京都・島原で、太夫も愛する特製輪違点心と新選組も通った最古の公許花街ツアー
日本最古の公許花街(こうきょかがい)・島原で、今も太夫が舞うお座敷に料理を届けている日本料理屋「島原 乙文(しまばら おとぶん)」。島原に生まれ育った4代目若主人が解説する江戸時代から脈々と続く歴史に耳を傾けた後、ランチをいただき、島原散策するオリジナルプランをご紹介します。

古くから花街にて仕出し屋として営んできた「島原 乙文」
今回は、そんな島原の真ん中で息づいてきた「島原 乙文」(以下、乙文)で時代を知り、歴史を感じる特別なプランを体験します。

乙文は2019年3月に新設されたJR梅小路西駅と、JR丹波口駅のちょうど中間に位置し、それぞれ徒歩5分ほど。島原を象徴する「島原大門」のすぐそばにあります。

さっそく4代目主人の木村さんがお出迎え。そのほっこりとする温かな佇まいに、緊張が一気にほぐれました。
「蒸し寿司」が有名な京都・新京極の老舗「乙羽」で修業を積んだ木村さんの曾祖父・文治郎(ぶんじろう)氏が、昭和2(1927)年に創業した乙文は、寿司屋として始まりました。当時の島原は大変な賑わいで、昭和元(1926)年には271名(太夫28名、娼妓243名)だったこの地で働く女性たちが、わずか6年後には525名にまで増えたとか。乙文もさぞかし繁盛していたことでしょう。
その後2代目が幕の内弁当を始め、3代目が会席料理を、そして現在、4代目は茶懐石の要素を取り入れるためお茶の稽古をつけてもらうなど、料理の幅を広げつつありますが、お寿司は乙文の原点として今も丁寧に握られ続けています。

乙文は、島原で唯一稼働している置屋兼お茶屋「輪違屋(わちがいや)」(後述)に仕出しをしたり、そこに所属する太夫にお土産用の折詰を依頼されたりと、今なお深い関係を築いています。「輪違屋」へは食後の散策の時に訪れるとか。がぜん楽しみになってきました。


豊臣秀吉により二条万里小路(万里小路は柳馬場の旧名)に日本で初めて政府から認められた公許花街が誕生。その後、徳川家康の統治時代に、京都所司代・板倉勝重(きょうとしょしだい・いたくらかつしげ)の命で六条へ移転し、さらに寛永18(1641)年にこの地へ移されて、島原は明治5(1873)年まで公に認められた「傾城町(けいせいまち)」として栄えたそうです。

「“傾城”とは、官の許しを得て宴席で接待をする女性のことです。そのなかでも芸妓部門の最高位が“太夫”で、舞・和歌・茶道・華道・楽器・料理など、あらゆる技芸を身につけた女性しかなることはできません。島原の太夫は花魁と間違われることもありますが、まったく違います。太夫は男性を芸で楽しませる、いわば憧れの存在です。現代なら“大女優”といったところでしょうか」(木村さん)


プラン限定の特別なお弁当箱で、4代続く滋味をいただく


「点心」とは空腹時にとる食事のことで、禅用語です。ふたつの輪が重なりあったような形の漆塗りのお弁当箱は、乙文のオリジナル。「輪違屋」のマークをかたどっていて、輪違屋への仕出し以外ではこのプランだけで使われる特別なものだとか。お料理の内容もプラン限定なんです!




「代々引き継がれてきた味わいで、素材の滋味を引き出すことを心がけています。長年仕出しをしてきましたので、時間が経ってこそ食感、香り、旨みのある料理だと自負しています」(木村さん)

新選組も愛した島原で歴史トリップ

この「島原大門」は、昭和61(1986)年に京都市登録有形文化財に指定されました。島原で江戸時代の名残があるものは、この大門と輪違屋、角屋(すみや※後述)の3つしかないそうです。


大門をくぐったほど近くに、現在の島原で唯一営業している置屋兼お茶屋「輪違屋」があります。こちらも昭和59(1984)年に京都市の指定重要文化財に登録されました。
「輪違屋は元禄時代に置屋として創業し、明治5(1872)年にお茶屋との兼業を始めました。置屋とは太夫や芸妓を住み込みで抱える店のこと。お茶屋は置屋から太夫や芸妓を派遣してもらい、宴席を開く場所です。その宴席での料理は、私どものような料理屋から仕出しをとるというスタイルが主流です。今でも乙文は輪違屋へお料理をお届けしています。こちらは“観覧謝絶”の看板がかかり、いわゆる“一見さんお断り”です」(木村さん)




木村さんの案内はどんどん続きます。次は、島原を知るなら必ず訪れたいスポット「角屋」へ。

「角屋さんは島原に花街が移転した寛永18(1641)年に建てられた揚屋(あげや)です。揚屋とはお茶屋のように置屋から太夫や芸妓を呼びますが、台所があり自前の料理を提供します。今の料亭のようなものですね。昭和27(1952)年には、国の重要文化財に指定されました」(木村さん)
昭和60(1985)年に揚屋としての営業を終え、今は「角屋もてなしの文化美術館」として春と秋に一般公開されています。今回は時季が合わなかったので、中に入れず残念!
でもその貫禄のある外観を眺めるだけでも、「ここに太夫とお客さんとの間の、さまざまなドラマがあったんだな」と感じずにはいられません。


江戸時代から昭和初期にかけては、毎日のようにこの通りで、太夫が置屋からお茶屋や揚屋へ向かう、太夫道中が繰り広げられていたそうです。木村さんの流暢(りゅうちょう)な解説を聞きながら島原の街を散策すると、その光景が脳裏に浮かび、まるでタイムスリップしたかのよう。歴女でなくても、とても感慨深くなりました。

「島原という名前は知っているけれど、どういう場所でどんな生活があったのかを知る人は、今では少なくなりました。今でも多くの観光客の方が訪れますが、島原の住人からの発信が少なく、興味を持ってくださった方にその魅力が届ききっていないことを歯がゆく感じていました。今では輪違屋だけがお茶屋として営業しており、太夫も5名しかいません。ですが、島原の持つポテンシャルはとても高いものです。決して終わった街ではありません。料理を通じて島原の文化を残し、伝えていく。それが、島原に生まれ育った私の仕事だと思っています」(木村さん)

撮影:久保田狐庵

竹中式子
フリーの編集者兼ライター。京都・伏見育ち。東京の出版社で16年間、漫画やライフスタイル誌の編集に関わったのち退職。そのまま台湾遊学という、一種典型的なアラフォー女性の道を歩みました。台湾では美味しいもの探しの日々を満喫。帰国後は伏見の水と清酒を飲みながら、久々に身近になった京都の文化を勉強中です。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。
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