山奥の古九谷と街の九谷、九谷焼の歴史に思いを馳せて

2015.12.17 更新

器好きならピンとくる石川県の「九谷焼」。有田、織部など有名な日本の焼物の中で、通好みともいえる九谷焼は、実は一度途絶えてしまっていたんです。紆余曲折の歴史を持つため、ひとくちに九谷焼といっても、豪放華麗で力強い「古九谷(こくたに)」と一度途絶えてから再興された「九谷」のふたつがあります。そこで九谷のふるさとである山中温泉で、「古九谷」が栄えた史跡と、今の「九谷」をめぐりました。

▲色絵古九谷の最高峰とされる百花手様式で描かれた、市指定文化財の古九谷作品「古九谷色絵百花手唐人物図大平鉢(こくたにいろえひっゃかでとうじんぶつずおおひらはち)」(加賀市教育委員会事務局文化財保護課)

「九谷磁器窯跡(くたにじきかまあと)」は山中温泉の菊の湯から、大聖寺川の上流へ向かって車で約20分。山間の谷を走っていくので、ちょっとしたドライブ気分になります。
▲途中で九谷ダムも見られます

九谷焼のふるさと、九谷村はもうちょっと先!
▲現存最古の九谷焼窯跡「九谷磁器窯跡」の看板。国指定史跡です

トンネルをいくつかくぐり抜けて、はじまりの地・九谷村へ到着。九谷ダム建設にともない現在は誰も住む人はなく、史跡のみが残されています。

明暦(1655年)頃、加賀藩の支藩・大聖寺藩により推進され、創始期の「古九谷」が開窯されたのが、ここ加賀国江沼郡九谷村だそうです。加賀百万石文化の美意識に影響され、隙間のない着色で大胆に力強く、華やかな様式美が描かれたものの、諸般の理由からわずか40年くらいで突如廃窯してしまいました。
▲3基の窯跡を偲ばせる斜面には、石碑も建っています

「古九谷」が廃窯して約100年。九谷村から遠く離れた加賀藩営の金沢の地で「春日山窯(かすがやまかま)」が開窯され、これをきっかけに加賀地方一帯で数々の九谷焼の窯が立ちました。この時代のものは、再興期の作品のため「再興九谷(さいこうくたに)」と呼ばれるそうです。

大聖寺藩でも九谷古窯の地である九谷村で古九谷再興が目指され、「吉田屋窯(よしだやがま)」「宮本屋窯(みやもとやがま)」「永楽窯(えいらくがま)」など多くの窯が出現。古九谷の鮮やかな色を目指し、当時貿易で入ってきた中国の焼き物の影響も受けて融合され、新たな九谷焼が生み出されました。

明治時代には洋絵具を取り入れた細密描法の「彩色金襴手(さいしょくきんらんで)」の陶画工・九谷庄三(くたにしょうざ)の「庄三風(しょうざふう)」が一世を風靡。輸出もされて国内外で愛され、産業九谷としての地位を築いていったのです。
▲現在も史跡整備が続けられ、発掘調査や研究が進められています

九谷焼の特徴はいくつかありますが、古九谷、九谷ともに有名なのはその色使い。
ひとつは「九谷五彩(くたにごさい)」と呼ばれる、緑・黄・紫・紺青・赤からなる5色の色絵具使いです。そして、細い赤色の線が描き出す緻密な「赤絵細描(あかえさいびょう)」、盛り上がった緑色の点が鮫皮のような「青粒(あおちぶ)」も特徴的です。
さらに現代の九谷は時流を読んでさまざまな展開をしている自由さもあるのです。

現代の暮らしに寄り添う九谷焼

九谷焼には「彩釉(さいゆう)」「金彩(きんさい)」「銀彩(ぎんさい)」などの優美な作風があり、そのほとんどは実用性の焼き物というよりも、床の間に飾るような美術的価値が高いものとして作られたそうです。

そこで、暮らしに取り入れやすい九谷焼も多くそろえているという、「九谷焼窯元 きぬや」へ伺いました。
▲紅殻格子が特徴的な「九谷焼窯元 きぬや」の外観
▲店内1階にはさまざまな九谷焼がズラリ

山中温泉で九谷焼を営む窯元「きぬや」。店内にはきぬやで作られた九谷作品はもちろん、今を代表する九谷焼作家作品から、次代を担う若手の九谷焼作家作品まで1点ものの作品が数多く展示販売されています。その多くが気軽に暮らしの中に取り入れたくなる、センスのいいデザインの焼き物ばかりで目移りするほど!
▲店長の中村さんおすすめのシンプルモダンな九谷オーバル

「きぬや」オリジナルの九谷焼から生まれた洋食器「九谷オーバル」の無地ホワイト(税込3,240円)は、九谷焼の基本となる白がベース。九谷焼の陶画作家とのコラボで色絵付けがされたものも時折登場するそう。
滑らかで繊細な風合いとシンプルさは、使うシーンの幅が広そうです。このオーバルの形は、日本の伝統陶器では珍しいのだそう。
▲「おわんさんの九谷焼マイカップ」におわんさんをちょこんと

九谷焼特有の技法「青粒」をあしらった「おわんさんの九谷焼マイカップ」(税込1,620円)。「おわんさん」とは山中温泉のご当地キャラ。この地では昔から旅館の若旦那を「おあんさん」と呼ぶそうで、そこから九谷焼や山中漆器のお椀をかけてデザインされ、「おわんさん」と名付けられたそうです。

そっと顔をのぞかせているのは、「おわんさんのストラップ」(税込540円)。マグカップとは別売りですがとても和める愛らしさなので、つい欲しくなっちゃいます。
▲「おわんさんの」とのことでマグカップ裏にはこんな遊び心が!

手になじむ軽いマグカップで唇の当たり具合もやわらかく、寛いで温かい飲み物を飲めそうです。
▲表は女の子、裏は獅子の顔が描かれた「ゆかたべ人形」(税込2,580円)

心願成就、芸事上達、商売繁盛の願いをこめて作られた、きぬやオリジナル作品の「ゆかたべ人形」は、1点1点手作りのため、それぞれ顔がちょっとずつ違います。願いを書いた護符などを中に入れられるので、想いをこめておうちに飾ったり、大切な人に贈り物として購入する人も多いのだとか。

「ゆかたべ」とは、江戸時代、山中温泉で浴客の案内と荷物の預かりをしていた女中のたまごのこと。14~15歳が「浴衣娘(ゆかたべ)」としてお勤めし、16歳になると女中として本格的な仕事を学んだそうです。

そして、旅館へ風呂敷をかぶって通勤していた女中の姿と、4×4=16歳という語呂あわせから、山中温泉の女中は獅子と呼ばれていました。これらの由来から「ゆかたべ人形」には表は女の子、裏に獅子の顔が描かれているんですね!

きぬや2階の「シルクロ陶芸体験工房」では、ゆかたべ人形絵付け体験もできます。
▲ふだん使いしたくなるかわいいデザインの小皿(税込1,080円)や箸置き(1点税込756円)も見つけました

「美術的な九谷焼ももちろんありますが、今はパステルのやさしい色合いで気軽に触れる器や小物も増えてきているんですよ」と店長の中村さん。オリジナル以外にも作家作品がたくさんあり、大切な人に、あるいは自分への贈り物にしたくなります。

国内外で評価も高く、美術館に展示されている印象のある九谷焼。ですがその歴史を見て、一度途絶えてしまった九谷を大切に守り継いでいこうという想いを知ってから、現代の九谷焼に触れてみると、とても身近に感じられ、あたたかみのある器ばかり。使い心地も申し分なしの九谷焼、日常使いの器としておひとついかがですか?
SARYO

SARYO

石川県の温泉地として名高い南加賀在住のライター・エディター、時々シナリオライター。北陸の地域情報誌に10年勤めていた経験と、国内も国外も興味津々な好奇心をフル活用し、さまざまな情報をお届けします。歴史、神社仏閣、旅、温泉に強く、利用者と同じ目線を重視するスタイル。

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報は直接取材先へお問い合わせください。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。
PAGE TOP