「亀戸大根あさり鍋めし」は “幻の大根”を復活させた亀戸升本の心意気が凝縮!

2019.03.15 更新

東京・亀戸にある明治38(1905)年創業の「亀戸升本 本店」では、かつて“幻の大根”といわれた「亀戸大根」をふんだんに使ったあさり鍋をはじめ、数々のオリジナル料理で亀戸大根を今に守り続けています。地元愛あふれる亀戸大根料理を味わいに出かけました。

福を分けてもらえる!? 亀戸大根は縁起もいい

JR亀戸駅から商店街を抜けること徒歩約7分、蔵前橋通りと明治通りの交差点近くに「亀戸升本 本店」はたたずんでいます。
▲白壁と瓦屋根がひときわ目立つ日本風の建物
▲店の顔である白い暖簾。ロゴマークにも亀戸大根があしらわれている

亀戸大根は、江戸時代から「亀戸香取神社」周辺で栽培されてきた在来種で、明治時代にかけて盛んに収穫されていました。しかし、昭和に入り経済成長期に宅地化が進み、生産農家が減っていきます。さらに青首大根が主流を占めるにつれ、しだいに“幻の大根”と呼ばれるようになりました。

現在は、東京では隣りの江戸川区でわずかに生産されているにすぎません。こちらの店で使っている亀戸大根は10月下旬~5月頃以外、山梨や北海道の契約農家さんから取り寄せているそうです。
▲「大根に かけ水わけて 福もらい」と書かれた立て看板

道行く人たちがかけ水できるように、店先のつくばいには亀戸大根と竹のひしゃくが置かれています。かつては「おかめ大根」や「お多福大根」とも呼ばれ、福を分けてくれる縁起のいい大根として地元の人々に親しまれてきました。

なるほど、日本一小さい大根といわれるだけあって、小ぶりで可愛らしい‼サイズ的には「白いニンジン」といったところでしょうか。白い茎と大きい葉が印象的です。
▲早速、福を分けてもらうべく、かけ水をしてみた

そんな亀戸大根は、馴染みのある「青首大根」といったい何が違うのでしょうか?
早速、暖簾をくぐり、「亀戸大根あさり鍋めし」(1,980円)を注文してみました。

あさりの風味と味噌仕立ての汁との相性抜群!

▲「亀戸大根あさり鍋めし」は、他に麦菜めし、旬の小鉢、亀戸大根三種盛り合わせがつく。左上は亀戸大根

土鍋の中には短冊切りの亀戸大根、あさり、白菜などの旬の野菜のほかに、幅広の「太鼓橋うどん」が鍋ぎっしり詰まっています。これで一人前とは、ボリューム満点です。

「昔は江東区でもあさりが取れていたそうです。深川めしもその名残ですね」と店長の柏木英司さん。亀戸大根とあさりの組み合わせは、このあたりの歴史を物語る一品ともいえます。
現在は、北海道厚岸産のあさりを使っているそうですが、まるでハマグリのように大粒です。
さて、味噌仕立てのスープを入れて、火にかけます。ただの味噌ではありません。地元の味噌屋で5種類をブレンドしてもらっているというこだわりの特製味噌です(通常はすでに味噌仕立てのスープを入れた状態で持ってきてくれます)。
ぐつぐつ煮えて、味噌のふくよかな香りが立ちのぼってきます。あさりの殻も口が開いてきました。まるで味噌の温泉に入って喜んでいるようです。

そろそろ食べごろでしょうか。早速いただいてみましょう。
▲こんな小さい亀戸大根も丸ごと入っていた

とそのとき、店長の柏木さんから食べ方のご指南が入りました。
「まず麦菜めしを茶わんによそって、そこに鍋の具材と汁を入れて一緒に食べるのがおいしい食べ方ですよ」
▲ぶっかけ飯の要領で、汁を麦菜めしにかけていただく

これが気取らない下町の味、亀戸っ子の舌をうならせる食べ方なのですね。あさりのだしの効いた汁が、亀戸大根のきめ細かい繊維に入り込み、しっかりした味がついています。大根菜の塩漬けが入った麦菜めしは生姜風味で、あさり鍋の味噌味との相性抜群‼するすると箸が進みます。

「麦菜めしはおかわり自由なので、ぜひ『亀辛麹(かめからこうじ)』も入れてみてください」(柏木さん)。これは米麹と青唐辛子、有機醤油を長期熟成させた升本秘伝の調味料です。ピリリと辛みが加わり、味に深みが出ます。訪れた日は2月の冷たい雨の日だったので、体を芯から温めてくれました。
▲お好みで亀辛麹を入れると深い味わいが増す

「亀戸大根は繊維が細かいから煮崩れることがないんです」と料理人の笠間亮助さん。なるほど、最後まで歯ごたえも存分に楽しむことができました。

今回、セットについている「大根三種盛り合わせ」は、大根菜の佃煮、イクラおろし、大根煮の木の芽味噌の亀戸大根づくし。初めていただいた大根菜の佃煮は柔らかくて、優しい味わいでした。いくらでもご飯が食べられそう‼
▲部位、調理法などによって、バリエーションが楽しめる

名物の「亀戸大根あさり鍋」だけじゃない、まだまだある亀戸大根の楽しみ方

亀戸大根の別の魅力を探ろうと、サイドメニューもいくつかオーダーしてみます。まずは「亀戸大根ステーキ」をいただきました。
▲「亀戸大根ステーキ」(1カン800円)

「フォアグラのステーキと大根の組み合わせ」ならぬ、「牛肉のステーキと亀戸大根の組み合わせ」です。亀戸大根は、だしで一度煮てから焼くという手間のかけ方。これができるのも煮崩れない亀戸大根ならではです。
脂ののった牛肉のステーキがあっさりとした亀戸大根と口の中でうまく調和して、絶妙な旨みが口いっぱいに広がります。畑のキャビアといわれるとんぶり、大根おろし、スライス大根、わさびをお好みでどうぞ。
▲「亀戸大根たまり漬け」(600円)

「ポリッ、ポリッ」
歯ごたえそのものが楽しめるのは、「亀戸大根のたまり漬け」です。大根の繊維のきめ細かさが、とりわけ触覚に訴えかけます。有機醤油と紹興酒を使った升本秘伝のたれで漬け込んだたまり漬けの味わいが、一噛みごとに口の中に広がります。亀戸大根が漬物に適しているといわれる所以がわかりました。

笠間さん曰く「実は冬季の亀戸大根で一番おいしい食べ方は、スティック状にカットして味噌をつけてシンプルに食べる『亀戸大根すてぃっく』なんですよ」ということで、こちらもいただいてみました。甘みも歯ごたえもみずみずしさも、まるでフルーツの梨のようです。
▲何というシャキシャキ感‼(写真は試食用)

ほんのりした苦みと辛みがある亀戸大根も、寒い中で育つこの時季は甘みが一段と増しているそうです。「亀戸大根すてぃっく」(700円)は11月~4月の期間限定品なので、タイミングが合ったら、ぜひ食べてみてください。

他にも、「亀戸大根餅」(800円)、「亀戸大根と海老のかき揚げ」(600円)、「大根餅茶わん蒸し」(600円)など、亀戸大根を使ったオリジナルの逸品が揃っています。
▲「日本中で、いや世界中で最も数多くの亀戸大根を触っていると思う」と照れながら話す料理人の笠間さん

「亀戸大根は繊維がきめ細かいので、火や油との相性もいいんです。小さいから調理の手間暇はかかるけど、料理のバリエーションが出ておもしろいですよ」と笑顔で語る笠間さん。そのにこやかな表情から、亀戸大根に対する人一倍の愛情を感じました。

升本こだわりの逸品を家庭でも味わえる

▲ふわふわの生地に包まれた特製餡

昔から多くの福をもたらすと言い伝えられ、別名「福分け大根」とも呼ばれていた亀戸大根。その故事にならって、升本オリジナル「福わけ」まんじゅうをお土産に買うことができます。
一見中華まんのようですが、七福神にちなんで、亀戸大根、筍、クコの実、小松菜、ごま、椎茸、松の実の7種類の食材を使った餡が入っています。
▲「亀戸大根まんじゅう 福わけ」(3個入り720円)

他に、甜菜糖(てんさいとう)を使った優しい甘みにゴマの濃厚さが加わった小豆の餡で大根餅をくるんだ「勝運まんじゅう」(3個入り540円・6個入り1,080円)やあさり鍋を食べた際に入れた「亀辛麹」(680円)も販売しているので、ぜひ家庭でも楽しんでみてください。
▲「亀辛麹は、オリーブオイルと混ぜてカルパッチョにかけたり、卵かけごはんに入れたりするのもおすすめ」と笠間さん

明治38(1905)年に創業した升本ですが、最初から亀戸大根を使った料理を提供していたわけではありません。そのきっかけは、平成11(1999)年にお店が全焼した時だったといいます。再建する際「どうせなら、地元の名物の亀戸大根を使って地域を盛り上げたい、亀戸大根を広めたい」との思いで、亀戸大根を使った料理を提供し始めました。こうして契約農家とともに、伝統の江戸東京野菜を守り続けているのです。

亀戸大根は今や地域の盛り上げ役!? 亀戸のシンボル的存在に

▲亀戸大根発祥の地とされる亀戸香取神社には、その思いを形にした「亀戸大根之碑」が祀られている

昭和の一時期、“幻の大根”と呼ばれていた亀戸大根も、今では毎年11月に地元の小・中学校に種が配られ、栽培されながら大切に受け継がれています。そこで収穫された亀戸大根は、毎年3月初旬に行われる亀戸香取神社の「亀戸大根収穫祭」で奉納されます。

そのあとの「福分けまつりセレモニー」では、来場者に亀戸大根の配布と亀戸大根とあさり入りの味噌汁がふるまわれます(限定300食)。当日はそれらを求める人たちでにぎわいを見せるそうです。

今や亀戸大根は地域の盛り上げ役。 亀戸っ子にとってなくてはならない存在になっているのですね。
▲スポーツの神様を祀られていることでも有名な亀戸香取神社の本殿
時間があれば、亀戸香取神社のほか、「亀戸天神社(かめいどてんじんしゃ)」や観光案内所「亀戸梅屋敷」にも足を延ばして、亀戸の雰囲気も味わってみてください。亀戸香取神社の参道に並ぶ商店街もおすすめです。スカイツリーという現代の名所がすぐ近くでそびえ立つ中、ここでは下町情緒あふれるたたずまいと人情味あふれる人たちにいまだに出会うことができます。この地元愛が続いていく限り、亀戸大根はずっと後世に受け継がれていくことでしょう。

※記事内の料金・価格はすべて税込です。

写真:阪本勇
古谷玲子

古谷玲子

編集者・ライター。出版社・編集プロダクションの株式会社デコ所属。移住者向け雑誌「TURNS」のほか、「孫育て一年生」を担当。フリーランス時代は、海外旅行ガイドブックで、台湾、台北、モンゴル、東アフリカを手掛ける。さまざまな「人の営み」に興味がある。

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