薬問屋に年間7万人の観光客!?富山「池田屋安兵衛商店」がおもしろい!

2019.05.09 更新

“薬の富山”と呼ばれるほど医薬品産業が盛んな富山県に、観光バスが次々と立ち寄る薬問屋があることをご存知でしょうか。その名も「池田屋安兵衛(いけだややすべえ)商店」。なんと年間7万人もの人が来店する、知る人ぞ知る人気観光スポットなんです。この店で観光客がこぞって買い求めるという妙薬「反魂丹(はんごんたん)」とは?また、店内でできる昔ながらの丸薬の製造体験や、レストランで楽しめる和漢方を使ったヘルシー料理とは!?人気の理由を確かめるべく、お店を訪ねました。

フォトジェニックな佇まいに、シャッターを押す指が止まらない!

「越中反魂丹本舗 池田屋安兵衛商店」(以下、池田屋安兵衛商店)があるのは、富山市の中心地にある商業エリア。JR富山駅からは徒歩だと30分ほどかかるので、路面電車を使うのが便利です。
▲車と一緒に道路を走る、富山名物の路面電車(一律200円)。バスのように、降りたい停留所に近づいたらボタンを押して降車の意思を知らせる

富山駅から「南富山駅前行」の路面電車に乗り、西町停留所で下車。アーケードをしばらく歩いていると、なにやら立派な看板が見えてきました。「越中反魂丹」の大きな文字が目を引きます。
▲西町停留所から徒歩2分ほどの場所にある池田屋安兵衛商店。富山市の中心街で最も古い木造建築物の一つなのだそう

想像していた以上に立派な外構えにびっくり。ドキドキしながら扉を開けると……中は、広々とした吹き抜けの空間が広がっていました。重厚な佇まいとは真逆の開放的な雰囲気に二度びっくり!天井がとても高いので、面積以上に広く感じられます。
▲梁を見せ、吹き抜けにリノベーションされた店内。広々としていてとても明るい

待ち合わせをしていた池田安隆(やすたか)社長に、早速店内を案内してもらいました。

「この建物は、住居兼生薬倉庫として使っていた家屋をリノベーションしたものなんです。もともとあった建物は空襲で焼けてしまったので、昭和21(1946)年に再建しました」(池田社長)
▲漆塗りの上に金箔が施された金看板がずらりと掲げられている

店内の壁にいくつも掲げられている立派な金看板は、大正から昭和初期にかけて実際に使われていたもので、先代のコレクションなのだそう。

「奥の『大学目薬』と書いてあるものは、“サンテ目薬”で有名な参天製薬のもの、『中将湯(ちゅうじょうとう)』とあるのは漢方で知られるツムラの看板です」と池田社長。さすがは創業昭和11(1936)年の薬問屋!本家の製薬会社にもなかなか残っていないという、激レアなお宝を拝むことができました。きっと、あちこちカメラのシャッターを押してまわりたくなることでしょう。

江戸幕府公認!全国でその名を馳せた妙薬「反魂丹」

富山と聞いて“薬売り”を思い浮かべる方もいるかもしれませんが、そもそも、なぜ富山県で医薬品産業が発展してきたのか、皆さんはご存知ですか?
▲店舗には、生薬をすり潰したり、調剤をしたりする時に使われた古い道具も置かれている

「話は今から300年以上前、江戸時代中期にまで遡ります。当時、富山藩の2代目藩主だった前田正甫(まさとし)公は、城内で薬草販売や調剤を行うほど薬草研究に熱心な方で、製薬を藩の主力産業にしようと奨励していました。藩の厳しい統制の下、商人たちが薬を製造。それを薬売りたちが全国に売り歩いたことで、富山の薬は名を上げていったのです」(池田社長)
▲江戸幕府公認の薬として売り歩かれた反魂丹。かつては“万能薬”として売っていたが、現在は、食べ過ぎや飲み過ぎ、消化不良のための胃腸薬として販売されている

そんな時に一世を風靡したのが、備前(現在の岡山県)から医師を呼び寄せ、製法を伝授してもらったという富山の万能薬『反魂丹』。真偽のほどは定かでありませんが、“江戸城で腹痛騒ぎが起きた時に、その場に居合わせた正甫公が反魂丹を差し出したところ、たちどころに腹痛が治まった”というエピソードが残されています。
▲古くから完全分業が進んでいた富山の医薬品産業において、同店のように製造から卸、販売まですべてを手掛けているところは極めて珍しいという

富山の薬売りは、いろいろな薬を詰め合わせた薬箱を“置き薬”として各家庭に置いていき、使った分だけ料金を徴収するという販売スタイル。薬箱の中にはもちろん、“万能薬”としてもてはやされたこの反魂丹も入っていました。「薬売り=反魂丹売り」と呼ばれていた時代もあったそうです。
▲1回10粒、1日3回服用の「越中反魂丹」。右から、10粒3包702円、 10粒10包1,944円、300粒3,996円、800粒6,480円

「多い時は1万人近くいた薬売りも、今では500~600人に激減してしまいましたが、薬の生産金額は今でも富山県が全国1位(厚生労働省「平成27年薬事工業生産動態統計調査」)なんですよ。もっとも、それまで和漢薬(生薬で作る日本の漢方薬)を製造していた店や会社も、明治維新を機に、ほとんどが西洋薬に乗り換えてしまいましたが……」(池田社長)
▲レトロなイラストが描かれた他社製の薬も並ぶ。多くが西洋薬ながら、地元・富山の会社のものも多く取り扱っている

目薬の製造を得意とする会社、貼り薬が得意な会社などメーカーごとに得意分野が異なるそうですが、池田屋安兵衛商店が得意とするのは、昔ながらの和漢薬で作る丸薬。
▲左から「いけだや胃腸薬」70g2,160円、動悸・息切れのための薬「いけだや六神丸」60粒4,320円、便秘薬「いけだや通じ丸」20粒6包1,296円

ちなみに、薬の名前に付く「丹」の文字には“よく練った薬”という意味があるほか、「丸」には“丸薬”、「散」には“粉薬”、「湯」には“煎じたもの”という意味があり、名前を見るだけで薬の形状が分かるようになっているそうです。勉強になりますね!
▲観光バスが到着する度に、ごった返す店内。特に、関西や首都圏からの観光客が多い

かつては富山を代表する妙薬として名を馳せ、各店で製造していた反魂丹ですが、今では同店以外ではほぼ手に入らない幻の薬となっているそうです。多くの人がこぞって買い求めるのも分かりますね!胃薬なので、ついついおいしいものを食べ過ぎ、飲み過ぎてしまいがちな旅行のお供にもぴったりです。
▲薬ではないが、かわいいパッケージの「反魂飴」も。生姜、抹茶、酒粕、カモミールミルクキャラメル、ペパーミントと5つの味があり、お土産としても人気(各5粒324円)

昔ながらの座売りで、オーダーメイドの薬も処方!

さて、反魂丹をはじめ、20数種類もの自社製和漢薬を販売している同店ですが、症状や体力、体質に合わせたオリジナルの薬を処方してもらうことも可能です。昔ながらの“座売り”というスタイルで薬剤師が問診。処方されるのももちろん和漢薬で、植物の皮や枝、根、葉、動物の内臓などを原料とする生薬を、症状に応じて調剤してくれます。
▲まずは、店内のカウンターで気になる症状をじっくり相談。奥に見えるのが調剤室
▲200種類を超える生薬の中から、それぞれの症状に合ったものを調剤。使用する生薬によっても異なるが、1日分の料金目安は1,000円程度

健康保険は適用されませんが、体に合った和漢薬を飲み続けることで、たとえば冷えや倦怠感、不妊やリウマチなど、病院ではなかなか治せないような悩みも解消できることもあるそう。気になる症状がある方は相談してみるといいかもしれません。

想像以上の難しさ!?昔ながらの丸薬製造体験に挑戦!

薬の購入はもちろんですが、店内では、昔ながらの丸薬の製造体験に挑戦することもできます。予約不要、無料で体験できるということで、早速トライしてみました!
▲店の中央に置かれた古い製造機。実際に丸薬の製造に使われていたもので、係の人が付いて教えてくれる

本来、上写真の中央部に見える金属製の型の中には、米粉と生薬を練った薬の素が入っているのですが、こちらは体験版ということで、偽薬を使っているそう。薬を搾り出したり、搾り出した薬をきれいに並べる作業はとても難しいので、途中までの工程は技を持った職人さんが作業を進めてくれます。
▲レバーを降ろしながら左足で踏板を踏むと、圧がかかって型の中から薬が搾り出される仕組み。搾り出した薬は右手に持っている金具で切り落とす

ちなみにこの方法で薬が作られていたのは昭和30(1955)年頃まで。現在は、衛生的な問題から、すべての薬の製造を機械で行っているそうです。
▲5mm弱ほどの穴が均等に空いた金属の型。1mmほどの穴のものもあるそうで、薬のサイズが小さくなればなるほど、圧が必要となるため加減が難しく、難易度は上がっていく
▲穴から搾り出された薬を金属の棒を使って切り出していく。長さは5mmほど
▲力を入れすぎると薬がたくさん出過ぎてしまい、ご覧のようになってしまう。この力加減が難しい!
▲均等の大きさに切り出された薬が整然と布の上に並べられていく。その素早さからも卓越した技であることがうかがえる
▲切り出されたばかりの薬は円筒状の形をしている。ここから丸める作業に入っていく

薬を丸めるにあたり、まずはプロのお手本を見せていただくことに。切り出したたくさんの薬の上に木の板をのせ、円を描くように動かしていく職人さん。
▲小さい円をくるくると描くように、小刻みに板を動かしていた

木の板を外してもらうと……ジャーン!見事な“丸薬”が完成しているではありませんか!さっきまでぼそぼそとしていた表面が、心なしか輝いているようにも見えます。
▲均等の大きさに丸まった丸薬。列もほとんど乱れていない

華麗な職人技を真似て、いざ筆者も!板を浮かせているようにも見えたので、力を入れずそっとコロコロさせてみました。「そろそろいいかな?」とつぶやく筆者を見ながら、ニヤニヤ笑う職人さん。その結果は……。
▲丸まるどころか、隣同士の粒がくっついてしまい、惨憺たる結果に!

「ウソ~ッ!なんで!?」
美しく丸まった形とはまるでかけ離れたものができあがってしまいました……。
「板はもっと力を入れて押さえないとダメ。均等に力を入れて、布からはみ出さないように、小さく丸を描くようにしないと。10回ぐらい回すと角がとれて動きやすくなるから、そこからは力を抜くとうまくできますよ」と、きれいに仕上がる技の種明かしをしてくれました。
▲丸薬体験のガイドをしてくれる丸薬師の中川俊一さん。丸めた丸薬は2日ほど乾燥させることで水分がなくなり、1mmほどの大きさに仕上がる

デモンストレーションを見ていた時は簡単そうに見えましたが、いざ挑戦してみるととっても難しい!我こそはという方はぜひ挑戦してみてくださいね!みんなでワイワイ体験してみるのも楽しいですよ。

漢方の考えに基づいて作るヘルシー料理で、体の中からきれいに!

せっかくなので、店舗2階にあるレストラン「健康膳 薬都(やくと)」で、食事もいただいてみることに。ここでは、漢方の考えに倣った体にやさしい、健康的な料理を食べることができます。

「中国の薬膳料理はしっかりした味付けのものが多いですが、こちらでは和をベースに、あっさりとした味に仕上げています」と池田社長。
▲しっとり落ち着いた雰囲気の店内。もともとはこの空間で薬を作っていたそう

野草茶やアイスクリームなどの喫茶メニューや1,000円前後のお手軽なランチもありますが、今回はコース仕立ての「健康膳」をオーダーしてみました。

「健康膳は2,160円、2,700円、3,240円の3つの価格のものをご用意していますが、前日までに予約をお願いします。カフェメニューや単品のランチメニューは予約不要です」(池田社長)
▲前菜からデザートまで7品の料理と野草茶が付く2,700円のコース。使われる食材や料理、お茶の内容は日によって替わる。料理は、一品ずつタイミングを見て供される
▲桜の塩漬けをのせた「蓮根豆腐(れんこんどうふ)」は胡麻だれでさっぱりといただく。爽やかな酸味の「人参と山査子(さんざし)のピクルス」は野草茶との相性もぴったり

最初に運ばれてきたのは、「蓮根豆腐」と「人参と山査子のピクルス」。干しブドウにも似た山査子の実はやや酸味があり、やさしい甘み。ピクルスの味付けも、酢の酸味がきつすぎないので、とっても食べやすい!瑞々しい蓮根豆腐は、口の中でスーッっと溶けていきました。

ちなみに、この日の野草茶は、十薬(=ドクダミ)とハト麦、杜仲をブレンドしたもの。独特の香りはありますが苦味は少なく、すっきりとした味わいでした。
▲しゃきっとした長芋やほっくりとしたカブなどを昆布で巻いて蒸した「甘海老と山薬(さんやく)の竿前昆布蒸」。山薬とは長芋のこと
▲続いて「春野菜と龍眼(りゅうがん)のココット茴香(ういきょう)風味」が供された

一見洋食のようですが、こちらも和風テイスト。ココットの中にスプーンを入れると、中からキャベツやジャガイモ、ホクホクの黒豆が出てきました。赤味噌で味付けされているので、田楽を食べているような印象です。生薬の一種である龍眼は、上にかかる赤味噌の部分に入っていて、甘みと酸味を加えているそう。チーズにも見える表面の部分は、山芋と玉子を合わせたもので、ふわっとした食感でした。
▲鶏の旨みがしみ出た「高麗人参と鶏団子のスープ」
▲肉厚のしいたけやフキ、うずらの卵、タケノコが添えられた「黒米の山菜おこわ」。塩気の効いた「香の物 陳皮入」とよく合う。陳皮とはみかんの皮のこと

もっちりとしたおこわは、やややわらかめで、想像以上におなかにたまる印象。大食らいの筆者もしっかりおなかを満たすことができました。
▲特製デザートにも漢方の食材が使われている。この日はタンポポの根っこ入りのシフォンケーキとクコの実入りのアイス

デザートまで付いて大満足!料理はどれも優しい味わいで、体の中からきれいになっていくような気持ちになれました。アイスクリームやシフォンケーキは喫茶メニューとしても提供されているので、休憩がてら立ち寄るのもおすすめですよ!
お土産を買ったり、丸薬の製造体験をしたり、食事をしたり、と楽しみどころが満載の池田屋安兵衛商店。富山旅行の旅の行程に加えてみてはいかがでしょうか?

※記事中の価格表記はすべて税込です。

(写真・香田はな)
松井さおり

松井さおり

出版社勤務を経て、フリーランスのライター&編集者に。雑誌や書籍を中心に、主に、食・旅・くらしなどにまつわる記事を執筆している。現在は、東京から長野県長野市に拠点を移し、県内外を奔走する日々。(編集/株式会社くらしさ)

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報は直接取材先へお問い合わせください。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。

こちらもおすすめ

もっと見る
PAGE TOP