根津美術館は、本格日本庭園のゆたかな緑があふれる東京・表参道のオアシスだった

2019.01.17 更新

東京都港区、表参道駅近くの「根津美術館」。東武鉄道の初代社長を務め、さまざまな鉄道会社の経営に携わったことから「鉄道王」と呼ばれた根津嘉一郎(ねづかいちろう)の日本と東洋の古美術コレクションをもとにつくられた、日本では数少ない戦前から続く美術館です。今回は展示品だけでなく、都心とは思えない本格的な日本庭園や庭園を一望できるカフェ、人気のオリジナルグッズなど、根津美術館の見どころをたっぷりお届けします。

▲東洋と和の美しさが調和する、落ち着いた雰囲気の内観

伝統とあたたかみを感じる「竹」の建築

地下鉄銀座線、半蔵門線、千代田線の表参道駅A5出口から、みゆき通りにそって歩くこと8分ほど。交差点の向こう側に、ゆたかに生い繁った竹の生垣(いけがき)が見えます。「え、都心に生垣?」と驚きながらも信号を渡り、美術館の正門へ。
▲美術館入口から正門を振り返ると、竹の廊下の美しさがよく分かる

建物にそって回り込むように竹の廊下をくぐり抜けると、目の前がぱっと開けて、左手に根津美術館展示棟の入口が現れます。
地上二階、地下一階の大きな建物ですが、一部はガラス張りになっており、どこかゆったりとした開放感があります。
▲日本家屋を思わせる大きな屋根と、モダンな外装が印象的

実は、現在の展示棟は2009年にリニューアルされたもの。開館時の建物は根津邸の母屋を改装してつくられましたが、空襲で大部分を焼失しました。さいわい美術品は疎開により無事だったため、焼け残った洋館を利用し、バラックで展覧会を再開したのが昭和21(1946)年のこと。昭和29(1954)年には本格的な展示棟が再建され、平成2(1991)年には新館も開館しました。

その後、2006年からリニューアル工事を行い、2009年に現在の展示棟が完成しました。設計を担当したのは、日本を代表する建築家・隈研吾氏です。近代的なセンスと「和」の雰囲気を巧みに融合した建築作品として、国内外から高い評価を受けています。

多彩な展覧会を可能にする、一流の東洋美術コレクション

入口近くの受付で入館料を支払い、まずはエントランスホールへ到着。大きなガラス張りの窓から自然光が差し込み、明るく広々とした印象です。窓と壁にそうように、10体の仏像が展示されています。
▲日本庭園を背景に、仏教美術の展示が並ぶ

館内で常設展示を行なっている唯一のエリアが、このエントランス。ほかの展示室とは異なり撮影もOKなので、記念写真を撮影する来場者も多いのだとか。
▲天井に竹の素材が使われている

展示品のほとんどは6~8世紀頃に中国でつくられた作品ですが、なかでも人気のある「弥勒菩薩立像」は3世紀ごろのガンダーラ地方(現在のアフガニスタンやパキスタンにまたがる地域)でつくられた作品。ギリシャ・ローマ文化の影響を受けており、現代でもイケメンで通りそうな、凛々しいお顔をしています。
▲彫りの深い精悍な顔立ち

エントランスのほか、展示室3もあわせて「仏教美術の魅力」という長期のテーマ展示を行なっています。現在展示室3に展示されているのは、3体の「地蔵菩薩立像」です。このうち1体は平安時代の久安3(1147)年につくられた作品とされ、重要文化財に指定されています。展示室内は撮影禁止ですが、今回は特別に許可をいただきました。
▲右の作品が、重要文化財に指定されている快助作「地蔵菩薩立像」

室内はおごそかな雰囲気に満ちていますが、このおだやかな微笑をたたえた地蔵菩薩の顔は、ほっとするようなやさしさでした。流麗なひだの掘り込みややわらかな頬の丸みに、製作者の想いを感じられるような気がします。

メインとなる1階の展示室では、年間に特別展を2~3回、企画展を4~5回開催しており、2階の展示室でも並行してテーマ展示を行なっています。館内の展示は、開催中の展覧会のチケットを購入すればすべて観ることができます。
▲国宝「燕子花図屏風」(右隻)。庭園の燕子花(かきつばた)が咲く時期にあわせ、毎年4月中旬から4週間のみ公開されている

収蔵品は現在、絵画、茶道具、漆工、金工など幅広いジャンルを含んで7,400点を超えており、うち、尾形光琳筆「燕子花図屏風」を含む国宝7点、重要文化財87点、重要美術品94点(2018年12月時点)と、質、量ともに日本有数の古美術コレクションです。

さまざまなテーマの展覧会を開催し、定期的に展示品を入れ替えることは、繊細な古美術作品を保護する意味でも大切なことなのだそう。それにより、多くの作品がよりたくさんの人目に触れる機会が生み出されています。
▲展示室4で開催されているテーマ展示「古代中国の青銅器」。一部古鏡は季節のモチーフに合わせて展示替えされている

とくに特別展では、収蔵品以外の著名な作品を鑑賞することもできます。また、企画展では収蔵品の中からテーマにそって選りすぐった作品の数々を見ることができます。茶道具、仏教美術、絵画、陶器……幅広いジャンルの展覧会が開催されているので、ホームページの展覧会スケジュールをチェックしてみてくださいね。

通常、個人のコレクションがもとになった美術館はジャンルが専門的なものになりがちですが、その幅広い蒐集から「根津の鰐口」とまでいわれた根津嘉一郎のコレクションの豊富さを実感することができました。

日常を忘れて静かに散策を楽しめる、本格日本庭園

根津美術館のもうひとつの見どころは、都心とは思えない本格的な日本庭園です。一歩、足を踏み入れただけで、目の前に四季折々の自然ゆたかな景色が広がります。森の中にいるようにさわやかな空気は、ここが東京だということを忘れさせてくれるほど。
▲庭園の至るところに、石仏や石塔が置かれている

実は、庭園の地形は中央の池に向かってすり鉢状に低くなっており、実際の敷地以上に奥行を感じさせる仕掛けになっています。遊歩道もくねくねと入り組んでおり、庭園の景色をあますことなく楽しめるのと同時に、庭園をより広く感じさせる工夫がほどこされています。

庭園を整えている庭師さんは、なんと戦後から親子三代にわたって根津美術館の庭づくりに携わっているそうです。庭園にはこのほかにも、来園者を楽しませるための技とこだわりが随所に光っています。
▲庭園内の茶室のひとつ、「弘仁亭・無事庵(こうにんてい・ぶじあん)」。明治の末につくられた書院茶室

根津美術館には「根津美術館八景」と呼ばれる絶景スポットがあります。庭園内は撮影OKなので、フォトジェニックな風景を求めて、いざ庭園探索にでかけてみましょう!

八景の1つ目は、「吹上の井筒」。一階に「庭園口」という出口があるので、そこから庭園に出て、ゆっくりと遊歩道を下りてみましょう。大きな池の中央に置かれた、四角い石造りの「井筒」が見えます。
▲やや右下にある、四角い石造りのものが「井筒」

この井筒からは池の水が湧きだしており、「吹上」の名の由来となっています。周囲には木々が繁り、古都の山奥を訪ねたかのような、幻想的な風景です。

そのまま左手の方へ池の周囲をめぐっていくと、ふと鳥居が現れます。こちらは八景の2つ目、「天神の飛梅祠(ひばいし)」。大宰府に流された菅原道真のもとへ、別れを惜しんだ庭木の梅が飛んでいき、その地に根づいたという「飛梅(とびうめ)伝説」が名の由来になっています。
▲菅原道真公(唐渡天神)を祀る「天神の飛梅祠」

こぢんまりとした趣のある祠ですが、御祭神が学業の神様と名高い菅原道真であるためか、受験生がたびたびお参りに訪れるのだとか。この日も、石像の足元にたくさんのシャーペンやボールペンがお供えされているのが見られました。美術館が願掛けスポットだったとは、ちょっと意外でした。
▲お供え物の筆記具がこんもり……

そのまま道なりに進んでいくと、庭園のはずれに歴史を感じさせる建物がありました。「薬師堂」という、薬師如来の像を安置するための仏堂です。孟宗竹が周囲を囲うように生い繁っており、「薬師堂の竹林」と呼ばれて八景の1つに数えられています。
▲屋根の四面がすべて三角形になる「宝形造(ほうぎょうづくり)」という様式

さやさやと竹の葉擦れが聞こえる静かな空間で、古都の趣を感じさせる薬師堂を目の前に、まるで自分が平安時代にタイムスリップしたかのような、不思議な感覚になりました。
▲薬師堂のすぐ近くには、不思議な音色を聞かせてくれる「水琴窟(すいきんくつ)」もある

少し道を戻り、大きな遊歩道にそって進んでいくと、石像が群立している様子が遠目にも見えてきます。八景の4つ目は、3mを越える「観音菩薩立像」を中心に数多くの石仏や石塔を集めた「ほたらか山(さん)」です。
▲ほたらか山の中心にある「観音菩薩立像」は、見上げるほどの大きさ

ちょっとかわいらしい名前ですが、観音が住むという「Potalaka」という伝説の地名にちなんでいます。大小さまざまな石仏が集められており、独特のエキゾチックな雰囲気を醸し出しています。
▲あざやかな赤が映える「披錦斎の紅葉」。(例年11月下旬~12月上旬頃)

ほかにも、初夏の青葉も晩秋の紅葉も美しい「披錦斎(ひきんさい)の紅葉」や、ゴールデンウィークの頃に満開を迎える「弘仁亭の燕子花」などが八景に数えられています。
国宝「燕子花図屏風」は、この燕子花が見頃の時期だけ展示される一品なので、あわせて観賞したいですね。2019年は、4月13日(土)~5月12日(日)の期間に開催される特別展「尾形光琳の燕子花図―寿ぎの江戸絵画」で展示の予定です。
▲初夏のほんのひととき見頃を迎える「弘仁亭の燕子花」。(例年4月中旬~5月中旬頃)

季節によって旬の見どころも変わるので、ぜひ美術館の方におすすめを聞いてみてください。
▲庭園には石像のほか、根津家の家紋が入った瓦などもある。探してみるのもおもしろいかも?

ちなみに、正門を入ってすぐのところにも八景の1つがあります。「月の石船」と呼ばれている、かつて根津家の邸内にあった舟型のつくばい(手水鉢)と石灯籠です。石灯籠の明かりを月光に、つくばいを三日月に見立てたのが名前の由来。なんともロマンチックです。
▲正門を入ってすぐの左側にある「月の石船」

庭園探索のあとは、美術館併設の「NEZUCAFÉ」で一休み!

美術館併設の「NEZUCAFÉ」は、大きな窓からさんさんと日光が入る、明るく居心地のよいカフェ。特に庭園に面したカウンター席が人気で、コーヒーを片手にのんびりとくつろぐ1人のお客さんも多いそうです。
▲天井には、和紙のような風合いを持つ素材があしらわれています。耐久力も見た目も一級品

一番人気のメニューは、やっぱり定番のショートケーキ!たっぷりの真っ白いクリームに形のよいイチゴを2つものせた、高級感のある見た目。ひとくち食べてみると、甘さ控えめで口当たりのよいクリームが、ふんわり軽くきめ細かいスポンジと好相性です。あまずっぱいイチゴが、味にも食感にもちょうどいいアクセントになっています。
▲「ショートケーキ」(600円)と「NEZUブレンドコーヒー」(650円)

その他に、「ニース風サラダ(パン付)」(1,000円)や、「ミートパイ&サラダ シングル」(800円)などの軽食も人気だそうです。季節の食材を使ったランチメニューは、「本日のパスタ」(1,000円)と「本日のハンバーグ(パン付)」(1,350円)から選ぶことができます。都心とは思えないゆたかな緑を眺めつつ、ぜいたくな時間を味わえますよ。
▲ミートパイは店内で焼き上げているのでサクサク!自家製ミートフィリングがおいしい名物メニューです

美術館の魅力をぎゅっと詰め込んだミュージアムショップ

根津美術館の見どころをたっぷり堪能したら、最後はミュージアムショップへ。図録やポストカードなどの定番商品から、収蔵品や庭園をモチーフにデザインされた傘、バッグ、食器、マスキングテープまで、ここでしか買えないオリジナルグッズが目白押しです。
▲美術館入口のすぐ脇にあるミュージアムショップ。ここでも内装に竹の素材が使われている
▲人気の高いオリジナルグッズ。左から、「ガーゼハンカチ」(各色800円)、「一筆箋 燕子花シリーズ」(400円)、ポストカード各種(100円)、「スクエアポーチ 更紗シリーズ」(各3,800円)、『青山緑水-根津美術館の四季』(1,000円)

特に、2018年に発売された『青山緑水-根津美術館の四季』は収蔵品と庭園の四季を収めた写真集として人気の一品です。写真家・堀裕二氏の撮りおろしで、季節にあわせて選んだ作品と、それにちなんだ和歌が一首ずつ添えられています。自分へのお土産としてだけでなく、家族や親しい友人への贈り物としてもおすすめです。
▲『青山緑水-根津美術館の四季』の表紙(左上)と、庭園、収蔵品の写真を掲載した各見開きページ(右上、下)

美術鑑賞だけでなく、自然とふれあい、おだやかなティータイムを楽しみ、とてもぜいたくな時間を過ごすことができました。

いつになく満たされた気持ちで根津美術館の正門から一歩踏み出すと、いつも通りの都会の街並みが広がっていました。キツネにつままれたような気持ちで後ろを振り返ると、青々とした竹が風にそよいでいて、まるでここだけ別の時間が流れているよう。「東洋美術の静けさや日本庭園の緑に癒されたくなったら、また来よう」と思いました。

根津美術館は、忙しい社会の中でがんばっている方や、旅先で特別な時間を過ごしたい方には、特におすすめのスポットです。都会の喧騒の中にあるゆったりとした非日常を味わってみたくなったら、ぜひ一度訪れてみてください。
※記事内の料金・価格はすべて税込です

撮影:柳 大輔
高橋星羽

高橋星羽

編集者、ライター。出版・編集プロダクションデコ所属。書籍、雑誌、Webの編集やライティングを担当。医療健康マガジン『からころ』や『日本鉄道事始め』(NHK出版)などの編集を手掛ける。

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