昭和レトロと新しい!が混在する、鹿児島屈指のディープスポット「名山堀」を大満喫♪

2019.07.11 更新

鹿児島市の中心地にありながら、昭和の下町情緒あふれるディープスポット「名山堀(めいざんぼり)」。ここには、鰻の寝床のように狭い長屋に飲食店を中心とするこぢんまりとした個人経営のお店が軒を連ねています。老舗の居酒屋からおしゃれなカフェ、わずか2坪のギャラリーなど、個性的な店舗がひしめく「名山堀」を探訪しました。

▲夜は飲食店から漏れる灯りと路地にたちこめるいい匂いに、ついハシゴ酒

官庁街に突如出現する、古き良き昭和の町

名山堀は、鹿児島市の繁華街「天文館(てんもんかん)」から徒歩で約10分、路面電車を利用すると、天文館電停から2駅目の「市役所前電停」を降りてすぐの所にあります。
▲名山堀のメインストリート。写真奥には路面電車が走っている。官庁街とのギャップには誰もが驚くはず!

この界隈は、オフィスや市役所などが立ち並ぶ鹿児島市の官庁街ですが、路面電車が走る「電車通り」から一本筋を入ると、昭和の時代にタイムスリップしたかのようなレトロな町並みが広がっています。この一帯が名山堀というエリアです。

名山堀には赤提灯が揺れる老舗も多いのですが、ここ2、3年で空き家をリノベーションしてお店をオープンする若者が増えたことで、再び注目が集まっているんです。小さなお店がひしめき合う名山堀。とりあえずメインストリートをぶらぶら歩いてみることにしました。

ゆる~くアートを楽しめる「三街区ギャラリー」。その驚きのシステムとは?

▲取材時(2019年5月17日)はアマチュアカメラマンの写真展を開催していた

メインストリートの中ほどに、真っ白にペイントされた建物を発見!黒板には写真展の案内が出ており、小さな看板には「三街区ギャラリー」と書かれています。どうやらギャラリーのようですが……?ひとまず中に入ってみましょう。
驚くべきことに中は無人!しかも無料で観覧できるようです。2坪ほどの小さなスペースに、額装されていないモノクロ写真がランダムに飾られ、何とも不思議な空間です。
入り口の手前には芳名帳がありました。それにしても、このギャラリーはどういうシステムになっているのでしょうか。オーナーに話を聞いてみました。
▲大庭学(がく)さんの本職は、プロカメラマン

「三街区ギャラリー」のオーナーは、名山堀の一本先にある「みなと大通り公園」沿いに事務所を構えるプロカメラマンの大庭学さん。写真スタジオに勤務していた2010年頃、大庭さんは撮影で訪れた名山堀のレトロな雰囲気に魅了されたのだそう。

「誰もが気軽に作品を発表できて、気軽にお客さんに見てもらえるようなギャラリーを作りたいとずっと思っていたので、名山堀で空き物件を見つけたときは即決しました。この界隈には他にも2カ所ギャラリーがあるから、気軽にアートを楽しめるエリアになればと思っています」と大庭さん。
▲かつてこの辺りが“三街区”と呼ばれていたことが名前の由来

「三街区ギャラリー」の展示スペースは、1日税込1,000円でレンタルできるため、老若男女、プロ・アマ、国籍問わずさまざまな人が写真や絵画などの企画展を開催しているそうです。特に定期的に開催している「2L持ち込み写真展」(誰もが自由に2Lサイズの写真を持ち込んで展示できる企画)は大好評なのだとか。

展覧会の期間中は、作家が在廊していることもありますが、クーラーや暖房の設備がないため、基本的には無人ギャラリー。「展覧会の開催期間にかかわらず、なるべく開けるようにしていますが、開廊時間などを決めているわけではないので、『開いていたら見てみようかな』ぐらいの軽い気持ちで立ち寄っていただきたいですね」と大庭さんは話します。

普段ギャラリーや美術館に足を運ばない人でも、気負わずに入れるのが無人ギャラリーの魅力。ぜひ気軽にのぞいてみてくださいね。

「epice.café.kagoshima」で本場のインドカレーを堪能

三街区ギャラリーから迷路のように続く細い路地を東側に抜けて、車道に出てきました。車道に沿って、昭和の雰囲気が漂う古民家や商店が立ち並ぶ中、5mほど先にブルーグレーの外壁がとびきりかわいいカフェを発見!お店の名前は「epice.café.kagoshima」(以下、エピスカフェ)。ちょうどお腹も空いてきたので、ここでランチをいただくことに。
▲エピスカフェの外観

開け放たれたドアの向こうから漂うカレーの匂い……。吸い寄せられるように店内へと入っていきます。
▲店主の菱田園子(ひしだそのこ)さん

小さなテーブル席とカウンター席が設えられた店内は、センスよくグリーンやドライフラワーが飾られ、ホッと落ち着けるような温かい雰囲気。ここでは、4種類のカレーが楽しめます。
季節の野菜をたっぷり使った「野菜のカレー」、軟らかく煮込んだチキンレッグがのった「ジャイカカレー」、そして「カツカレー」、「ハンバーグカレー」(ドリンク付き、各税込1,000円)のうち、筆者は人気の「ジャイカカレー」をチョイスし、待つこと数分……。
▲ボリューミーなチキンレッグがのった食べごたえ抜群の「ジャイカカレー」

じゃーん!「ジャイカカレー」の登場です。主役のチキンレッグに目を奪われますが、千切りキャベツやキャベツのサブジ(炒め物)がこんもりと盛られているのも女性としてはうれしい限り!

一度焼いてから煮込むというチキンレッグは、口に入れるとホロリと崩れる軟らかさ。スパイシーでありながら辛すぎないルウは、玉ネギ、トマト、カシューナッツをベースに、10数種類のスパイスをブレンドして作っているそうです。
カツカレーのみポークカレーがベースですが、それ以外のカレーはジャイカカレーのルウをベースに、具材に合わせてスパイスを変えているのだとか。
▲ルウのレシピは本場インドの人から直接教わったとのこと

この薄いお煎餅のようなものは、豆を原料に作られる「パパド」という食べ物。火で軽く炙っているため、香ばしくてパリッとした食感を楽しめます。パパドはインドカレーには欠かせない食べ物なんです。

なおエピスカフェには、ミニカレー付きで野菜のおかずがメインの「プレートごはん」(数量限定、税込1,200円、ドリンク付きプラス税込100円)もありますよ。

お肉も野菜もたっぷり食べられて幸せ……。ドリンクセットで選んだラッシーを飲んでお口直しも完璧。ランチを堪能したあとは、お店の2階をのぞいてみることに。
階段を上がると、窓に向かって設えられた席が3席。気持ち良さそう!
部屋の奥にはゆったりとくつろげるベンチ席があります。何だか屋根裏部屋みたいでワクワクします。この席なら5、6名でも余裕を持って座れそうですね。
▲2階から見た店内

お店の内装は、建設業を営む菱田さんのご主人の手によるもの。リノベーションにより新たな息吹が吹き込まれた古民家は、ずっとここに居たくなるほどの心地良さです。

常連客や名山堀散策に訪れた人、市役所帰りの人など、さまざまなお客さんが訪れるため、ランチは売り切れることも多いそう。特に「プレートごはん」は数量限定のため、事前の予約をおすすめします。

名山堀の長い歴史とは?

さて、お腹を満たしたら散策再開!再び「三街区ギャラリー」があったメインストリートにやって来ました。ぶらぶら歩いていると、老舗らしき商店の軒先に店主さんの姿が。思い切って話しかけてみると、名山堀のことを色々話してくれました。
▲店主さんは「恥ずかしいから顔出しはNG」とのことで後ろ姿をパシャリ

名山堀の路地の中ほどにある「岩元商店」は、戦後間もない1948(昭和23)年に創業した創業70年をこえるお店。店主の岩元悦子さんは、ご両親が始めたこの商店で生まれ育ち、名山堀の変遷を見守ってきました。

「この界隈には、江戸時代に築かれた水路が通っていたから『名山堀』と呼ばれるようになったの。鹿児島港が近いこの地に、戦後、奄美や沖縄に帰れない民間人や引き上げ軍人が、バラック小屋を建てて商売を始め、やがて『名山堀市場』という県内でも最大規模のヤミ市が誕生したのよ」と岩元さん。
▲日用品や洋服、文房具などさまざまなものが揃う「名山堀」唯一の商店

戦後の混乱が治まると、付近にあった県庁や鹿児島の地方紙「南日本新聞」(共に現在は移転)、市役所などの職員や社員が仕事帰りにお酒を楽しむ歓楽街として発展。「岩元商店」もその頃から店を構え、大繁盛していたそうです。

現在は「岩元商店」同様、長い歴史を持つ老舗に加え、空き家をリノベーションして店を始める若者も増えました。岩元さんは、名山堀に新たに加わった住民とも大の仲良し。お客さんはもちろんのこと、ご近所同士のコミュニケーションも楽しんでいるそうです。

角打ちスタイルの「ふとし商店」でサクッと一杯!

岩元さんと話し込んでいたら、すっかり夕方になってしまいました。飲食店の多い「名山堀」。この辺りは夕方以降が最も賑わう時間帯です。とはいえ、まだ腰を落ち着けてお酒を飲むにはちょっと早いので、サクッと一杯引っ掛けるのにぴったりなお店に行くことにしました。
というわけで、やって来たのはランチをいただいた「エピスカフェ」から徒歩30秒ほどのところにある「ふとし商店」。一見、普通のコンビニに見えますが、ただのコンビニじゃないんです。
店主の太志博義(ふとしひろよし)さん・早苗さんご夫婦が共に徳之島出身ということで、店の半分は奄美群島の特産品・黒糖焼酎が豊富に揃う酒屋として営業しています。
そして、店の奥半分は17:30から居酒屋としても営業。ご夫婦が結婚して以来、ずっと酒屋・コンビニとして営業を続けてきましたが、市電が走る大通り沿いに相次いで大手のコンビニがオープンすると売上が低迷。悩んだ末、2016年に居酒屋を始めたところ、たちまち口コミで大評判となりました。
▲焼酎ケースをひっくり返し、黒糖焼酎の酒造メーカーの前掛けで包んだお手製の椅子

椅子やテーブルは、あるものをリメイクしたり友人から譲り受けたもの。焼酎ケースで作った椅子など、角打ちっぽい雰囲気で味があります。
▲メニューを見てビックリ。お酒も料理も驚愕の安さ!

料理はおでんや徳之島の郷土料理がメインで、すべて早苗さんが毎日手作りしています。さっそく、おすすめのメニューを注文してみました。
▲手前から時計回りに「玉子おにぎり」(1個100円)、「こうまきぶに(塩味豚足)」450円、「おでん」(380円)、「竹輪しそ生姜巻」、「みそピーナッツ」、「ホルモン煮込」(230円)※すべて税込

いやー、1杯だけのつもりですが、1杯で済む気がしません。最高においしい早苗さん手作りのお料理の中でも、やっぱりここに来たら徳之島の郷土料理は外せません。
「みそピーナッツ」は、揚げたてのピーナッツに奄美の粒みそをあえたシンプルなおつまみ。香ばしいピーナッツに程よく塩の効いた粒みそが絡み、食べ始めたらやめられないおいしさです。この粒みそは、炒めものや「みそピーナッツ」専用のもので、粒が粗く普通のみそより少ししょっぱいのが特徴。キュウリなどにつけて食べてもおいしいそうですよ。
また、プルンプルンの「こうまきぶに(徳之島の方言で塩味豚足のこと)」も美味!塩だけで味付けし、コトコトと煮込んだ豚足は、臭みや脂っぽさはまったくなく、黒糖焼酎との相性も抜群です。
そして、シメにほとんどのお客さんが注文するというのがこの「玉子おにぎり」。塩むすびを薄焼き玉子で包んだこのおにぎりは、徳之島のソウルフード。子どもも大人も大好きな味です。

ガッツリ飲みたいなら、コース(要予約)がおすすめ。7品前後の料理を税込1,500円(ドリンク代別途)で楽しめるので、お腹いっぱいになれちゃいますよ!
▲店主の太志博義さん(右)と早苗さん(左)

「居酒屋を始めたことで、お客さんとコミュニケーションが取れたり、お客さん同士が仲良くなったりするのがうれしいですね。そして、奄美にゆかりがない人も、うちの店で食事することで奄美の文化に触れるきっかけになったらと思っています」と博義さんは言います。
お店には、徳之島の一大イベント「闘牛」の写真も。島から離れてもなお、故郷に思いを寄せるお二人の気持ちが伝わる、すてきなお店です。

気取らずに、ゆったりしっぽり飲みたい店「HAY grill & coffee」

とっぷりと日が暮れ、「ふとし商店」を後にした筆者。はしご酒を楽しむべく向かったのは、「ふとし商店」から徒歩1分ほどのところにひっそりと佇む「HAY grill & coffee(ハイグリルアンドコーヒー)」(以下、「HAY」)。2016年にオープンしたこのお店では、ワインや有機野菜をふんだんに使った料理が楽しめます。
▲お店の前を通るだけで、雰囲気の良さが伝わってくる
▲店主の林賢太さんは、飲食店の空間デザイン等を行う飲食店ディレクターとしても活動

林さんは、この界隈で生まれ育った地元っ子。高校卒業後に上京し飲食業界はもちろん、家具デザインやインテリア等の仕事にも携わり、幅広い経験と知識を積みました。そして地元に戻り、家業の中華料理店のリニューアルに携わった後、念願だった自分の店をオープンしたのだそう。そんな林さんが作る料理は、素材本来の味を引き立てる“シンプル・イズ・ベスト”な逸品ばかり。
▲「有機野菜のグリル」(税込1,296円)は、ビーガンの外国人にも好評

数あるメニューの中でも人気なのが、旬の野菜をスキレットで豪快に焼いた「有機野菜のグリル」。有機野菜を、豆乳をベースにピンクペッパーでアクセントをプラスした「ビーガンバーニャカウダーソース」にディップしていただきます。
オリーブオイルとクリーミーな豆乳のソースが、旬の野菜の甘みを最大限に引き出しています。これはワインと共にじっくり味わいたい!
▲「真鯵と大葉とキュウリのピリ辛セビーチェ」(税込842円)

続いて注文したのは、「セビーチェ」という料理。「セビーチェ」とはメキシコやペルーで食べられている魚介のマリネのようなもので、魚の種類は仕入れによって変わりますが「HAY」の定番メニューの一つです。

マリネといっても酸味はかなりマイルド。プリっとした真鯵の旨みとシャキシャキのキュウリの食感、そして香味野菜の風味を同時に楽しめ、さっぱりといただけます。
▲お客さんは常連客や外国人が多いそう

お店で使用している野菜は、基本的に鹿児島の県日置(ひおき)市と南さつま市坊津(ぼうのつ)の有機農家さんから仕入れていますが、近所のおばちゃんから野菜やニンニクなどをいただくことも多いのだとか。「有機野菜のグリル」の添え物として使用しているローズマリーに至っては、「お隣のパン屋さんの店先に植えているものを摘ませてもらった」というから驚きます。

「名山堀の人はみんな仲がいいから、いつもこんな感じなんですよ」と林さんは言います。
そんなご近所付き合いを楽しむ中で、林さんは今、あることを企てているのだそう。「近所の店とうちで『昼飲み名山』を流行らせようという話になって、日曜はお昼の14:00から営業してるんですよ」。休日の昼に飲むお酒は格別!昼間からはしご酒ができるなんて、何という贅沢!
名山堀の温かな人間模様が相まって、「HAY」のおいしい料理とくつろぎの空間を作り出しているようにも思えます。気のおけない仲間としっぽり飲み明かしたいとき、あるいは1人でのんびり飲みたいときに、自然と足が向いてしまうようなお店です。
そんなこんなで、名山堀の夜は更けていきました。今回訪れたお店の店主は皆「ご近所同士が仲がいい」と口を揃えます。ここに集まっているのは小さなお店ばかり。そのほとんどが、1人もしくは夫婦でお店を切り盛りしています。だからこそ、「困ったときはお互い様」の精神で、年齢や性別などの垣根を超え、支え合って生きていく精神が根付いているのかもしれません。
▲「三街区ギャラリー」のオーナー大庭さんが名山堀を歩けば、あちこちのお店の店主から声をかけられる

ゆるりと流れる時間と、小さな路地のあちこちで飛び交う挨拶。名山堀の魅力は、昭和レトロな雰囲気だけではありません。忙しさで張り詰めた心も緩んでしまうような、優しく温かな空気が流れている気がします。

今回ご紹介したお店はどれも個人店ゆえに、定休日でなくても臨時休業することもありますが、名山堀には他にもたくさんすてきなお店があるので、ぜひ色々なお店を回ってみてください。
さわだ悠伊

さわだ悠伊

鹿児島市出身・在住のフリーライター。グルメ、旅、コラム等ジャンルや媒体を問わず活動中。鹿児島県内の離島取材も豊富。

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報は直接取材先へお問い合わせください。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。

こちらもおすすめ

もっと見る
PAGE TOP