富士山麓のハタオリ職人たちが創り出す、日常を楽しくするプロダクト

2015.10.20 更新

山梨県の郡内(ぐんない)地域(富士北麓・東部地域)は全国でも有数の織物産地。この地域の11 社のハタオリ職人が、歴史の中で培ってきた高い技術力に、新しいアイデアやデザインを取り入れ、新たな織物を創り出しています。イベントや催事などに合同で出店する「ヤマナシハタオリトラベル」の織物は、それぞれの職人の個性が光るプロダクトとして日々進化しています。

日本人なら誰でも知っている富士山。その富士山がとても間近にある街では、ご当地食の「吉田のうどん」や富士急ハイランドなどが有名ですが、この一帯が歴史ある織物産地だということは、まだまだ一般的に伝わりきっていないかもしれません。

実はこの郡内地域は、日本一のネクタイ生産量を誇っているんです。そんなネクタイの産地で、近年ポップでキュートな織物の数々を目にするようになりました。
▲ポーチ 3,456円(税込)ALDIN/有限会社テンジン
▲傘 左2本 各19,440円(税込) 右5本 各12,960円(税込)舟久保織物
▲GOSHUINノート 各2,160円(税込) kichijitsu/有限会社光織物
カラフルな生地が目を引く舟久保織物の傘、「毎日が吉日」をテーマに縁起の良いものを現代の生活に取り入れる光織物の「kichijitsu(キチジツ)」など、今まで織物にあまり興味がなかった若い世代にも響くデザインや色柄の織物は、郡内地域の11社のハタオリ職人がそれぞれ「ファクトリーブランド」として手掛けています。

メーカーの枠を飛び越え、自社ブランドを新たに立ち上げたハタオリ職人による直販と産地PRのためのプロジェクト「ヤマナシハタオリトラベル」は、全国的にも類を見ない産地発の試みなのです。

「ヤマナシハタオリトラベル」の結成

郡内地域で江戸時代に誕生したと言われている「甲斐絹(かいき)」は当時、羽織や和服
の裏地として発展し、高級な絹織物として盛んに生産されました。その伝統技術は今も脈々と受け継がれ、この産地の技術力の高さのルーツにもなっています。

近年は、その技術力の高さから様々な国内外のブランドの生地を委託され生産してきましたが、海外の安い労働賃金の国へ仕事が流れたり、長いデフレやクールビズなどの影響もあるなど、生産量がどんどん減っていくという現状がありました。

その流れをいち早く感じ、産地でどこよりも早く自社ブランドを立ち上げたのが、「ヤマナシハタオリトラベル」のまとめ役も買って出る、有限会社テンジンの三代目、小林新司さん。
2000 年に自社で企画、デザイン、生地の仕立て、そして販売までする「ALDIN(アルディン)」というリネンブランドを立ち上げました。製品化にあたり、独特の風合いや「耳付き」のリネンを織るために、長年使っていた高速のレピア織機から昔ながらの低速のシャトル織機に切り替えました。

産地では、絹・キュプラ・ポリエステルなどの生地がほとんどの中、リネンは当時にしたらまだ日本の日常の中でも珍しいものだったそう。しかし、使い込む程に肌触りが良くなり、味わいの出るリネンのことを知ると、「これからの暮らしに寄り添うものになる」と思うようになったといいます。
今までよりも手入れの手間もかかり、作るのにも時間がかかるため大量生産はできませんが、「100年経って古びてもなお美しい、そんな生地を自分でも作りたい」という想いがALDINにはあります。

自分たちが良いと思え、長く使ってもらい代々受け継がれていくようなリネン製品を作ることが大事だと考え、立ち上げの時から今日に至るまでその姿勢は一貫しています。
▲工場内は織機の独特な「カシャーンカシャーン」という機を織る音に包まれる
▲シャトルでゆっくりと織ることで独特の風合いが出る
▲工場併設のショールームに陳列されている「ALDIN」の商品。デザインや企画は小林さんの妹さんが担当
「ALDIN」のリネンは徐々に雑貨店などで話題になり、長い時間をかけて全国に浸透していきました。「ALDIN」が広まるのと、リネンが身近にある生活が広まるのも同時だったような気がします。そんな中、東京のデパートから「ALDIN」へ催事のお誘いがきました。

小林さんは自分の会社だけで行うのは難しいので、産地の同業者と一緒にやりたいと、知り合いの機屋や県の担当者に相談。そこで我こそはと集まった職人たちで2012年に「ヤマナシハタオリトラベル」が結成されたのです。
「ヤマナシハタオリトラベル」に参加したハタオリ職人は、かつて小林さんが思ったように、委託で受けている仕事の受注数が減ってきていることへの危機感を持っていたそうです。ちょうどこの時期に新しい自社ブランドを立ち上げるハタオリ職人が多かったことは、産地のこれからを象徴する出来事だったのかもしれません。

職人自らが店頭に立って織物を伝える

▲「ヤマナシハタオリトラベル」としてのはじめての展示。立川エキュートにて(写真提供:シケンジョテキ)
商品展示も様々な人の力を借りて、自分たちで行いました。店頭には日替わりで職人自身が立って、自分たちの商品を説明。商品の売場での見え方やお客さんが直接手にとった感想など今までにないリアクションが、新しい商品を作るモチベーションにも繋がっていったといいます。

そして、「ヤマナシハタオリトラベル」はこの催事がきっかけで、他の百貨店や地元のイベント、メディアで取り上げられることも多くなりました。
▲2013 年、2014 年と2 年連続で出店した渋谷ヒカリエのショップ(写真提供:シケンジョテキ)
男女問わず楽しめる商品ラインナップなので、カップルでの買い物もおすすめ。また、傘やストールなど、シックだけどデザイン性のあるものも多いので、どの年代もカバーできるところが「ヤマナシハタオリトラベル」の真骨頂だと思います。
そして3 年間の集大成として、2015年10 月26 日~11 月1 日には「ヤマナシハタオリトラベル」が東京・表参道の「青山スパイラル」にやってきます。ここでショップをやりたいと、自分たちで初めて場所を選んだそうです。いつものように交代でハタオリ職人も店頭に立ちます。

富士山のふもと、ハタオリの街

「ヤマナシハタオリトラベルの商品、どこで買えるの?」という声が多くなった2014 年には、地元・富士吉田市の富士山駅から徒歩1分の立地に「ヤマナシハタオリトラベル MILL SHOP」をオープン。
▲「ヤマナシハタオリトラベル MILL SHOP」は、富士山駅の改札をでてまっすぐの突き当たり
ここはハタオリトラベルに参加している11社すべての商品が買える唯一の場所です。「織物工場」という意味をもつ「MILL」と、織物産地ヤマナシを「見る」の意味から名付けられました。年中無休で、観光客が立ち寄りやすい駅併設のビルの1Fという立地の良さ。お土産に織物を買って行く外国人も多いとのこと。

ショップ名や店舗のレイアウト、什器の制作も自分たちで手がけ、什器には織機に関わるいろいろなパーツを利用。「織物工場」が直営する店だということを伝えようとしています。
▲ヤマナシハタオリトラベルの打合せ時に。皆さん気さくな方々なので店頭で声をかけてみてください
最後に、小林さんに「ヤマナシハタオリトラベル」の活動を続けていくことへのモチベーションを伺いました。

「郡内地域が織物の産地ということはまだまだ一般の人には伝わっていないから、そこも伝えたい。産地に来てもらって実際に作っているところを見てもらったりして、織物に興味を持って次の担い手が現れると一番うれしいね」

小林さんの工場も、事前連絡さえすれば見学することができます。実際に織物が織られている場面を見ると、より商品への興味もわいてきますよ。職人さんというと、一見とっつきにくい人が多いイメージですが、この地域の職人さんは皆さんとても朗らかでオープンです。
▲富士山がとても近くに見える(写真提供:シケンジョテキ)
富士山や温泉などの観光地としての視点ももちろん、「機織」というテーマで巡る郡内地域もかなり奥深いものがあると思います。富士山麓の湧水で育てた野菜や吉田のうどん、ほうとうなど美味しいものもたくさんあるので、ぜひ気軽に遊びに来てくりょうし(甲州弁)!

「ALDIN」の商品が買える場所

土屋誠

土屋誠

山梨の人や暮らしを伝えるフリーマガジン『BEEK』編集長、アートディレクター。山梨を拠点に、編集やデザインで地域やモノゴトを伝える仕事をしています。本屋さんが好きなので、休みができたらもっぱら本屋に出没。2児の父としても奮闘中。(編集/株式会社くらしさ)

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