岩室温泉の温泉宿「高島屋」。棋聖戦の対局も行われる宿で有形文化財の建築と会席料理を堪能

2019.05.05 更新

越後・新潟の奥座敷と称される、「岩室(いわむろ)温泉」。その中でも築260年超えの庄屋屋敷に泊まれる「高志(こし)の宿 高島屋」は、国の有形文化財に登録された建物を満喫できる人気の宿。素材からこだわる料理も自慢で「泊まれる料亭」と銘打つほど。今回は将棋の「棋聖戦」の対局が行われることでも有名な宿の魅力を、余すところなく満喫してきました!

▲中庭からの景色(写真提供: 高島屋)

築260年以上!国登録有形文化財の宿でゆったりとくつろぐ

「高志の宿 高島屋」(以下、高島屋)は、JR燕三条駅から北西に車で35分ほどの、田園風景が広がる岩室温泉にあります。

宿泊客は、前日20:00までに予約をすれば燕三条駅まで無料で迎えに来てくれます。なお、新潟空港から岩室温泉へは「新潟ウエスト・コーストライナー」(1人片道2,000円、小学生以下1,000円 ※ともに税込・未就学児無料)が便利です。
岩室温泉が発見されたのは、正徳3(1713)年のこと。ある庄屋が夢枕でお告げを受け、翌日その場所に行くと、傷ついた一羽の雁が湯に浴して傷を癒していました。このお告げを受けた庄屋こそ、高島屋の7代目当主だったと伝えられています。
▲宿に使用されているのは、岩室温泉で最も古くから立つ屋敷

平成16(2004)年に国の登録有形文化財に登録された高島家の主屋は、今から260年以上前の江戸時代中期に建てられました。歴史ある建物でくつろげる高島屋は岩室温泉の中でも人気宿のひとつです。
さっそく玄関に入りチェックイン。立派な梁や柱が印象的なロビーは、江戸時代に建てられたまま。いくつもの時代を越えて受け継がれてきた趣を感じます。
▲出迎えてくれたのは、18代目女将の高島基子さん。宿の顔として20年以上、毎日お客様の対応をしている

チェックインは、カウンターの目の前にある「くつろぎ処」で行います。
▲お座敷でも、ソファ席でもどちらでも好きな方を選べる

こちらではウェルカムドリンクとして、岩室温泉オリジナルのブレンドコーヒーか、岩室温泉産のこしひかりを使ったビールのどちらかをいただけます。ビールの製造は新潟県阿賀野(あがの)市にある「スワンレイクビール」。2000年にビールの世界大会「World Beer Cup」で日本初の金賞を受賞したブルワリーです。
▲左が岩室温泉産のこしひかりを使用した「こしひかり仕込みビール」。右は2000年・2006年の「World Beer Cup」で金賞に輝いた「スワンレイク ポーター」

手続きが終わると、さっそく仲居さんの案内のもとお部屋へと向かいます。
客室は全18室で、すべて木造りの和室。特別室の「常磐」と「橘」の他、露天風呂付特別室、一般客室、古民家風離れの客室と大きく分けて4種類の客室があります。
▲今回泊まらせていただいた、庭園四季の間「千広」(1泊2食付き1室2人利用・税込23,220円~/1人 )

客室の窓からは青々とした竹林が目に入ります。広縁の外はバルコニーになっていて、天気が良ければ外に出て竹林をそよぐ風を感じることもできます。
広縁にはロッキングチェアもあるので、ゆったりと過ごせそうですね。一般客室タイプですが、広々としていてついつい時間を忘れてしまいそうに。
高島屋は将棋「棋聖戦」、囲碁「十段戦」の対局が行われる宿としても有名です。今回は、取材ということで対局が行われる特別室「常磐」を見学させていただけることになりました。
▲目の前に庭園が広がる特別室「常磐」(1泊2食付き1室2人利用・税込58,860円~/1人)

「常磐」は、30年以上にわたり数々の名局を重ねてきた客室。10畳と6畳のお部屋が続き、奥には内風呂と露天風呂も設置されています。

外には青々とした竹林が見え、趣のある部屋を一層際立たせています。下駄が用意されているので、風の気持ち良い季節は庭を散歩するのも良さそうです。
特別室の湯は源泉掛け流し。常磐の横は坪庭になっており、露天風呂に浸かれば自分たちだけの特別な時間が過ごせそうです。
▲歴史に残る対局が行われてきた「常磐」

高島屋が棋聖戦の舞台となるのは、波乱が起きやすいといわれる第4局。棋聖戦は全5局で行われ、先に3勝したほうが勝ちです。そのため、4局目が命運を左右することも多いそう。また十段戦も全5局で、先に3勝したほうが勝ち。高島屋は第1局か第2局を担当することが多かったといいます。

数々の歴史的な名局がここで行われてきたと考えると、過去の戦いに思いを馳せてしまいますね。
最後にもう1箇所、露天風呂付特別室の「紫苑」も拝見させていただきました。
▲露天風呂付特別室「紫苑」(1泊2食付き1室2人利用・税込36,720円~/1人)

こちらは10畳の和室とダイニングルーム、檜露天風呂が付いたバリアフリーのお部屋。和室の他にテーブル席があるダイニングもあるので、足の不自由な方でも安心してくつろげる空間です。
▲紫苑のダイニングルーム

客室ではないですが、高島屋の館内には気になるお部屋がたくさん。少しだけ散策してみました。
まずは主屋と同じく平成16(2004)年に国登録有形文化財に指定された「蔵の間」です。
建てられた正確な年代はわかっていませんが、少なくとも100年以上前の建物で、米と味噌の蔵として利用されていました。土蔵を使った広間で、入り口は今もそのままに保存されています。
▲「駐蹕(ちゅうひつ)の間」には明治天皇が御小休された記念に掛け軸と肖像画が飾られている

ロビーへと戻り、先ほどチェックインを行った「くつろぎ処」の隣にある「駐蹕の間」へと行ってみましょう。

こちらは明治11(1878)年9月16日、明治新政府が北陸を巡った北陸御巡幸の際に、明治天皇が御小休された部屋。当時、右大臣の岩倉具視(いわくらともみ)、参議の大隈重信、井上馨(いのうえかおる)らとともに「彌彦神社」にご参拝後、こちらの間で休憩されました。
そんな「駐蹕の間」は、朝食会場でもあります。歴史ある場所で出汁からこだわっているという日本料理を味わえるとは。今から楽しみですね。
▲「福が来る庭」といわれる中庭は自由に散策も可能

また、中庭には4月下旬~秋頃まで、「アオバズク」というふくろうがやってくるそう。このふくろうは、東南アジアから日本に飛来する渡り鳥です。
古くから、ふくろうは「不苦労」や「福老」とかけられ、縁起の良い鳥とされているため、夜になり鳴き始めると、お客さんを案内することもあるそうです。
動物園くらいでしか見たことがなかったふくろう。野生のふくろうがこんな間近に来るとは思ってもみませんでした。

檜の香りに包まれて、旅の疲れをとことん癒す

館内を散策し終えたら、早速温泉へ。
高島屋のお風呂は檜の浴槽を使った「翁の湯」と「竹生(ちくぶ)の湯」の2箇所。それぞれには懐かしい五右衛門風呂や竹林の中で楽しめる露天風呂があります。
まずは、「翁の湯」へ。日中は窓から光が射して、湯面がキラキラと輝いています。内風呂の浴槽は檜で出来ており、風呂に入ると檜のよい香りが漂います。湯はサラリとした感触。浴室内でも硫黄の匂いはそれほど感じません。

こちらの宿の源泉は岩室温泉で主流の含硫黄・ナトリウム・カルシウム塩化物泉。関節痛や筋肉痛、その他にも五十肩や関節のこわばりなどにも効能があるといわれています。
▲露天風呂は源泉掛け流し。広い浴槽ではないので、入るなら1~3人が最適

そしてそのまま「翁の湯」の露天風呂へ。2017年4月に新設した露天風呂は屋根も付いているので、雨や雪が降っていても落ち着いてゆったりと楽しめます。

露天風呂の湯は、同じ源泉ながら内風呂よりも少しぬるっとした感触で、硫黄の匂いも強い印象。岩室温泉の湯は美肌効果も期待できるため、お肌もスベスベになりそうです。
▲「竹生の湯」も檜を使用。「竹生の湯」と「翁の湯」は時間によって男女入れ替え制(写真提供:高島屋)
▲現在では見かけなくなった五右衛門風呂も(写真提供:高島屋)

「竹生の湯」と併設してあるのが珍しい五右衛門風呂。
この五右衛門風呂では温泉ではなく、地下から汲み上げた天然水を使用しています。それぞれに木の蓋が用意されているので、それらを踏んで入浴。子供と一緒に入浴するのも楽しそうですね。こちらも屋根があるので、雨や雪が降っていても安心して入ることができます。

丁寧に出汁を引いた、上品で繊細な会席料理

次は、待ちに待った夕食です。「泊まれる料亭」と銘打つ高島屋。どんな料理が出てくるのか楽しみでなりません。

高島屋の夕食は全室部屋出し。仲居さんが一品一品運んできてくれます。女将いわく「温かいものは温かいうちに、冷たいものは冷たいうちに」は、高島屋が大切にしているお運びのルール。真心込めて作られた料理を抜群のタイミングで運んできてくれます。
▲日ごとに変わる、旬の食材を使った会席料理(写真は一例)

お品書きは、料理長がその日の仕入れ状況を見て決定。本当に毎日変わるので、仲居さんは品書きを覚えるのが大変なほど。

その料理は素材から本物にこだわります。出汁はカツオや昆布から丁寧に引き、素材も本当に良いものだけを取り寄せて使っています。手間を惜しまず真心を込めて作られた料理は、女将が“涙がこぼれる料理”と称するほど。お客さんの中にも料理を食べて、自然と涙がこぼれていた方もいらっしゃるとか。

それほど多くの人の心に残る料理。さっそくいただいてみましょう。
▲取材した日の酒菜は、手前から左回りで「蓬豆腐」「蛍烏賊の辛子酢味噌かけ」「子持昆布花山葵和え」「鮪のしぐれ煮」

まず驚いたのは蛍烏賊。生臭さがなく、今まで食べてきた蛍烏賊よりもさっぱりとしています。添えられた菜の花や酢味噌と一緒にいただくとさらにさっぱり。これから続く料理に胸が高鳴ります。
出汁の味が最も分かりやすく、味わい深く表現されていると筆者が感じたのは、お椀の「清汁仕立」。素材の味と出汁の味がシンプルに味わえるすまし汁です。優しく上品な味わいからは、涙がこぼれると称された理由が分かるような気がしました。

下に見える卵のようなものは、鯛の身を卵黄にくぐらせて蒸したもの。口に入れるとホロリと崩れ、噛むとしっかり鯛の味がします。
煮物として出てきたのが「桜饅頭」。中には刻んだ筍や百合根、胡桃などが入っています。

筆者もまさか中に野菜が入っているとは思わず、「えっ」と声に出して驚いてしまいました。胡桃が歯ごたえのアクセントになっていて、味も食感も楽しめる一品でした。
▲岩室温泉の伝統郷土料理「きりあい」はご飯にかけて食べるのがおすすめ

そして最後にいただいたのが、岩室温泉産のこしひかりと伝統郷土料理「きりあい」。こしひかりは甘みが強く、一粒一粒がしっかりとした味わい。それと一緒に出てきた「きりあい」は、3年熟成させた大根の味噌漬けを細かく刻んだものに柚子と胡麻を合わせた一品です。ご飯にのせていただくと、シャキシャキとした食感。濃い目の味付けで、どんどんご飯が進みます。
▲料理長の金子靖(かねこやすし)さん。東京の日本料理店で修行をし、30年以上前に高島屋にやってきた。以来、高島屋の味を守り続けている(写真提供: 高島屋)

各々の料理の見た目はけして派手ではありませんが、料理人の仕事の丁寧さと素材の味が際立つものばかりでした。これほど贅沢な本物の会席料理を旅館で味わうことができて、本当に幸せな気持ちになりました。

ご飯との相性バツグンの料理が揃う朝食

翌朝、目が覚めると思い出してしまうのは、昨日の美味しかった料理の数々。朝食の開始時間を心待ちにして「駐蹕の間」へと向かいます。
▲「朝食を楽しみにしてきました」というファンも多い

席に案内され、待っていると運ばれてきたのは、こちらの一式。炊きたてのご飯を中心に煮物や鮭の焼き物、茶碗蒸しなどシンプルな料理が並びます。
まずいただいたのが、「高島屋特製 鮭味噌漬」。ほぐしてみると、柔らかくすぐにほぐれます。一口いただくと、脂がたくさんのっていて、ご飯が進む進む。味噌の塩梅も良く、ほぐしては食べ、ほぐしては食べと口に入れていたら、あっという間になくなってしまいました。
次に手を伸ばしたのは「汲み上げ豆腐」。岩室温泉産の大豆を使用し、地元の豆腐屋が作った一品。口触りは滑らかで、豆腐だけで大豆の甘みを感じます。
続いては、越後名物の「車麩」。昔から伝わる製法で作られた新潟県民には馴染み深いお麩です。醤油と砂糖で味付けされた揚げ煮は、しっかりと醤油の味が染み込んでいて、噛めば噛むほど口の中にジュワッとお汁が広がりクセになる味。
そしてもうひとつ気になったのは、女将が考案した酒粕が入った「しそみそ」。箸で持ち上げるとしその香りが漂い、食欲をそそります。

朝食からこんなにご飯を食べたことはないかもしれません。
「ご飯を何杯もお代わりする方も多いんです」と女将から聞いていましたが、納得です。

朝食をいただいた後は、優しく味わい深い料理の余韻にひたりつつチェックアウト。今度は木々の緑が鮮やかになる初夏の季節に来てみたいです。
越後の奥座敷・岩室温泉で260年以上の歴史を持つ高島屋。悠久の時に想いを馳せて、本物にこだわった料理と建物、そしておもてなしを味わいに高島屋を訪れてみてはいかがでしょうか。
長谷川円香

長谷川円香

ライター。新潟をもっと楽しくするWEBマガジン「にいがたレポ」参加ライター。広告会社にて勤務後、フリーランスに転向。「暮らすような旅」をモットーに地域に住む人・日常も含めて伝えることを目標にしている。 編集:唐澤頼充

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