神秘の森にある関東最後の秘湯「奥鬼怒温泉・八丁の湯」。たどり着いた人だけが味わえる名湯を目指す

2018.12.26 更新

年間200万人以上の観光客で賑わう「鬼怒川温泉郷」から、さらに奥地にある栃木県日光市の「奥鬼怒温泉郷」をご存知ですか?鬼怒川源流部、ブナの源生林に囲まれた“超秘境”にある奥鬼怒温泉最古の湯「八丁の湯(はっちょうのゆ)」は、3つの混浴露天風呂を保有するなど秘境を知り尽くした秘湯ファンがどうしても行きたい宿だとか……。その人気の秘密に迫るべく、その長~い道のりへといざ出発!!

「奥鬼怒温泉郷」の想像以上の“奥深さ”に驚く

「東京の奥座敷」と称される「鬼怒川温泉郷」のさらに奥に位置する「奥鬼怒温泉郷」。関東でも最奥エリアにある温泉郷といわれ、そう聞くだけですでに秘湯感を感じます。
▲天保年間(1830~1844年)にはすでに発見されていたという「八丁の湯」の源泉
▲鬼怒川の渓流沿い、豊かな原生林に囲まれた「八丁の湯」

東武鉄道・鬼怒川温泉駅からは「八丁の湯」がある奥鬼怒温泉郷の入り口「女夫渕(めおとぶち)無料駐車場」までバスが出ています。

片道およそ1時間40分(運賃大人1,540円※税込)ほどかかる長~い道のりですが、車窓からは、イワナ、コイなどが生息するダイナミックな人造湖「川俣湖(かわまたこ)」をはじめ、新緑、紅葉など四季折々の景色が楽しめます。

さらに「熊」「猪」「鹿」などの「またぎグルメ」の看板が目を引き、山奥に来たのだと実感……。普段目にしない光景が広がる道中に、けっして飽きることはありません。
▲エメラルドグリーンの湖水が美しい「川俣湖」

やっと終点「女夫渕無料駐車場」に到着。ここからが本当のスタートです!

▲この辺りがかつて「栗山村(くりやまむら)」(2006年日光市に合併)だったという名残のある女夫渕無料駐車場の看板

さぁ、着いた~!と思いきや、ここからお目当ての「八丁の湯」まではまだまだ……。「八丁の湯」がある奥鬼怒温泉郷は日光国立公園内にあるため、ここから先は自家用車などでの入場ができません。宿の無料送迎バス(宿泊者のみ、要事前予約)を利用するか、ハイキングで行くかの二択のみです。
▲この先にある奥鬼怒温泉郷の4軒の宿へのアクセス方法を示した看板

簡単に行けないからこその秘湯……というわけで、今回およそ4.5kmのハイキングで向かうことにしました!頑張ってたどり着いた温泉は、きっと格別なはず!
▲出発前にぜひ駐車場にあるトイレへ寄ってください。この先到着するまではありませんので……

準備万端、さぁ出発!
駐車場の先、鬼怒川にかかる「女夫渕橋(めおとぶちばし)」を渡ると、すぐ近くにハイキングコースとなる遊歩道の入り口があります。
▲奥鬼怒温泉郷への入り口「女夫渕橋」。この先が一般車両通行禁止エリアです
▲遊歩道入り口。階段の急さに一瞬たじろぐ……

こちらのハイキングコースは初心者向けといわれていますが、段差や緩やかな坂道などがあるのでハイキング用や登山靴などしっかりした靴がおすすめです。
階段を上りきると聞こえてくるのは川のせせらぎ……。そうです、このコースは鬼怒川の渓流沿いをたどるのです!心地よいその音に、足取りも自然と軽くなります。
▲整備された遊歩道。途中倒木などもあるので注意しながら進んでいく
▲10分ほど歩くと、鬼怒川にかかる大きなつり橋を発見!
▲橋の名は「鬼怒の中将乙姫橋(きぬのちゅうしょうおとひめばし)」。長さ約90mの橋を渡り対岸へ向かいます
▲橋の上から見た景色。見渡す限りの自然、鬼怒川の透明さに目を奪われる

さらに少し山の中を歩くと、鬼怒川左岸沿いの遊歩道へでます。
▲川沿いをたどるように歩いていくと、硫黄のにおいが……

比較的平坦に感じる道でも、上流に向かっているため5~6%の登りになっているとか。
木陰にある名もなき滝を見つけたりしながら順調に進んでいくと、目の前にかわいいワンちゃんを発見!
▲「ついておいでよ」と言わんばかりに突然現れたワンちゃん

どうやらこの辺りの名物ワンちゃんらしく、タイミングが合えば会えるとか……。ここからは二人六脚?で頑張るぞ~!
落石注意の看板に注意しながらさらに歩いていくと、またまた大きな橋が。
▲歩道橋のような「二ツ岩橋」。渡るとすぐにもう一つ「砥の岩橋」、さらに右手に滝を眺める小さな橋をワンちゃんと渡っていきます

女夫渕無料駐車場を出発してからここまでで、全部で5つの橋を渡ってきました。ちなみに先ほどのワンちゃんは一足先に行ってしまいました。「ここまで付き合ってくれてありがとう」と心の中で感謝しながら、さらに川沿いを歩いていくと……。

標高1,300m!神秘の森に包まれた「八丁の湯」

▲目の前に現れた「八丁の湯」のログハウス。奥にもまたログハウスが

1時間半のハイキングを制して着いた「八丁の湯」を前に、達成感で胸がいっぱいに……。
それもつかの間、「さぁ、頑張った自分に温泉というご褒美を!」とはやる気持ちを抑えつつ、早速ログハウスの向こう側の玄関へと向かいます!
▲“山の宿”感あふれるエントランス
▲最初に客人を迎える看板にも、情緒があります

「八丁の湯」の名前の由来は、ここからさらに鬼怒川上流へ向かうとある「日光澤温泉」あたりに、かつて木杓子や曲げわっぱを作っていた作業小屋があったといいます。この小屋に詰めていた職人たちが通っていたのが、ここ「八丁の湯」。小屋から八丁(800m)の距離にあったことからこう呼ばれるようになったといいます。
▲玄関先の看板もまた、歴史を感じさせます。上には「日本秘湯を守る会」の会員証も

こちら「八丁の湯」は、「日本秘湯を守る会」発足時の昭和50(1975)年からの会員だそうです。
かつて同会を設立した朝日旅行会(当時)の創業者・岩木一二三氏が「それは確か昭和45(1970)年頃だったと思う。せめて自分だけでもいい、どんな山の中でもいい、静かになれるところで自分に人間を問いつめてみたいと思って杖をひいたのが奥鬼怒の渓谷の温泉宿だった」と記した、その温泉宿がズバリ「八丁の湯」なのです!

時代と共に変わる環境。それでも宿に残していきたい柔らかなランプの明かり、木の温もり……

▲玄関を入ると目の前がフロント。右に行くと露天風呂やレストハウス、左には食堂や内湯、宿泊棟があります

昭和4(1929)年に創業し、山小屋からスタート。かつては電気も通ってなかったため「ランプの宿」と呼ばれ、荷物の運搬も徒歩か四輪駆動車に頼っていたそうです。
時代の流れと共に林道が整備され、昭和63(1988)年には電気が通りました。同時に、建築資材の運搬が可能になり、ログハウスの建設がはじまったそうです。
▲今も館内を照らすランプ。現在、中の電球はランプ用の特殊なLEDとのことですが、「ランプの宿」と呼ばれていた名残を感じさせます

人気のログハウスはすべて畳敷き。時代のニーズに合わせ、すべての部屋にウォシュレットトイレと洗面台が付いています。
テラスからは、昨今変わることない豊かな原生林や渓流を眺めることができます。
▲ログハウス棟へ向かう途中にも、おもてなしの心を感じる休憩どころがあります
▲ベッド、ソファ、畳……和とモダンが融合した「ログハウスツイン」(1泊2食付き大人1名13,500円~・税別)
▲畳に寝ころび天井の高さを存分に感じられる「ログハウス和室」(1泊2食付き大人1名12,000円~・税別)
▲広さ20畳もある「ログハウス和室(ロフト付き大部屋)」はグループに人気。ロフトも付いているので誰もが童心に返れます(1泊2食付き大人1名12,000円~・税別)
▲上らずにはいられない……いざロフトへ!
▲ロフトから部屋を見下ろすと、その広さを改めて実感できます
ちなみに天井にある照明は、またぎだった2代目の社長が約30年前に手作りしたものだそう。廃材の丸太や木に電球をつけた照明は、とてもおしゃれ!
▲自然の恵みを大切に残したい……そんな思いが込められている照明
▲テラスに出るとこんな感じ。昼は渓流のせせらぎを、夜は満天の星を楽しめます

昔からある山小屋の名残を生かした本館も情緒があります。内湯や露天風呂に近いので、小さい子供がいるファミリーや年配の方にはこちらがおすすめです。
▲こじんまりとした空間に灯るランプの明かりがどこか懐かしい「本館和室」(1泊2食付き大人1名10,000円~・税別)
▲「本館和室」には窓から内湯の湯気を眺められる部屋もあります

頑張った体にご褒美!いよいよダイナミックな景観を感じられる露天風呂へ

ここまで何のために頑張って歩いてきたかって……そう、関東最後の秘湯といわれる温泉に浸かるためです!

8カ所の自家源泉から湧き出すのは、100%自然勇出のかけ流し温泉。一切追い炊きをしない自噴髙温泉(中性低張性高温泉湯)で、源泉温度51度、噴出量は毎分240リットル。場所によってぬるめ、熱めが楽しめるそうです。
湯の花が舞い踊るかけ流しの湯は、多くの秘湯ファンを魅了しています。
▲岩肌の割れ目からそのまま引く源泉。温度管理はバルブの調節のみだそう

まずは何といっても名物の露天風呂へ!
4つある露天風呂のうち、3つは混浴ですが、バスタオルを巻いて入浴OKです。残る1つは女性専用の「滝見露天風呂」ということで、まずはそこから堪能することに♪
▲女性専用「滝見露天風呂」の入り口。すでに滝が見えます

さぁ、いよいよ入浴!

くぅ~!!疲れた体に熱~い湯が染み渡ります……とはいえ、身体に負担や刺激を感じることのないやわらかな湯なので、いつまでも入っていられるような気がします。
▲こちらが女性専用「滝見露天風呂」。こんこんと湧く湯に癒され滝を見るのを忘れてしまいました……まさに滝より温泉!

こちらから、混浴となる「雪見の湯」「滝見の湯」「石楠花(しゃくなげ)の湯」へ直接行くことができます。
▲この扉の向こうが混浴。少しドキドキしながら扉を開けると……
▲「滝見の湯」。こんな光景が~。開放的な景色に、恥じらいさえ忘れます(笑)

開放感あふれる大自然の中の露天風呂が!源泉と滝の流れ落ちる音が大地の息吹を感じさせます。
▲秋は鮮やかな紅葉を眺められる「滝見の湯」。大自然のパノラマを感じながら浸かる湯は……最高!ぬるめなのでゆっくり浸かれます

続いて「滝見の湯」の𦚰にある階段を上り「雪見の湯」へ。昭和4(1929)年の創業時の野天風呂だったこちらからも、ばっちり滝を眺めることができます。
▲開業時そのままの「雪見の湯」(秋の様子)。その名の通り冬季は雪に囲まれた絶景を眺めることができます。先ほどの「滝見の湯」より優先してお湯を流し込んでいるので、雪景色・冷気・熱めの湯のコラボレーションが楽しめます

さらに、その上には「石楠花の湯」が。滝を真横から見られるということで、その眺めに期待しながら向かいます!
▲「石楠花の湯」に通じる階段には、湯船からこぼれているであろう湯がなみなみと流れます
▲こちらが「石楠花の湯」。昭和40年(1965)頃に石職人さんが作ったそう。滝を一番近くに感じられるお風呂です

21:00~22:00までは、3カ所の混浴露天風呂が女性限定の入浴時間になっています。ちなみにライトアップされ、昼とは違った雰囲気をのんびりと楽しめますよ♪

恵まれた自然はできるだけ感じなくちゃもったいない!風を感じながら入る内湯へ

4つの露天風呂を満喫した後は内湯へ。露天風呂は自然の風を心地よく感じながら入ったせいか、はしご湯をしても湯疲れしていません。
▲露天風呂からフロント前を通りすぎ本館にある男女別の内湯へ
▲女性用の内湯の脱衣所もまるで創業当時にタイムスリップしたかのような雰囲気
▲今度はどんな湯が……期待をしながら扉を開ける

目の前に現れたのは、内湯といえどもどこか開放的な湯船!せっかくだから、この自然を満喫しなくちゃ損♪心地よい風に吹かれ、ぬるめの内湯にゆっくりと浸かります。
▲昭和47(1972)年頃、やっと四輪駆動車で資材の運搬が可能になり作り上げた湯船だとか
▲ちなみにこちらが男性用の内湯。「八丁の湯」で一番古い湯船だとか。真ん中の仕切りは、かつて男女の湯として使っていた頃の名残だそう

名湯を満喫した後はお腹も満たしたい!山の郷土料理を味わう

存分に湯を楽しんだ後は、これまた楽しみのお食事タイム~♪というわけでフロントの隣にある食事処へと向かいます。
▲広々とした和モダンな食事処
▲壁には鹿の剥製が飾られていました
▲黒丸に見える部分は鉄砲の跡だとか!

鹿や熊の剥製、暖炉……あぁ、山の中にいるのだと改めて感じ、どんな山の幸が食べられるのかと期待に胸が膨らみます。

そして、いよいよご対面~!
▲こちらがしし鍋をメインとした「八丁の湯会席」(宿泊者にのみ提供)

地の物をふんだんに使った山の郷土料理がずらり!素朴ながらも、一品一品に迎えた人をもてなすあしらいがなされています。
※季節や仕入れによって内容は変更となる場合があります
▲臭みがなく肉厚ないのしし肉の鍋は初めて食べる人も納得の味。野菜はおかわり自由です
▲こちらは栃木県産のブランド魚「プレミアムヤシオマス」(大型ニジマス)。しゃぶしゃぶか刺身で味わいます

この「プレミアムヤシオマス」、鮮やかなサーモンピンクの身色、やわらかい肉質、そしてとろけるような脂が口いっぱいに広がります。
▲そばの実のやまと芋かけ(左上)、刺身こんにゃく(左下)など地の物をふんだんに使った前菜
▲地元・日光名物の「湯波」も味わえる♪巻き湯波が入った土瓶蒸し
▲こちらは湯波を洋風にアレンジした湯波グラタン

山の水で炊いた栃木県産のコシヒカリはセルフサービス。お米のうまみが引き出されていて、おかわりが止まらない人がいるほどだとか。

このほかお好みで、「八丁の湯会席」にすき焼きを付けた「和牛すき焼き会席」や、ヘルシーな「湯波会席」もありますよ。

湯上りに、食後に、ゆっくりとお酒を楽しめる場所もあります

お腹がいっぱいになっても、別腹でお酒を楽しみたいという人は、軽食&BAR「八丁庵」へGO!
▲軽食&BAR「八丁庵」。露天風呂に近いので湯上りにもおすすめ

ランチタイム(12:00~14:00)にはそば、うどん、カレー(各800円・税込)や生豆から煎るコーヒー(1,500円・税込)など、BARタイム(19:00~21:30※土曜、繁忙期は20:00~22:30)には、地ビールや地酒、ワインなどが楽しめます。
また、春~夏のグリーンシーズンには、昼間はサンドイッチなどが味わえるカフェ「ヒマーリカフェ」として営業しているそうですよ(BARタイムは同様)。
▲お酒も良し、読書も良し……思い思いの時間を過ごせそうな場所
▲ゆったりくつろげそうなこちらのスペースでは、朗読会などのイベントも行われているそう

便利で豊かな現代に、自分の足で歩いて懸命にたどり着いたこの場所にあった温泉、そして手つかずの自然、温かな人たち……それだけあれば心が豊かになるのだと感じました。

これからもこの場所で沸き続ける太古の湯は、訪れる人を温かく迎えます。包み込んでくれる……それだけでいいのです。関東最後の秘湯と言われる「八丁の湯」へ忘れかけた何かを取り戻しに来てみませんか?
yuka

yuka

栃木が大好きで、大学卒業まで県内を出たことのない「栃木箱入り娘」。地元の魅力を知ってもらうべく県内の出版社、テレビ局、新聞社などに勤務。好きなことは直売所&日帰り温泉巡り。おいしい野菜と気持ちいい温泉のためならどこまでも行く。モットーは「思い立ったら即日!」

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