盛岡から1時間。八幡平の秘湯「松川温泉峡雲荘」で古き良き昭和へタイムスリップ

2019.01.20 更新

岩手県盛岡市から山道を車で約1時間。八幡平(はちまんたい)・松川温泉峡のなかにある温泉宿が「松川温泉峡雲荘」(以下、峡雲荘)です。秋の紅葉や冬の樹氷でもよく知られる自然豊かな八幡平で、エアコンもシャワーもない秘湯だからこそ味わえる一泊二日のノスタルジックな旅をご紹介します。

松川温泉峡は、「十和田八幡平国立公園」の南東に位置する小さな温泉地。約280年前に開湯したといわれ、峡雲荘を含む3軒の宿を有しています。近隣には、「雪の回廊」と呼ばれる高さ数mの雪壁のドライブを楽しめる「八幡平アスピーテライン」や、質のいい雪で全国のスキーヤーから人気の「八幡平リゾートパノラマスキー場」などもあることから、一年を通して雄大な自然を堪能できるエリアとして親しまれています。
▲4月中旬〜5月中旬が見頃の「雪の回廊」(写真提供:岩手県観光協会)

今回はそんな松川温泉郷の中にあって、泉質もよく癒されると評判の宿「峡雲荘」におじゃまします。
盛岡市街地から向かうと、東北自動車道を北に進み約30分。松尾八幡平ICで高速を降り、しばらくするとくねくねと続く山道が始まります。
▲紅葉の見頃は9月下旬〜10月中旬(写真提供:岩手県観光協会)

山道沿いには、イワナやヤマメが釣れる川としても知られる一級河川の松川が流れています。淡いブルーの松川渓流の美しさは必見で、なかでも柱が連なるようにも見える玄武岩の景観は思わずため息が漏れてしまうほど。坂道の途中に「松川渓谷玄武岩」と書かれた看板があるので、見落とさないようにしましょう。

峡雲荘に到着。部屋からの眺めに感動!

玄武岩からさらに車で約15分、背の高い木々の間を進むと峡雲荘に到着しました。
車のドアを開けて外に出ると、川の音、心地よく澄んだ空気、そして硫黄の香り。「温泉にきたんだなー!」と喜びをかみしめ、軽く伸びをして館内へ向かいます。

峡雲荘は1980(昭和55)年に創業。湯治をベースにした親しみやすい山の湯でしたが、2006(平成18)年には建物の一部を改築。木のぬくもりが感じられる内装にリニューアルし、トイレと洗面所付きの客室も加わりさらにゆったりと過ごせるようになりました。源泉かけ流しの露天風呂や、地元の食材を活かした料理、八幡平の自然あふれる壮大な景色を存分に味わえることでも人気のお宿です。
▲落ち着いた木の風合いのロビー。岩手の伝統工芸品、南部鉄器の鉄瓶が置かれた囲炉裏の風景は郷愁を誘います
▲フロント左手でふと目に留まったのは、古いスキー板

「スキー板、触っても大丈夫ですよ」と仲居さん。これは昭和初期のもので、雪深い季節に外を歩くときにかんじき代わりに履いていたようです。雪とともに暮らしてきた地元の人々の長い歴史を感じます。冬季はスキーをするために連泊するお客様も多いのだそう。
▲今回はリニューアルで増築された、本館二階の客室に宿泊します
▲畳敷きの純和風一般客室

部屋の中へ入ると、大きな窓いっぱいに見える八幡平の山々に出迎えられました。窓の下には横長の暖房が。仲居さんによると「こちらは地熱を利用しています。 スイッチを切ることができませんので、窓を開けたり扇風機をつけたりして室温を調節してくださいね」とのこと。峡雲荘のすぐそばには「松川地熱発電所」があり、宿の暖房はこちらの地熱の蒸気を使っているそうです。 

さらに「硫黄の成分ですぐ壊れてしまうので冷蔵庫は置いていません」と仲居さん。テレビも硫黄成分による故障が多いので、あえて小さめのものを置いているのだそう。松川温泉の硫黄成分の強さ...恐るべしです。

いざ温泉へ!「シャワーがないこと」を楽しむ洗い場

峡雲荘には、大浴場、女性専用露天風呂、混浴露天風呂の3つの浴場があります。大浴場は女湯と男湯に分かれており、女湯の内湯からは女性専用露天風呂へ、男湯の内湯からは混浴露天風呂へそのまま入ることができます。 
私たちもまずは大浴場へ。
▲大浴場へ向かう廊下の途中に面白い額を発見。岩手育ちの筆者にもわからない方言がたくさん紹介されています
▲乳白色にうすい緑色が溶けたような奥行きのある色のお湯

峡雲荘のお湯は、わずかにとろみがあり、硫黄がふわっと香る単純硫化水素泉。体の芯の方へじわーっと伝わるあたたかさが特徴です。
▲女湯の洗い場にある、源泉が流れ込む桶。水と合わせてちょうどいい温度にします

ちなみに峡雲荘の浴場にシャワーはありません。源泉の硫化水素泉には金属を腐食させる作用があるため、洗い場の設備も最小限なのだそう。浴場には四角い大きな桶が置かれているので、そこに流れる約70度の源泉掛け流しのお湯と、蛇口から出る水で湯加減を調節して、ザバーッとかけるスタイルです。最初はちょうどいい湯加減にするのが難しく苦戦...。何度かチャレンジしているうちに、ちょうどよい温度に調節できるようになりました。まるでアトラクションのように楽しめる洗い場です。 

内湯であたたまったら、そのまま外へ続くドアを開けて女性専用の露天風呂へ。
ついたての向こう側を覗くと、白い湯気が地面から上がる様子も見ることができます。山々の景観や、川の音。自然に囲まれながら心身ともにリラックスすることができました。
▲女性専用の露天風呂

女湯を満喫した後は、いよいよ混浴露天風呂へ。混浴は男性の内湯からは直接入ることができますが、女性は一度内湯を出て廊下を進み、混浴専用の脱衣所へ向かう必要があります。最初は混浴に抵抗感を抱く人も多いかもしれませんが、お湯が乳白色なので一度入ってしまえば大丈夫、とのこと。ドキドキしつつも早速混浴を体験してみましょう。
▲混浴露天風呂の入り口。脱衣所は男女別なのでご安心を

脱衣所から湯船までは数mの距離があるので、気になる方はタオル(湯船の中では使用不可)で目隠しを。お湯に浸かってみると、湯けむりもあり周囲の目は想像していたよりも気になりません。この日も外国人のカップルがおしゃべりしながら入浴を楽しんでいました。恋人や家族みんなで温泉を楽しめるのは混浴ならではですね。そばを流れる松川の流れる音を聞きながら、手脚をゆったりと伸ばして会話を楽しむ時間は、最高の思い出になりそうです。
▲湯船の中には大きい岩があちこちに。岩のかげなら、周りの人からも見えにくいかも

なお、峡雲荘は日帰り入浴も可能です。営業時間は8~19時、料金は大人600円、小人(5歳~小学生)300円(ともに税込)。取材当日も、日帰りで温泉を楽しむ観光客の方々で賑わっていました。

お待ちかねの夕食で、地元の食材に舌鼓

峡雲荘の夕食は、ホロホロ鳥のお鍋を中心に、イワナの刺身や山菜・きのこなど、旬の山の幸を堪能できる御膳です。
▲客室に運ばれる夕食は、地元の食材を中心に10品以上
▲湯葉のいくらのせ、フキ炒め、豚の角煮、牛のたたきなど、岩手の食材の豊富さを感じられる品々が並びます

たくさんのお料理の中から特に美味しかったものをいくつかご紹介します。
まず、八幡平にある豆腐専門店「ふうせつ花」の湯葉を使用した「湯葉のイクラのせ」。国産の大豆と井戸水にこだわって作られた、独特の食感と大豆の香り豊かな湯葉を味わえます。
▲イクラとわさびが添えられ、目にも鮮やか

続いて、松川で養殖されたイワナのお刺身。タイに近いような上品なお味とむちっとした歯ごたえで、川魚特有の臭みも全く感じません。イワナといえば塩焼きという思い込みが覆される美味しさです。
▲イワナをお刺身でいただくのは初めてでした

そして、グツグツという音が食欲をそそるホロホロ鳥のお鍋。花巻市石黒農場で飼育されているホロホロ鳥は、キジ科で寒さに弱く神経質といわれている鳥で、近年はヨーロッパでも高級食材として需要が高いのだそう。お鍋の中にはモモ肉と胸肉の2種類が入っており、モモ肉では強い弾力、胸肉ではサクサクとした歯触りを楽しめます。どちらも噛んでいるうちに乳製品に近いようなコクを味わうことができました。
▲もちろん鳥のお出汁がたっぷり出たスー プも絶品!

料理のお供には、イワナの骨酒(税込1,200円)がおすすめ。「骨酒ってどんなだろう?」 と楽しみにしていたのですが、これが想像よりもずっと美味しい...。お魚型の骨酒専用徳利の中に炙ったイワナが丸ごと入っています。
▲塩焼きよりもじっくりと時間をかけて焼くことで臭みを消すのだそう

この日の日本酒には、岩手にある酒蔵 「鷲の尾」の上撰を使用(時期によって変更あり)。少し甘みのある日本酒に炙ったイワナの香ばしさがほんのりと移って、くいくいとお酒が進みます。
▲少し時間が経った骨酒は、最初に飲んだ時よりも魚の香りが強く色も一段深くなり、上品なお出汁のような味わいです

お風呂上がりのやわらかな心と体に、美味しいお酒とたわいもないおしゃべりが染み渡ったひととき。お料理も一品一品が味わい深く、大満足の時間を過ごすことができました。

川のせせらぎで目を覚まし、囲炉裏のそばで朝のコーヒーを

▲客室からの朝の眺め

夜は地熱で暑いくらいだったので、11月だったのにもかかわらず少し窓を開けたまま寝ました。そして迎えた朝。数cm開けた窓から聞こえる水音に「雨が降っているのかな?」と思い外を見ると、雨ではなく川のせせらぐ音。まるで自然の目覚まし時計のようです。前日の温泉や美味しい夕食のおかげでしょうか、お肌の調子もいつもよりいい気がします。さあ、朝食です!
▲朝食は素材の味が生きた和定食

会場に着くと、おいしそうな朝食が用意されていました。小岩井牛乳をはじめ岩手県産の食材がふんだんに使用されており、きんぴらごぼう、青菜のおひたし、そして緑色の鉄鍋にはベーコンエッグが。どれもやさしい味付けです。ヘルシーでどこか懐かしさを感じるおかずにお腹も心も満腹。
▲イワナの一夜干しでご飯が進みます

大満足で部屋へ戻る途中に通りかかったロビーでは、囲炉裏の炭火が赤々と私たちを迎えてくれました。南部鉄器から出るあたたかな白い湯気がシュンシュンと音を立てる中、食後のサービスとしていただけるコーヒーがうれしい。窓の外に広がる八幡平の青空を見ながら至福の時間を過ごせました。
▲囲炉裏の炭と珈琲の香る中、朝の八幡平の山々を眺めます
▲他の宿泊客の方とのおしゃべりもうまれ、さらに楽しい時間になりました

おみやげに最適!岩手の工芸品が並ぶ売店

コーヒーで一息入れたら、売店を物色。
▲売店はフロント右手にある(営業時間は7〜21時)

お菓子など定番のお土産の中で存在感を放っていたのが、硬く丈夫なアケビのつるで編みこまれたバッグ(税込33,000円)。手入れをしながら使えば、何十年も愛用することができ、艶などの経年変化を楽しむことができます。
▲細かな網目が美しい。和装にも洋装にもしっくりくる、普遍的なデザイン

また、岩手県の特産品である浄法寺産の漆を使ったスプーン(税込2,400円)などの伝統工芸品も、お土産として並んでいます。
▲傷がついても塗り直すことができ、長く使えるのも漆の長所

売店の帰り道、ロビーにあったアルバムに手を伸ばすと、あまり見ない形のバスの写真を発見。これは冬季限定のボンネットバスで、今でも八幡平マウテンホテルと松川温泉のあいだ約7kmを運行しています。
▲雪の中を走るレトロでかっこいいボンネットバス

四輪駆動の1968(昭和43)年式で、この年代のバスが現役で走っているのは全国的にも珍しいそうです。バスの運行は積雪状態で変わりますが、例年12月初旬から3月下旬まで。こんなレトロなバスで雪景色の中を温泉へ向かえたら、楽しみも増えそうですね!
▲廊下のガラス棚には、こんなに可愛いチョロQも飾られていました

エアコンやシャワーなどの便利なものに囲まれすぎていないからこそできる経験や、生まれる会話。自然の恵みに心ほぐれる時間になりました。慌ただしい日常から少しだけ距離を置き、のんびりと「ない」を楽しんだ一泊二日。古き良き昭和の時代へタイムスリップできました。
▲窓から眺める八幡平の景色も名残惜しい?

ちなみに峡雲荘のすぐそばにある松川地熱発電所は、1966(昭和41)年に日本初の地熱発電所として稼働しました。発電所には「松川地熱館」が隣接しており、パネルや映像で地熱発電について知ることができます。開館期間は4月下旬~11月上旬(開館時間9~16時、入館無料 ※要予約)ですが、機会があれば足を延ばしてみてはいかがでしょうか。
▲松川地熱発電所の冷却塔。ここで発電を終えた蒸気を冷やします。木々の間からもくもくと白く立ち上る湯気と、周りの緑のコントラストが美しく、八幡平の持つ力強いエネルギーを感じます(写真提供:岩手県観光協会)
菅原茉莉

菅原茉莉

岩手在住。盛岡発のwebマガジンLITERS運営。イベントを企画し、写真を撮り、記事を書く保育士です。 (編集/株式会社くらしさ)

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