木の器を見る目が変わる!伝統工芸「山中漆器」の木地師がいるお店へ

2015.12.23 更新

江戸時代に花開いた加賀百万石の文化。今なお息づく石川県には漆器産地が県内でも3つあります。それぞれ「木地の山中」「塗りの輪島」「蒔絵の金沢」と称され、特色が異なるのが特徴。石川県の漆器は塗りや蒔絵がすばらしいだけでなく、漆器の基本となる木地においても質・量ともに全国でもトップレベルなのです!その中でも「木地の山中」である山中温泉の木地師(きじし)、佐藤さんを訪ねました。

山中温泉のシンボル的存在「菊の湯(おとこ湯)」

石川県南部の山中温泉の伝統工芸、山中漆器。山中の漆器といえば木地。木地とは原木を椀や蓋物、箸など、それぞれの製品の形に彫り出す技術のこと。その木地の中でも大きく3分野に分かれていて、山中漆器は轆轤を使って椀など丸い物を造る「轆轤挽物木地(ろくろひきものきじ)」の分野で突出した独自技術を持っているのです。

「山中木地挽物(やまなかきじひきもの)」の名称で、平成22年に石川県指定無形文化財に登録されているほど!

山中漆器は、安土桃山時代(1573~1592年)に福井から木地師集団が良材を求めて移住してきたことから始まったと言われています。当時はすでに温泉場として湯治客も訪れていた地域だったので、山中漆器は土産物としても作られてきました。後に金沢をはじめ、京都や会津などから塗りと蒔絵の技術を導入、発展してきたと言われています。

今回は、全国屈指とも言える山中漆器の木地技術を間近に見られて、作品に触れられ、購入も体験もできちゃう工房併設のお店「mokume(もくめ)」を訪問!
▲白をメインとしたシンプルな外観の「mokume」。小窓からは作業中の姿をちょっとだけ見られます

「菊の湯(おとこ湯)」から南へてくてく歩いて約10分。かわいい木の看板が目印の「mokume」に到着しました。工房併設で木地挽き体験もできるお店なので、入る前から木のぬくもりを感じられます。
▲店内の大きな中央テーブルには木地挽き体験で使う道具や作成例の器がズラリ
▲入って右側の小上がり販売スペースには、桜や栗などいろいろな木で作られた箸も(税込1,296円)
▲両手に包める大きさで漆仕上げの「mokume碗」(税込3,240円)

「木地」と聞いて思い浮かぶのは、白木のままの器。木目が見える漆仕上げの器、あるいはオイルを塗って仕上げられた器たちは、素朴ながらも心やすらぐ手触り。ちなみにオイル仕上げで使われる油は食用のえごま油やクルミ油だそうです。
▲奥のカウンターで、店主の佐藤さんが応対してくれました

若手木地師の佐藤さんは大阪出身。大学でデザインを学ぶ中で、広告などのデザインの先にある、立体の「もの作り」を知って、「もの作りをしたい」と強く思うようになり、木工の職業訓練学校へ通ったそうです。
「はじめは家具作りを学んでいたのですが、徐々に『木のものをいっぱい作る仕事がしたい』と思うようになりまして」
それまでプラスチックの食器しか使ったことが無く、漆器に初めて触れて使った時、「持った感じがやわらかい!」と衝撃を受けたそうです。
「木の食器を作りたくて知り合いに聞いたら、『山中の木地挽き技術が高い』と勧められ、こちらに来ました」と話してくれました。
▲椀の外側を轆轤で挽く佐藤さん。表情は真剣そのもの!

体験や販売の時間以外は、お店併設の工房で作品をつくる佐藤さん。木地挽きの音がお店の中に響き、削りたての木の香りが漂ってきます。木地挽轆轤(きじひきろくろ)技術を専門的に学べる山中温泉の研修施設へ4年間通いながら、同時に木地挽きの師匠のもとで修行を積んできたそうです。
▲続いて内側。交互に繰り返し挽くことで形ができていきます

轆轤にかけて挽き、乾燥させて、また挽いて。丸太から美しい木目を切り出す木取りから、間に都度乾燥を挟みながら荒挽き、中荒挽き、仕上げ挽きと行程が進みますが、ひとつのお椀の木地挽きが仕上がるまで年単位でかかるというから驚き! しかもこの轆轤挽き、見た目以上に力がいるんです。
▲みるみるうちにお椀が薄くなっていきました

世界的に見ても、木の器をたくさん使っている国は珍しく、それだけ日本は木が多く、伐採しても次の年にはすぐ新しく芽吹いて育つ自然サイクルに恵まれていると佐藤さんは言います。
「ですが、木の伐採と使用が進んだ現代は、ひと昔前と比べて山の木が不足していまして…。50年前は種類や木目の入り方によって使う木を取捨選択していたのですが、現代はそれがあまりできないんですよ。でも使わなかった木材も使うようになったおかげで、気付かなかった木の魅力を再発見していたりもするんです。例えば、節のある部分を味のあるデザインととらえて、コースターなど小物にしたり」

木地師が使う刃物は、実は全て本人の手作り!

木地挽きで轆轤と共に大活躍している刃物である鉋(かんな)。実は木地師自身が鉄を打ち、研ぎ上げた、手作りのもの。家具職人は市販の刃物を購入して使いますが、木地師用の刃物は無いのです。
▲砥石で刃物を研ぎ、丁寧に手入れ

「思うように挽けない時、はじめは自分が打った刃が悪いのか、それとも持ち方が悪いのか全くわからなくて…何年かやってきてようやく勘がつかめてきました」と佐藤さん。自分の刃物は自分で打って作るので、手によく馴染み、細かな角度や位置といった微調整もやりやすいそうです。
▲刃物ではなく砥石を動かして研いでいきます

木地師特有の棒状の細長い鉋は、ひとつの作品を作るのに何本も使い分けられています。木や刃の具合によって、何度も研ぎながら轆轤が挽かれていきます。
▲店頭には実際に使っている鉋、つくられた小箱などが置かれています

木地挽きの見学をしてから改めて店内を見回すと、木のにおい、ぬくもりを一層強く感じられます。展示されている漆仕上げやオイル仕上げの器、お箸、白木の小箱、小皿…。木から生み出されるたくさんの作品は、ふれるほどに心地良い。木に、山に抱かれた土地だからこそ生まれる山中漆器に木地から触れ、新たな魅力を発見できました!
SARYO

SARYO

石川県の温泉地として名高い南加賀在住のライター・エディター、時々シナリオライター。北陸の地域情報誌に10年勤めていた経験と、国内も国外も興味津々な好奇心をフル活用し、さまざまな情報をお届けします。歴史、神社仏閣、旅、温泉に強く、利用者と同じ目線を重視するスタイル。

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