美濃和紙あかりアート展で、夜の江戸時代へ時間旅行。自分だけのあかりを探して、うだつの上がる町並みへ

2015.09.20

秋の夜。江戸の風情を残す町並みが、当時を思わせる和紙のあかりに浮かび上がる。そんなアート展が岐阜県美濃市で開催される。ユネスコ無形文化遺産に登録された本美濃紙の里で、ゆらめくあかりに癒されるひと時を。

400点を超える和紙のあかりが、江戸の町並みを照らし出す

10月10日(土)・11日(日)の「美濃和紙あかりアート展」に続き、10月16日(金)~11月30日(月)の「あかりの町並み~美濃~」で会場となるのは、岐阜県美濃市の中心部。「うだつの上がる町並み」として知られる、江戸時代の商家が並ぶ地域だ。
東西およそ400mの通りが並行して二本並び、間を垂直に路地がつなぐ形状から「目の字通り」とも呼ばれるその界隈。魚屋町、俵町など、当時の賑わいを偲ばせる名が今も残っている。
標高差はほとんどないため、端から端まで見渡すことのできる町並み全体がイベント期間中、和紙のあかりに照らし出される。
写真を見れば分かる通り、町は昼と夜とで全く異なる表情を見せる。昼に見るべきは何と言っても、「うだつ」が残る豪商の家並みだ。
町屋が隙間なく軒を連ねた江戸時代。「うだつ」は、隣家からの延焼を防ぐ防火壁として、屋根の両端に設けられた。このため本来の用途としては「壁」でありさえすれば事足りるのだが、商人が財を築くにつれ、その権勢を競い合うように立派な「うだつ」をつくるようになった。
これが後に、立身出世が得られない・金銭に恵まれないことを意味する「うだつが上がらない」という言葉の語源となる。
「うだつ」が残る建造物は他県にも点在するが、19棟もの家屋がまとまって現存する例は全国的にも珍しく、美濃市「うだつの上がる町並み」でしか見られない独特の景観をつくり出している。
こちらは、国の重要文化財に指定されている「小坂家住宅うだつ」。19軒の中で最も美しいと称えられる「むくり屋根」のゆるやかな曲線が特徴だ。
この曲線、美的であると同時に、雨水を流しやすくするという実用的目的もある。が、やはり一番は権勢を示すこと。
木を曲げる「むくり屋根」の造営には、非常に高度な職人技が要求される。当然それだけ、費用も生じる。「むくり屋根のうだつ」を上げられるというのは、とんでもなく豊か、そういうことだ。
「平田家、古川家うだつ」は、通称「双子うだつ」。よく似た装飾を持つ「うだつ」が二つ、シンメトリーの美を形成している。
しかし細部に目を凝らすと意匠は異なり、さらに由来を知れば「仲の良い双子」どころではないことが分かる。
防火壁である「うだつ」は本来、二軒の間に一つあればいい。しかし隣り合う平田家・古川家、それぞれに「我が家でうだつを上げたい」と譲らなかった結果、「うだつ」が二つ並ぶこととなった。このため「けんかうだつ」の別名を持っている。

豪商たちが「うだつ」を競い合った江戸時代。あかりといえば、和紙で作られた行燈が中心だった。
優しくゆらめく、やわらかい光に浮かぶ商家の家並み。当時の人々が眺めていたその景色を、「美濃和紙あかりアート展」そして「あかりの町並み~美濃~」では楽しむことができるのだ。

光を美しく見せるため、技を磨き続けた美濃和紙だからこそ「あかりアート」

「美濃和紙あかりアート展」が始まったのは1994年のこと。美濃市が誇る2つの資産「美濃和紙」と「うだつの上がる町並み」を活かして何かできないか、と地元の関係者が考え始めたのがきっかけだった。
2014年、「和紙:日本の手漉和紙技術」としてユネスコ無形文化遺産に登録された、本美濃紙に代表される美濃和紙。他の産地と一線を画すのは、和紙を通して光をいかに美しく見せるか、を極めるため技術を磨き続けてきたことだ。
美濃和紙の、最も美しい姿を知ってほしい。
江戸時代の姿を留める町並みを、当時の人々と同じ目線で眺めてほしい。
こうして、和紙を用いたあかりアートによるイベントは誕生した。

審査員は照明デザイナー石井幹子氏ら、著名アーティスト

アート展には毎年、一般部門・小中学生部門あわせ400点以上の作品が出展される。特別顧問である世界的照明デザイナー石井幹子氏のほか、一流の照明デザイナー・造形家・和紙デザイナーが審査員に名を連ねるとあって、出展者は全国から集まる。
建築や美術に携わるプロフェッショナルや、それらを学ぶ学生も含まれるが、出展者のほとんどは「和紙のあかりが好きな素人」。興味本位で出展した作品が思いがけず高い評価を受け、それを機に本格的なあかりアーティストとしての道を進む人も珍しくないとか。
ではここで、近年の入賞作品をいくつかご覧にいれよう。
▲第21回(2014年)美濃和紙あかりアート大賞を受賞した「折(おり)」。自然界の生き物のようにも見える姿からは、和紙の肌合いや暖かさが伝わると評価された
▲同じく第21回(2014年)小中学生部門賞を受賞した「あっ!!いた はなねずみ」。来場者からの評価も非常に高く、SNSでも話題となった作品

80点以上の作品を展示。雨の江戸風情も趣き深い「あかりの町並み~美濃~」

2日間に及ぶアート展には例年、10万人以上が来場する。賑やかな町並みもいいが、和紙の明かりが漂う、静かな秋夜の楽しみもちゃんと用意されている。それが、アート展に続き開催される「あかりの町並み~美濃~」だ。
このイベントでは、歴代の優秀作品80点以上のあかりアート作品を、古い町並みに常設展示。毎日17時から21時まで点灯され、夜の江戸時代をゆっくり歩くことができる。さらに、作品はすべて透明度の高いアクリルケースに収められているから、雨の日でもあかりを楽しむことができるのだ。
この時期、17時前後に日は沈む。夕から夜へと移りゆく空の色、月の夜、そして秋雨に濡れるあかり。いつ訪れても、その日・その時ならではの楽しみ方ができるだろう。

カスタムメイドもできるお店で、自分だけのあかりを見つけよう

ふんわり浮かぶあかりの下では、影すらも輪郭が曖昧で優しい。人生、白黒はっきりしないことだってある。だからこそ人は、和紙のあかりに癒やしを見出すのかもしれない。
そんな和紙のあかりを普段の暮らしに持ち帰り、いつでも癒されたい。そんな方にお勧めなのが、うだつの上がる町並みの一角にある和紙照明専門店「美濃あかり館 彩-いろどり-」だ。
江戸時代につくられた豪商の蔵をリノベーションした店内には、伝統的なデザインからモダンなスタイルまで、数多くの商品が並んでいる。
今回、商品について説明して下さった上薗真子さん(下写真)を含め、実はこのお店のスタッフは全員、照明の企画・デザインも行う方ばかり。ここに「美濃あかり館 彩-いろどり-」の特徴がある。
一人のデザイナーが、自分の世界に浸ってつくり出すアート作品のようにも見える商品。しかし実際は、企画・デザインから店舗での接客まで、すべてを担うスタッフたちがアイデアを持ち寄り、議論を重ね、数度の試作を経て店頭に並ぶ。
独りよがりにならず、使う人の声に直接触れながら、新しい和紙のあかりを模索する。こうしたモノづくりが、数々の美しい照明の背景にはあるのだ。
思わず目を奪われるシャンデリア(スモールサイズ/税込25,920円、写真はラージサイズ/税込37,800円)。繊細なレースのようなデザインは、水の力によって和紙の表面に凹凸をつくる「落水紙(らくすいし)」という伝統的な技法によるもの。まさに伝統とモダン、和と洋のコラボレーションが生みだす美しさだ。
こちらは「織姫」というシリーズ(税込8,424円~)。編んだように見えるが、実は一枚の和紙を折ることによってつくり出された造形。光に透かした折り紙の美しさを表現したいと考案された。どういう折り方なのか解明したくもなるが、光に浮かぶ影をただ素直に楽しめばいい。

フレームのデザインはそのまま、好みの和紙に変更するカスタムメイドも人気とか。お店のスタッフはデザインも手掛ける方ばかりだから、コーディネートの相談にも気軽に応じてもらえる。ここならきっと、自分だけの「あかり」を見つけられるだろう。
船坂文子

船坂文子

農家・ライター。本籍地は生まれた時から飛騨。情報誌出版社にて15年間、人材・旅行領域の広告・編集記事作成に従事。若い頃から「田舎に帰って百姓になる」が口癖で、退職後は農業大学校での研修を経て就農。一畝の畑を耕し野菜を販売する傍ら、ライターとしても活動。「人」を通して物事を伝えることを心がけている。

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