パティシエが手がけるかき氷/小池隆介のかき氷あっちこっち食べ歩きvol.2

2015.08.05

「今年どんなかき氷が流行しているのか?」という質問はなかなか答えづらい。工夫して更に美味しい氷を出したいと頑張っている店が沢山あるから「あのお店もいい、この氷もいい」と、ついついまとまりのない話をしてしまう。そんな中、最近特に目立ってきたなあと思うのは、パティシエが手がけるかき氷だ。


プチプラ・カップケーキのようなかき氷

「パティスリー・ブリーズ」は、東京昭島市にある人気のケーキ屋さんで、ここでは夏の前半(6月頃~7月)と後半(8月~9月上旬)にメニューを変えて数種類のかき氷を提供している。かき氷は400円~450円とお手頃な価格で、注文をすると奥の工房で手動のかき氷機をくるくる回すパティシエの姿が見える。手渡されたカップケーキのように可愛らしい姿のかき氷には、ケーキ作りで培った技術が盛り込まれているのだ。

「パティスリー・ブリーズ」の高橋シェフが特に気をつかうのは、まず鮮やかな色合いと美しい飾り付けだ。様々な食べ物の中で、デザートはおいしいだけではなく綺麗で目を楽しませるものでなくてはならない。見た目の美しさの追求というのはケーキを作る職人の大きな課題なのだろう。

また、フルーツを使ったケーキを一年中作り続けるパティシエたちは、フルーツをその素材以上に美味しく食べさせる工夫と知識が秀でているとおもう。
ただ甘いだけでは単調な美味しさになってしまう。フルーツの甘さを引き立てる酸味や香りをバランスよく加えてパティシエらしいフルーツのシロップが出来上がる。
▲クリームレモンキャラメル450円
新作の「クリームレモンキャラメル」は、パティシエらしさを感じる素晴らしいかき氷だ。刺激的な酸味ではないレモンの美味しさを引き出すために、イギリスのレモンカードというスプレッド(パンやスコーンに塗って食べるペースト状のジャム)をイメージして作り上げたクリームレモンは、レモンと砂糖の他にバターや卵を使って濃厚なのに爽やかな口溶け。そこにキャラメルが絡んでくるのだから、もうたまらない。酸味が苦手な男性にも、スイーツに詳しい女性にもお勧めの新作だ。
▲チョコミント400円
「チョコミント」はミントの葉を1日シロップに漬け込んで、ミント本来の香りをしっかりシロップに閉じ込める。「メロン」は独特の青臭さを消して美味しさをさらに感じるように隠し味にリキュールを加える。一つ一つのシロップにパティシエの手仕事と知恵が詰まったかき氷を楽しんでほしいと思う。

パフェの名店が挑むコンフィチュールかき氷

町田にある「Cafe中野屋」は、パフェ好きなら必ずと言っていいほど知っている有名店だが、夏季限定でかき氷も提供している。個性的な器に盛られたかき氷には、フルーツシロップの他にパフェで使われている手作りアイスクリームやエディブルフラワー(食用の鮮やかな花)など独創的なトッピングがあり、いつも驚かされる。ここの氷もやはり、まず目を楽しませてくれる。その中野屋が今年は「コンフィチュールかき氷」という分野を追求してみたという。
▲ゴールデンパインとピンクペッパーのコンフィチュール1,000円
コンフィチュールかき氷とは、その名前の通りコンフィチュールを味わうかき氷のことだ。「ジャムの妖精」と呼ばれるクリスティーヌ・フェルベールさんのレシピを学んで、オリジナルの美味しいコンフィチュールを作り上げた。そしてその美味しいコンフィチュールを氷と食べたら美味しかった。それがコンフィチュールかき氷の始まりだという。
本当にシンプルなんです、と店長の森さんが運んできてくれたプレートは……いやいや、さすが中野屋。確かにシンプルだが、独自の路線を突っ走っている。
▲アメリカンチェリーのコンフィチュールにピスタチオアイスのせ1,100円
運ばれてきたときの器と盛り付けの美しさでまず驚かせるのが中野屋流。
驚きと感動は次に味への期待に変わる。自らハードルをあげていくのが好きなのだろうか。しかしもちろん期待は裏切らない。そうなんだ、これが中野屋。
甘すぎないコンフィチュールは、生のフルーツとはまた違った味わいで、冷たい氷と食べるととてもスッキリする。新しいコンフィチュールの味わい方の発見だ。

かき氷、新しい境地へ。「セバスチャン」のドルチェ氷

パティシエのかき氷の中で、今年注目を集めている一店が渋谷区神山町にある「セバスチャン」だろう。かき氷を食べ歩くファン達だけではなく、かき氷を作っている店主たちが初めてこのかき氷を見たときに「この手があったか!」「絶対うちでもやってみたい!」と沸き立った。
マンゴーのショートケーキは、4月に開催された「東京かき氷コレクション」で提供された時、順番待ちで並んでいた人みんなが一斉にカメラを向け、まるで記者会見のような状態の中で店主は黙々とかき氷のケーキを作り続けた。
ケーキの土台となるのは、マンゴーシロップが染み込んだかき氷。その上に生クリームを絞り、カットマンゴーやジュレを盛り付け、クラッシュピスタチオを散らす。氷が溶けないうちに素早く手際よく作り上げる店主の手さばきを見るのがまた楽しい。
自分のためだけに作られる氷のホールケーキを丸ごと食べる幸せ…かき氷って面白いなあと強く感じた一品だ。
他にもパフェの器に可愛く盛られるイチゴのパフェ氷や、クリスマス限定のブッシュドノエルなど店主の川又さんのアイデアはまだまだ広がる。セバスチャンには目を楽しませてくれるかき氷の他に、マスカルポーネや生チョコ、グリオットソース(サクランボの甘ずっぱいソース)など本格的なシロップを味わえるかき氷もある。
▲紫いもとマスカルポーネブラックペッパー掛け レギュラー900円
特に人気なのは、クリームチーズを使って仕上げる「レアチーズシリーズ」だ。
程よい塩気を感じるチーズシロップに組み合わせたフルーツソースやオレオクッキーは、まるで溶けるチーズケーキ。他にもイチゴとバルサミコ酢を組み合わせた「大人のイチゴみるく」など斬新なかき氷を提供している。
▲レアチーズ仕立てのかき氷 レギュラー1,000円
「見た目がよくても悪くても、どうせ食べれば味は同じ」。野菜を買う時や、お買い得品を買う時そう思う事がある。
だが、パティシエの世界ではきっと違う。「同じ味なら、綺麗に盛りつけてある方が美味しそう、そしてより美味しく感じる」。

今年もパティシエたちのかき氷から目の離せない夏になりそうだ。

【小池隆介のかき氷あっちこっち食べ歩き】
vol.1 東京の名店
vol.2 パティシエが手がけるかき氷
小池隆介

小池隆介

かき氷のフードイベント『かき氷コレクション』実行委員会代表。かき氷専門ガイド本『かきごおりすと』の編集・発行者。一般社団法人日本かき氷協会代表。日本中のかき氷を食べ歩いて取材し、日本古来の食文化で伝統食でもあるかき氷を広く伝える為に活動。かき氷にとどまらず、氷雪業(氷の卸しや販売、製造)全体にも精通している。

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