福島「塔のへつり」の渓谷美と「湯野上温泉」の人情に触れる旅
福島県会津若松市の南部に隣接する下郷町(しもごうまち)。江戸時代の姿が残る「大内宿(おおうちじゅく)」のある町として有名ですが、他にも見どころはたくさんあります。今回は国指定の天然記念物「塔のへつり」や旅情あふれる「湯野上(ゆのかみ)温泉」など、下郷町にある観光スポットを巡りながら、自然と温泉に癒されてきました。

100万年の時が創り出す、自然の造形美「塔のへつり」



今回は下郷町観光ガイドを利用することに(ガイド料30~60分2,000円~・税込、下郷町観光公社に1週間までに予約が必要)。滞在時間に合わせてガイドをお願いすることも可能です。
この日は塔のへつり駅でガイドの小椋勝美(おぐらかつみ)さんと落ち合って、散策スタートです!

塔のへつり駅からは徒歩3分ほど。車で向かう場合は、途中にある有料駐車場(普通車・税込300円)を利用すると便利です。


“へつり”とは、この地方の方言で「川に迫った断崖や急な斜面」のことだそう。もともとは海だったこの場所が地盤の隆起とともに風雨にさらされ、水流によって軟らかい部分がえぐられて、100万年以上もの長い年月をかけて浸食と風化を繰り返すことで“へつり”を創っていったそうです。


「約12~13万年前から塔のへつりが形創られてきたと推定されているんです」と小椋さん。辺り一面には厳かな空気が流れ、一つ一つの岩と渓谷美が見る者を圧倒します。


「向こう岸には吊り橋で渡ることができます。断崖の上にはパワースポットとして知られているお堂があるんですよ」。
小椋さんに促され、やや急な階段を下りて川をつなぐ吊り橋のほうへ行ってみることにしました。
吊り橋の下を流れるのは阿賀川(通称:大川)。なお、会津線はこの川にほぼ並行して敷設されています。


吊り橋を渡り終えると、左側に数段の階段が設けられています。そこを下りると、浸食して通路のようになっている部分を歩くことができます。「手摺りがないので気を付けてくださいね」と小椋さん。通路は大人一人が通れるだけの幅で、途中に急な階段もあるので、スニーカーやヒールの低い靴などで向かうことをおすすめします。

約31m歩くと、突きあたったところに「虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)」と書かれた赤い旗が見えました。招かれるように階段を上ってみると、43段上ったところに洞窟が。その中には、入口にはおみくじがたくさん付いた神秘的な雰囲気のお堂が立っていました!

宗像住職曰く、「このお堂は807(大同2)年、虚空蔵様を祀るために坂上田村麻呂によって建てられました。現在のお堂は江戸時代に再建したものです」とのこと。薄暗い洞窟の真ん中には菩薩様が鎮座しています。そのご利益をいただこうと、縁結びや長寿祈願で参拝に訪れる人たちが後を絶ちません。



100万年前の太古の歴史が創りだした塔のへつりの景観と、1200年以上も前から人々を見守り続けてきた菩薩様。神々しさすら覚えるこの場所で、パワーをもらえた気がしました。
ランチのできるお店を教えてもらいながら、ガイドの小椋さんとはここでお別れ。わかりやすく説明していただき、ありがとうございました!
塔のへつり
福島県南会津郡下郷町大字白岩(お堂側)
散策自由
0241-69-1144(下郷町観光協会)
下郷町観光ガイド(下郷町観光公社)
福島県南会津郡下郷町大字落合字左走1808-1
[営業時間]9:00~17:00
[ガイド料]30~60分2,000円~(税込)
※1グループ10人まで。11人以上は1人あたり200円追加料金が必要
※希望日の1週間までに要予約
0241-67-2416
木のぬくもり漂う「カントリーキッチン土炉子」でランチ

こちらは、自家製の燻製ベーコンを挟んだホットドッグやハンバーガーが人気のカフェレストラン。店主の山田俊子さんの手による自家製のパンはもちっと弾力があり、食べごたえ十分です。バンズに挟まれたベーコンの香ばしさも食欲をそそります。ハンバーガー、ホットドッグのセットにはコールスローサラダ、ポテト、ドリンクが付くのでランチにぴったり!


「この町がエゴマの生産地だということやおいしい食材の豊庫であることを伝えていきたくて」と語る山田さんは、料理を通して町の良さをPRしています。ちなみに“すぐ売り切れてしまう”というチーズケーキは、この日もやはり売り切れ…。次回は「ぜひ食べてみたい」と思いながら、お店を後にしました。
カントリーキッチン土炉子
福島県南会津郡下郷町大字弥五島字道上3299-1
[営業時間]10:30~16:00(土・日曜、祝日~17:00)
[定休日]水曜
0241-69-1065
囲炉裏のある茅葺屋根の駅舎が特徴的な「湯野上温泉駅」

この日は車で湯野上温泉駅へ。こちらの駅は、同町を代表する観光スポット「大内宿」が1981(昭和56)年に国の重要伝統的建造物群保存地区として選定されたことをきっかけに、その玄関口として1987(昭和62)年に建てられたもの。
全国初の茅葺屋根の駅舎として知られており、特に桜の時季は茅葺きの駅舎と列車が織りなす風情豊かな光景を求めて、カメラを持った多くの観光客が訪れます。ピーク時の乗降客は1日500~800人にも上るそうです。


駅舎内には囲炉裏があり、乗降客はもちろん誰でも自由に利用できる休憩所になっています。屋根の茅などにひそむ虫を駆除するため、囲炉裏に火を入れる「いぶり出し」作業を定期的に行いながら、茅葺屋根の保存をしています。


「しんごろう」とは、半つきにした白米に「じゅうねん味噌(エゴマをたっぷり入れた甘めの味噌)」をたっぷり塗った郷土料理です。食感は“ワイルドなおはぎ”のよう。一般的な「しんごろう」は10cmほどの大きさですが、この駅舎の「しんごろう」は半分くらいの大きさなので、ちょっとしたおやつにピッタリ。



湯野上温泉駅
福島県南会津郡下郷町大字湯野上
[窓口営業時間]8:00~17:00
0241-68-2533
いで湯と渓谷の里「湯野上温泉」へ
途中、川岸に目をやると「夫婦岩」を見ることができました。


湯野上温泉は奈良時代に発見された古湯。その昔、怪我をした猿が湯に浸かりながら傷を治したとされていることから、「猿湯」とも呼ばれています。2019年6月現在、8軒の旅館と17軒の民宿があります。



美肌の湯としても知られるこちらの温泉の泉質は「弱アルカリ性低張性高温泉」。源泉は7カ所あり、毎分3,000リットルという豊富な湧出量が特徴です。


親子で営む、ぬくもりあふれる「民宿 いなりや」を訪ねて


1992(平成4)年に改装した館内は明るく、ぬくもりを感じられる造り。洗面所とトイレは共用ですが、掃除も行き届いていて、気持ちよく過ごすことができます。
「親子二人で営んでいるため、お客様に満足していただけるように心を込めておもてなしできる組数が4組様のみなんです」と哲郎さん。「自由にゆっくりと過ごしていただきたいです、お客様は家族ですから」とタカ子さんも話します。


夕食の前にお風呂に入らせていただくことにしました。浴室は男女に分かれ、それぞれに内風呂と露天風呂があります。入れ替え制ではありません。また、脱衣所にはカゴが4つ。ドライヤーも用意されています。


内湯、露天風呂ともに源泉かけ流し。泉温が54~58度と高めなので、加水して42度前後の湯温に調整しています。湯は無色透明で、やわらかい肌ざわり。刺激が弱いので気持ちよく入浴でき、体の芯から温まります。なお、日帰りで入浴だけを楽しむことも可能ですよ(日帰り入浴時間12:00~15:00、18:00以降/入湯料500円・税込)。
囲炉裏を囲みながら食べる料理に大満足

食卓には、特製の割烹料理が次々に並びます。その品数の多さには唖然とするばかり!
「遠くから来ていただいたお客様に、お腹いっぱいになって帰っていただきたくて」と哲郎さん。「食でもてなしたい」という思いが伝わってきます。




手の込んだ料理は、いずれも食材を生かした優しい味わい。食べ切れないほどの量の多さには驚くばかりですが、次から次へと箸が伸びるおいしさです。
さらに囲炉裏プランでは、通常の料理に加え、炭火焼の川魚を味わうこともできます。囲炉裏のある部屋には炭火焼の香ばしい香りが広がります。


本格的な料理にお腹もすっかり満たされて、「ごちそうさまでした!」店主たちの温かい心に触れることができた「いなりや」は、「また来たい」と思わせてくれるぬくもりにあふれた民宿でした。

民宿 いなりや
福島県南会津郡下郷町湯野上字沼袋乙853
[チェックイン]15:00~、[チェックアウト]~10:00
[宿泊料金]1泊2食付き大人7,950円/1名(消費税・入湯税込)
※囲炉裏プランは1泊2食付き大人8,500円/1名(消費税・入湯税込)
※8名以上なら貸し切りも可能
[定休日]なし
0241-68-2328

撮影:佐藤友美

佐藤昌子
エディター&ライター。オフィス マウマウワン代表。山形県内を中心にタウン誌、フリーペーパーや企業広報誌等ジャンル問わず、印刷物の企画、取材・編集の仕事を手掛ける傍ら、モデルハウスのディスプレイやリメイク等『気持ちの良い暮らし方』も提案している。
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