「澤乃井」は都心から1時間半で行ける酒好きのパラダイス!紅葉と清流を眺めながら至福の一杯

2018.11.19 更新

東京の青梅市にある「澤乃井(小澤酒造)」は、新宿から電車で約1時間半というアクセスの良さもさることながら、その立地がすばらしい。山からの湧き水に恵まれ、目の前を多摩川の清流が流れ、新緑や紅葉が目を楽しませてくれる。酒蔵見学や利き酒ができるほか、川沿いの庭園や食事処でお酒や料理を味わうことができるのだ。10月下旬、新酒ができたばかりの蔵を訪ねた。

あの机竜之助も暮らした!?沢井の里

JR青梅駅から青梅線・奥多摩方面行きに乗ると、しだいに両側から山がせまってきて、車窓は緑でおおわれる。眼下の谷底には多摩川がくねくねと流れている。
7つめの沢井駅で降りると、さっそく「澤乃井」の大きな案内板が出迎えてくれた。
▲澤乃井の各施設への案内板

「徒歩5分」と書いてあるが、1分も歩かずに澤乃井の敷地の外壁が現われる。まさに駅前の酒蔵である。というよりも、澤乃井の創業が元禄15(1702)年で、沢井駅の開業が昭和4(1929)年なので、酒蔵の裏に駅ができたといったほうがよい。
▲澤乃井の外壁に沿った坂道を下っていく

蔵の入口は青梅街道沿いにある。
ちなみに青梅街道は、かつて大菩薩峠を越えて甲州(山梨県)の塩山とつながっていた。中里介山の小説『大菩薩峠』の主人公・机竜之助はここ沢井で道場を営んでいたので、机龍之助もきっと澤乃井を飲んでいたにちがいない(『大菩薩峠』はフィクションだが……)。
▲蔵に隣接する社長の邸宅は、なんと茅葺き屋根!
▲蔵の入り口。蔵は白壁でいかにも清潔感にあふれている

築300余年の酒蔵でお酒の香りを浴びる

蔵の軒下には、大きな杉玉が吊るされている。新酒ができたことを知らせる印である。町の酒屋でもときどき見かけるが、澤乃井のものはさすがに大きくて100kgもある。
▲大きな杉玉。杉の葉を集めて球形に加工する。まだ緑色が褪せきっていないので、新酒ができたばかりということがわかる
▲蔵の前に飾られた4斗樽。瓶がない時代は樽でお酒を運んでいた。サワガニが澤乃井のトレードマーク

事前に予約をすると、この酒蔵を見学させてくれる。料金は無料だ。原則として1日4回(11時、13時、14時、15時)実施される。所要時間は45分。解説は社員たちが交替で行う。この日は広報担当(プランニング&デザイン室)の吉崎真之介さんが担当してくれた。
▲吉崎さんは隣町の瑞穂町出身。お酒が好きで澤乃井に就職した。手にしているのはできたばかりの「しぼりたて」(720ml、1,102円・税込)

蔵に入る扉の上には、大きな神棚が設置されている。
「近くの御岳(みたけ)山の武蔵御嶽神社とお酒の神様である松尾神社の御札を祀っています。お酒は神事と関係が深いので、社員は毎朝ここに手を合わせてから仕事を始めます」(吉崎さん)
▲蔵の入り口。足元には消毒槽があり、靴底を消毒してから蔵に入る

扉を開けると、お酒のいいにおいがぷーーんと鼻に入ってきて、「あぁぁ」と思わず喜びの声が漏れた。空気はすこしひんやりする。
「今日の蔵のなかの温度は18度です。壁の厚さが30cmもある土蔵なので、外気の影響を受けにくく、今年の暑い夏でも25度までしか上がりませんでした」
この蔵は創業の頃から使われていることから「元禄蔵」と呼ばれ、年間を通して温度変化が小さいことから、貯蔵蔵として使われている。
▲元禄蔵の内部。タンクの「219」は通し番号、「5,204」は容量(リットル)を示す。容量が半端な数まで記載されているのは、酒税の対象として厳密な数字が求められるため

元禄蔵から廊下を伝っていくと、現代的な設備の蔵が現われる。酒造りを行う「平成蔵」である。吉崎さんは、まずお米の説明をしてくれた。
「食べるお米は玄米の外側を1割くらいしか削りませんが、酒米は少なくても3割くらい削ります。この場合 “精米歩合70%”とラベルに記載されます。なぜたくさん削るかというと、外側にはタンパク質と脂肪が多く、それらが雑味の原因となるからです」
▲中央が酒米(代表的品種「山田錦」)。左のコシヒカリより粒が大きい。右端は山田錦を6割5分削ったもの(精米歩合35%)。澤乃井でもっとも高級な大吟醸酒「凰(こう)」となる

酒造りはぜいたくだな……と感じるかもしれないが、削った部分の糠(ぬか)は再利用される。いちばん外側の「赤糠」は糠床や家畜の餌に、その内側の「白糠」は米粉やデンプン糊になる。澤乃井では白糠を使って「武州伝説」という焼酎を造っている。

精米したお米を蒸して、麹と酵母と仕込み水を合わせて約1か月発酵させると「醪(もろみ)」となり、これをしぼったものが原酒(生酒)である。仕込み水で度数を調整し、火入れ(熱殺菌)して出荷する。
▲醪をしぼる器具。手前のタンクに原酒が溜まる。作業している人はしぼった残り(つまり酒粕)を集めている

「日本酒には賞味期限はなく、熟成させたものも角がとれたマイルドな味になっておいしいんですよ」
吉崎さんはそう言って、元禄蔵にある熟成酒「蔵守」の棚を見せてくれた。
▲透明な瓶のなかのお酒は琥珀色に輝く。古いものだと2000年醸造のものが販売されている

いったん蔵の外に出ると、山の斜面に横穴が掘られていた。これが「蔵の井戸」で、約170年前に140mの長さにわたって掘られた井戸だ。ミネラル分の多い中硬水である。約20年前には4km離れた山中に軟水の「山の井戸」が発見された。澤乃井ではこの2つの井戸の水を仕込み水に使っている。
「鉄やマンガンをほとんど含まないので、酒に色やにおいがつくこともなく、酒造りにとても適しています。これらの水のおかげで酒造りができるのです」(吉崎さん)
▲蔵の井戸の入り口
蔵見学は最後に試飲をして終了である。良き水に恵まれた蔵であることを知り、がぜんこれから飲むことへの期待が高まった。

トンネルを抜けるとそこは天国だった

地下道で青梅街道をくぐると、「清流ガーデン 澤乃井園」という庭園に出る。
まずは一角にある「澤乃井きき酒処」に足を運んだ。
▲多摩川に向けてゆるやかに傾斜していて、日当たりがとてもよい。緑の葉のなかに色づいた葉が見える
▲11月中旬からの紅葉時期は木々が紅や黄に色づく
▲澤乃井園に隣接していくつかの施設がある
▲青梅街道寄りの建物の2階にある「きき酒処」(10:30~16:30)。1階はギャラリースペース

きき酒処のカウンターには、この日16種のお酒が並んでいた。
5勺(90ml)の「きき猪口」で一杯税込200円から好きなお酒が飲める。せっかく新酒の季節なので、1杯目はしぼりたての生酒「一番汲み」を頼んだ。
▲いちばん手前が「一番汲み」
▲1杯頼むとお猪口がひとつもらえる。次に飲むときそのお猪口で飲めば(おかわりすれば)100円引き!

「一番汲み」は火入れも度数調整もしていない。口に含むと、さわやかで硬質でワイルドな味がした。そして濃い。アルコール度数は19~20度もある(一般的な日本酒は15~16度)。

2杯目は元禄蔵で見た「蔵守」を選んだ。
鼻を近づけるとツンと強い香りがする。ひとことでいえばウィスキーのような香りだ。味はまろやかでこくがある。好き嫌いがわかれるかもしれないが、ウィスキー好きの筆者にはとてもおいしく感じられた。チーズやナッツをつまみにして飲んでみたい。
▲左が「蔵守」で右が「一番汲み」。色のちがいがはっきりとわかる

「豆らく」で豆腐を肴に酒を飲む

「昼どきは込むのでお早めに」という吉崎さんのアドバイスにしたがって、次に庭園に隣接するお食事処「豆らく」に入った。まだ11時半なのに女性グループや夫婦連れがどんどん入ってきて、あっという間に席がうまった。
▲豆らくの入り口
▲大きな窓からは木々と多摩川が見える

あんまり酔っ払ってはいけないな……と思い、お酒は頼まなかったのだが、「湯葉刺し」をつまんでいるうちにやっぱり飲みたくなった。
ちょうどよいことに、量の少ない「旬のお酒のちょい飲み」というのがあった。
▲「湯葉刺し」(650円・税込)。コシのある歯ごたえ。さっぱりとした味とワサビが合う
▲「旬のお酒のちょい飲み」(200円・税込)。この日は「本醸造 しぼりたて」だった

豆らくは、お酒の仕込み水で作った豆腐が名物である。
「吟糠の揚出し膳」の揚出し豆腐は、酒米を精米するときにとれた白糠を衣に使っている。フワフワと口にとけるようなやさしい衣がおなかにやさしい。
▲「吟糠の揚出し膳」(1,550円・税込)。卯の花炒りや厚揚げなどの小鉢が充実していてお酒が進む
▲お口直しには姉妹店「ままごと屋」でしぼった「朝しぼり豆乳」(150円・税込)がよい。何杯でも飲めそうなさっぱりとした味わい

「澤乃井園」を歩いているうちにまた飲みたくなって

さて、腹ごしらえをしたあとで、庭園の周辺を歩いた。
庭園からは川沿いの遊歩道に下りることができるほか、吊り橋で対岸に渡ることもできる。対岸には澤乃井が運営する「櫛かんざし美術館」があり、ここを訪ねるのもよいだろう。
▲紅葉の時期の吊り橋からの眺め。左が庭園

そうこうしているうちに、もう少し飲めそうな気がしてきて、庭園内の売店でお酒を買うことにした。
ここで買ったお酒は、庭園内のベンチやあづまやで飲むことができる。
▲売店でお酒や軽食を頼むときは券売機で食券を買う
▲川に面したあづまや
▲中央から時計まわりに、「大吟醸 凰」(5,400円・税込)、「純米大辛口」(1,210円・税込)、甘酒(200円・税込)、「酒まんじゅう」(1個100円・税込)、「味噌こんにゃく」(300円+税)、「揚げ湯葉入りそば」(650円・税込)

いろいろな日本酒の飲み方があると思うが、こんなふうにさわやかな風を浴びつつ、流れ行く川面を見ながら飲むのがいちばんおいしいのではないだろうか。
酒まんじゅうにかぶりつくと、皮からお酒の香りがしてしあわせな気分になった。気のせいか顔の色艶がよくなったような気がする。
▲夏には「甘酒かき氷」(400円・税込)が発売される。これも食べてみたい

売店では、お酒のほか、豆腐やお菓子などのお土産を買うことができる。酔って財布のひもがゆるくなっているから、愉快な買い物が楽しめるだろう。
▲豆腐は木綿(230円)、絹(360円)、おぼろ(410円・すべて税込)などバラエティ豊か
▲「酒粕アーモンド」(500円・税込)など、酒粕を利用したお菓子も充実

遊歩道を御嶽駅へと歩いているうちに……

川沿いの遊歩道は、前後の駅とつながっている。ひとつ先の御嶽駅まで酔いざましがてら歩いてみることにした。
▲御嶽駅までは1.3km。歩いて20分程度だ
▲道は整備されているので危険なところはない

遊歩道を歩いていると、ときどき山側から細い清水が多摩川に注ぎこむ。澤乃井のお酒を飲むことは、東京の山々を味わうことにほかならない……ということに気がついた。そう思うと、また飲みたくなってくるのだった。
▲遊歩道からところどころで河原に下りられるので、飲む場所にはこと欠かない

新緑や紅葉の季節ならば、遊歩道からの景色はもっと美しいだろう。
また、澤乃井がある沢井の北には高水(たかみず)三山、南には御岳山と日の出山がひかえている。東京でも人気のこれらの山を歩くときは、ぜひ沢井駅まで歩いて澤乃井園に立ち寄ることをおすすめしたい。
大塚真

大塚真

編集者・ライター。出版社兼編集プロダクションの株式会社デコに所属。近年編集した本は、服部文祥著『アーバンサバイバル入門』、『加藤嶺夫写真全集 昭和の東京』シリーズの「4江東区」「5中央区」(ともにデコ)ほか。ライターとしては『BE-PAL』(小学館)などで執筆。

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