一軒のお宅を訪ねるようなワイナリー「くらむぼんワイン」へ。ぶどう本来の風味を生かすワインづくりとは?

2015.10.26

山梨市の牧丘町(旧山梨県東山梨郡)にあった養蚕農家の母屋を、100年以上前にここ勝沼の地へ移築した「くらむぼんワイン」。宮沢賢治の童話『やまなし』に登場する「クラムボンはわらったよ」という蟹の会話から、この屋号をつけたそうです。一軒のお宅を訪ねるような和やかな空気につつまれたワイナリーツアーに参加しました。

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▲靴を脱いでゆったりとくつろげる座敷。20年前までは、オーナーの野沢たかひこさん家族がここに住んでいたそう
「こんにちは~」と玄関を開けると、左手には座敷と縁側があり、田舎に帰ってきたような、どこかなつかしい空間が広がっていました。
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▲宮沢賢治作の絵本『やまなし』。人と自然の共存を説く宮沢賢治の思想に共感し、本文中にあった「クラムボン」を屋号にした


「くらむぼんワイン」は大正2(1913)年にぶどう酒づくりをはじめ、今年で創業102年。従業員3名の小さなワイナリーでありながら、勝沼の風土を生かしたワインづくりを実施し、イギリス・ロンドンで開催された「International Wine Challenge 2014」では辛口の白ワイン「ソルルケト甲州EUバージョン」が銅賞を受賞するなど、世界に通じるワイナリーとして注目されています。
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▲おすすめのワイン。左から、「ソルルケト甲州2014」はカボスやゆずのような爽やかな香りが特徴(1,330円/750ml)。「ベルカント」はマスカットベーリーAを使用し、無ろ過、非加熱でぶどうの風味を生かしている(2,120円/720ml)。「あじろんスパークリングワイン」は甘口で食前酒におすすめ(1,950円/720ml)※すべて税込

おいしいワインを育んだ、勝沼の歴史にふれる

ワイナリーツアーでは、今ではめずらしい昭和初期の醸造器具や自社のぶどう畑(※)、ワインセラーなどの見学、テイスティングルームでワインの試飲ができます。

この日、案内してくれたのは、「くらむぼんワイン」の4代目オーナー、野沢たかひこさんです。
まずは、ワイン資料室で、甲州ワインの歴史についてちょっとお勉強。

「甲州ワインの歴史を知ることで、より深くワインのことを知っていただけたらうれしいです」と、野沢さん。

木製のぶどう圧搾機や、天然コルクの原木など、貴重な資料がたくさん!先代が世界中から集めたというワインオープナーのコレクションも必見です。
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▲野沢たかひこさん。甲州ワインの歴史や勝沼の土地のこと、くらむぼんワインの醸造について、やさしく解説してくれる
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▲大正から昭和初期にかけて使用されていたぶどう圧搾機など。ぶどう果汁の色が染みついていた
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▲ワインオープナーの展示。ユニークなかたちのオープナーがびっしり並んでいた

(※)ワイナリーツアーでは、基本的にぶどう畑の見学はコースに入っていませんが、時間がある時や人数が多い時などにご案内いただけることがあります。

本来のぶどうの風味を引き出すぶどうづくりとは?

資料室をあとにして、ワイナリーから徒歩2分のところにあるぶどう畑へと移動します。

「くらむぼんワイン」では、2007年から除草剤や殺虫剤を一切使わないうえ、肥料も与えず、土も耕さないという自然栽培を行っています。

「人間も同じで、薬ばかり飲んでいたら弱くなってしまいますよね。本来持っている抵抗力を上げ、力強いぶどうを育てたい。やわらかい土だと、根っこがのびのびと伸びていくんですよ」

じつは、自然栽培にしてから最初の2年は、半分くらいが腐ってしまったそうです。野沢さんは、自然栽培のむずかしさを痛感しながらもあきらめることなく自然栽培をつづけ、ぶどう本来の風味を生かしたワインづくりを実施しています。
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▲風通しをよくするために、こまめに除葉や摘房をしている。病気予防には、銅と石灰を合わせたフランスの農薬「ボルドー液」と硫黄を使用
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▲甲州、シャルドネやカベルネ・ソーヴィニヨン、ベーリーAなどを育てている
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▲土づくりで、ワインの味わいも変わってくるとは……奥深い

つくり手の思いにふれると、ワインの味わい方がかわる

野沢さんは、もともとはワインづくりを継ぐつもりはなかったそうです。それでも徐々にワインづくりに魅せられ、23歳のときにフランス・ブルゴーニュにあるワイン醸造専門学校へ1年半留学。
ホームステイ先の家で見たシーンが、ワインづくりを受け継ぐ決意をさせたそうです。

「ホームステイ先での夕食で、郷土料理とワイン、そして、家族、友だちがそれを囲んだんですね。それがすごく楽しくて、その場面が今でも忘れられません。あぁ、こういうシーンを日本でもつくりたいなぁって思ったんです」

食事といっしょにワインを楽しむことで、日本でもワインがもっと身近になるはず。野沢さんは、人気の高い甘口ワインだけでなく、食事に合わせて楽しめるさまざまな自社ワインを追求。若手の醸造家が集まる「アサンブラージュ」という会にも所属し、イベントなどで、お客さんにワインの楽しみ方について説明しています。
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▲野沢たかひこさん。静かな語り口のなかに、ワインづくりへの熱い想いが伝わってきた


「くらむぼんワイン」では、自社畑のほかにも、地元の農家と直接契約している畑もあります。なんと、数十年以上の付き合いになる農家の方ばかり。
顔が見える関係でいることで、安心・安全なぶどうづくりができるのです。そして、よりおいしいワインをつくるために、互いにアイディアを出し合って栽培法を工夫し、新しいチャレンジもつづけています。

そんなつくり手の思いを聞くと、もっとしっかりワインを味わいたい。ワインに合うおいしい料理を食べたい!そんな気持ちになってきました。

天然の冷蔵庫!ワインセラー見学は探検家気分

つづいて、ワインセラーへ。ここは、約90年前から使用されていたぶどうの貯蔵庫を活用しているそうです。

扉を開けると、一瞬にしてワインが発酵する香りと、香ばしい樽の香りに包まれました。このセラーで、白ワインは半年、赤ワインは1年間、熟成します。

酵母や樽の風味を過度につけないよう熟成期間には細心の注意を払い、最小限のろ過(場合によっては無ろ過)で瓶詰を行い、あくまでぶどうの風味を生かすよう心がけているそうです。

「人間が機械的にワインをつくるのではなく、ぶどうがワインになるのを職人が手助けしていくものと考えています。そうすることで、自然な味わいのワインが生まれます」
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▲樽はフランス産のオーク樽を使用。日本のワインは香りが繊細なので、樽の香りに負けてしまわないよう注意している


セラーの中央に、地下へとつづく階段を発見!わくわくしながら階段を下りると、寒い!この涼しさ、なんと機械で管理している温度ではなく、自然とこの温度が保たれていると聞いて驚きました。
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▲地下へとつづく階段を発見!
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▲地下のセラーには瓶詰済みのワインボトルが寝かせられている
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▲ちょっとした探検気分

気になるワインをじっくりテイスティング

テイスティングルームには、常時20種類のワインがずらり。試飲をしていると、お客さんがふらりとやってきては、お気に入りのワインを探していました。
楽しそうに試飲をしている女性にお話をうかがうと、「今日は、寝る前に飲むワインを選びにきたのよ」と、教えてくれました。
おいしいワインを自分なりに楽しむ。そんな時間を大切にするって素敵だなぁ……。

味の違いを吟味していると、
「秋はキノコ、春は山菜、夏は夏野菜など、季節の料理にどんなワインが合うか考えるのも楽しいですよ。おすすめもございますので、ぜひ気軽に聞いてくださいね」と、野沢さん。
家庭料理とともにおいしいワインを楽しむ、そんな幸せなシーンが浮かんできました。
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▲ワイングラスで試飲ができるのもうれしい


ワイナリーツアー終了後は、お座敷でのんびり休憩ができます。ほっと落ち着く空間のなかで、ワインに込められたたくさんの思いをふりかえるのも楽しいひとときです。

勝沼の気候や風土を生かしたワインづくりに取り組む「くらむぼんワイン」。またふらりと立ち寄りたい、どこかなつかしい風景に出会えるワイナリーツアーでした。


写真・奥田晃司
齋藤春菜

齋藤春菜

編集者、ライター。出版・編集プロダクションデコ所属。女性の美容・健康・ライフスタイルに関する書籍、雑誌を多数編集・執筆。文芸、料理、アート本の編集も行う。全国各地へと取材に訪れたさいには地元のおいしいお店を必ずチェックする。編集を担当した本に『お灸のすすめ』『瞑想のすすめ』(ともに池田書店)、『足もとのおしゃれとケア』『わたしらしさのメイク』(ともに技術評論社)、『はじめてのレコード』(DUBOOKS)、『顔望診をはじめよう』、『月の名前』、『健康半分』などがある。

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