秋田で出会う、「稲庭うどん」の幻の生麺

2015.10.29 更新

日本三大うどんのひとつ、秋田県の「稲庭うどん」。手延べの干うどんで、細めでちょっと平べったくて、滑らかでつるっとしたのどごし…。とは分かっていても、その上品さだけで、多彩な食べ方があることはあまり知られていないのでは――。そこで、秋田駅からぶらっと歩いて行けるお店から、ひと味違った食べ方をご紹介します。

香川の「讃岐うどん」、名古屋の「きしめん」。このふたつは気軽に各店を回って食べ比べられるのに、「稲庭うどん」はあまり食べ歩く雰囲気ではない…。そう思っている旅人は多いはず。

今回はそんな「稲庭うどん」のイメージを覆させてくれるお店にお邪魔してきました。「稲庭うどん」の歴史が始まる寛文5(1665)年の年号をその名に持つ「寛文五年堂(かんぶんごねんどう)」です。
▲銅銭に「寛文五年」の文字をはめたマークが目印の「寛文五年堂」

ここは秋田駅から歩いていける、中通地区の複合施設「エリアなかいち」にある名店。「稲庭うどん」の本場は湯沢市ですが、秋田駅周辺にも数軒、「稲庭うどん」の専門店があります。
▲和風の店内は居心地がいい

職人だけが食べていた「生麺」

稲庭うどんはかつて保存食としても重用され、乾麺であることが一番の特徴。一方、職人のあいだで密かに受け継がれてきたのが「生麺」です。乾麺とは別に、職人とその家族だけがこっそり、密かにつくって食べてきたといわれています。

そんな「生麺」が、ここ「寛文五年堂」で食べられるというのです。現在「生麺」は、うどん作りのベテラン職人が2名のみで仕上げているため、1日に作られる量に限りがあり、まさに“幻の生麺”といえます。それではさっそく、「生麺」と「乾麺」の味比べ!
▲左が「生麺」、右が「乾麺」。キリッと水でしめた麺が涼やかに盛られている

食べ慣れた乾麺は、つるっ、するっとのどに入っていく心地よさ。「稲庭うどん」ならではのこの食感は他のうどんにはない魅力です。一方、生麺には予想通り、乾麺にはないもちもち感があります。しっかりと噛んで、つるっとしたのどごしに少し重みがある感じ。右と左、同じように見える麺なのに、食感はまるで違います。

冷たい乾麺は、鰹つゆとごま味噌つゆで。食べごたえのある生麺には、とろっと絡み付くごま味噌つゆのほうが合うように思いました。

▲濃厚なごま味噌つゆで生麺をいただく

乾麺と生麺、鰹つゆとごま味噌つゆを行ったり来たりするうちに、あっという間に完食。いつもの乾麺はもちろん幻の生麺も、稲庭うどん独特の上品さは変わらず。どちらもおいしくいただきました。

この味比べには、他にも温かい生麺と温かい乾麺、温かい生麺と冷たい乾麺、冷たい生麺と温かい乾麺という注文の仕方もあります。お好みで2つの麺を選べて税込1,025円(小鉢・香の物付き)なのは、稲庭うどんにはうれしい手軽さです。

ふわふわ卵の具だくさんな稲庭うどん

さらっと2つの麺を食べ比べた後、どうしても食べたくなったのが「鶏肉とふわふわ卵の親子うどん」(税込1,330円)。メニューを開いたときから気になっていた一品です。

たくさんの品揃えがありますが、お好みで、冷たくも温かくもできるのはどのうどんも同じ。稲庭うどんは、冷たい乾麺のつるっとした食感があまりにも魅力的で、私はこれまでシンプルに冷たいうどんばかりをを食べてきましたが、稲庭うどんって、あれ?こんなにメニューがあったんでしたっけ…。これは一度では食べ切れません。3人ぐらいで来てシェアしなくては、、などと思っているうちにやって来ました。卵ふわふわの異色の稲庭うどんです。
稲庭うどんをシンプルに麺つゆでしか食べたことのない私には、常識を覆すメニュー。しかも鶏肉をしっかり丸めた鶏だんごがゴロッと入っています。
▲うどんを覆い尽くすような卵と鶏だんご

濃厚な味にたっぷりな量で、満腹・満足。稲庭うどんを食べたあとに、こんなにお腹いっぱいの幸せ気分を味わったことはこれまでありません。稲庭うどんって、上品でさらっとしたおいしさだけではなかったんですね。

機械に頼らない職人技の味

稲庭うどんの誕生は約350年前。発祥の地である秋田県湯沢市稲庭地区は、良質の小麦の産地であったこと、栗駒山から清冽な水が流れ込む地形であったこと、かつて貴重品だった塩が川伝いの交易で運ばれてくる恵まれた土地であったことなどから、産地として栄えたといわれています。

生地を捏ねて、細く長く延ばして綯い上げるー。稲庭うどんの基本であり鉄則の工程を、機械に頼らず職人の手だけで行うのが、数ある製造会社のなかでも老舗の「寛文五年堂」ならではのこだわり。「非効率主義」を信条に、寛文5年の発祥当時の製法を守り、味と技を継いできた歴史があります。
▲長年発行されているという冊子「たなごころ」は、稲庭うどんの食べ方、おいしいお店、稲庭うどんの作り方など、読みごたえあり。茹で上がるのを待つあいだにページをめくる


意外性とともに、密かに食べられ続けてきた生麺を存分に味わえる「寛文五年堂」。秋田に来たら、ぜひ様々なバリエーションの稲庭うどんを見つけてみてください。
高橋ともみ

高橋ともみ

大学で日本美術史を学んだ後、博物館や美術館、新聞社、制作会社等に勤務。東北を中心にのんびり、気ままに活動中。 (編集/株式会社くらしさ)

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