【京都】仁和寺の奥山に佇む「松山閣 松山」でゆば引き上げ体験とゆば料理を堪能しよう

2019.02.11 更新

京都の奥山、自然に囲まれた料亭「京料理 松山閣(しょうざんかく) 松山 本店」では、ゆば工房で自らゆばを引き上げ、さらにそのゆばを使用したゆば料理に舌鼓を打つという唯一無二の体験が可能です。自分のつくった食材が、プロの料理人の手によって想像を超えた美味になる。そんな旅を終えたあともいつまでも心に刻まれるひと時を紹介します。

こちらのコースは、京都料理界を代表する若主人たちが設立した「京都料理芽生(めばえ)会」と、飲食店情報メディア「ぐるなび」による“本物の京都体験”をコンセプトとした共同プロジェクト「KYOTO365」の特別プラン。あらためて食文化を学ぶ&味わう機会を提供する、「KYOTO365」の持続的な取り組みのひとつです。

春は桜、秋は紅葉。自然あふれる京の隠れ家へ

延喜4(904)年に宇多法皇が居室を構えた世界遺産の仁和寺(にんなじ)は、世界各国の観光客の心をひきつけてやまない、京都を代表する一大名所。その仁和寺の奥山・宇多野山(うたのやま)へ足をのばすと、敷地面積7万坪という広大な自然に囲まれた料亭「京料理 松山閣 松山 本店」(以下、松山閣)が悠然と門を構えています。市街の喧騒から解き放たれたこの場所は澄んだ空気に満ちていて、聞こえるのは風のささやきだけ。

慌ただしい日常から切り離されたおだやかな時間が流れる松山閣で、自分の手でゆばを引き上げ、そのゆばを用いて一流の料理人がさまざまな料理に仕上げてくれる――そんな胸躍る体験ができるのです。
▲自然のなか悠然と門を構える松山閣。JR嵯峨野線・花園駅より車で約6分、地下鉄烏丸線・北大路駅より車で約15分のアクセス
春には広大な庭にしだれ桜が咲き誇り、桜の下でお茶会を催すこともあるのだそう。年4回花が咲く四季桜も新たに植えられ、一年を通して桜が楽しめるようになります。
秋には紅葉が煌々ときらめき、落ちた紅葉がレッドカーペットのように訪問者を出迎えます。

このような四季折々に豊かな自然を身にまとう数寄屋造りのお屋敷は、昭和37(1962)年に先々代の松山吉之助氏が建てました。その心には「京都に箱根のような宿をつくりたい」という情熱の炎がともっていたそうです。
▲昭和41(1966)年生まれの若旦那・松山吉之(よしゆき)さん。元サッカー日本代表で、ガンバ大阪や京都パープルサンガにも所属したプロ選手でもあった

「もともとは、妙心寺北門で料理屋を営んでいましたが、この地に出合った祖父・吉之助が惚れ込み、移転して料理旅館を始めました。今でこそ住宅も立ち並んでいますが、私が小さい頃のこのあたりは、自然以外にほんの少しの集落があるだけでした。壇ノ浦の戦いに敗れた平家の一門が、都に近い当地に住んでいたこともあるといわれていますから、どんな場所だったかご想像がつくのではないでしょうか」(松山さん)。
▲あたたかな陽が優しく差し込む玄関

今は宿泊はなく、料亭としてのみ営業していますが、移転当時と変わらず自然の恵みをたっぷりと享受しています。その最たるものが、湧き水です。

「近くには湧き水があり、谷には川が流れています。こちらは飲料水としても、料理用としても使用することができるんです」(松山さん)。
料亭のなかでも一番の大広間には、山を望む月見台が設けられています。360度ぐるりと自然が取り囲むこの風景は、市街ではけっして見ることはできない贅沢なものです。食事を楽しんだ後にこちらでゆっくり自然を眺めるのも素敵な時間です。
▲コースは11:30~13:00より開始時間が選べます

職人さんから教わる、本格ゆば引き上げ体験

そんな松山閣の自然以外のもうひとつの自慢が本家生ゆば料理です。25年程前に松山さんのお父様が、かつて宿泊施設が建っていた敷地の一角にゆば工房を設けたことが始まりです。

「当時の京都には豆腐料理は多かったですが、ゆば料理はまだ珍しいものでした」(松山さん)。

今では本店はもちろん、有名百貨店等でも松山閣を代表する料理として多くの人の舌をうならせています。本コースでは、このゆば工房で、実際に料理で使われるゆばの引き上げを体験した後、ゆば料理を味わいます。
▲ゆば工房内。朝7時から稼働して、つくられたゆばは午前中に発送される。引き上げはすべて手作業

大豆からしぼった豆乳を静かに温めると、上に薄い膜が張ります。その膜をすくい上げたものが「ゆば」になります。タンパク質、 植物性脂肪に富んでおり、「畑の牛肉」とも呼ばれているゆばは健康にも美容にもよいとされ、不規則な生活に悩む女性にとってうれしい成分がたくさん含まれています。鎌倉時代に禅僧が伝えたともいわれており、室町初期の書物にもその姿が記されている、歴史ある豆腐加工食品なのです。
工房に入ったら、貸し出しされる白衣、エプロン、手袋を着用。髪は束ねて帽子のなかへすっぽりと収めます。そして石鹸で手を洗ってからアルコール消毒を。食べ物を扱うのですから、清潔第一ですね。
準備が整ったら、職人さんからゆばの引き上げ方を教えていただきます。
▲温められた豆乳の表面に張った膜の手前中央をそっと持ち上げる
▲ステンレス製の串をスルッと奥まですべりこませて
▲上へ引き上げ……
▲引き上げたゆばの串を、豆乳台の上に刺してゆく
16面あるゆばを全て引き上げていきます。薄くて柔らかそうに見えるので、初めてゆばに触れたときは緊張しました。でも、意外と弾力があってしっかりしているんです。ただし、豆乳を温める時間によって膜の厚みが変わっていくので、あまりのんびり作業をしていると、分厚いゆばになってしまいます。ゆばづくりとは、なかなか奥深いものです。
▲このコースで使用するのは生ゆばだが、自然乾燥させると干しゆばに
松山閣のゆばは、滋賀県北琵琶湖産の厳選されたオオツル大豆を使用しています。大豆栽培には寒暖差が必要で、北琵琶湖はその条件にピッタリの土地だとか。一般的なゆばより黄色がかっているのは、この大豆の色味です。タンパク質がないと豆乳は膜を張らないのですが、オオツル大豆はそのタンパク質と糖分の割合が絶妙のバランスで含まれているそうです。夏は5~6時間、冬は24時間水につけます。

引き上げたゆばが織りなす、驚きの美味物語

ゆば引き上げ体験のあとには、部屋での食事が始まります。でもこのコースでいただくのは、ただの料理ではありません。今、自分が引き上げたばかりのゆばを使用した、ゆばのフルコース料理なんです。
職人さんと違って均一には引き上げられず、薄いものも分厚いものもいろいろありました。ちゃんとお料理に使えるのでしょうか?期待と不安が入り混じります。
「汲み上げゆば」からスタートですが、こちらは筆者が引き上げたものではありません。汲み上げゆばは豆乳の温度がそれほど上がっていない時に「汲み上げて」まとめていったもの。豆乳分が多く、引き上げゆばのように串で刺して持ち上げられないほど柔らかく、トロリとクリーミーです。

職人さんのゆばの味をまずはチェックしてみましょう。醤油を少したらしていただくと、まろやかな大豆の香りが際立ち、すっと鼻へ抜けてゆきました。
▲お土産としても販売されている汲み上げゆば

さあいよいよ、ここから「私のゆば」の物語が始まります(料理内容は季節によって変更する場合があります)。
「季節のお造り」に添えられたゆばは、筆者が引き上げたものを4枚重ねにして巻き上げています。
こんなにきれいに巻き上がるなんて思いもよらず、惚れ惚れと見入ってしまいます。さてそれでは口に入れてみますと――まずはしゃっきりとした食感が、噛みしめると中はトロリ。甘めの醤油がゆばの持つ大豆の風味を引き立てます。
3品目の名物の「ゆば桶」とは、あたたかい豆乳のなかにゆばを浮かせたもの。引き上げ体験の時に台に張られていた豆乳が使用されています。桶は人間国宝の中川清司(きよつぐ)氏の手によるものなんですよ。そんな立派な桶に、筆者のゆばを入れていただけるなんて感無量です。
ツヤツヤの姿を見て、思わずニンマリ。香り高く、酸味控えめの秘伝のポン酢につけていただきます。豆乳はさっぱりとしていて、ゆばを食べ終わり豆乳だけになっても、そばに置いて飲み干したいほどの旨みです。
▲次は焼き物を挟みます。この日は「サーモンの幽庵焼き」
京都の冬の名物「かぶら蒸し」にはゆばのあんかけがたっぷりとかけられています。ふっくらとしたかぶら蒸しに、とろりとゆばがからんでアクセントに。
〆のご飯は「ゆば雑炊」。優しい出汁のなかを泳ぐゆばが粒感のあるお米と一緒にするするとのどを通っていく、この爽快感はなんなのでしょう!
▲箸休めにはゆばちりめんを。雑炊と一緒にいただくと、出汁の深みがより引き出されます
そして何より驚いたのがスイーツです。「ゆばのあべかわもち」となって、黒蜜ときな粉をまとって登場です。キュッキュッとした食感がたまりません。これには分厚いゆばのほうがよいそうで、筆者の腕もたいしたものではありませんか?と自画自賛。

「私のゆば」を調理してくださるのは、料理長の奥野雅也さんです。前料理長のもと修業を重ね、松山閣の味を継承されています。同じ豆乳から引き上げたゆばから多彩な表情を引き出すその手腕に、最初から最後まで「わあ」「なんと」と歓声を上げっぱなし。ゆばのフルコース料理は見て楽しい、食べて嬉しいものばかりで、期待以上の満足感、充足感を与えてくれました。
▲2~10名まで受け付ける本コースは、基本として部屋は1室貸し切り。舞台のある部屋など、その種類は多彩
▲すべての部屋から奥山を望めて、四季の移り変わりを楽しめる

「自然がますます大切になっていく時代に、四季折々の山の変化、木々のざわめきを、風やにおいから感じられるのはとても貴重な体験です。この地で料亭を営む私たちは、その自然と共生し、お客様に価値を知っていただくことが使命だと思っています」(松山さん)。
▲骨董的価値のある茶道具も

松山閣で体験したこのコースは、市街では得ることのできない環境のなかで思い出をゆばに重ねることができました。お料理で使いきれなかったゆばはお土産にして持ち帰れるので、家でもこの日の追体験としてゆば料理づくりに挑戦してみてはいかがでしょうか。

「ゆばの引き上げは、老若男女問わずどなたでも気軽にできながら、気持ちが躍る体験です。ご自身の手により生まれたものが、どのような料理になるのかを、このコースでぜひ楽しんでください」(松山さん)。

撮影:久保田狐庵
竹中式子

竹中式子

フリーの編集者兼ライター。京都・伏見育ち。東京の出版社で16年間、漫画やライフスタイル誌の編集に関わったのち退職。そのまま台湾遊学という、一種典型的なアラフォー女性の道を歩みました。台湾では美味しいもの探しの日々を満喫。帰国後は伏見の水と清酒を飲みながら、久々に身近になった京都の文化を勉強中です。

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