横浜美術館は2019年で開館30周年!7つの展示室や蔵書約11万冊の美術情報センターなどの全貌を紹介

2019.05.21 更新

横浜の再開発地区「みなとみらい21」で1989(平成元)年3月に横浜博覧会が行なわれた。パビリオンのひとつとして開館し、同年11月に正式に美術館として開館したのが「横浜美術館」である。丹下健三氏設計のシンメトリーな建物の中には、7つの展示室のほか、美術情報センター、アトリエ、カフェ、ミュージアムショップが配置されている。令和の始まった今年(2019年)はちょうど開館30周年にあたる。それを記念して巨大美術館の全貌をご紹介したい。

国内最大級の総合美術館!

みなとみらい線のみなとみらい駅を出て、商業施設の「MARK IS(マークイズ)みなとみらい」を通り抜けると、ドーンと神殿のような建物が目に飛び込んでくる。爽快な芝生の前庭を通り抜けて館内に入った。
▲「横浜美術館」の入口。観覧料は、企画展は展覧会によって異なり、コレクション展は一般500円(税込)

エントランスホールは吹き抜けになっていて、開放感にあふれている。ここは「グランドギャラリー」と呼ばれ、左右の階段状のスペースには、現在はイサム・ノグチやコンスタンティン・ブランクーシの立体作品が展示されている。
▲吹き抜けのグランドギャラリー

横浜美術館の延床面積は26,829平方メートル、所蔵品は約12,000点。床面積では日本最大とされる「国立新美術館」(延床面積49,834平方メートル、所蔵品なし)にはおよばないが、「国立西洋美術館」(延床面積17,369平方メートル、所蔵品約6,000点)をしのぐ規模といえる。

1859(安政6)年の横浜開港以降の美術、いわゆる近・現代美術を中心にコレクションしていて、ジャンルは絵画、彫刻、版画、写真・映像、工芸などバラエティに富む。
▲階段状の展示スペース

展示室へはエスカレーターで上っていく。グランドギャラリーの右側に3室、左側に4室ある。いつもは右側の3室で企画展が行なわれ、左側の4室でコレクション展(館の所蔵作品からセレクトして展示)が行なわれる。取材当日は開館30周年記念の「Meet the Collection ―アートと人と、美術館」の会期中で、この展覧会では全7室で展示が行なわれていた。

ピカソもマグリットもキャパも!

30周年の2019年度は「美術でつなぐ人とみらい」をテーマに美術館の活動が行なわれる。その記念展の第一弾がこの「Meet the Collection」展である。
束芋(たばいも)、淺井裕介(あさいゆうすけ)、今津景(いまづけい)、菅木志雄(すがきしお)という4人の現代アーティストの作品と所蔵作品を並べることで、作品と作品の出会い(Meet)の場をつくりだすという趣向となっている(今回の企画展の観覧料は一般1,100円・税込)。

会期は6月23日(日)までと限られているが、内容をざっと紹介したい。なぜなら4人の作品以外は横浜美術館の所蔵品であり、今後のコレクション展で見られるチャンスも多いからだ(コレクション展は年2、3回展示替えされる)。
▲展示室1。「こころをうつす」をテーマに、束芋の映像インスタレーション「あいたいせいじょせい」のほか、鏑木清方(かぶらききよかた)、安田靫彦(やすだゆきひこ)、下村観山(しもむらかんざん)、小倉遊亀(おぐらゆき)らが女性を描いた作品が展示されている
▲展示室2。生命をテーマに、淺井裕介によって壁面全体に描かれた「いのちの木」。壁画の中に、ジョアン・ミロの油彩や長谷川潔の木版画、パウル・クレーやマルク・シャガールのリトグラフなどが展示されている
▲展示室3。「まなざしの交差」をテーマに、眼差しが印象的な作品が展示されている。セザンヌやピカソの油絵、マン・レイの写真、奈良美智のアクリル絵画など
▲展示室3の続き。「あのとき、ここで」をテーマに、小林清親(こばやしきよちか)の描く両国大火の木版画を皮切りとして、歴史上のさまざまな出来事やそこに生きる人々の姿を写した写真作品が展示されている。第二次世界大戦のロバート・キャパやアンリ・カルティエ=ブレッソン、ベトナム戦争の沢田教一、阪神淡路大震災の米田知子など
▲展示室4。「イメージをつなぐ」をテーマに、今津景の作品「Repatriation」(写真左奥)とシュルレアリスム作品などが並ぶ。マン・レイの立体作品、マックス・エルンストのコラージュ、サルバドール・ダリのブロンズ作品など
▲展示室5。「モノからはじめる」をテーマに、菅木志雄の作品「放囲空」(写真手前)をはじめとして、素材そのものが作品の主題となっているような作品が展示されている
▲展示室6。「広がる世界」をテーマに、感覚や想像力を無限に広げてくれるような作品が展示されている。イサム・ノグチの「真夜中の太陽」(写真手前)のほか、ルネ・マグリットの「王様の美術館」、サルバドール・ダリの油彩、エッシャーのリトグラフ、エルンスト・ハースの写真など、横浜美術館の自慢のコレクションがめじろ押し
▲展示室7(写真展示室)では、横浜美術館の歴史を年表とともにふりかえっている

ピカソもマグリットもキャパもイサム・ノグチも一堂に見せてくれて、もうおなかいっぱい。ひとくちに近・現代美術といっても、その幅は広く、奥が深いことを存分に教えてくれた。横浜は日本の写真発祥の地のひとつだからか、写真が充実している印象も受けた。写真ファンはぜひ足を運んでみてほしい。

そのほか年に1回、「New Artist Picks(NAP)」と銘打って国内外の新進アーティストによる小展覧会も開催している。若い現代アーティストにも目配りが利いているのだ。

蔵書約11万冊、映像も見られる美術情報センター

建物の左側には「美術情報センター」という美術専門の図書室が備えられている。11万冊を超える書籍・雑誌のほか、約580の映像資料(DVDやVHSビデオテープ)を所蔵していて、展示のチケットがなくても無料で閲覧できるというのがうれしい。会期中の展示に関連する書籍なども集められているので、展示の帰りに勉強するのもよさそうだ。
▲開架の資料は全体のごく一部。閉架にたくさんの資料がある
▲30周年を記念して1989年の開館記念展のポスターなどを展示していた

アトリエでもアートと人が出会っている

建物の右側には、「市民のアトリエ」と「子どものアトリエ」が設置されている。どちらも横浜市民限定というわけではなく、事前に申し込みをして抽選に当たれば、だれでも利用できる。横浜美術館のエデュケーターのほか、現役の作家たちが講師をしてくれるので、とても人気が高い。

「子どものアトリエ」は、小学校6年生(12歳)までの子どもを対象として、さまざまな造形プログラムを実施している。1日で終わるものから全6回の本格的な連続プログラムまであり、料金はプログラムによって異なる。
そのほか「親子のフリーゾーン」というプログラムもあり、月に3回程度の日曜に、保護者100円(税込)、小学生以下無料で、絵の具、粘土、紙を使って自由に遊ぶことができる(要事前申し込み)。
▲「編み織りアート」の日曜造形プログラム。(撮影:加藤健)

「市民のアトリエ」は、版画室、平面室、立体室の3部屋があり、それぞれで12歳以上(一部をのぞく)を対象にワークショップを行なっている。そのほか、オープンスタジオの日があり、スペースと専門的な道具を使って制作を行なうことができるので大人気だ(要事前申し込み)。
▲「市民のアトリエ」の版画室。各種のプレス機が備えられ、木版や銅版、リトグラフ、シルクスクリーンを制作できる(写真提供:横浜美術館)
▲平面室。デッサン、油絵、日本画などを描くことができる。美術モデルを呼ぶ講座もある(写真提供:横浜美術館)

取材した日は立体室でオープンスタジオが行なわれていた。男性に話を聞いてみると、「もともと作家志望だったけど、別の仕事をしていて、リタイヤしてからようやく好きなことをできるようになった。アトリエを持っていないから、すごく助かるよ」とのこと。
▲立体室では、木彫のほか、ブロンズを鋳造したり、陶器を焼いたりできる(写真提供:横浜美術館)

テラコッタの鉢を磨いたり、粘土で土偶を作ったり、みなそれぞれが思い思いのものを作っている。スタッフによれば、素人からセミプロまでさまざまな人が利用し、まわりの人が作る作品に刺激を受けて、あたらしい作品に取り組む人も多いという。ここもアートと人の「meet」(出会い)の場なのである。
▲立体室には窯もある!

充実したカフェとミュージアムショップ

公園に面した2階には、ミュージアムショップと「Café小倉山」がある。ミュージアムショップは一見してポストカードの充実ぶりに驚く。展示作品のポストカードを買うのが、まずおみやげの第一選択だろう。そのほか展示作品に関連した作品集や書籍も揃っているので、もっと勉強したい人におすすめだ。
▲ミュージアムショップ。左の壁にポストカード(80円~・税込)がずらりと並ぶ
▲横浜美術館オリジナルグッズのコーナー。手前左の「マウスパッド」463円、中央の「立体グリーティングカード」200円、手前右の「オリジナル一筆箋・下村観山」432円など。※すべて税込
▲オリジナルグッズの人気品2つ。左は「丸型パレットメッセージカード」25枚入り324円。右は「オリジナルふせんメモ」30枚350円。赤、緑、青は、横浜美術館の基本方針「みる」「つくる」「まなぶ」を表わしている。※すべて税込
▲「Café小倉山」

「Café小倉山」という名前は、所蔵作品の人気投票イベントで1位になった下村観山の屏風絵「小倉山」からとられた。「小倉山」は色づいたモミジの絵だが、カフェの窓からは新緑のケヤキと、前庭に展示された菅木志雄の作品「散境端因」が見える。
▲食事はサンドイッチがメイン。「バジルポテトのチキンサンド(セサミブレッド)」730円。「小倉山パフェ」680円。「アイスティー」350円。展示にあわせた特別メニューもある。※すべて税抜

「小倉山パフェ」は、抹茶アイスの上に栗がのっていて、モチモチした白玉とポリポリしたチョコポッキーがそえられている。ひとつの器の中でいろいろな味と食感が楽しめる。これはまさに横浜美術館と同じだなと思った。

「横浜美術館」は、展示室のほかにも、美術情報センターやミュージアムショップ、カフェ、アトリエなどの施設が充実しているので、好みの企画展のときだけでなく、通常のコレクション展のときでもぜひ訪れてみたい美術館である。
大塚真

大塚真

編集者・ライター。出版社兼編集プロダクションの株式会社デコに所属。近年編集した本は、服部文祥著『アーバンサバイバル入門』、『加藤嶺夫写真全集 昭和の東京』シリーズの「4江東区」「5中央区」(ともにデコ)ほか。ライターとしては『BE-PAL』(小学館)などで執筆。

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