薩摩焼の魅力を未来へ。沈壽官窯で「本物の美」を体感!

2019.01.27 更新

鹿児島の伝統工芸品・薩摩焼を代表する窯元「沈壽官窯(ちんじゅかんがま)」。「薩摩焼の郷(さと)」と呼ばれる美山(みやま)にある窯元では、約400年に渡って受け継がれてきた伝統の技を見学できます。近年は伝統工芸の固定観念を覆すモダンなデザインの新ブランドも展開する沈壽官窯。その魅力を探るべく、美山を訪れました。

薩摩焼には白薩摩と黒薩摩があります。白薩摩は、表面に貫入(かんにゅう)というきめ細かいヒビの入った白肌に絵付けや透かし彫りが施された絢爛豪華な焼物で、かつては島津家御用の品として作られていました。
▲十五代沈壽官の代表作「薩摩蝶乗花瓶(さつまちょうのりかびん)」

一方で黒薩摩は民需品として作られた黒い焼物で、素朴な風合いが特徴です。同じ薩摩焼といえども、正反対と言ってもいいほど性質の異なる白薩摩と黒薩摩。沈壽官窯ではその両方を制作しています。
▲黒薩摩花瓶

沈壽官窯がある日置市(ひおきし)東市来町(ひがしいちきちょう)美山は、鹿児島市から車で約20分、鹿児島市の繁華街・天文館(てんもんかん)からバスに揺られること約70分で到着する緑豊かな場所。ここには10以上の薩摩焼の窯元が集まっているため、「薩摩焼の郷」とも言われています。沈壽官窯は、1874(明治7)年からこの地に窯を構えているそうです。
▲立派な武家門が出迎える沈壽官窯の入口

ここには工房のほか、ギャラリーや売店などがあり、工房は無料で見学することができます(開館時間9:00~17:00、第1・3月曜定休、予約不要)。

では早速、工房を見学してみましょう。

薩摩焼の製造工程を見学!

▲通常はガラス越しに見学しますが、今回は特別に工房の中で撮影させてもらいました

薩摩焼の製造には大きく分けて、「土づくり」「ろくろ(成形)」「焼成」「絵付け」という工程があり、物によっては成形の後に透かし彫りや取っ手などのパーツを付ける作業が加わることもあります。
こちらは白薩摩の成形をしている様子です。沈壽官窯の特徴は、分業制であること。それぞれの工程に専門の職人がいて、土作りをする人、ろくろを回す人、絵付けする人といった具合に分業で作品を作っているんです。というのも、かつて沈壽官窯は薩摩の藩営工場であり、その高い技術や情報が流出しないよう、代々分業制を取り入れてきたのです。昔は火入れで使う薪を切る人やそれを運ぶ人までいたそうですよ。

現在の十五代はデザインとろくろが専門。それ以外の工程は専門の職人が担当するので、十五代の名がついた作品であっても十五代は「私の作品ではなく、私たちの作品」といつも話しているそうです。
こちらの職人さんが作っているのは黒薩摩。土の色が白薩摩とまったく違いますね。ろくろを回しながら徐々に器の形に整えられていくさまは、まるで魔法のよう。職人さんは、寸法・重さ・形すべてにおいてまったく同じものを作らなければなりません。

名工・十二代が生み出した伝統の技

こちらの部屋では透かし彫りが行われています。透かし彫りというのは、幕末から明治時代に活躍した名工・十二代が生み出した技法で、沈壽官窯の代表作でもある香炉には透かし彫りの技術がふんだんに取り入れられています。ちなみに十二代は、他にも絵付けやパリ万博出品など様々なことに挑戦し、薩摩焼に革新をもたらしたことで知られています。
▲透かし彫りは気の遠くなるような細かい作業

土の乾燥を防ぐため、彫る部分以外には袋や濡れタオルをかけて作業を行っています。職人さんは、時計のゼンマイやこうもり傘の骨などから作る「剣先」など、お手製の道具を使って孔を空けていきます。透かし彫りに限らず沈壽官窯のすべての職人さんは、自分が使いやすいように道具を手作りしているんですよ。
無数にある香炉の孔を、職人さんが一つひとつ手作業で彫っています。焼物は焼くと3割ほど縮むと言われています。収縮率や粘土の湿度なども計算した上で、このような繊細な模様を形作っていく職人さんの技術力と芸術性の高さに言葉も出ません。
細やかな作業といえば、絵付けも同様です。こちらの部屋では、焼き上がった大小様々な白薩摩に、絵付けする作業が行われています。沈壽官窯では、まず金彩で絵付けを施した後、金線に触れないように注意しながら、何種類もの絵の具を使って細かな模様を描いていきます。
細い筆で丁寧に絵付けを施す職人さん。失敗の許されない繊細な作業なので、部屋にはピンと張り詰めた空気が漂います。

通常見学できるのは以上の工程です。分業制だからこそ、いつ訪れてもほとんどの工程を見学できますよ。ただし、12:00~13:15と15:00~15:15は職人さんの休憩時間なのでお気をつけて。

細かいパーツを繋ぎ合わせて作る人形細工

今回は特別に、通常見ることのできない人形細工の製造工程も見学させていただきました。ろくろを回して作ることができない作品は、石膏の型で成形します。てのひらサイズの作品でも、使用する型は40個以上にもなるというから驚きです。
▲西郷(せご)どんの愛犬・つんの人形を製作中

パーツとパーツのつなぎ目は「ノロ」という泥の接着剤でくっつけるのですが、出来上がりを見てもつなぎ目はまったくわかりませんでした。この技術もまた職人のなせる技ですね!

県内に2ヵ所しかない登り窯を見学

沈壽官窯では現在、白薩摩は電気窯で、黒薩摩は登り窯で焼いています。伝統的な登り窯を使って薩摩焼を作っている窯元は、沈壽官窯を含め県内でわずか2カ所しかありません。その貴重な登り窯を間近で見ることができるのはうれしいですね。

登り窯の温度は最高で1,300度近くにもなるため、火入れをするのは毎年寒くなる11月。冬の間に2、3回火入れをし、1年分の黒薩摩を一気に焼き上げます。
▲よく燃える松の木を薪に使うのだそう

窯詰めに3日、焼成に3日、冷却に3日という時間をかけて、薩摩焼は完成します。火入れのときは窯を熟知した職人が、寝ずの番で火の管理にあたります。「火入れに2回連続失敗すれば、窯元は潰れる」と言われるぐらい、火入れは窯元にとっての一大行事。火入れの際は、窯の上に設えられた神棚に従業員一同、手を合わせて成功を祈るのだそう。

なお、沈壽官窯は火入れの日を告知していないので、火入れを見ることができるのはかなりレアな体験です。ただし、登り窯を使用しているときは窯の近くで見学することはできません。遠くからそっと見守ってくださいね。
▲ギャラリーは無料で見学できる

続いて訪れたのは、十五代の作品が展示されているギャラリーです。中には値がつけられないほど貴重な作品も。白薩摩は艶やかで絢爛豪華なイメージがありますが、白っぽい土に無色透明な釉薬をかけているため、象牙色のようなやさしい肌に仕上がり、その表面に貫入といわれる細かなヒビが入ることで独特の優美さを醸し出しています。間近でじっくりと作品を鑑賞すると、その美しさがわかりますよ。

沈家と薩摩焼の歴史が丸わかり!「沈家伝世品収蔵庫」

▲「沈家伝世品収蔵庫」

そして沈壽官窯を訪れたらぜひ立ち寄って欲しいスポットが「沈家伝世品収蔵庫」(高校生以上500円、中学生以下無料)です。初代・沈当吉は、第十七代薩摩藩主・島津義弘が朝鮮出兵の際、朝鮮から連れてきた陶工の1人。そこから今日に至るまで、およそ400年に渡って沈家に伝わってきた作品や歴史的資料が多数展示されています。
入ってすぐに現れる大作は、十二代が手がけた絵付け前の白薩摩の素地。十二代はこの上に花鳥風月や金彩など、東洋趣味を押し出した豪華な絵付けを施し、ヨーロッパに輸出していたのです。

十二代は元々、藩営製陶工場の工場長でしたが、廃藩置県によって工場がなくなると、1871(明治4)年に民営の「薩摩陶器会社」の工場長となりました。1873(明治6)年に日本が国家として初めてエントリーしたウィーン万博で、十二代の作品は高い評価を受けます。これを機に輸出を強化しようと、コーヒーカップやディナーセットなどの洋食器の生産を始めるも失敗に終わり、大量の在庫を抱えて65人もの職人を解雇するまでに追い詰められたのです。
十二代は解雇された職人の救済措置として薩摩陶器会社を退職し、当時の価格で3,000円もの借金をして「玉光山陶器製造場」を設立し、職人たちを再雇用しました。これが現在の沈壽官窯の前身です。
▲薩摩菊花籠目透香爐(さつまきっかかごめすかしこうろ)

白薩摩はもともと、島津家の殿様御用達の器として作られていました。商用でもなければ、唐津焼や萩焼などのように茶道に守られて発展した焼物でもないのです。むしろ薩摩は、藩主にはたしなみとして茶道の心得はあったものの、華美なものを好まない風潮ゆえに、茶道そのものが盛んな地域ではありませんでした。もちろん茶道具も作ってはいますが、茶道ありきの焼物ではなかったのです。
藩主は自分用というよりは要人をもてなすために白薩摩を使用していたようです。それほどまでに貴重な贅沢品、それが白薩摩なのです。
▲昔のデザイン案と思しき書類も展示されている

ここでは時系列に沿って展示されているので、薩摩焼と沈家の歴史を一気に学ぶことができますよ。

売店の人気商品をチェック!

ひと通り見学した後は、やっぱりお土産を買いたいですよね!沈壽官窯の敷地にある売店には、食器や置物などさまざまな薩摩焼が販売されています。
▲店内には目移りするほどの作品がズラリ。発送もできるので観光客も安心
▲写真左から「青釉タンブラー」「白タンブラー」 各4,320円

こちらは売店でも人気の高いタンブラーです。従来の伝統工芸品のイメージを覆すスタイリッシュなフォルムは、ビールやウイスキーとも好相性。また、ボーダー状に入った彫りが指にぴったりとフィットして、滑りにくいのも魅力です。実際に持ってみると予想以上に軽く、さらに口当たりの良さも抜群なんだそう。
▲「飯わん(白・黒)」小・各3,132円、大・各3,240円

ご飯も薩摩焼の茶碗によそえば一層おいしくいただけそうですよね。特に黒薩摩は、お米の白さが際立つのでおすすめです。
▲「西郷どんの愛犬つん」1体5,400円

また、お土産で人気なのが、西郷隆盛の愛犬・つんの置物です。座っていたり立っていたりとさまざまなバリエーションがあり、複数買いしたくなるほどの愛らしさです。

「本物」の美は普遍的である

▲十五代沈壽官

沈壽官窯の作品はどれも伝統的な薩摩焼の技法を用いながらも、現代人の感覚に合ったデザインと機能性を兼ね備えたものばかり。薩摩焼を普段使いするのは贅沢な気もしますが、「日常的に『本物』を取り入れ、上質な物を知ることは使い手にとっても作り手にとっても大切なこと」と十五代は話します。
100円でありとあらゆる物を買うことのできる現代。器も例外ではありません。こんな時代だからこそ、使い手が上質な物を見極める目を持っていなければ、需要はなくなり作り手も劣化していきます。伝統的な技法で作られた薩摩焼が減少する今、十五代が願うのは「多くの人が身の回りのものにこだわりを持って生きて欲しい」ということ。

「本当に良いものは誰の目から見ても良いものなんです。本物は普遍的な美を持っているんですよ。だから、今こそ究極に鍛え込まれた職人技というものは評価されるべきだし、私たち作り手も伝統を受け継ぎつつも、時代にフィットした作品を提供する必要があります」と十五代は語ります。

薩摩焼に革新をもたらす「CHIN JUKAN POTTERY」

▲CHIN JUKAN POTTERYの最初の作品「Apples(シュガーポット)」red・white・green 各16,200円 ※スプーンは別売

そんな十五代の思いから生まれたのが、鹿児島出身の中原慎一郎氏が創業した「ランドスケーププロダクツ」と沈壽官窯による陶器ブランド「CHIN JUKAN POTTERY」(以下、CJP) です。CJPではランドスケーププロダクツがディレクションし、制作を沈壽官窯が手がけています。
▲金色のへたは摘みやすく、使い勝手も抜群

CJPの作品第1号となったApplesは、本物のリンゴそっくりなリアルなフォルムと、蓋がピタリと重なる精巧な造りが特徴のシュガーポット。赤、白、緑の3色展開で、どの色もこれまでの白薩摩にはなかった釉薬を使っており、非常に高度な技術を必要とするため量産が難しく、入荷待ちになることも珍しくありません。

「最近は、Applesをきっかけに沈壽官窯のことを知ったという若者も結構多いんです」と十五代が話すように、ApplesはCJPを象徴する作品となりました。

鹿児島のおいしいものとCJPのコラボ

▲ブルーグレーを基調としたスタイリッシュなインテリアは「ランドスケーププロダクツ」によるもの

CJPの商品は沈壽官窯の売店では販売されていません。そのかわり、鹿児島市にある歴史資料センター「黎明館(れいめいかん)」に「CHIN JUKAN POTTERY喫茶室」というカフェを併設したショップがあります。
▲「薩摩紅茶」「ふくれ菓子」各378円(お菓子とドリンクを注文すると50円引き)

CJP喫茶室では、厳選した鹿児島のおいしいお菓子やドリンクを楽しめます。人気メニューの鹿児島の郷土菓子「ふくれ菓子」(小麦粉と重曹と黒糖を混ぜた生地をせいろで蒸した蒸しパンのようなお菓子)は、国産材料のみで作られていて、ふんわりもちもちの食感と黒糖の素朴な味わいがたまりません。

そして何よりCJPの器で提供されるため、実際に使い心地を試せるというのがCJP喫茶室の魅力でもあります。
ふくれ菓子がのった「HALF MOON」というプレートは、少し縁が高くなっているのがポイント。サラダや肉料理をのせても、ドレッシングやソースがこぼれにくそうですね。

また、カップ&ソーサーのソーサーは、通常よりやや大きめに作られているので、お菓子やシュガーをのせてもOK。カップも飲み口が浅く広い作りで、紅茶の香りがふわっと広がりますよ。
▲店長の竹内亜希子さん

「不思議なもので、簡単な料理や買ってきたお菓子も、素敵な器にのせるだけでぐんと見栄えが良くなります。CJPの器は軽くて口当たりが良くて、収納しやすいものばかり。実際にカフェで使ってみて良さを感じていただきたいですね」と竹内さんは話します。
▲上「New Dinner SOUP DISH」 6,480円 、下「New Dinner PASTA DISH」 8,100円

また、CJPの器は使用用途が広いのも魅力の一つ。たとえばこちらのプレートは、基本的にはスープ皿なのですが、ケーキやプリンなどデザート類とも相性抜群なんですよ。
▲「New Dinner MINI CUP」(各1,296円)はお土産にもおすすめ

食前酒やエスプレッソ、中国茶を飲むのに最適なミニカップも、爪楊枝や綿棒などを入れるのにもピッタリなサイズ感。このように、和洋中どんなテイストにもマッチするシンプルで洗練されたデザインと優れた機能性、そして薩摩焼の伝統の技が相まって、CJPは2008年のブランド開始以来、多くの人々を魅了し続けているのです。

日々の暮らしに、「本物の上質」を

▲韓国人陶芸家キム・ヘジョンがデザインした「BLOOMシリーズ」3,780円~19,440円

伝統的な沈壽官窯の作品と薩摩焼に新風を吹き込むCJPの作品をご紹介しましたが、お気に入りは見つかりましたか?贈答品として人気の高い薩摩焼ですが、筆者はぜひ自分用に買って、普段使いすることをおすすめします。

日々の暮らしに沈壽官窯の器を取り入れるだけで、食卓はパッと華やぐことでしょう。それが紛うことなき圧倒的な「本物」の力なのです。皆さんもそんな「本物の上質」を体験してみてください。
※記事中の料金・価格はすべて税込です。
さわだ悠伊

さわだ悠伊

鹿児島市出身・在住のフリーライター。グルメ、旅、コラム等ジャンルや媒体を問わず活動中。鹿児島県内の離島取材も豊富。

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報は直接取材先へお問い合わせください。
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