青根温泉「不忘閣」。伊達政宗も愛した490年以上の歴史ある秘湯の老舗宿へ

2019.05.06 更新

宮城県柴田郡にある青根(あおね)温泉は、伊達藩の湯治場として1528(享禄元)年に開湯して以来490年以上の歴史を誇る名湯。中でもテレビCMの舞台にもなった「湯元 不忘閣(ふぼうかく)」(以下、不忘閣)は、青根温泉を代表する老舗旅館として多くの文豪が訪れたことでも知られています。人里離れた場所にたたずむ静かで自然豊かな秘湯では、温泉に浸かり日々の疲れを癒やすだけではなく、歴史もたっぷりと味わうことができました。

▲国の登録有形文化財に指定されている本館

かつて伊達政宗も泊まった、歴史ある静かな温泉宿

標高500mの高原にある静かな温泉街・青根温泉。5~6軒の宿と日帰り入浴施設1軒で構成される、この小規模な温泉街の中に不忘閣はあります。不忘閣へのアクセスは、東北新幹線の仙台駅または白石蔵王駅から「遠刈田(とおがった)温泉」行きのバスで終点まで行き、そこから送迎車に乗って約10分。宿の名前は、かつて伊達政宗が宿泊しこの場所を忘れまいと「忘れずの館」と“不忘”と名付けたことに由来しているのだそう。
▲目の前の道路からはこちらの入り口が目に入ります
▲静かな佇まいに、歴史の深さを感じます

不忘閣は歴史や秘湯好きの間では名の知れた宿で、JR東日本のテレビCM「行くぜ、東北。」の舞台になったことでも話題を集めました。館内に足を踏み入れると、暖かい空気が漂い、祖父母の家に遊びに来たような懐かしい気持ちになりました。
▲開放感のある広いロビー。靴を脱いでここでチェックインします
▲ロビーには懐かしさ漂う置物や掛け軸などが飾られています

チェックインを終えたら客室に向かいます。不忘閣は本館、不忘庵、西別館など複数の建物が棟続きになっている造りで(これらを総称して「金泉堂」という)、その中に客室が点在しています。客室ごとに趣や眺望が異なり、全14室と多くないので、館内が混み合うこともなくゆったりと過ごせるのも魅力のひとつ。懐かしい雰囲気の漂う広い部屋では、時間がゆっくり流れているような気持ちになります。
▲西別館にある「一心」の間。昔ながらの和室ですが水回りは清潔感にあふれています
▲一心の間の入口側から寝室を見た様子。この畳の上に布団が敷かれるため、就寝時も和を感じることができます
▲客室に置かれてある旅日記。宿泊客が自由に書くことができます。味わいのあるノートに宿泊の思い出を綴ってみてください

伊達政宗も入浴した歴史ある温泉に感激。6つのお風呂を味わい尽くす!

客室に荷物を置いたら、まず楽しみたいのが温泉です。不忘閣には「蔵湯浴司(くらゆよくす)」「亥之輔(いのすけ)の湯」という2つの貸し切り風呂に加え、大小2種類の「御殿湯(ごてんゆ)」、リニューアルしたばかりの「大湯 金泉堂(きんせんどう)」、そして「新湯」という4つの浴場が点在しています。
▲客室やお風呂に向かうまでの廊下も風情たっぷり。壁や窓にも昔ながらの素材や質感が多く残されています

最初に向かったのは、唯一洗い場とアメニティの設備がある「御殿湯」。浴場の大きな窓からは中庭を望むことができます。不忘閣の湯は、源泉掛け流しの単純温泉。無色透明でさらさらとしており、硫黄の臭いなどもなくサッパリとした入り心地です。神経痛や疲労回復、健康増進などへの効能も期待できる湯で、ゆったりと疲れを癒やすことができました。
▲御殿湯は大小2つあり、時間帯によって男湯と女湯が交替します。写真は大きい方のお風呂

ここだけでも十分満足できましたが、お次は青根温泉の由緒を受け継ぐ「大湯 金泉堂」へ。かつて、伊達藩主の御殿湯として使われた広いお風呂です。2006年まで男湯と女湯を仕切りで分け、街の共同浴場として利用されていましたが、老朽化が進みいったん閉鎖。その後、復元工事によって2008年に復活し、宿泊者専用の大浴場として男女入れ替え制で楽しめるようになりました。
▲青根温泉の中で最も古いとされている大湯 金泉堂。当時の石造りの湯船は残しつつ古代伝統工法によって復元された風呂です

木と土壁が調和した木造建築と、490年以上前から変わらない石組みの湯船に歴史を感じつつ入浴。温かい灯りに包まれた空間で心が落ち着きます。誰も来なければこの広いお風呂を一人占め。贅沢すぎますよね!
▲大湯 金泉堂の入浴時間は女性8時~20時、男性20時~8時

続いて、貸し切り風呂である「亥之輔の湯」へ。宿泊客であれば追加料金なく利用が可能となっています。御殿湯や大湯のある本館から3mほどの渡り廊下を歩いて向かいます。中庭の一角に立つ小屋の中に入ると小さな脱衣所があり、背の低い戸が。そこをくぐり抜け顔を上げると目の前には定員2名ほどの小さな半露天風呂。取材に訪れたのは3月、外から吹き込むまだ冷たさの残る風を感じながら少し熱めのお湯に浸かると、まるで異空間に入り込んだような気分に。
▲先々代の湯守の名がついた亥之輔の湯。静かな空間で自分だけの時間を楽しめます

次に向かったのは、本館の反対側、敷地内の北側に立ち並ぶ蔵の中に設けられた「蔵湯浴司」。同館で最も人気がある貸し切り風呂です。ロビーの受付で声をかけて、空いていれば「貸切札」をもらって入浴します。
▲下駄に履き替え、お風呂のある一番奥の蔵まで歩きます。手前にある2つの蔵は、かつて文庫蔵、座敷蔵として使われていたもの。現在は倉庫として使用されています
▲蔵湯浴司の取っ手。蔵を開けること自体経験がないだけに、重い扉を開けるときにはドキドキしてしまいました

この蔵湯浴司、なぜ人気があるのかは、一歩足を踏み入れて分かりました。蔵の大きな扉を開けると、ライトで照らされたひのき風呂が。蔵一棟が丸ごと浴室になっており、中にはお風呂と脱衣かごがあるのみ。なんと贅沢な空間でしょう!
▲かつては穀蔵として利用されていたそう。この広さにひとつのお風呂。そして貸し切りという贅沢はここでしか味わえません

早速お風呂に浸かると、水の音だけが響く静かな空間の中で、身体が芯から温まっていきます。頭上を見上げると、高い天井に土壁。その美しさに見とれてしまいました。
▲蔵湯浴司は2009(平成21)年に設置された、6つの中で最も新しいお風呂です

そして、最後に向かったのが「新湯」。こちらは1528(享禄元)年頃に作られ、現在までそのまま残されている石造りのお風呂。伊達政宗をはじめ多くの文人たちが体を休めた場所として深い歴史を持っています。
▲新湯へ通じる階段も素敵で、どんなお風呂が待っているのか胸が高鳴ります

扉を開けると木の温かみを感じる脱衣所があり、浴場の真ん中に石造りの湯船がぽつり。自然光が差し込むそのお風呂は、朝と夜では違った風情を味わえます。
▲優しい光に包まれたノスタルジックな空間の脱衣所
▲新湯は、青根温泉で大湯に次いで2番目に古いとされているお風呂

さて、6つのお風呂を楽しんだところで、お風呂上がりに立ち寄りたいのが本館にある「喫茶去 金泉堂」。貴重な展示物が置かれた昔懐かしい空間に、飲食物が用意されており、宿泊客なら無料でいただくことができます。飲み物の中には、コーヒーやお茶だけではなく日本酒も。さらに、お味噌をつけて食べるこんにゃくやお菓子などの軽食類も充実しており、座ってゆっくりいただけます。
▲レトロな空間が広がる喫茶去 金泉堂。展示物を眺めながら小休止
▲こんにゃくに特製の味噌をつけていただきます。あんドーナッツやスナック菓子などもあり、子どもから大人まで楽しめます
▲昔ながらの流し台など、廊下の所々にあるレトロな空間にも目を奪われます

伊達政宗も宿泊した「青根御殿」で貴重な展示物を見学

不忘閣の魅力は温泉だけではありません。伊達家のお殿様をお迎えするために作られたという「青根御殿」もそのひとつ。明治時代に一度焼失しましたが、伊達家に仕えていた大工が昭和7(1932)年に2年がかりで昔の面影そのままに再建。本館や蔵などと同様に、国の登録有形文化財に指定されています。
▲敷地の中央に立つ青根御殿。夜はライティングされて昼間とは違った表情に

内部は資料館になっており、宿泊者限定で女将さんの案内のもと無料で見学可能となっています(見学を希望される方は受付でその旨をお伝えください)。書物や掛け軸、伊達家ゆかりの美術品や伊達政宗の父の甲冑など多くの貴重な資料が展示されており、女将さんの話を聞きながら歴史を感じることができます。窓からの景色も絶景。宿泊した際にはぜひ足を運んでみてください。
▲400年前の古文書や掛け軸など、貴重なものがたくさん残されています
▲与謝野鉄幹・晶子が残した手紙も。東北大学の協力のもとに作られた解説などもあり、時間を忘れて見入ってしまいました

季節の食材を使った豪華な会席料理にリピーター続出

そしていよいよ、お待ちかねの夕食です。本館2階にある個室のお食事処で味わいます。提供されるのは月替わりの会席料理。この日は3月だったこともあり、ひな祭りをイメージした内容でした。
▲お風呂だけでなくリピーターに人気なのがこのお食事。素材の味を生かした郷土料理や四季折々の鍋料理に、お腹も心も満たされます(写真提供:不忘閣)

新鮮な魚を使ったお造りや仙台黒毛和牛紙鍋など、素材の味をゆっくりと味わいながらいただきます。さらに、地酒も豊富。不忘閣からほど近い柴田郡に仕込み蔵がある「伯楽星」や「あたごのまつ」などの銘柄はもちろん、青根温泉にある2つの旅館でしか味わえないという日本酒「思手成し(おもてなし)酒」も。豪華な食事についついお酒も進んでしまいます。
▲本館2階にある休憩スペースも味わいがあります。食事までの時間を中庭を眺めながら過ごしてもいいですね

歴史情緒あふれる不忘閣では懐かしい和室の客室と趣ある6つのお風呂を楽しめ、日常を忘れて体を休めることができます。懐かしさを感じる廊下や部屋にすっかり心も癒やされました。筆者が訪れた3月上旬は、まだ雪が残っていましたが、暖かくなってきたらまた違う景色が見られるのでしょう。
阿部ちはる

阿部ちはる

宮城県出身。東京の出版社で編集者として勤務。現在は仙台市在中のライターとして活動中。(編集/株式会社くらしさ)

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