京都「あじき路地」がおしゃれ!レトロな長屋に若手アーティストが集結する穴場スポット

2019.04.06 更新

漢字で「路地」と書いて「ろおじ」と発音する京言葉、皆さんは聞いたことがありますか?これは大通りから道を折れたところにある、民家の間の細い路地のことを指します。古都・京都でも観光客の増加などにより再開発が進む今、趣のある古い町並みが残る路地は貴重な存在。そんな昔懐かしい路地を利用した、若手芸術家たちのアトリエショップが立ち並ぶ場所があると聞いて足を運んできました!

家主の名前をとって「あじき路地」と命名

京阪本線・清水五条駅から徒歩約3分。銭湯「大黒湯」の煙突を目指して歩くと、民家と民家の間に細い路地「あじき路地」を見つけることができます。
▲大きな煙突が目印。手前の銭湯「大黒湯」の右隣(写真右奥)に「あじき路地」の入り口があります

入り口には「あじき路地」の看板と入居者マップがありました。幅約1.8mほどの細い路地を挟むようにして築120年以上の町家の長屋が並んでおり、そこで若手作家たちがものづくりをしながら工房を開いたり、住居も兼ねて暮らしていたりします。長屋は全部で14軒、そのうち9軒が入居中、店舗貸しが1軒(2019年3月9日時点)。
▲「あじき路地」の入り口にある入居者マップ。路地を挟んで北側と南側に長屋が並んでいる

そして彼らの家主が安食弘子(あじきひろこ)さん。いえ、家主というより「お母さん」と呼ぶほうがしっくりくるかもしれません。その存在は、作家の成長を見守り、応援する母親のよう。「○○君、○○ちゃん」と彼らに声をかければ、「お母さん」と返事が返ってきます。
▲日頃から若手作家たちの暮らしぶりを気にかけ、優しく見守る安食さん

「若手作家を支えたい」と始めた「あじき路地」

実は「あじき路地」自体は、大昔からあったわけではありません。この路地で若手作家の店子を募集し始めたのは2004年のこと。きっかけは、趣味で七宝と彫金のデザインを制作していた安食さんが、結婚を機に家庭に入ったことでした。安食さんは「自分が諦めた芸術家の夢を次の世代に託したい」と一念発起。先祖から所有し借家にしていた路地の長屋を、若手作家に貸すことにしたのだそう。
▲立ち寄れば、誰もが懐かしい気分になれる場所

そんな家族のような居心地のよい関係を築いている小さなコミュニティの中から、アトリエショップをいくつかご紹介します。

製本作家が手がける、唯一無二のノートと紙小物「すずめや」

「すずめや」は2018年4月の入居以来、平日はおやつどきから日暮れまで、休日はお昼前から日暮れごろまでオープン。美術大学で建築を学び、現在は製本作家として活躍する村松佳奈さんが店主を務める、ノートと紙小物の店です。
▲路地の入り口から3軒目の北側の長屋。すずめのように愛らしく、控えめな看板

「ものづくりで食っていけないなら大学をやめる」という覚悟で休学した時に、出合った製本の魅力。製本に夢中になった理由について「人のいる空間、物語のできてゆく日々の風景を生み出すのが建築の仕事。ノートの製本もそれに通じるところがあって、白い紙を綴じることによってこれから物語が生まれてゆく“本”になるのだと考えています」と村松さんは言います。
▲店主の村松さん
▲靴を脱いで店内に上がると、目の前に手作りのノートや紙小物がずらりと並ぶ

定番のノートは、店名にもなっている「すずめスタンプ」。
▲かわいいすずめに癒やされる♪「すずめスタンプ(単色)」(1,780円・税別)

ほかにも村松さんがおすすめする、アーティスティックな模様がモダンな手のひらサイズのノート「にじみ」シリーズなど約12種類のノートが揃います。
▲模様も全て村松さんのお手製の「にじみ あこがれのひと」(2,000円・税別)。この模様からイメージする言葉が商品名のサブタイトルになっている。全て一点物

村松さんのノートの製作は紙を選び、折るところからスタートします。小口の美しさにこだわり、揃えた紙をカッターで1枚ずつカットするという途方もない作業もおろそかにしない理由は、手仕事の証を残したいからだそう。製本の作業も機械を使わずに、1つ1つの工程を手作業で行います。「買ってくれた人が大事にしたくなる、その人だけの“本”を作りたいから」と、ノートは自由度の高い無地のみ。
▲1枚ずつ紙をカッターでカットする村松さん

静かな店内で、村松さんの世界観に包まれて過ごしてみたいですね。

写真の楽しさを学べる「カメラとデザインの教室 torico.camera」

「すずめや」の向かい側にあるのが、関西エリアを中心に雑誌や書籍で活躍しているプロカメラマン・松村シナさん主宰の写真教室。兵庫県川西市の自宅から通う形で、「あじき路地」に店を開いています。
▲お店の前のおしゃれな看板。ステキな写真が撮れそうな気分にさせてくれる

現在は「シャシン好きさんクラス」や「はじめてさんクラス」など、初心者からセミプロまでOKの3つのカメラ講座をオープン。ほか、デザイン制作専門の「デジタルお絵かきクラス」やギャラリーの展示方法が学べる「ギャラリーあじきクラス」も開講中(各講座につき毎月1回開講、3~5名程度)。トータルで27人の生徒が受講した2018年に引き続き、2019年ではすでに満員になってしまっている講座もあるほどなのだとか。シナさんの目が行き届きやすい少人数制も人気の秘密です。
▲手前のテーブルで講座を開いている。奥はスタジオブース

以前は「あじき路地」の家屋を借りて不定期で開講していたものの、「書籍『あじき路地で暮らす』の撮影をきっかけに、この場所に興味をもったんです」と松村さん。教室が繁盛していくにつれ「(教室を)定着させたい」という思いを強くしていった松村さんと、「ここを出発地点として頑張ってほしい」という家主の安食さんの情熱が一つになり、2017年5月に入居することになりました。
▲主宰の松村シナさん。朗らかな人柄と確かな撮影技術で、教室も盛況

教室を始めたきっかけについて、松村さんは「私はおしゃべりが苦手なので、デザインや写真などの制作で思いを伝えたい。その楽しさを、たくさんの人と共有したいですね」と言います。
▲仲間と楽しく撮影する居心地のよい時間

取材中もぞくぞくと生徒さんが来場し、和気あいあいとした空気に包まれていた松村さんの教室。カメラやデザインに興味のある人は受講してみては。単発の講座も不定期で開講しているので、詳細は「まいまい京都」のホームページをご確認ください。

かわいい和雑貨店「織家まりきこ」

「カメラとデザインの教室torico.camera」の隣。毎月第3土・日曜にオープンしている「織家まりきこ」は、のこぎりのようなギザギザの自爪を使って布を織る「爪掻本綴織(つめかきほんつづれおり)」、通称「つづれ織り」の職人・石川真理さんと岡本真紀子さんによるお店です。こちらの長屋は、曜日によって入居する作家さんが入れ替わります。
▲2008年10月から入居。「あじき路地」の店子の中では古株

店名の由来は、お二人の名前「まり」「まきこ」から。つづれ織りの技法を使った手作りの作品を販売しています。
▲石川さん(左)と、岡本さん

つづれ織りの鼻緒が美しい草履や帯のほか、バッグ、ポーチにティッシュケースといった日用品も充実。小物なら700円程度の価格から手に入ります。
▲手作りのため、同じ柄でも微妙に変化があり、見ているだけでも楽しくなる
▲ウールも織り込んだユニークな「Fish帯留」(2,315円・税別)

爪にひっかかる太さの絹糸を準備するところから作業が始まるつづれ織りは、修得するのに時間がかかる技法。手間暇をかけて織り上げられた芸術性の高い織物は、高級品として知られています。技術者の高齢化が進んでいましたが、最近では二人のように織り手になる若い世代が少しずつ増えてきているのだそう。
▲真理さんのギザギザの爪先。ここに絹糸をひっかけて織る

「ベテランの職人さんが作る伝統的な作品とはまた違った、色や素材の新しい組み合わせも意識して作っています」と話す真理さん。斬新な色合いや作品の一部にウールを使うなど、若い感性が活かされた作品は伝統技術を身近に感じさせてくれます。
職人さんと直に交流できる機会は貴重なだけに「つづれ織りってどんな織り方なんですか?」などと話を聞きにいくだけでも、楽しいひとときを過ごせそうですね。

リーズナブルに“オーダーもの”が手に入る帽子店「evo-see」

洋裁経験のある加藤憲司さんが「自分の頭に合う帽子が欲しい」と始めた帽子店「evo-see(エボシ)」。2009年5月に入居後、毎週土・日曜にオープンしています(土・日曜以外は要予約)。
▲「織家まりきこ」のはす向かいにあるお店。黒のハットの看板が目印

こちらの帽子は、フルオーダー(3万円~)とセミオーダー(1万5,000円~3万円)の2メニュー。店内にはサンプルが飾られています。
▲おすすめはセミオーダーの「リボンベレー」(15,000円・税別)※サイズ変更はもちろん、表・裏の生地も選べる
▲ユニセックスなので、カップルで訪れても楽しい

セミオーダーの場合は好みのサンプルを選び、生地をオーダー。フルオーダーの場合は自分の頭のサイズに合った型を起こしてもらえます。どちらも完成まで約4カ月(オーダーの混み具合などで製作期間に変動あり)。スケッチや写真などをもとに、希望の帽子を作ってもらうことも可能です。
▲両メニューともに100種類以上もの生地から好みを選ぶことができる。迷って決められない時は加藤さんにアドバイスをもらおう

加藤さんは、かぶった時に最も美しいフォルムになるよう、パターンに一番力を入れているのだそう。とは言え、紙からパターンを起こしただけでは不十分。実際にかぶってみるとつばが引っ張られて形が崩れてしまうこともあるため、立体裁断によるシルエット作りにもこだわっています。細部までこだわり抜かれた帽子は、年齢問わずかぶりやすい形なので、一度試してみては?
▲穏やかで優しい雰囲気の加藤憲司さん

フルオーダーもOK、丁寧な手仕事が映える革小物「MATSUSHIMA leather handmade」

最後に訪れたのは、「evo-see」の3軒奥にあたる「MATSUSHIMA leather handmade」。手先が器用で革製品が好きだった店主の松島健二さんは、異業種の会社員をしながら休日にレザークラフトをスタート。独学で技術を身につけ、2015年に脱サラ。ネット販売やクラフト市などで実力をつけ、2017年10月にこの店をオープンさせました。
▲時計ベルト、財布などの小物から鞄まで様々なアイテムが揃う

店頭に並ぶアイテムは、革と糸を無料で自由に選べるセミオーダー商品。仕様変更などの細かな注文にも親身になって対応してくれます。またフルオーダーにも対応可能(応相談)。
▲「スマホケース」は9,000円(税別)~

松島さんのこだわりは「国内外の上質な素材と手縫い」。スーパーブランド御用達のドイツの「ぺリンガー社」や、イタリアの「バタラッシカルロ社」、日本の「栃木レザー社」などの名門タンナーから革を仕入れ、ミシン縫いよりも丈夫で美しい手縫いのステッチで仕立てます。
▲定番のダークトーンから目をひくビビッドトーンまで好みの色・質感を選べる
▲一針ずつ丁寧に縫っていく松島さん

革の切断面(コバ)までしっかり磨き上げるなど、細部まで一切の妥協を許さない丁寧な手仕事ぶりは、感動すら覚えるほど。
一生物のオリジナル革製品と出合える数少ないお店です。
この他にも切り絵工房やマスキングテープの紙雑貨店など、様々なアトリエに出合えます。時には入居者が入れ替わることもあるため、最新情報は「あじき路地」のホームページで確認を。

この場所を拠点に芸術活動に精を出し、旅立っていった“子供たち”は、これまでに約30人。今後も「世界で活躍できるような作家がこの場所で育ってほしい」と安食さんは話します。2019年6月からはベルリンスタイルで提供する、こだわりのアイスクリームのお店も決まり、ますます賑やかになりそうな「あじき路地」。定番の京都観光に飽きた人や、こだわりのお土産を探している人は一度足を運んでみませんか。ただし一般の入居者も生活しているエリアのため、十分な配慮をお忘れなく。
中河桃子

中河桃子

編集・ライター、京都出身滋賀育ち。大学在学中に京都でライター業を開始。以後、関西・東京の出版社や制作会社で、グルメ・エンタメ・街情報を中心に18年以上携わる。新しいもの・おいしいもの・興味のあることは自分で体感しないと気が済まない現場主義。今は酒蔵巡り・和菓子作り・美術鑑賞・旅にハマり中。

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