京都人に学ぶほんまもんの京都。伏見「魚三楼」の会席料理体験は奥が深かった!

2018.12.13 更新

京都は奥が深い。日本のなかでも、京文化として確立しているのは、伝統に培われた文化や、特有の作法やしきたりがあるからだといわれています。今回は京都・伏見にある老舗料亭の「魚三楼(うおざぶろう)」にて、9代目主人の荒木稔雄(あらきしげお)さんが、自慢の会席料理とともに京料理の真髄を解説してくれるという、スペシャルなコースを体験してきました。

こちらのコースは、京都料理界を代表する若主人が設立した「京都料理芽生(めばえ)会」と、飲食店情報メディア「ぐるなび」による“本物の京都体験”をコンセプトとした共同プロジェクト「KYOTO365」の特別プラン。あらためて食文化を学ぶ&味わう機会を提供する、「KYOTO365」の持続的な取り組みのひとつです。
荒木さんはその京都料理芽生会で、役員を務めたリーダーのひとり。昭和35(1960)年に京都・伏見に生まれ、 京料理の老舗「伊勢長」の帝国ホテル店で研鑽をつんだ後、「魚三楼」の9代目当主となりました。京都に生まれ育ち、京都を愛する生粋の京都人です。
▲打ち合わせ中の一枚。一見強面!?かと思いきや物腰やわらかな荒木さん

「せっかくなので、お客さまに私から直接お話させてもらいましょか」

今回のプラン登場の背景にはそんな荒木さんの一言があったそう。
「京都の料亭文化というのは料理だけやないんです。メニューはもちろん、個室のしつらえひとつに意味があって。季節のもととなっている、二十四節気をとりいれた空間や料理、サービスすべてでおもてなししているんです。若い人や、そういった文化を知らない人に直接お話できる機会があってもおもしろいんちゃうかなと」。
▲店に入ると仲居が小上がりから丁寧なお出迎えしてくれるのも、料亭ならではのおもてなし

料亭と一般飲食店との違いは、料亭は単に日本料理を提供するだけではなく、女将や仲居、芸妓の“おもてなし”が伴っている店ということです。
日本料理は、もともと個室での接待を基本としていますので、仲居や芸妓のもてなしを受けつつ料理を賞味してこそ、日本料理の本当の素晴らしさも体感できるともいえます。
そしてこの点は数多い料理ジャンルの中でも、料亭以外には見られない性質です。フランス料理にしても、お花や装飾などの調度品にはこだわりますが、仲居、芸妓といった方の存在や、もてなしの行為というものはありません。

技と伝統を生かして250余年。伏見の銘水を使った珠玉の京料理

明和元(1764)年に創業された「魚三楼」。代々、伏見港に揚がる魚介や京野菜、酒造りにも使われる豊かな地下水を用い、高級料理店として名を馳せてきました。
現在は9代目店主が伝統を守る一方で、現在の食材にふさわしい調理法を考えるなど、常においしさを追及しています。
旬の素材が持つ本物の味わいが楽しめる、プランの料理10品を一挙ご紹介します。
▲左から菊菜なめこ胡麻和へ、海老松の実焼き、烏賊酒盗和へ、鯛寿司、銀杏田楽

まずは一品目の八寸。彩りが鮮やかで美しく、食材ひとつひとつの旨みが引き出された味わいです。
右上にあるのは鴨のロース塩蒸とアスパラ黄身酢掛け。月に見たてた錫の皿で秋を演出しています。
お椀は鱧と松茸。和食には、食材の楽しみ方として「はしり・旬・名残り」の3つがあります。「はしり」は出始めの食材や初物を食べること、そして「名残り」はもう時季が終わる頃に、最後にもう一度楽しむこと。
伺った10月初旬は名残りの食材・鱧と旬の松茸を一緒にした、季節の食を楽しむ日本人ならではの風雅な楽しみ方でいただきました。
三品目は鯛、まぐろ、烏賊のお造り。魚料理に長けた初代が、三十石船で運ばれた瀬戸内の魚を見事に調理したことから、藩邸や大名屋敷への仕出しも任されたのだそう。その伝統を受け継ぎ、いまでも魚は瀬戸内ものが中心です。
焼肴はサーモンいくらの親子焼き。下には大根餅が隠れており、もっちりさっくりと両方の食感を楽しめるよう、軽く焦げ目がつけられています。
焚合せは穴子。里芋や油揚げ、絹さやをそえて。紅葉麩が秋らしさを感じさせます。「魚三楼」の料理は出汁のおいしさに定評がありますが、その理由のひとつが敷地内からくみ上げている地下水。伏見の水は軟水で、出汁作りに最適なのだそう。
強肴(しいざかな)は胡麻豆腐とわけぎの鉄砲和え。鉄砲和えとはからし酢味噌でネギやわけぎを和えた料理。ネギの芯が抜けるところが鉄砲に似ていることから名づけられたといわれています。
食事の最後は贅沢な松茸ごはんと赤出汁。秋の香りを身にまとった松茸がごはんの旨みに程よく混ざるよう、ふっくらと絶妙の柔らかさに炊かれています。
水物は旬のフルーツ盛り合せとカカオプリン。一見洋風に見えるプリンですが、生地に小豆が練り込まれておりほんのり和のエッセンスが。カカオ豆をくだいてフレーク状にしたカカオニブがまぶされており、おいしいだけでなく美容や栄養にもよい一品です。

京都人の魅力。奥ゆかしさやシャレの利いた会話に京文化が垣間見える

今回のプランは、タイミングを見計らって荒木さんが入室し、裏話をまじえながら季節のお料理を楽しんでもらうというもの。
「知的好奇心を隠してあるのが“わび・さび”です。食材や器、部屋のしつらえで季節を表現します。その場所で食事をすることで秋を感じてもらう。直球ではない、奥ゆかしさが京都人は好きなんです。そのヒントがどこに隠れているか、話のネタとしてお話させてもらえれば」。
例えば10月19日の壁の掛け軸について。徳力富吉郎(とくりきとみきちろう)の「穐(あき)」という作品です。

「昔の人は娯楽が少なかったので、ことば遊びを大切にしていたようです。特に芸術の世界ではシャレは奥ゆかしい強みが多いですね。例えばこの掛け軸にはどんな意味が込められているとおもいますか?狐の神様で知られているお稲荷さまは”稲がなる”から”いなり”と呼ばれるようになったとされています。稲に入る狐で稲の大入り。この掛け軸は五穀豊穣の願いが込められているんですよ」。
世間が持つ京都人のイメージについて、荒木さんは以下のように語ってくれました。
「有名な『お茶漬け』の話(京都人の“お茶漬けは、いかがどすか?”は、“そろそろ帰ってくださいな”という隠語だという一説)などで京都人はいけずや、腹黒いと思われるかもしれませんが、そうではないんです。ことば遊びでありユーモアなのです。当人同士は決して傷つけるつもりのないシャレで通じているのです。それを他の人が言葉をそのまま受けて腹を立ててはるんですよね。普段は派手を好まず、わび・さびを大事にしている京都人の気質を知って京都を楽しむと、また違った一面が見えてきますよ」。

歴史好きには垂涎モノ!? 鳥羽伏見の戦いの証言者

また、同店は「鳥羽伏見の戦い」の弾痕が残る場所としても有名です。慶応4(1868)年1月に始まった鳥羽伏見の戦いは、その名のとおり京都市の鳥羽と伏見を舞台とした新政府軍と旧幕府軍の戦いです。
現在の京阪電車伏見桃山駅と近鉄電車桃山御陵前駅の近くでは、北に新政府軍の薩摩藩、南に旧幕府軍の会津藩と新撰組が陣取り、激しくぶつかり合いました。なんとその時の150年前の弾痕が、同店の入り口にあるのです。
▲「弾痕を撮影しに来る人が増え、いつのまにか観光名所になってるんですよ」と荒木さん

荒木さんの曾祖父は実際に鳥羽伏見の戦いを体験しており、よくそのときの話を聞かせてくれていたのだそう。幕末や歴史に興味がある人は、貴重な歴史の証言者のご子孫にいろいろと質問ができる大チャンスです。
▲趣味は旅行だという荒木さん。乗り物に乗っている時間が好きなのだとか

今回ご紹介したプランは荒木さんが直接お座敷にあがるため、開催は金・日・月曜の週3日のみ。金と月曜は11時30分から14時まで、日曜は17時から19時30分までの開始時間が選べます。
日常では味わいがたい上質なお料理と、京文化が堪能できる「魚三楼」。世界に誇る日本の食文化が凝縮された空間は、いわば“食と伝統のテーマパーク”でした。
荒木流、京の料亭の楽しみ方を、この機会にぜひ体感してみてください。

撮影:久保田狐庵
岡久加苗

岡久加苗

「KYOTO365」コンテンツ編集長。出版社で10年間編集者として勤務し、退職後はぐるなびのWEB媒体へ。現在は「KYOTO365」の編集長として京都の食と文化、ガイドブックには載っていないとっておきの場所や、地元の人でさえ知らなかった食体験など、京都の魅力に深く触れることのできる機会を企画・提案しています。

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