんだんにいただけます。しょう油で味付けされた優しいお汁です(写真提供:桝形屋)

自然の恵みがたっぷりの夕食は、どこか懐かしさを感じさせてくれる料理ばかり。四季折々の味覚を堪能できますよ。
▲食事場所は1階の広間。宿泊客全員がここで食事をします。いつしか、知らない人同士でも話が弾みそうな雰囲気です
▲食事のあとは談話室でくつろぐこともできますよ
▲「談話室ではコーヒーをお召し上がりいただけます。お客様同士いろんな話で盛り上がっているようです」と女将の千鶴さん

一つ一つ手作りの湯の花をお土産に

桝形屋では、配管の掃除がてら10日に一度の割合で湯の花を採取しており、採取した湯の花は乾燥させてお土産として販売しています。せっかくなので、その製造の様子を見学してきました。
▲露天風呂の近くに設置された箱の中に湯の花が!
▲箱の中の様子。湯の花が藁に絡むことで採取しやすくなります

「湯の花は湯が汚れていたり、土が入ったりしているときは廃棄し、汚れのない部分だけを採取しています」と哲也さん。丁寧に選り分ける作業はとても根気のいる仕事です。温泉の配管が詰まらないようにするためにも、月3回行う作業はとても大切なことなのですね。
▲スタッフによる製造風景。採取した湯の花は丸めて、約10日間乾燥させます
▲オリジナルの「湯花」(100g入り580円・税込)。家庭でも温泉気分が味わえますね

絶景を眺めながら浸かる露天風呂は、まさに秘湯の中の秘湯。すばらしい景観と白濁の湯を楽しもうと、新緑や紅葉の季節を中心に全国各地から常連客もやってきます。たまには町の喧騒から離れ、谷川の音、鳥のさえずりを聞きながら時間を過ごすのもいいですね。
▲露天風呂に入るために宮城県からツーリングしてきたというお二人にも会いました
撮影:佐藤友美
佐藤昌子

佐藤昌子

エディター&ライター。山形県知事認可法人アトリエ・ミューズ企業組合専務理事。山形県内を中心にタウン誌、フリーペーパーや企業広報誌等ジャンル問わず、印刷物の企画、取材・編集の仕事を手掛ける傍ら、モデルハウスのディスプレイやリメイク等『気持ちの良い暮らし方』も提案している。

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