【京都・先斗町】「京料理 たん熊北店」主人直伝。 日本人の数%しか知らない作法とは?本物の茶懐石体験

2018.11.14 更新

文化の秋、食欲の秋。今回「京料理 たん熊北店」にて、一般的にマスターするためには稽古をはじめてから10年以上はかかるといわれている、茶懐石のマナーや立ち居振る舞いを体験してきました。知的好奇心をくすぐる、「KYOTO365」の特別プランをご紹介します。

「KYOTO365」とは食文化を通した体験を訴求する「京都料理芽生(めばえ)会」とぐるなびの“本物の京都体験”をコンセプトに発信するプロジェクト。今回ご紹介する特別プランは、あらためて食文化を学ぶ&味わう機会を提供する、持続的な取り組みのひとつです。

知らないことを知る愉しみ。京料理の名店で茶懐石を体験する

和食をいただくときに「かいせき」という言葉をよく耳にすると思います。ご存知のかたも多いでしょうが「かいせき」には「会席」と「懐石」の2種類があり、読み方は同じですが内容が少し違います。
「会席」は武士や貴族が、宴会でお客様をもてなすために出した、本膳料理がルーツ。わかりやすいのは結婚式や祝賀会などで出される料理です。お酒を嗜んでもらうための食事のため、前半に満腹になってしまわないよう、飯と汁はコースの最後に提供されます。
一方、「懐石」は茶道から生まれた料理。もともとは茶事の際、メインであるお茶をおいしくいただくための料理であったことから、飯と汁が最初に振舞われました。その後、食事の合間で酒をたのしむのが基本のスタイルです。
ホテルや日本料理店で食事を楽しむための懐石料理には、そこまで厳しい作法やルールはありません。 とはいえ、和食のマナーにも深く関わっているため、最低限の知識は持っていたいところ。
今回の特別プランの舞台、京都・四条にある「京料理 たん熊北店」で教えてもらうのは、本来の形である懐石料理。現代では「茶懐石」とも呼ばれているものです。流派によって多少の違いはありますが、本プランでは三代目主人の栗栖正博(くりすまさひろ)さんによる、裏千家流の茶懐石が体験できます。
栗栖さんは、茶道はもちろん、茶事の世界に精通しており、著書である『たん熊の茶懐石―風趣あふれる京料理から』(淡交社)を出版するほど。

「茶懐石は本当に奥が深いんですよ。四季折々の旬の材料だけで献立を作り、季節感を盛り上げると同時に、材料の持つ色、形、香り、味を重んじて、これを素直に生かす。 そして、切れ端まで決して粗末に扱わない謙虚な心を持ち続ける態度、季節の寒暖にかかわらず、温かい料理はあくまでも温かく、冷たいものはそれを盛る器まで十分に冷たくして供する、こうした心がまえや心くばりが大事なんです」(栗栖さん)。
茶懐石が体験できるのは風情あふれるカウンター席。「京料理 たん熊北店」はカウンター割烹の先駆けとして知られています。創業は昭和3(1928)年。2018年で90周年を迎えました。
「たん熊北店」の屋号は、創業者・栗栖熊三郎の「熊」と彼が修行した老舗「たん栄」の「たん」にちなんでつけられたもの。
宮中の有職(ゆうそく)料理、寺院における精進料理、茶道における懐石料理が渾然となった京料理の店として、谷崎潤一郎や吉井勇といった文人墨客たちに愛されてきた名店です。
▲壁一面には贔屓の店や芸子うちわがずらり。京料理の老舗として愛されている様子がうかがえます

茶懐石では、もてなす側を亭主と呼びます。客側は正客、次客、三客と位の高い順に奥から座ります。栗栖さんが亭主役となって茶懐石がスタートしました。
ライブ感たっぷりなのも、カウンター席の醍醐味。「従来の茶事では、お客に支度の様子はお見せしないのですが、食文化を学ぶという意味であえてお見せしています。一連の流れもわかりますし、お客さまも楽しいでしょう?」と栗栖さん。
まず客人(私)は、カウンターから向付け・汁・ご飯が配された折敷(おしき/足のない膳)を受け取ります。
向付けとは膳やテーブルに食器を並べた際に、食べる人から見て向こう側(奥)に置かれる料理のこと。内容は決まっていませんが、小さなお造りや、酢の物、和え物などが盛られていることが多いそうです。言葉は知っていても、きちんと意味まで言えないことが多い日本料理。序盤から勉強になることばかりです。
次に椀の蓋の取り方をレクチャー。なんと、両手で一度に開けるのだそう!
栗栖さんに教えてもらいながら蓋を持ち上げ…
写真のように2つの蓋を重ね合わせます。
「こうすることで蓋についた水滴がテーブルに落ちない。茶懐石は客側の気遣いも必要です。だから作法やマナーは知っておかないといけないんですよ」。
この日の向付けは鯛のお刺身。箸をつけようとしたら、栗栖さんからストップがかかりました。

「ご飯と汁は、さっき炊けたばかりの白飯、味噌仕立ての煮えばな汁(汁物や煮物などが煮えた直後)なんです。これが、一番おいしい状態のものをお出しするという、茶懐石の心遣いのひとつ。客側もそれに従って、おいしくいただくのが作法です」。
たしかに、炊き立てのぴかぴかしたお米は、ほんのり香りと甘さを感じる贅沢なおいしさ。白味噌の汁はめでたいときに出すもの。具材は季節に合わせて野菜類や麩、湯葉、豆腐、海草などを用いるのだそう。

「ここで亭主はお酒をすすめます。全部飲まなくてもよいので口をつけてください」と、酒器を持った栗栖さんが再登場。
▲ひとくち日本酒をいただき、盃を向付けの右隣へ

「お待たせしました。それではどうぞ向付けをお召し上がりください」と笑顔の栗栖さん。日本料理だというのに、まるで外国の料理をいただいているような気分です。
向付けをいただいていると、亭主よりご飯と汁のお代りをたずねられました。「お給仕いたしましょうか」との声がけに対して、私は「こちらでいたしますのでどうぞお任せを」と答えます。
客側は亭主のおもてなしに甘えるのではなく、亭主の負担を少しでも減らし、自分たちでできることは自分たちで行うというのが作法であり、マナーなのだそう。
次に椀物が振舞われました。先にでた汁が味噌仕立てだったので、煮物椀はすまし仕立てです。具材は松茸と菊華のえびしんじょう。蓋を開けた瞬間、秋の香りが広がります。
すまし汁は、すい口を添えながら飲むのが美しい作法。すい口とは汁物に香りを添えるために少量浮かべたもの。ゆずの皮、しょうが、木の芽など季節によって変わります。
体験中は、はじめて耳にする言葉や作法が多いので、メモを取ってもOKとのこと。普段の食事なら食べることに集中してしまいそうですが、せっかくの文化体験なので積極的に学べます。

煮物椀のあとは、焼きもの、強肴(しいざかな)、箸洗・八寸と続く。一服いただく前に、「盃事(さかずきごと)」といった、亭主と客の粋なお遊びも挟みます。

料理や動作ひとつをとっても、すべて意味があり、理にかなっていて驚かされることばかり。すべてをリポートしてしまうと、ネタばらしになってしまうので、後半はぜひご自身で体験してみてください。
といいつつも、最後に私が一番驚いた作法をご紹介。それは一度使ったお皿を、別の料理の取り皿として再利用するということ。栗栖さんより手渡された「懐紙」を使って、自分でお皿をきれいにするのです。
懐紙とは懐に入れて携帯するための小ぶりで二つ折にした和紙のこと。平安貴族から現代一般人にいたるまでメモ用紙、ハンカチ、ちり紙、便箋などの様々な用途で使われてきました。本来は客側本人が用意するものですが、体験ではお店で用意してくれます。
少しでも亭主の負担を減らす客人側の心遣いは、やはり知識がないとできることではありません。体験のなかでのひとつひとつの所作に気品があふれ、背筋が少しずつ引き締まっていく気がしました。

作るのも文化、食べるのも文化。体験することでそれが伝われば

体験後、栗栖さんに今回の茶懐石体験についての話をお伺いしました。
「茶懐石のマナーを完璧にマスターしている方は、日本でも数%しかいないかもしれません。また亭主になるのは、茶道をしていても何十年もかかる難しいことなんです。なので、参加する機会があるとしたら客側なんですよね。ちゃんとした“いただき側”になってほしいという想いから、一連の流れがおいしく学べるプランをつくりました」。
インターネットが普及し、スマートフォンで何でも調べられるようになった現代では、“知らないこと”が減ってきたように思います。でもそれと同時に“体験したことのあるもの”も減っています。知らないことを体験し、身体で覚える楽しさ。それらをひとつひとつ栗栖さんが教えてくれ、はじめてだらけの学びはとても貴重な時間に感じられました。
百聞は一見にしかず。一生ものの作法を学びにぜひ「京料理 たん熊北店」に足を運んでみてください。
岡久加苗

岡久加苗

「KYOTO365」コンテンツ編集長。出版社で10年間編集者として勤務し、退職後はぐるなびのWEB媒体へ。現在は「KYOTO365」の編集長として京都の食と文化、ガイドブックには載っていないとっておきの場所や、地元の人でさえ知らなかった食体験など、京都の魅力に深く触れることのできる機会を企画・提案しています。

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