奥飛騨の濃厚すぎる「緑の温泉」、雪国で育つ南国果実「ドラゴンフルーツ」。かつてない温泉旅へ出かけよう
名湯・奥飛騨温泉郷の中でも珍しい、緑色の温泉「うぐいすの湯」。湯の花がびっしり凝固した神秘の温泉を楽しんだ後は、あなたの既成概念を打ち砕く「ドラゴンフルーツ」を味わう。今度の奥飛騨温泉郷は、驚きに満ちている。

その名の通り、緑色の湯をたたえる露天風呂「奥飛騨ガーデンホテル焼岳 うぐいすの湯(日帰り入浴利用料 税込700円)」。透明、もしくは淡く白濁した湯が多い奥飛騨温泉郷にあって、おそらくは唯一、緑色を帯びた源泉かけ流しの温泉である。
これはもう、入浴というより化粧水浴
できることなら、すっぴんで入りたい
現在、私たちが目にする緑の湯は約3億6千万年前、デボン紀に海底が隆起し形成された地層に堆積したもの。地球最古の森が形成されたデボン紀、地上は緑に染まっていたことだろう。
初めて両生類が陸上での生活を始めたのもこの時代。生命の進化と巨大な森を支えた豊富なビタミンやミネラルなどが、今も当時の状態のまま「うぐいすの湯」には含まれている。

「超深層水」、聞きなれない言葉だが簡単にいえば、地表に降った雨や河川の影響を受ける「表層水」と異なり、外部の影響を全く受けない極めて清浄な水だということ。
何より温泉成分が薄められることなく湧出するから、その濃厚さは驚異的だ。香りも濃く、浴室に入る前からもう気分は温泉。そして浴槽の底に足が触れた瞬間、ザラリとした感触が伝わるのは、凝固した温泉成分でびっしり覆われているから。湯の花が固まってできたテーブルは、1年で直径約50cmほどにまで成長するそうだ。


そしてお気づきかと思うが、「うぐいすの湯」に入浴の際は専用の「湯衣(ゆあみ)」を着用する。というのも、女性専用となる22:00~6:00以外は混浴。でも男性用はスコートタイプ、女性用はワンピースタイプだから、混浴は初めてという女子も安心して楽しんでほしい。

つまり「うぐいすの湯」に入ることは、化粧水で満たされた浴槽に全身浸るに等しい。湯口付近は熱めだが、少し離れるとちょうどいい湯加減。3分ほど浸かっているだけで額が汗ばんでくるが、奥飛騨の山を渡る風は涼しく心地よい。半身浴と合わせれば、長時間入っていられそうだ。
効果効能については個人差があるため、これはあくまで私のケースだが、夏の農作業でガサガサになっていた手が、夜になってもずっとハンドクリームを塗った直後のような滑らかさだった。
3億6千万年という、悠久の時が育んだ神秘の温泉力がいかほどか。あとはあなた自身の肌で確かめてほしい。
奥飛騨ガーデンホテル焼岳
岐阜県高山市奥飛騨温泉郷一重ヶ根2498-1
[日帰り入浴利用料金]700円(税込)/小学生未満無料
※「うぐいすの湯」入浴時の湯衣(ゆあみ)レンタル無料。ただしお子様用はご用意しておりません。
※タオルは料金に含まれておりません/ハンドタオルは200円(税込)にて販売、バスタオルレンタル200円(税込)。
[営業時間]12:00~22:00(最終受付 21:00)
[定休日]不定休
※ゴールデンウィーク・お盆・年末年始等は日帰り入浴の出来ない時間帯があります。詳しくはお電話にてお問い合わせください。
0578-89-2811
農業経験ゼロの土木施工管理士×雪国で南国フルーツ
それは始まりからして、異色だった
あなたの中に「ドラゴンフルーツ=水っぽい味」という既成概念があるなら、それは大きな間違い。単にこれまで、本当においしいドラゴンフルーツと出会っていないだけのこと。
育つ環境と育てる人が変われば、同じ食物でも味は大きく変わる。それは紛れもない真実だと、あなたはここで知ることになる。

栽培するのは、「FRUSIC(フルージック)」の代表取締役・渡辺祥二さん。以前は土木建設会社で一級施工管理士をしていた人物だ。
かといって単純に、事業多角化の一環として建設会社が農業を始めた、という話ではない。米作農家が転作のため果樹栽培を始めた、という話でもない。実際、渡辺さんは農業生産法人を立ち上げる35歳まで、農業はおろか花木を育てた経験すらなかった。
自分の目で見て、触れて、心が動かなければ、学ぶことができない。そういう自分を渡辺さんは「不器用モノ」と呼ぶ。けれど、そんな35年の歳月を経てたどり着いた一つの答が、「奥飛騨温泉郷でのドラゴンフルーツ栽培」という生き方だった。

たとえばそれは、友人と旅したアメリカでの光景。
観光客が決して訪れることのない、小さな町のバス停。真新しい軍服を着た若者が、家族の見送りを受けていた。まだ、酒を買える年齢にも達していない。ハグする母親は、泣いていた。
「この町じゃ、高校を出て働こうにも、軍隊くらいしか選択肢がない」、バスの運転手が呟くように言った。その言葉が、「地域資源を活用することで経済を活性化し、都会と地方の格差をなくす」という現在の活動の原点となった。

しかし、働かなければ人は生きていけない。自然に対し許される範囲内で、自分たちの仕事をどうつくっていくか。そもそも、生きるとはどういうことなのか。
考え抜いた末に、「生きること」は「食べること」であり、「食べるもの」をつくる農業は、「生きること」そのものだと気付いた。

当時、ジュースなどの加工品しか流通していなかったアセロラ。酸味が強い果物だと誰もが思っていたが、実は「フロリダスウィート」という甘い品種があると知った渡辺さん。どうしても食べてみたい、と始めたのがアセロラ栽培だった。これは現在も美濃加茂支店のハウスで続けられているが、実はこの「フロリダスウィート」がドラゴンフルーツ栽培へと渡辺さんを導く。

ドラゴンフルーツを食べた経験はある。しかし記憶にあるのは、もう一度食べたいと思える味ではなかった。
薦められるまま口にしたイエロードラゴンに、渡辺さんは衝撃を受ける。
こんなにおいしいのに、ほとんどの日本人はその存在すら知らない。当然、認知度も販路も確立されていない。つまり自分たちが、ゼロから市場を作り上げることができる。
「面白い仕事になる」。直観的にそう考えた渡辺さんは、さっそくドラゴンフルーツの苗を手に入れた。

最初に購入し美濃加茂のハウスに植えた苗は、日差しが強すぎ半数以上が枯れた。ドラゴンフルーツが求める光とおいしい水、そして十分に甘さを引き出す寒暖差のある土地。それを求め、たどり着いたのが奥飛騨温泉郷だった。
ドラゴンフルーツの成長が活発になる4~6月。意外なことだが、奥飛騨温泉郷の日照量は南国九州にも引けを取らない。さらに標高1,000m近い環境は、強い寒暖差を生む。もちろん冬場は氷点下まで冷え込むが、そこは土木施工管理の経験と、この土地に伝わる熱交換技術が活きた。
約70度という高温の源泉によって加熱した水を、地下に埋設したパイプに流し床暖房の原理でハウス内を暖める。すると厳冬期でも、ドラゴンフルーツが根を張る地面の温度は20~30度、室温は10度を保つことができる。
ここなら、美味しいドラゴンフルーツを育てられる。
最初から、その自信はあった。でももしかしたら、ドラゴンフルーツたちに「ここがいい!」と、導かれたのかもしれない。渡辺さんは、真顔でそう語る。

「この子たち」、渡辺さんはドラゴンフルーツをそう呼ぶ。「この子たちのポテンシャル(潜在能力)をどうしたら引き出してあげられるか、なんですよ」とドラゴンフルーツを見つめる眼差しは、まるで我が子の成長を慈しむ父親のようだ。
ちなみに寝袋は、まだハウスの中にある。それどころか今も、週の半分はドラゴンフルーツたちと添い寝する。ここまで来ると温度管理のためというより、ドラゴンフルーツが好きでたまらないから寝る時も一緒、そういうことだ。
そんな渡辺さんが育てたドラゴンフルーツ。どんな味をしているのか、いただいてみることにした。

ドラゴンフルーツの収穫期は例年、3月中旬から12月初旬まで。「ドラゴンフルーツの食べ比べ(税込2,000円)」では、その時々で最高においしい実を収穫、6~7カットを取り合わせ提供される。
この日いただいたのは、写真右上・ショッキングピンクが鮮やかな「ブードゥーチャイルド」から時計回りに、果肉の白い「トンプソン」、「ディライト」、渡辺さんが自ら開発した新品種(名前はまだない)、「ダークスター」、「マキスパ」、再び命名待ちの新品種、「イエロードラゴン」、「オレンジドラゴン」の9種類だ。

一口かじるなり頭に浮かんだのは、「違う、ぜんぜん違う」という言葉。これが同じドラゴンフルーツなのか、疑いたくなるほど味が濃く、そして甘い。
品種により、さっぱりした甘さ、トロリと濃厚な甘さ、鼻に抜けるような香りと、味の特徴はそれぞれ異なる。しかし食べ進むにつれ、深まっていくのは「私が昔食べたアレは、何だったのか」という疑問だ。
自分の中の「ドラゴンフルーツ」に関する認識がキレイさっぱり消えてなくなる爽快感と、今まで味わったことのない「おいしい果実」を知った満足感。ひと皿でこれほど脳が刺激される食べ物は、他にないかもしれない。

その中の一つ、ジャムをソースとしてトッピングしたのが「ドラゴンソフト(税込400円)」だ。ヨーグルト風味のソフトクリームに、甘く濃厚なドラゴンフルーツのジャム。爽やかな酸味と甘みはまるで、上質なレアチーズケーキのよう。リピーターが多いというのも、納得の味わいだ。
ご紹介した2つのメニューをいただけるのは、「FRUSIC」のハウス前にある喫茶店「那由他(なゆた)」。併設の売店では加工品だけでなく、収穫期であればドラゴンフルーツのフレッシュ果実を購入することもできる。

縁もゆかりもなく、身ひとつで奥飛騨に土地を求めやってきた渡辺さん。「こんな場所で南国フルーツなんて」と誰も取り合ってくれず、途方に暮れて入った喫茶店が「那由他」だった。
会話の端々から事情を察したのだろう。名前も知らない若者に突然、「だったら俺の土地を使え」と声を掛けてくれたのが「那由他」のマスターだった。
マスターもまた、ドラゴンフルーツに導かれた一人なのだろう。あなたもひょっとしたらここで、ドラゴンフルーツの導きを得られるかもしれない。

賢しげに理論を振りかざすのではなく、不器用でも自ら身体を動かし、時間がかかっても汗をかくことで実現する地方再生。渡辺さんが目指したものはいま、着実に花開きつつある。
有限会社 FRUSIC(フルージック)
岐阜県高山市奥飛騨温泉郷栃尾952
[ハウス見学料金]200円(税込)/夜の花見見学(要予約)400円(税込)
※いずれも高校生以下無料
[営業時間]8:00~17:00/夜の花見見学(要予約)20:00~22:00
[定休日]木曜ほか不定休あり。事前にお問い合わせください。
※花の開花や収穫状況は、時期により異なります。詳しくはお電話にてお問い合わせください。
0574-25-7183(美濃加茂支店)
那由他(なゆた)
岐阜県高山市奥飛騨温泉郷栃尾952
[営業時間]8:00~17:00
[定休日]木曜ほか不定休あり

船坂文子
農家・ライター。本籍地は生まれた時から飛騨。情報誌出版社にて15年間、人材・旅行領域の広告・編集記事作成に従事。若い頃から「田舎に帰って百姓になる」が口癖で、退職後は農業大学校での研修を経て就農。一畝の畑を耕し野菜を販売する傍ら、ライターとしても活動。「人」を通して物事を伝えることを心がけている。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。
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