背脂ラーメンは職人たちの胃袋を支え続けてきたソウルフード。元祖の店を含めた厳選3店をご紹介!

2018.12.03 更新

豚骨と煮干しをメインに作られたスープに、白い背脂がこれでもかと降りかかった「背脂ラーメン」。ものづくりの町として知られる新潟県燕(つばめ)市で、力仕事の職人たちから愛され続けてきたご当地ラーメンです。今回はそんな職人文化と共に育ってきた背脂ラーメンを、燕市とお隣の三条市から計3軒ご紹介します!

▲背脂がたっぷりのった背脂ラーメン(写真は、脂量を増した「大脂」)

JR東京駅から燕三条駅まで上越新幹線で約1時間50分。新潟県燕市で生まれた背脂ラーメンは、豚ロース肉の上側にある背脂を、煮干しの出汁が効いた豚骨スープに加えて作る、いかにも“こってり”した見た目のラーメン。
このラーメンは、洋食器製造の町燕市で戦後の高度経済成長を支えた職人たちの「ガツンとしたラーメンが食べたい」といった願いから生まれたといわれています。その後人気が高まり、燕市内や三条市内にも出店するお店が増えました。

まずは元祖の味を探るべく、最初に背脂ラーメンを発案した人物の孫が営むという「杭州飯店(こうしゅうはんてん)」へと行ってきました!

背脂ラーメンの発案者直系のお店「杭州飯店」

▲三階建てのビルが丸々「杭州飯店」。ビルの脇や屋上にも看板が設置されている

一見、何気ない中華料理店に見えますが、杭州飯店は、新潟県内はもちろん全国各地からお客さんが集まるほどの超有名店。JR燕三条駅からは車で約10分、古いビルに「杭州飯店」と書かれた黄色と赤の看板が目印です。土日はお客さんで溢れ、長い行列ができるほど!並んででも食べたいという人が後を絶ちません。

こちらは背脂ラーメンの発案者・徐昌星(じょしょうせい)さんの息子勝二(かつじ)さんが開業したお店。現在は孫の直幸(なおゆき)さんが社長として切り盛りしています。
▲客席はテーブル席と座敷を合わせて80席ほど

取材に伺ったのは昼時を過ぎた平日の午後2時頃。それでも店内は工場服を着た職人やサラリーマンで賑わっていました。

メニューを受け取り、中を見ると背脂ラーメンという文字は見当たりません。聞くと、「中華そばは全て背脂ラーメン」とのこと。また「脂抜き」「少なめ」「普通」「大脂」という具合に、脂の量を調整することも可能です。今回はみなさんに背脂のインパクトを伝えたいので「大脂」を注文しました。

大きな期待を胸にラーメンを待ちます。
と、その前に…今回は特別に実際の調理場へ少しだけお邪魔させていただきました!
▲背脂ラーメンを発案した徐昌星さんの孫で、現社長でもある直幸さん

2つ並んだ大釜で茹でているのは、背脂ラーメンの特徴でもある極太の中華麺!こだわりの自家製麺は直幸さんの手作り。麺についた片栗粉でお湯がすぐに濁ってしまうので、忙しいときは2つの釜を交互に使って茹でているそう。茹で時間は5~6分間。直幸さんは「この太さでこの茹で時間は短いほう」といいます。
隣には、豚の骨であるゲンコツや煮干しが入り、背脂がたっぷりと浮いたスープが。毎朝6時半に来て、準備しているとのこと。
味のベースとなるタレは玉ねぎが入った特製醤油ダレ。文字がかすれた器も歴史の長さを物語っています。
タレと背脂たっぷりのスープを合わせたら、茹で上がった麺を湯切りしてスープの中に。すると、奥様がチャーシュー、メンマ、玉ねぎをたっぷりと乗せてくれます。そして仕上げに「これでもか!」というくらい背脂を振りかける!
平ざるでどんぶりに油を振りかける様子から、背脂のことを「チャッチャ」「チャッチャ麺」と呼ぶことも。チャッチャの際は、周りに脂が飛ぼうがお構いなし!
出来上がると、丼が一面脂に覆われて、中の具材が見えないほどになりました。
▲セットで注文した名物の餃子も良い焼き加減!麺を茹でている間に手際よく焼き上げる
▲「中華そば」(大脂)900円と「餃子」(4個)800円

こちらが待ちに待った背脂ラーメン!
背脂に覆い尽くされた見た目に少したじろぎながらも、まずはスープを一口。
あれ?油っぽさはほとんど感じず、思ったよりもあっさりとした印象。むしろ、背脂が入っているからか、案外まろやかな味わいです。

「脂が強いからスープはあっさり目に。全体のバランスをみて、1杯のラーメンということを意識して作っています」と直幸さん。見た目からは想像できない味にびっくりしました!
▲麺は極太の平麺が特徴

続いて麺をいただきましょう。背脂の中から引き上げると…、見た目はラーメンというより、うどんに近い太さ。一口食べると、モチモチとした食感!極太の見た目から、ボソボソとした麺を想像していましたが、そんなことはありません。麺自体がしっかりとしているので、腹持ちも良さそう。
さらに、濃口醤油とガツンと効いた煮干しの香りがもう一口、もう一口と食欲を刺激します!
チャーシューはあっさりとした味。最近よく目にする、プルプルとした脂身が魅力のチャーシューとは異なり、昔ながらの赤身のつくり。こちらも社長のこだわりで、背脂で脂分が強い分、さっぱりとした味にしているそうです。

そして忘れてはいけないのが、背脂ラーメンの特徴の一つ、刻んだ生玉ねぎ。さっぱりとした味で爽快感を与えてくれます。シャキシャキとした音も心地がよく、もっと食べたい!と思わせてくれます。

自家製麺と背脂、スープ、チャーシュー、生玉ねぎ。それぞれが主張し過ぎず、全部が合わさっての1杯ということを感じさせてくれるラーメンでした。
続いては餃子。
まず驚くのが餃子の大きさなのですが、餃子の横に手をおくと… 。
おわかりいただけますか??ボリューム抜群、かなり大きめの餃子なのです。注文は2個(1個200円)から可能です。さっそく割ってみると、中からはふぁ~っとニンニクの良い香りが…!目一杯に詰め込められた豚肉とニラに期待値が高まります。
▲隅までぎっしりと餡が詰め込まれている

大きな口を開けて、ガブり!肉の味がギュッと凝縮された、しっかりとした味わいです。厚めの皮は、箸で一度では切れないほど!その分、水分を含んだ皮はモチモチして、食べ応え抜群です。

見た目のインパクトから、食べきれるか不安になりつつ注文した今回の中華そば(大脂)と餃子。思ったよりもあっさりとした味わいに、両方食べてもまだ少し余裕があるかな?といった具合の腹持ちなのに驚きです。せっかく燕三条に来たのであれば、ぜひどちらも注文してほしいところです。

職人からの要望で始まった背脂ラーメン

さて美味しいラーメンと餃子をいただいたところで、直幸さんに背脂ラーメンの歴史について伺いました。

背脂ラーメンの発案者である徐昌星さんは生粋の中国人。上海から長崎に来日し、九州や関東、東北などの炭鉱で炭坑夫として働いた後、屋台を出すようになり、1932(昭和7)年頃に新潟県燕市へとやって来ました。
▲創業からの歴史を教えてくださった現社長の直幸さん

「燕駅前で屋台ラーメンを始め、1933(昭和8)年に燕駅から徒歩5分あまりの燕市穀町(こくちょう)で『福来亭(ふくらいてい)』を開店しました。当時は薄味のスープと細麺で、いわゆる支那そばを提供していました」

そこに通ってくるのは洋食器製造の町燕市を支える工場の職人たち。連日昼夜問わず働く彼らは、ガツンとした濃いラーメンを求めるようになっていきます。
「しかし当時の肉は高級品で、たくさん入れるのは難しい状況でした。そこで祖父は『背脂』をスープに入れることを思いついたそうです」。これが背脂ラーメンの始まりでした。
営業を続けるうちに、工場への出前も増え、ピーク時には1日に800杯も売っていたそう。麺を太くすることを思いついたのは杭州飯店を開業した勝二さん。「父は配達の場合、食べ始めるまでに時間がかかることを気にかけていました。そのときに考えたのが、伸びにくくするために麺を太くすること。さらに、背脂を厚くかけることでフタをし、冷めにくくしたそうです」。
こうして今の背脂ラーメンのスタイルに少しずつ近づいていきました。
▲極太麺は、「出前で麺が伸びないように」という配慮から生まれた

こうして進化してきた背脂ラーメンのレシピを、昌星さんは惜しげも無く、他の人にも教えていったそう。その結果か、次第に燕市地域で背脂ラーメンが広がり、地域を代表する味となっていったのです。
▲中華風の天井は、原本を一つ中国から輸入し、それに合わせて職人さんに作ってもらったもの

その後1977(昭和52)年に息子の徐勝二さんを中心に中華料理屋として「杭州飯店」をオープン。名付けたのは父の昌星さん。名前の由来は故郷の中国にある市からでした。
「杭州は祖父の生まれ故郷・中国浙江省(せっこうしょう)にある大都市で、風光明媚で食べ物が美味しい観光地。小さい頃は憧れの街だったそうです。こうした理由もあり、杭州とつけたと聞いています」。
当初は中華料理店として開業しましたが、次第にラーメンが注目されるようになっていきました。
また、今では背脂ラーメンの象徴的な具材のひとつである「玉ねぎ」も思わぬ状況から生まれたアイデアだったそう。
「杭州飯店開店時は、長ねぎを使っていました。しかし1983(昭和58)年頃、長ねぎの価格が高騰して使えなくなりました。その際にまかないで食べていた玉ねぎを入れて出してみたところ、背脂の甘みと玉ねぎの甘みがマッチしたんです。お客さんが受け入れてくれたこともあり、そのまま玉ねぎが根付いていきました」と直幸さん。

背脂ラーメン誕生の裏には、燕市の産業や、時代の状況に合わせて美味しいラーメンを食べさせたいという徐一家の想いがあったのですね。そんな歴史に想いを馳せながら、ぜひ発案者直系の背脂ラーメンを楽しんでみてください。

伝統の味を守り続ける「福来亭 白山町店」

▲駐車場は道路の反対側に約10台

続いて訪れたのは、「福来亭 白山町店(はくさんまちてん)」。杭州飯店から車で約5分、燕駅から歩いて10分ほどの場所にあります。

「福来亭」は、背脂ラーメン発案者の徐昌星さんが最初に開業したお店。しかし「杭州飯店」が完成すると娘さんにお店の営業を預け、自身は杭州飯店の運営に専念します。
その後福来亭は閉店しますが、1990(平成2)年、杭州飯店で若い頃から修行をしてきた矢澤さんが「福来亭 白山町店」として新たなお店をオープンさせました。
福来亭は食券システム。中華そばは「半盛り中華そば(160g)」640円、「中華そば(220g)」780円、「大盛り中華そば(280g)」890円と麺の量によって金額が異なります。ラーメン以外にも「とりからあげ」660円や「しゅうまい」660円、「もやし炒め」700円といったサイドメニューも豊富。

今回は贅沢にメンマチャーシューメン(1,330円)を注文しました。
しばらく待っていると、出てきたのは見た目のインパクトが強い一杯!
▲通常よりも大きな丼を使う、メンマチャーシューメン

丼の上には麺が全く見えないほど多くのチャーシューが!その上には生玉ねぎ、そして下には食べ尽くせるか不安になるほどの大量のメンマが隠されています。

では早速、スープを一口。
「わ、濃い!!!」背脂が多めに入っているため、かなりこってりとした味。スープを飲んでいるだけでお腹いっぱいになりそうなほどです。このときに口の中を爽やかにしてくれるのが、トッピングのみじん切りにされた生玉ねぎ。スープと生玉ねぎを一緒に口に含むと、こってりとした味を中和してくれます。
さて、お次は麺をいただきましょう。
杭州飯店よりも少し細めな印象ですが、コシがありしっかりとした歯ごたえです。麺には特製醤油ダレの味が染み込んでおり、食欲を引き立てます。

お楽しみのチャーシューはというと、こちらもタレがしっかりと染みわたり、噛めば噛むほどジューシーな味わいに。柔らかさもあり、かつ脂身も少ないので、食べやすく感じました。
▲店主自ら作る豚の肩ロースを使ったこだわりチャーシュー
そしてチャーシューの下に隠された大量のメンマ。
醤油の味が主張するメンマなのですが、どこか丸みのある味わいです。これも背脂効果なのでしょうか。と思ったら、乾燥したメンマをお湯で戻したあと、醤油ダレと背脂スープで味をつけているそう。こうして味は濃いけれども柔らかい味を出していたのですね。

濃い味のラーメンといえば、つい食べたくなるのが、白いご飯。福来亭では、なんとご飯が無料で何杯でも食べられます!
▲ライスと生玉ねぎの無料サービスはお客さんとのやりとりの中で生まれたアイディア

器は棚の下にあるので、セルフでご飯を盛るスタイル。ラーメン屋さんで「1杯目ご飯無料」などは見ることはありますが、何杯でも無料というのはなかなか聞きません。
そして壁の紙に書かれているように、さらに生玉ねぎも無料!口の中を爽やかにしてくれる大量の生玉ねぎは濃い味系背脂ラーメンの心強い味方です。
▲背脂と生玉ねぎの相性は抜群!

福来亭 白山町店は、杭州飯店よりも全体的に味がしっかりしていて、ガツン!とくる印象。
「うちは、伝統の味を変えずに守っているから。お客さんにも昔からの福来亭の味だねと言われます」と店長の矢澤さん。

確かに福来亭 白山町店のラーメンは脂もスープの味も濃く、一杯でかなり満腹になりました。力仕事が多い燕の職人にはこうしたパンチの効いたラーメンが好まれたのかもしれませんね。

洋食器製造の町燕市で職人の要望から生まれた伝統の味を楽しんでみてはいかがでしょうか。

伝統の味を食べやすいように改良。進化し続けるラーメン屋「らーめん 鯉次」

少し変わった背脂ラーメンを求めて向かったのは、女性からの支持も高い「らーめん 鯉次(こいじ)」。福来亭から車で約20分、燕市のお隣三条市にあるJR東三条駅からは徒歩約6分のお店です。
▲広々とした駐車場。16台の駐車が可能

鯉次は2013年にオープンした比較的新しいお店。店長の小林さんは、様々なお店で経験を積むなかで「苦手な人でも食べられる背脂ラーメンを」と現在のラーメンを考案したそう。
▲席はカウンターとテーブル合わせて32席。女性一人で食べに来る人も多い

そんな店長が試行錯誤して考案した結果、完成したのが「炙り背脂塩らーめん」(750円)。
▲運ばれてきたラーメンは背脂たっぷりのように見えますが…

恐る恐るスープを一口。
と、あれ!?思ったよりもスッキリとした塩味です!背脂ラーメンといえば濃口醤油と煮干しのスープという印象ですが、こちらは塩。脂のくどさや、背脂ラーメン独特の煮干しの味はほとんど感じられません。

それもそのはず。店長のこだわりは煮干しスープを寸胴に入れないこと。通常の背脂ラーメンは寸胴の中に煮干しを入れますが、鯉次では別で煮干しスープを作り、丼に豚骨ベースのスープを入れた後に煮干しスープを注ぎます。一緒に寸胴に入れてしまうとどうしても煮干しの味が全面に出てしまいますが、後から入れれば煮干しの味が柔らかくなるそう。
▲トロトロとした脂が魅力的なチャーシュー。海苔の上には謎の粉末も

麺も福来亭より若干細い印象。ツルツルと麺をすすりながら食べられます。チャーシューは少し厚めに切ってあり、脂身は多め。香ばしい匂いに誘われて一口食べると、ジューシーな豚の脂が口いっぱいに広がります。
メニュー名に「炙り」とついていますが、実はバーナーではなく中華鍋で焼いて出しているそう。これは店長のこだわりで「チャーシューは中華鍋で焼いたほうが中までしっかりと焼かれ、ジューシーに仕上がるんです」と教えてくれました。

さらに、海苔の上には、イワシの一種・ウルメ煮干しの粉末も!味に変化をつけるために考え出したやり方だそう。そのままだとスープの煮干し感が足りないという方は、濃厚な魚粉を混ぜることでお好みの味に調整できます。今までとは少し違う味についつい箸が進んでしまいます。
▲お子さんがいる人には嬉しい、キッズスペースも!

背脂ラーメンなのに、背脂ラーメンでないような「炙り背脂塩らーめん」。王道とはちょっと違う味を楽しみたい方には、ぜひ訪れてみてほしいお店です。
一見こってりとした見た目の背脂ラーメン。3店舗行ってみて思ったのは、意外にもあっさりとした味だったいうこと。燕市の職人のニーズに寄り添いながら作り上げてきたラーメンが、今では地域を超え、世代を超えて愛され続けています。そんな文化と一緒に育ってきたラーメンをぜひ一度、燕三条で味わってみてください。

※記事内の価格はすべて税込です
長谷川円香

長谷川円香

ライター。新潟をもっと楽しくするWEBマガジン「にいがたレポ」参加ライター。広告会社にて勤務後、フリーランスに転向。「暮らすような旅」をモットーに地域に住む人・日常も含めて伝えることを目標にしている。 編集:唐澤頼充

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