江戸時代にタイムスリップ!奈良県今井町の町家めぐりの楽しみ方

2019.05.20 更新

近鉄奈良駅から、大和西大寺(さいだいじ)駅を経由して約40分。大阪市内からも約1時間で到着する近鉄八木西口駅で下車すると、徒歩5分ほどで江戸時代にタイムスリップしたかのような景色が広がります。ここは奈良県橿原(かしはら)市の今井町。重要伝統的建造物群保存地区に指定されたレトロな町並みには、カフェやレストラン、酒屋などが軒を連ねています。江戸情緒を感じさせながら、現代の人々の生活も息づくこのエリアで、町家めぐりを楽しみました。

史跡だけじゃない!なぜ奈良の今井町に町家があるの?

奈良県橿原市にある今井町は、戦国時代に称念寺(しょうねんじ)を中心に作られた寺内町(じないまち)です。福岡・博多や大阪・堺と同様に、住民である豪商や町民が自治権を握る自治都市として、江戸時代にかけて大いに栄えました。
▲近くを流れる飛鳥川沿いの散策道。春は桜並木が美しい(写真提供:一般社団法人橿原市観光協会)
▲今井町の入口にあたる橋のそばに立つ大きなエノキ。「蘇武橋(そぶばし)のエノキ」と呼ばれ、高さ約15m・樹齢推定420年ほどだそう

全国に数ある「重要伝統的建造物群保存地区」の中でも、今井町は東西600m・南北310mほどと最大規模。端から端まで歩くと10~15分程度です。その中に約760軒の民家が立ち並び、そのうち約6割が江戸時代に建てられたものだそう。9軒が国指定の重要文化財、3軒が県指定文化財に指定されており、今も多くの家屋で人々が生活もしくは店舗を営むなどしています。
▲静かな通りを歩いていると、後ろから自転車に乗ったおじいさんが、のんびり追い越していきました
▲ふと足を止めたくなる風景が、そこかしこにあります

町家の中で昔の人の暮らしを体験!

外から眺めるだけでなく、今井町には無料で入れる町家がたくさんあります。昔の人の暮らしを「体験」できる町家もあるというので、行ってみましょう。

今井町の中心部にある「今井まちや館」の建物は、江戸時代初期に建てられたもの。今井町の中でも大型で、現在は、江戸時代の町家の様子を知ることができる施設として無料開放されています。
▲「今井まちや館」の入口は、165cmの筆者でちょうど良い高さ。2階部分に見える窓は「虫籠(むしこ)窓」といいます。諸説ありますが、見た目が虫かごのようだからともいわれます

こぢんまりとした入口をくぐるようにして入ると、そこには予想以上に広い空間が広がっていました。
▲入ってすぐの土間は、裏の勝手口まで通り抜けられる「通り土間」になっています。吹き抜けの天井の高さにびっくり!

中にいる地元のガイドさんが、質問に応じてくれます。さっそく、目の前にあるロープは何か尋ねてみると「引っ張ってみてください」とのこと。
▲ロープを引くと、土間の高い位置にある窓が閉まりました!明かり取りや、煙などを外に排出するための窓で、見学者は開け閉め体験ができます

畳に上がると、敷居が一段高くなった部屋があります。「帳台(ちょうだい)構え」といい、家長の部屋だったそう。家族でも気軽に入らないようにという意味があったそうです。
▲左下の畳の床に「帳台構え」が見えます。2階へ通じる梯子があるので上ってみましょう

2階へ通じる梯子を上がると、町家特有の天井の低い中2階になっていました。「厨子(つし)2階」と言います。
▲ここでは、使用人が寝泊まりしていたそうです

現代とは、家の造りがずいぶん違います。一体どのように生活していたのか、興味が湧きますね。
次に訪れたのは、国指定重要文化財の「旧米谷家(きゅうこめたにけ)住宅」です。江戸時代中期の建物で、肥料商・金物商を営む豪商の家でした。こちらもガイドさんが常駐していて、無料で見学できます。
▲旧米谷家住宅は屋根瓦も大きくて迫力満点。屋根の上にポツンと設置された「煙出し」がキュートに見えます

こちらも入ってすぐに広い土間があり、奥には横長のかまどがあります。焚き口が5つもあり、それを1人で煮炊き番ができるように少し湾曲させた形状になっていることから、「勾玉(まがたま)型かまど」と呼ぶそうです。
▲特に大きい左のかまどでは、朝一番から夜遅くまで火を入れ、お湯を焚いていました。お湯は白湯として飲んだり、外で汚れた手足を洗うのに使ったそう

かまどで一日中火をおこしていた理由は、屋根に集まる虫の駆除や乾燥、防湿にも役立ったからだそうです。
▲裏口から中庭に出ると立派な蔵があり、その蔵にくっつくようにして立つお座敷「蔵前座敷」が。座敷では、その家の女主人であるご隠居さんが生活されていたそうです

蔵前座敷の前に、水をたたえた井戸がありました。当時は炊事や洗濯などの生活用水をここから汲んでいたそう。そこでガイドさんにお願いして、中庭の井戸で水汲み体験!
▲滑車のない井戸。紐をくくり付けた桶を、3mほど下にある水面へ落とします。桶に水を入れたところで引っ張り上げます
▲汲んだ井戸水はカメの中へ。当時は底にぎっしり小石を敷き詰めて濾過していました。濾過されて、カメの底の穴から流れ出た水は、飲料水にも使われたそう
▲母屋の縁側。保存状態と建物の持つ雰囲気の良さから、CMなどのロケにも使われている

しっかりした造りの家屋で内部も広く、お座敷に上がるのはもちろん2階へ梯子で上がることもできる「旧米谷家住宅」。これだけ探検して体験しても、無料なのがうれしいですね。

地元の食通も納得のレストラン「Tama」で、奈良を味わう

今井町には、町屋をリノベーションした人気のレストランもあります。地元奈良で採れる野菜やお肉が楽しめる「Tama」。南部さんご夫妻が営むお店です。
▲2019年9月でオープン丸8年になるというTama。夫でシェフの南部礼一郎さんのアイデアを元に、町家をリノベーションしたそう
▲中は広々とした20席ほどの空間。大きなガラス窓から眺められる庭が一枚の絵のようです

ランチとディナーの2部営業で、メニューは予約制のコース料理。
ランチコースは3,000円、ディナーコースは5,000円があります。ほかに4,500円のコースもあり、ランチタイムにディナーコースをいただくこともできます。今回は料理3皿に食後のデザートとカフェが付く、3,000円のコースをいただきました(すべて税別)。
▲前菜は、身が厚くふっくらしたさわら

手前のペースト状のソースは、白菜とケイパーを混ぜたもの。旬を過ぎたヒネ物の白菜を使うことで、まるでマスタードのような酸味の効いた味わいになっています。一見花びらのように見える添え物は、紫大根や青大根など4種類の大根。さらにカリフラワーの酢漬けなど、野菜の特徴にあった調理法で変化をつけています。

クセのない上品な味わいのさわらと個性的な大根の組み合わせは、味と食感の違いが楽しめて相性抜群でした。

自家製パンをオリーブオイルでいただいている間に、リゾットが運ばれてきました。
▲リゾットは、春を感じさせる菜の花添え。ほどよく芯が残る状態に煮込まれたお米は、風味づけ程度にバターを混ぜることで、まろやかな味わいに
▲メインは奈良の五條市で獲れた野生の鹿肉。軽く揚げた黒キャベツを添えて
▲とても柔らかいのは、繊維が少ないロース肉だからだそう
▲イチゴをメインにしたデザートは、ガナッシュしたチョコレートやあっさり味の泡状のいちごアイスと合わせて。キューブ状にして外側を凍らせた苺のジュレは、中の柔らかい果肉との食感の違いを楽しめる
▲最後にコーヒーと、茶菓子としてレモンのマカロン。マカロンの中にはレモンの酸味が効いたクリームが挟まれていて、コースの仕上げに相応しいさっぱりした味わい

これで3,000円とは信じられないクオリティです。新鮮な季節の食材を使ったお料理の数々は彩りも鮮やかで、お腹も心もいっぱいに。大満足でした。

「奈良で採れる食材は、すべておいしいですね。野菜は奈良県御所(ごせ)市の生産者の方から直接仕入れていますが、この方が実に多種多様な野菜を作っていて。直接お話していると、野菜の知識だけでなく料理のアイデアまでいただけます」(南部さん)。

福井出身で、奥様の故郷である奈良の今井町にお店をもった南部シェフ。いちから人脈を作るのは大変だったとおっしゃいますが、そうまでしてここにお店を開く価値があったというのも納得です。

町屋で作られている日本酒や醤油をお土産に

お腹が満たされたところで、散策を再開します。次に訪れたのは造り酒屋。奈良は清酒発祥の地ともいわれているんです。
▲軒先にさがる杉玉(すぎだま)が目印の「河合酒造」。内部は住居兼店舗で、奥にはお酒を造る酒蔵があります

こちらは河合家住宅を利用した河合酒造。江戸時代中期の建物をそのまま使っています。江戸時代の町家の二階は、大名行列など表を通る武士の姿をあまり上から見下ろさないようにと、窓に向かって天井が低く傾斜しているのが一般的でした。しかし河合家住宅は、今井町の中でも比較的新しい建物のため、現代のような天井の高い二階を造ることが許されたのだそうです。二階は、今も主座敷(おもざしき)として使われています。
▲訪問した武士が馬を繋いでおく「駒つなぎ」は、今井町の町家の玄関脇でよく見かけます。1軒1軒デザインが違いますが、河合家のものはハート型が隠れています!

店内では試飲や試食ができるので、お土産を選ぶのにも便利ですね。飲むお酒だけでなく、酒粕に漬け込んだ奈良漬や酒ケーキなど、お酒を食べて味わえる商品も豊富にそろっています。
▲真ん中が河合酒造の代表銘柄「本醸造原酒 出世男(しゅっせおとこ)」(720ml・税込1,250円)。少し辛口でコクがあり、冷でも燗でもおいしくいただけます。右は「純米酒 うねび」(720ml・税込1,250円)、左が「大吟醸 mature(マチュア)」(360ml・税込1,620円)です
▲「酒ケーキ」(税込1,450円)と奈良漬(うり浅漬け、税込940円)

「ケーキは焼いてから、『大吟醸 出世男』に浸します」とのことで、アルコール分が強いのかと思いきや、ケーキのしっとり感とお酒の風味がちょうど良くておいしい。
そして奈良発祥の食べ物、奈良漬。こちらでは出世男の酒粕と国産野菜で作っています。定番商品のうり浅漬けは、柔らかい風味としゃっきりした食感。その他に、うり深漬け、きゅうり、すいかの4種類があります。試食があるので食べ比べてみて。

なお、お店の人にお断りすれば、酒蔵の一部にある酒造道具展示室も見学できます。時期は3月頃~10月頃の仕込みのない期間に限りますが、ぜひ覗いてみてください。
今井町には、醤油を手造りで製造している「恒岡(つねおか)醤油醸造本店」もあります。日頃使うお醤油だから、お土産にもピッタリ。事前に連絡しておけば、醤油を造っている蔵の見学もできますよ。
▲こちらも江戸時代に建てられた町家です
▲天然醸造醤油「夢ら咲(むらさき)」(200ml・税込410円)は、芳醇な香りと甘みが特徴。まろやかなコクは素材を活かしたお料理にぴったりとか
▲店主の恒岡信一朗さん。奥様とお店を切り盛りしながら、醤油を造ります
▲現在もこのように醤油蔵で醤油を造っています。蔵の見学は恒岡さんが案内してくださるので、希望する時は必ず前もって連絡をしてくださいね
散策の最後に、「素朴な味わいでおいしい」と地元で評判のカステラ屋さん「六斎堂(ろくさいどう)」を訪れました。
▲店先の、赤と黄ののぼりが目印です

カステラのサイズは1斤と、半斤の2種類。味はプレーンをはじめ、人気の抹茶や珈琲、チョコマーブル、金ごまなどがあります。プレーンは1斤1,000円、半斤550円。その他は1斤1,100円、半斤600円(すべて税込)。
▲帰宅してさっそくいただきました。厳選した卵をたっぷり使ったカステラは、大粒のざらめの食感が特徴。「昔食べたカステラを思い出す」とお客さんにも喜ばれるそう

手作りカステラは緑茶とも合い、いくらでも食べられそう。老若男女に喜ばれるお土産としてちょうど良いですね。

同じ奈良県の香芝(かしば)市にある六斎堂二上(にじょう)工房で、同店店主の息子さん夫婦も同じカステラを製造・直販しているそうです。
▲立派な屋根瓦の称念寺は、今井町の中心的なお寺(写真提供:一般社団法人橿原市観光協会)

町の人たちといろいろお話をする中で、「今井町の称念寺は、かつて橿原神宮に参拝する明治天皇が宿泊していたお寺です」と教えてくれる人もいました。長く、由緒ある歴史を持つ土地ならではのエピソードがぽんと飛び出る今井町。町の人と会話しながらめぐるのが楽しいこの町で、レトロな散策を満喫してみませんか。
國松珠実

國松珠実

大阪エリアの女性ライターズオフィス「おふぃす・ともとも」所属。人と話すのが好きで店舗や企業取材を得意とする。また旅行好きが高じて世界遺産検定1級を持っている。 編集/株式会社くらしさ

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