本家尾張屋 創業約550年、京都で進化を続ける老舗のそばを味わう

2018.11.01 更新

創業はなんと応仁の乱が始まる2年前という「本家 尾張屋」。京都の町で長きに渡り愛され続けるそばや、そば粉を使ったお菓子をご紹介。ここでしか味わえない老舗の味を堪能してきました!

京都市営地下鉄・烏丸御池(からすまおいけ)駅から歩くこと約5分。「本家 尾張屋(以下、尾張屋)」は、二条城や京都御所からもほど近い場所にあります。

創業は寛政5(1465)年。応仁の乱が始まった応仁元(1467)年の2年前という、京都でも指折りの老舗です。元は尾張国(おわりのくに ※現在の愛知県辺り)で菓子店を営んでいましたが、古い文献によると「やんごとなき方に請われて」京都に移って来たのだそう。それから約550年に渡り、京都の地で老舗の味を守り続けています。

店の佇まいに積み重ねた時を感じる

▲風格を感じるお店の外観。歴史が刻まれた看板が存在感を放っている
表に掲げられた看板には「そばもち」の文字。江戸時代末期から明治時代にかけて、十三代目当主が考案したと言われる、尾張屋を代表する銘菓が「蕎麦餅(そばもち)」です。餅と言いますが、そば粉や小麦粉を使用した薄皮にこしあんを包んだいわゆる「蕎麦饅頭」。
当時は丸いお菓子のことを総じて「もち」と呼んでいたので、その名残が今も残っているのです。現在もこの蕎麦餅はお茶請けなどに重宝され、京都の町の人々に愛されています。
▲年季を感じる看板。蕎麦と饂飩(うどん)の文字が印象的

現在の本店の店舗は、明治の初め頃に作られた木造の京町家。1階が茶室と椅子席、2階が椅子席と座敷席になっています。
▲2階の椅子席にある囲炉裏が風情を醸し出している

おそばの注文をすませ、京都の歴史を感じさせる居心地よい店内で待つことしばし。「おまたせしました」の声が。いよいよお待ちかねの実食タイム、尾張屋の名物そばの数々をご紹介して行きましょう!

水、ダシ、そば粉…すべてにこだわった「食べ飽きしない」老舗の味

尾張屋を代表する名物といえば、写真の「宝来蕎麦(ほうらいそば)」(税込2,160円)。
金箔職人が部屋に飛び散った金箔を集める際にそば粉を使ったことから、そばは古来より“宝を集める縁起物”とされてきました。

このおめでたい食べ物をたくさんの人に食べてもらおうということで、十四代目当主が考案したのがこの「宝来蕎麦」なのです。
五段に重ねられた「わりご」という漆器に盛り付けられたそばに、小海老天、錦糸卵、甘辛く煮つけられた椎茸などの具を、一段ごとに好みの具を乗せて味わうことができます。
「寶(たから)」の文字が記された漆器の蓋を開けると、中から瑞々しいツヤを放つ麗しきそばの姿が。
こちらのそばは、北海道の北部、音威子府(おといねっぷ)の契約農家で育てたそば粉と、地下50mの井戸からくみ上げる京都の地下水を使って打たれています。

何もつけずにまずは一口。
ひんやりツルっとした口当たりのそばをひと噛み、ふた噛みすれば、ふわっと良い香りが鼻をくすぐります。強すぎず弱すぎず、ちょうどいいくらいの歯ごたえで、ほんのり甘みも感じました。もう一口、もう一口と味を確かめたくなる深い味わいに、老舗のこだわりを感じます。
続いては具材をのせていただきます。とりあえず、全部のせてみました!カラフルでなんだかテンションが上がりますね。
こちらも「寶」の文字が記された徳利から、冷たいそばつゆを注ぎいれます。

お!なんともいい香りが漂います。聞くと、こちらのそばつゆ、ダシは利尻昆布に宗太鰹(そうだがつお)、うるめ節、鯖節を使用し、時間をかけて丁寧にとっているのだそう。そばと一緒に口に含めば、重層的なダシのうま味が、そばの味わいと絶妙に調和しています。

続いて、大根おろしやわさび、ノリやゴマなどを混ぜて一口。それぞれの薬味が香りや味を引き立ててくれます。小海老や椎茸は具そのものにしっかり味があります。
そばそのもの、そばつゆ、薬味、具とさまざまに組み合わせて好みの味が作れるので、飽きが来ずなんとも楽しい気分で味わえるそばでした。
続いては「利休蕎麦」(税込1,188円)。温かいスープの上に、生麩、湯葉、利休麩(りきゅうふ※ゴマ油で揚げた麩)がのったなんとも風流なそばです。京都らしいわびさびを感じますね。
それではさっそく一口。さきほど頂いた冷たい宝来蕎麦よりはやわらかい歯ざわりですが、きちんとコシが残っています。温かいスープもしっかりとダシが効いていて、そばの味わいを引き立てます。
具材の湯葉や麩もダシを吸って上品な味わい。利休麩は噛みしめるとごま油の香りがふわっと漂い、そば全体によいアクセントを加えています。
最後は「蕎麦寿司」(税込1,080円)を頂きました。茹でたそばを酢飯に見立て、味付け椎茸や三つ葉、卵焼きなどを巻いた一品。
こちらは醤油ではなく、そばつゆをつけていただきます。弾力のあるそばとよく味つけされた具に、しっとりした海苔の味が絡みあいます。酢飯よりも軽い食感でさっぱりしているので、何個でもつまんでしまいそうです。

いずれのそばも素材の良さが随所に感じられ、シンプルで何度も食べたくなるものばかり。世代を超えて愛される老舗の味を身に染みて感じることができました。
今回の取材時におそばを頂いたのは、1階の入り口付近にあるこちらの素敵なお茶室。そば屋さんになぜ茶室?ということで、お話を伺ったところ、京都とそばにまつわる深いお話を聞くことができました。

13世紀ごろに円爾(えんじ)という僧によって、大陸より製麺の技術が持ち帰られました。その後、主に寺院で作られていたそばですが、「練る・伸ばす・切る」などの技術を持っていた菓子屋に依頼する寺院が増え、菓子屋とそばの縁ができたと言われています。
▲茶室の入り口にも禅語の看板が掲げられている

尾張屋のそばと寺院の縁は、江戸時代ごろに出来たそうです。特に相国寺や建仁寺、妙心寺など禅宗の寺院との関係が深く、行事の折には「点心※」として尾張屋のそばが振舞われていました。江戸では庶民の味として親しまれたそばも、京都では寺院の食文化として根づいていたんですね。そんな関係もあって、店には禅とかかわりが深い茶室が作られているんだそうです。

※禅語で食事の間にとる少量の食物のこと
▲茶室の中からは坪庭を望むことができる。緑の木漏れ日がなんとも心地よい

老舗の暖簾を守りながら進化を続ける十六代目のチャレンジ

「寶」の文字が記された暖簾の前でインタビューに応じてくれたのは、十六代目の当主を務める稲岡亜里子さん。
「受け継がれてきたものの、良いところは残しつつ、新しいことにもどんどんチャレンジしていきたいですね」と語ってくれた稲岡さんですが、実はNYで10年間もフォトグラファーとして活躍していたというから驚きです。2009年に京都に戻るまで、世界各地を旅しながら数々の作品を撮ってきたそうです。
▲パッケージデザインを一新したお土産用の蕎麦(税別400円~)や蕎麦つゆ(税別550円~)。女性らしい優しいイメージと老舗の格が表現された素敵なデザイン

京都に戻ってからは十四代目の祖父、十五代目の父と共に店の経営に携わり、伝統の味と大切な志を受け継ぎました。そんな稲岡さんが当主を継いだのは2014年のこと。「最初はわからないことだらけで大変でしたけど、最近は少しずつ面白さがわかってきた」と稲岡さん。培ってきた「表現する」という感性を生かし、現在は商品パッケージや販促物のデザイン、新商品のプロデュースなども積極的に行っているそうです
▲左から「蕎麦餅」(5個入550円)、「蕎麦板」(小箱6袋入400円)、「蕎麦ぼうる」(100g500円)※いずれも税別

「今、尾張屋といえばそばのイメージが強いですが、これからはお菓子づくりも大事にしていきたい」と稲岡さん。

写真の蕎麦餅は、先に少し触れましたがそば粉を使った生地でこしあんを包んだ蕎麦饅頭。香ばしく焼かれた生地と甘さひかえめなこしあんがマッチしています。
蕎麦板は、そば屋ならではの技を生かし、一枚に薄く伸ばした生地を一文字釜でカリっと焼いた一品。そば粉とゴマの香りがたまりません。
蕎麦ぼうるは、泡立てた卵に砂糖、小麦粉、そば粉を加えて焼いた西洋由来のお菓子。サクっとした軽い食感と上品で素朴な味わいが特徴の、京都を代表するお土産です。

現在、これらの伝統のお菓子に加え新たなお菓子作りをプロデュースしているそう。老舗が放つ新しい味がいったいどんなモノになるのか、今から楽しみですね。
長い歴史の中で、変えること変えないこと、守ること挑むことをしなやかに選びとり、たどり着いた今。温故知新の積み重ねが生み出した、ここにしかない老舗の味。京都を訪れたら、ぜひ味わってみてください。
妙加谷 修久

妙加谷 修久

京都市在住の旅行系ライター兼ディレクター。全国各地に足を運び、旨いモノを食べ、温泉に浸かる日々。ここ京都を中心に、知っているようで知らない「日本のイイトコロ」を紹介します。日本酒好きが高じて利き酒師の資格を取得しました。

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