福島「塔のへつり」の渓谷美と「湯野上温泉」の人情に触れる旅

2019.06.30 更新

福島県会津若松市の南部に隣接する下郷町(しもごうまち)。江戸時代の姿が残る「大内宿(おおうちじゅく)」のある町として有名ですが、他にも見どころはたくさんあります。今回は国指定の天然記念物「塔のへつり」や旅情あふれる「湯野上(ゆのかみ)温泉」など、下郷町にある観光スポットを巡りながら、自然と温泉に癒されてきました。

100万年の時が創り出す、自然の造形美「塔のへつり」

東京から下郷町までのアクセスは、車を利用すれば約3時間。鉄道なら東北新幹線~JR磐越西線~会津鉄道・会津線を乗り継いで約3時間30分。会津線は西若松駅~会津高原尾瀬口駅間の57.4kmをつなぐ鉄道で、西若松駅から8駅目にある「塔のへつり駅」は、緑の木々の中に佇む無人駅です。
▲2002(平成14)年に東北の駅百選に認定された、塔のへつり駅の入口
▲緑の中を走る赤い車体が印象的な会津線
▲会津線は、ほぼ1時間に1本運行。聞こえるのは風の音と葉の揺れる音、そして鳥のさえずり。空気がとても爽やかです

今回は下郷町観光ガイドを利用することに(ガイド料30~60分2,000円~・税込、下郷町観光公社に1週間までに予約が必要)。滞在時間に合わせてガイドをお願いすることも可能です。
この日は塔のへつり駅でガイドの小椋勝美(おぐらかつみ)さんと落ち合って、散策スタートです!
▲「早速、景勝地として知られる塔のへつりを見にいきましょう」(小椋さん)

塔のへつり駅からは徒歩3分ほど。車で向かう場合は、途中にある有料駐車場(普通車・税込300円)を利用すると便利です。
▲売店や食堂がある広場に到着。案内板を見ながら小椋さんから説明を受けます
▲この一帯は別名「藤見公園」と呼ばれ、取材時(5月中旬)には満開の藤の花を眺めることができました

“へつり”とは、この地方の方言で「川に迫った断崖や急な斜面」のことだそう。もともとは海だったこの場所が地盤の隆起とともに風雨にさらされ、水流によって軟らかい部分がえぐられて、100万年以上もの長い年月をかけて浸食と風化を繰り返すことで“へつり”を創っていったそうです。
▲ついに見えてきました!これが塔のへつりです!
▲案内板の脇には、かつて海だったことを伝える張り紙が!

「約12~13万年前から塔のへつりが形創られてきたと推定されているんです」と小椋さん。辺り一面には厳かな空気が流れ、一つ一つの岩と渓谷美が見る者を圧倒します。
▲これら塔のようにそそり立つ10の奇岩群は、1943(昭和18)年に国の天然記念物に指定されました
▲それぞれの岩には形の特徴から「鷲塔岩(わしとういわ)」「鷹塔岩(たかとういわ)」といった名がつけられています。いちばん高い塔岩は、高さ70mほどあるそうです

「向こう岸には吊り橋で渡ることができます。断崖の上にはパワースポットとして知られているお堂があるんですよ」。
小椋さんに促され、やや急な階段を下りて川をつなぐ吊り橋のほうへ行ってみることにしました。

吊り橋の下を流れるのは阿賀川(通称:大川)。なお、会津線はこの川にほぼ並行して敷設されています。
▲大川にかかる、全長約40m、幅1.1mの吊り橋
▲吊り橋は荷重制限があり、一度に渡れるのは約30人まで。ギシギシ音がしたり、少し揺れたり、スリリングな雰囲気もまた楽しいですよね

吊り橋を渡り終えると、左側に数段の階段が設けられています。そこを下りると、浸食して通路のようになっている部分を歩くことができます。「手摺りがないので気を付けてくださいね」と小椋さん。通路は大人一人が通れるだけの幅で、途中に急な階段もあるので、スニーカーやヒールの低い靴などで向かうことをおすすめします。
▲通路のえぐれた部分に立ってみると、高さは180cmくらい

約31m歩くと、突きあたったところに「虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)」と書かれた赤い旗が見えました。招かれるように階段を上ってみると、43段上ったところに洞窟が。その中には、入口にはおみくじがたくさん付いた神秘的な雰囲気のお堂が立っていました!
▲迎えてくれたのは町内にある旭田寺(きょくでんじ)の宗像(むねかた)住職。不定期でこちらに通い、お堂を守っています

宗像住職曰く、「このお堂は807(大同2)年、虚空蔵様を祀るために坂上田村麻呂によって建てられました。現在のお堂は江戸時代に再建したものです」とのこと。薄暗い洞窟の真ん中には菩薩様が鎮座しています。そのご利益をいただこうと、縁結びや長寿祈願で参拝に訪れる人たちが後を絶ちません。
▲お守りの種類も様々
▲御朱印をいただくこともできますよ(300円)※ただし、御朱印やお守りの授与は住職が在寺の時に限る(日時は不定期)
▲お堂前からの眺め。ゆったりと時が過ぎていきます

100万年前の太古の歴史が創りだした塔のへつりの景観と、1200年以上も前から人々を見守り続けてきた菩薩様。神々しさすら覚えるこの場所で、パワーをもらえた気がしました。

ランチのできるお店を教えてもらいながら、ガイドの小椋さんとはここでお別れ。わかりやすく説明していただき、ありがとうございました!

木のぬくもり漂う「カントリーキッチン土炉子」でランチ

「塔のへつり」で自然を満喫した後は、お腹も満たしたい…ということで、塔のへつり駅から車で2分ほどのところにある「カントリーキッチン土炉子(どろんこ)」へ。
▲「下郷町物産館」の道向かいにある、ログハウス調のお店

こちらは、自家製の燻製ベーコンを挟んだホットドッグやハンバーガーが人気のカフェレストラン。店主の山田俊子さんの手による自家製のパンはもちっと弾力があり、食べごたえ十分です。バンズに挟まれたベーコンの香ばしさも食欲をそそります。ハンバーガー、ホットドッグのセットにはコールスローサラダ、ポテト、ドリンクが付くのでランチにぴったり!
▲町特産のエゴマ(十念)を生地に練りこんだバンズがおいしい「バーガーセット」1,050円(税込)
▲竹炭を生地に練りこんだ真っ黒なパンがインパクト大の「ホットドッグのセット」950円(税込)もおすすめ

「この町がエゴマの生産地だということやおいしい食材の豊庫であることを伝えていきたくて」と語る山田さんは、料理を通して町の良さをPRしています。ちなみに“すぐ売り切れてしまう”というチーズケーキは、この日もやはり売り切れ…。次回は「ぜひ食べてみたい」と思いながら、お店を後にしました。

囲炉裏のある茅葺屋根の駅舎が特徴的な「湯野上温泉駅」

さて、次の目的地は「湯野上温泉」。最寄り駅である湯野上温泉駅は、塔のへつり駅からわずか1駅(運賃270円・税込)、車なら5分くらいの場所にあります。
▲自家用車の中から、崖に咲く藤の花を眺めることができます

この日は車で湯野上温泉駅へ。こちらの駅は、同町を代表する観光スポット「大内宿」が1981(昭和56)年に国の重要伝統的建造物群保存地区として選定されたことをきっかけに、その玄関口として1987(昭和62)年に建てられたもの。

全国初の茅葺屋根の駅舎として知られており、特に桜の時季は茅葺きの駅舎と列車が織りなす風情豊かな光景を求めて、カメラを持った多くの観光客が訪れます。ピーク時の乗降客は1日500~800人にも上るそうです。
▲駅舎は観光客の人気の撮影スポット。こんな素敵な駅に降り立ったら、ワクワク感が高まりますね!
▲春になると、ホーム脇に咲く満開のソメイヨシノが列車を出迎えてくれます

駅舎内には囲炉裏があり、乗降客はもちろん誰でも自由に利用できる休憩所になっています。屋根の茅などにひそむ虫を駆除するため、囲炉裏に火を入れる「いぶり出し」作業を定期的に行いながら、茅葺屋根の保存をしています。
▲故郷に帰ってきたような、懐かしい雰囲気の駅舎内
▲駅舎内には、自由に食べられる地元の漬物や下郷町名物の「しんごろう」が並ぶことも。素敵なおもてなしに感動!

「しんごろう」とは、半つきにした白米に「じゅうねん味噌(エゴマをたっぷり入れた甘めの味噌)」をたっぷり塗った郷土料理です。食感は“ワイルドなおはぎ”のよう。一般的な「しんごろう」は10cmほどの大きさですが、この駅舎の「しんごろう」は半分くらいの大きさなので、ちょっとしたおやつにピッタリ。
▲湯野上温泉駅を訪れたら、ぜひ味わいたいですね!(1本150円・税込)
▲駅舎の隣には足湯も(無料)。列車を見ながら疲れを癒やすことができます(営業時間:8:00~19:00)
▲足湯の傍にあった、観光地お決まりの顔出しパネルでパチリ!「オホホホホ…」

いで湯と渓谷の里「湯野上温泉」へ

駅舎でひと休みした後は、大川沿いを散策しながら温泉街へと向かいます。温泉街までは車で約3分、歩いても10分程度です。

途中、川岸に目をやると「夫婦岩」を見ることができました。
▲左が男岩(約26m)、右が女岩(約23m)。2つあわせて「夫婦岩」と呼ばれています
▲やってきました、湯野上温泉!

湯野上温泉は奈良時代に発見された古湯。その昔、怪我をした猿が湯に浸かりながら傷を治したとされていることから、「猿湯」とも呼ばれています。2019年6月現在、8軒の旅館と17軒の民宿があります。
▲湯野上橋から大川渓谷の清流に広がる温泉郷を一望
▲国道121号沿いの通りは、ノスタルジックな雰囲気が漂います
▲国道から、旅館や民宿が点在する「ほのぼの通り」へ。車の往来が少ないのでゆっくり散策が楽しめます

美肌の湯としても知られるこちらの温泉の泉質は「弱アルカリ性低張性高温泉」。源泉は7カ所あり、毎分3,000リットルという豊富な湧出量が特徴です。
▲「ほのぼの通り」を散歩中、足湯を見つけました。源泉100%かけ流しなので湯温は高め
▲アートな壁を発見!古い町並みの中に、映えスポットがあるって楽しいですね

親子で営む、ぬくもりあふれる「民宿 いなりや」を訪ねて

温泉街を散策した後は、この日に宿泊するお宿「民宿 いなりや」さんへ。3代目店主の星哲郎(てつろう)さんと女将の星タカ子さん、親子2人で切り盛りしている、1日4組限定のアットホームな民宿です。
▲赤い鳥居が目印の「いなりや」
▲とても気さくなお二人。笑顔で迎えていただき、疲れも一気に吹き飛んでしまいました!

1992(平成4)年に改装した館内は明るく、ぬくもりを感じられる造り。洗面所とトイレは共用ですが、掃除も行き届いていて、気持ちよく過ごすことができます。

「親子二人で営んでいるため、お客様に満足していただけるように心を込めておもてなしできる組数が4組様のみなんです」と哲郎さん。「自由にゆっくりと過ごしていただきたいです、お客様は家族ですから」とタカ子さんも話します。
▲1階に浴場や食事をとる大広間、いろり部屋があり、2階に4つの客室があります
▲客室は10畳1部屋、8畳1部屋、6畳2部屋。いずれも落ち着いた和室です。民宿なので、布団の上げ下ろしはお客さん自らで

夕食の前にお風呂に入らせていただくことにしました。浴室は男女に分かれ、それぞれに内風呂と露天風呂があります。入れ替え制ではありません。また、脱衣所にはカゴが4つ。ドライヤーも用意されています。
▲緑に囲まれた露天風呂(女湯)。木々の香りに癒されながらの入浴は至福のひととき
▲内風呂は4~5人が同時でもゆったりと入れる大きさ。シャワーは2台完備されています

内湯、露天風呂ともに源泉かけ流し。泉温が54~58度と高めなので、加水して42度前後の湯温に調整しています。湯は無色透明で、やわらかい肌ざわり。刺激が弱いので気持ちよく入浴でき、体の芯から温まります。なお、日帰りで入浴だけを楽しむことも可能ですよ(日帰り入浴時間12:00~15:00、18:00以降/入湯料500円・税込)。

囲炉裏を囲みながら食べる料理に大満足

お風呂から上がり、すっきりしたところでお楽しみの夕食タイム。この日は囲炉裏を囲みながら、川魚の炭火焼もいただくことにしました。ちなみに、囲炉裏を囲んでの食事プランは1日1組限定!
▲地元の食材を使った煮物や山菜の天ぷら、店主が打った田舎蕎麦など数えきれない料理の数々

食卓には、特製の割烹料理が次々に並びます。その品数の多さには唖然とするばかり!
「遠くから来ていただいたお客様に、お腹いっぱいになって帰っていただきたくて」と哲郎さん。「食でもてなしたい」という思いが伝わってきます。
▲ホテルや割烹料理店で腕を磨いてきた哲郎さんによる見事な飾り切り
▲大根で作った蝶々。「可愛すぎる!」
▲地元で採れた山菜や野菜の天ぷらは約20種類。「これで1人前って嘘でしょ?!」
▲極めつけは、器からはみ出るほどの大きなおいなりさん

手の込んだ料理は、いずれも食材を生かした優しい味わい。食べ切れないほどの量の多さには驚くばかりですが、次から次へと箸が伸びるおいしさです。

さらに囲炉裏プランでは、通常の料理に加え、炭火焼の川魚を味わうこともできます。囲炉裏のある部屋には炭火焼の香ばしい香りが広がります。
▲初めての囲炉裏体験にワクワク!
▲この日の魚は地元で獲れた鮎(写真の鮎は3人前)。炭火でじっくり焼いた魚は、皮はこんがり、奥までしっかりと火が通っています

本格的な料理にお腹もすっかり満たされて、「ごちそうさまでした!」店主たちの温かい心に触れることができた「いなりや」は、「また来たい」と思わせてくれるぬくもりにあふれた民宿でした。
▲夜になると、露天風呂から電車の明かりを見ることができます
いかがでしたか?「塔のへつり」の豊かな自然と「湯野上温泉」での人とのふれあい、そしてノスタルジックな雰囲気に癒された一泊二日の旅。下郷町は「ただいま~!」と、また訪ねてみたくなる町でした。ぜひ皆さんももうひとつの“故郷”に合いに出かけてみませんか?

撮影:佐藤友美
佐藤昌子

佐藤昌子

エディター&ライター。オフィス マウマウワン代表。山形県内を中心にタウン誌、フリーペーパーや企業広報誌等ジャンル問わず、印刷物の企画、取材・編集の仕事を手掛ける傍ら、モデルハウスのディスプレイやリメイク等『気持ちの良い暮らし方』も提案している。

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報は直接取材先へお問い合わせください。
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