【京都】老舗料亭「六盛」で平安時代にタイムスリップ。王朝料理で貴族気分を味わう京都旅

2018.11.29 更新

京都・岡崎にある平安神宮のほど近く。閑静な住宅街の一角にたたずむ「六盛(ろくせい)」は、明治32(1899)年に創業した大饗(だいきょう)料理を現代に伝える老舗料亭です。大饗とは朝廷や武家の宴会で食された儀式料理のこと。今回はそんな大饗の一種である創作平安王朝料理がいただける「KYOTO365」の特別プランをご紹介します。

「KYOTO365」とは食文化を通した体験を訴求する「京都料理芽生(めばえ)会」とぐるなびによる“本物の京都体験”をコンセプトに発信するプロジェクト。今回ご紹介する特別プランはあらためて食文化を学ぶ&味わう機会を提供する、持続的な取り組みのひとつです。

京料理とは何か。その問いをひも解く「平安王朝料理」

京都バスで東山二条・岡崎公園口を降りて徒歩約3分。琵琶湖疏水がのぞく緑豊かなロケーションに「六盛」はあります。京都駅から電車で約30分、河原町駅から徒歩約30分の立地だというのに、観光客の数がぐっと減り落ち着いた雰囲気が広がります。
▲店の目の前を流れる琵琶湖疏水。秋は山々が色づき、紅葉が楽しめます
▲春は満開の桜が。十石船(じっこくぶね)での遊覧船観光も人気
「六盛」に到着すると、まずはウェイティングスペースに案内されました。丹波産の黒豆茶をいただきながら待っていると、手渡されたのは2枚の資料。
こちらの資料は「六盛」の三代目当主である堀場弘之さんが「平安王朝料理」を研究し、まとめたもの。
「平安王朝料理と言われても、想像もつかない方がほとんどだと思いますので、基本的な内容をまとめた資料を最初にお渡ししています。どんな背景でどんな料理が出てくるのかを、知識としてお持ち帰りくだされば」と堀場さん。
堀場さんが平安時代の食文化を研究し始めたのは、あるお客さんから「京料理とは何ですか?」と質問されたことがきっかけだったのだそう。

「そのときに、自分でも京料理についてうまく説明ができないことに気がついたのです。成り立ちには諸説ありますが、いろいろ調べていくうちにルーツは、平安王朝時代にあるのではないかと私は考えました。国会図書館までいって、古い資料や文献などを調べてみたのですが、類聚雑要抄(るいじゅうぞうようしょう)に古画がわずかに残るだけで、平安王朝料理の実物がどのようなものかの具体的なイメージはできなかったんですね。お客様の素朴な質問にちゃんと答えられないのは、料理に携わる者としてどうかなあと思いまして、これは自分なりに答えを探してみようと一念奮起したのがきっかけです」(堀場さん)。
▲ここから王朝のひとときが始まっていきます

今回の特別プランは、そんな平安王朝料理を現代の人にもあうようアレンジした“創作”平安王朝料理が楽しめる、貴重な食文化体験です。
ウェイティングスペースから案内されたのは新館の2階。エレベーターを降りた瞬間、その薄暗さに驚きました。
「ここは1200年前の明かりを再現しており、昼間は自然光の明るさも感じますが、日が落ちると蝋燭のない時代の“夜”の雰囲気が体感できるんですよ」と仲居さん。
▲昼間でもこの雰囲気。電気のない時代に昔の人々がどんな生活をしていたのか興味がわいてきます

本プランは昼と夜、どちらもお好みの時間で体験できるので、より平安時代の雰囲気を楽しみたいのなら、夜の参加がおすすめです。
アプローチを抜けると小上がりがある個室へ。「ようこそおこしやす」と仲居さんがお出迎えしてくれました。
明かりが消えて行灯がともる部屋へ。几帳や床の間の檜扇(ひおうぎ)、香をほのかに薫らせた空間は仄暗く、まさに谷崎潤一郎の著書『陰翳礼讃(いんえいらいさん)』の世界。

席に着いて、まず目に付いたのが銀色に光る箸。当時を再現するために、純銀製で揃えられています。こちら、手にとってみると想像以上にずっしりとした重さが。
▲途中から使えるよう、木の箸も用意してくれているのでご安心を

「創作平安王朝料理」とは一体どんなもの?十進すべてをご紹介

「六盛」の創作平安王朝料理は一進から十進までのコース仕立てで構成されています。一進は健康と長寿を願って名付けられた「祝菜(ほがいな)」という前菜。本来は、入室したときにすでに台盤の上にしつらえられているものです。
中央に円筒状に高く盛り付けられているのが「御物(おもの)」と呼ばれる白い飯。お茶碗約3杯分の量があるのですが、食べ残しても良いしきたりになっています。
その周囲に並べられているのが「おまわり」で、数が多いほどご馳走であったため「かずもの」から「おかず」という言葉がうまれたといわれています。
▲調味料はつけていただくのではなく、匙(さじ)でかけるのが正しい作法。ここから調味料を使う際の「さじかげん」という言葉がうまれました

「おまわり」は中央の白米とともに、4種の調味料「酢、酒、塩、醤(ひしお)」を使ってお好みでいただきます。醤は醤油の原型のようなもの。おまわりの素材となる魚介や鶏肉などの食材は、保存のために塩漬けや乾燥されているものが多かったようです。
一進をいただいていると、黄金に輝く銚子を手にした仲居さんが入室してきました。漆の盃に注いでいただいたのは「にごり酒」という食前酒。謹んでいただきます。
▲部屋の雰囲気もあいまって、だんだん平安王朝時代の貴族の気分に
銚子は儀式用の「長柄銚子(ながえのちょうし)」。長い柄と両口に注ぎ口がついた金属製の酒器です。雛人形の三人官女の一人が持っているものが一番イメージに近いです。

お酒も入り、少し緊張がほぐれてきたところで堀場さんの登場です。昭和22(1947)年生まれの堀場さん。大学卒業後、東京築地の某料亭にて修業し、24歳になってから家業に入られました。
「平成6(1994)年に開催された『平安建都一二〇〇年祭』での発表を機に、創作平安王朝料理を始めました。1200年前の都人の食文化を体感してもらうために、器やしつらえも当時に近い物にしています。テーブルにあたる春日卓、お座布団にあたるおしとねは、京都の神具を扱っておられる『井筒』の当時の社長、 故・井筒雅風先生にお願いしました。『井筒』は天皇陛下の御倉(みくら/ 官司や社寺の貴重物を納める倉)を作られている老舗です。器は塗物、錫器(すずき/金属の錫で作られた高級食器)、かわらけ(儀式や祭祀に使われていた素焼きの陶器)等をあつらえました」。

三代目の堀場さんが席にきて、熱く説明をしてくれるのもこのプランの特徴のひとつです。
▲この日の羹(あつもの)は、秋鱧と松茸の椀。旬を感じさせる香り豊かな味わいが、心の底まで染み渡ります

二進は汁物にあたる「羹」。当時の料理はあらかじめ作っておき、食膳に並べておいたので冷めているものがほとんどでしたが、唯一熱い品が汁物でした。
▲古式にのっとって錫の器に高盛りされたいかと鯛のお造り

三進の「割鮮(かっせん)」とは刺身のこと。海から遠い京の都では、生の魚を食するのは最高の贅沢でした。
▲甘鯛の塩焼き。うろこごとこんがり焼いて、温めた石の上に朴葉を乗せた器で提供されます

四進の「炙(あぶりもの)」は今でいう焼き物。平安時代の調理法は素焼きがほとんどでした。味噌をつけたり蒲焼にしたりするなどの“調理”がうまれたのは室町時代以降といわれています。
五進の「調菜(ちょうさい)」は主に野菜や乾物を使った和え物。和え物は平安時代にはまだなかった調理法ですが、堀場さんのアイデアで加えた一品です。
六進の「挙物(あげもの)」も創作で加えたもの。平安時代の揚げ物は「唐菓子(からがし)」と呼ばれた揚げ菓子だけで、揚げ物が登場するのは室町時代以降のことだそう。
七進の「窪坏物(くぼつきもの)」は酢の物。生ものは細かく切って酢で洗う程度で調理されていました。この日は昔から茶人たちに愛されてきた、水前寺海苔です。
八進「姫飯(ひめいい)」はおめでたい赤い色が好まれる赤米。赤米に蒸した甘鯛をのせて、大根のぬか漬けを添えています。
九進の「木菓子(きがし)」。平安時代の菓子といえば栗、橘、杏、桃、柿などの果物を指していました。
▲小麦粉とはちみつを練って揚げた現代風アレンジの唐菓子

十進の「唐菓子」は別名「唐果物(からくだもの)」とも呼ばれた揚げ菓子。もち米の粉や小麦粉、大豆、小豆などの素材に、砂糖の代わりだった甘葛汁(あまずら)や水あめなどを加えて練り、油で揚げていました。

京料理をひもとく平安王朝料理へ。ここでしかできない食文化体験

全部いただいた感想は、昔の貴族たちはこんなにたくさん食べていたの!とびっくりするほどの充実した内容だったということ。平安時代をそのまま再現しているわけではなく、「六盛」ならではの繊細な味わいでいただけるのも嬉しいポイント。
「せっかく京都までお食事に来られているのですから、やはり京都らしく、見た目の美しさやバリエーションのある味わいをご提供したいと思っています。“創作平安王朝料理”と名づけたのは、単に当時の味を再現するのではなく、私のオリジナルアイデアを加えているからです。出汁もしっかり引いて、味つけも工夫しているので、現代の方にも美味しく召し上がっていただけると幸いです」と堀場さん。

当時の貴族たちになりきって、生活スタイルや食文化を学んだ2時間。ここでしか体験できないプレミアムなひとときに、お腹も気持ちも大満足となりました。
少年のような堀場さんの熱い探究心に刺激され、歴史に詳しくなくても平安時代に興味をもちはじめてしまうこと必至です。

京料理をひもとく平安王朝時代へ、タイムスリップしてみませんか?

撮影:久保田狐庵
岡久加苗

岡久加苗

「KYOTO365」コンテンツ編集長。出版社で10年間編集者として勤務し、退職後はぐるなびのWEB媒体へ。現在は「KYOTO365」の編集長として京都の食と文化、ガイドブックには載っていないとっておきの場所や、地元の人でさえ知らなかった食体験など、京都の魅力に深く触れることのできる機会を企画・提案しています。

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