地元にあるものを大切にした酒づくり。“純米酒”にこだわる酒蔵「浅舞酒造」

2015.08.10 更新

東北随一の米どころ。そして酒飲みが多い(?)そんなイメージのある秋田県。奥羽山脈と鳥海山に囲まれた横手盆地は、国内有数の穀倉地帯だ。右を見ても、左を見ても、田んぼ田んぼ田んぼ──。そんな横手盆地の真ん中に、地元の米と地元の水をつかった酒づくりに取り組む「浅舞酒造」がある。

▲定番商品の「天の戸・美稲」、「醇辛・天の戸」、「天の戸・純米大吟 45」
浅舞酒造では「天の戸(あまのと)」という銘柄で商品を展開している。
なかでも「天の戸・美稲(うましね)」は1996年から販売されている定番の一本で、米本来の旨みをにがさないよう、ろ過など一切しない山吹色が特徴的なお酒。芳醇な香りと旨みのあとには渋みがのこる──。決して派手ではないけれども、どんな食事にも寄り添ってくれる日本酒だ。このほか、辛口ながら後味に柔らかさのある「醇辛・天の戸」や純米大吟醸をもっと身近にというコンセプトで作られたコスパの良い「天の戸・純米大吟 45」も定番といったところ。
さまざまな季節限定商品も展開していているほか、ちょっと変わったところでは鹿児島の焼酎蔵「大海酒造」との交流で開発された、白麹、黒麹をつかった「白麹仕込み 絹にごり <生> 天の戸・シルキー」、「黒麹仕込み 純米原酒 天黒」といった2つのお酒も特徴的で魅力がある。

そしてなにより「浅舞酒造」ファンにとって毎年の楽しみになっているお酒が、その年の酒米の中から何品種かを選び、その時点で最適と思われる方法で仕込む「純米大吟醸 夏田冬蔵」。杜氏が新たなチャレンジとしてつくるため、その年によって味に違いがでるのだ。

伝統を守りつつも新しい取り組みにチャレンジを続ける浅舞酒造。そこでつくられるお酒は定番のものから季節感、限定感にこだわったものまでさまざま。パンフレットなどには載らない、地元だけでしか流通しないお酒もあるのだとか。その味わいはもちろん、酒瓶のデザインにもこだわりがあるので、シチュエーションに合わせてお酒を選ぶのも楽しい。
「特別な日もそうでない日も。これらのお酒が、日々の暮らしの質をほんの少しでも高めるお手伝いができれば」 と5代目である柿﨑常樹(つねき)社長が語るように、人々の暮らしに寄り添った、温かみのあるお酒がここにあるのだ。

すべての酒は蔵から半径5km以内の田んぼで作られる

「20年以上前から地元の『JA秋田ふるさと・平鹿町酒米研究会』の酒米で酒づくりをしていて、その田んぼの距離を測ったらたまたま半径5kmの範囲に収まっていたんです(笑)。気心知れたメンバーの米を使っているから、これは『誰のお米でつくったお酒か』なんてことも、すぐわかるんですよ」と柿﨑さん。

昨今では流通の基本ともなってきたトレーサビリティの考え方がない時代から自然に行っていたこの取り組みを平然と語る。なんとも時代が浅舞酒造に追い付いてきた感じだ。

「せっかく酒米を地元のものだけで実現できているのだから、この土地のものではない醸造アルコールの使用もやめようということになった。」
2011年からは全量「純米酒」だけをつくっている。
▲夏の朝にはクモが田んぼに巣を張っている。これも農薬を減らし、有機質肥料をたっぷり使った田んぼならではの光景
「酒は田んぼから生まれる」を蔵のモットーにしている浅舞酒造。杜氏をはじめ、蔵人の何名かは“夏は田んぼ、冬は蔵人”という生活をしている。

田んぼの水と、お酒の仕込み水は「同じ水」

▲浅舞酒造の仕込み水が湧き出る「琵琶沼湧水」
酒蔵の向かいにはもう一つ蔵があり、そこでは地下からの水が湧き続けている。水温は一年中13度に保たれ、浅舞酒造の仕込み水となる。この湧き水はこの地域を流れる皆瀬・成瀬の川の伏流水で、酒米を育てる水と同じものなのだ。

「この水は軟らかく、香りに華やかさが出たり、後味に丸みができたりして、良い酒ができる。何よりこの土地でとれた酒米の旨さを引き出すんです。」
と、大正6年(1917年)の創業当時から変わらない水が今も酒づくりを支えている。
▲酒米への吸水は小さなザルで小分けして行われる。削ったお米は水を吸いやすいため、少量ずつ作業することでお米一粒一粒の吸水に偏りがないよう注意が向けられる
▲秋田の冬は寒い。低い温度の中、長期間かけて発酵させていくのが美味しさの秘訣
▲古式槽しぼり。真冬に行われる仕上げのこの作業の体感温度は氷点下
▲高台からの田んぼの眺め。杜氏の森谷さんは「この風景を瓶に詰め込むんだ」と語る

「稲の花見」に人が集まる。フランスのワインのように日本酒にも“テロワール”の考え方を

▲取材の日、地域の子供達が酒造りを学びにきていた。地元の人作りから日本酒版テロワールが始まっているのだ
テロワールとは、もともとはワインの生育地の地理や地勢、気候による特徴をさすフランス語。
「テロワールの考え方を日本酒にも使っていいような流れがきていて、興味ある人が増えてきた。そんな人たちに応えられることをやっていきたい」と熱く語るのは杜氏の森谷さん。
今年の8月8日には「テロワール 天の戸・稲の花見」が開催された。酒米の生産者と杜氏が、おのおのの酒米の花を見ながら、その酒米の品種単独で仕込んだお酒を味わうというイベントだ。地域の人はもちろん、全国各地から「天の戸」ファンが秋田に駆けつけるのだとか。
地道ながらも土地を魅せ、酒米作りの環境に触れ、地域の人との交流を持つ機会を作り続けていくことで、テロワールの考えが浸透していく。
▲「酒米の田植えとか、稲刈りの体験はよくあるけど、稲の花見っていうのは初めてなんじゃないかなあ」と森谷さん
夏の田園風景も魅力的だが、酒づくりが本場を迎える冬の時期には、仕込みの様子を見学できる酒蔵見学も実施(要予約)しており、酒づくりの奥深さに触れることができる。秋田の水と米から作られるこだわりのお酒を求めて、浅舞酒造を訪ねてみてはどうだろう。
ぐるたび編集部

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