獲れるのはわずか約200羽!レアで極上な「坂網鴨」を満喫

2016.01.28

1年のうち11月15日~2月15日の3ヵ月しか捕獲できない、究極の天然の鴨…その名も「坂網鴨(さかあみがも)」。その幻ともいえる鴨を味わうには、伝統の「坂網猟(さかあみりょう)」を行なっている地域へ!石川県加賀市、城下町の風情が残る大聖寺(だいしょうじ)で坂網鴨料理を味わえるお店を訪ねました。

山ぎし治部すき小麦粉無し
▲これが坂網鴨の肉。余分な脂がありません!

観光客には大人気、地元の食通の間では「坂網鴨を食べると、冬を感じる」と季節感を味わえるグルメとしても人気の坂網鴨。冬の猟期間に約200羽しか獲れないため、一般に出回ることはほとんどなく、認定取扱店である市内の2軒の料亭にしか卸されていません。
山ぎし外観
▲認定取扱店のひとつ「料亭 山ぎし」

今回は坂網鴨を毎冬味わえるお店のひとつ、「料亭 山ぎし」へやってきました。この時期にしか味わえない坂網鴨料理を求めて、予約のお客様がいっぱい。

こちらでは11月15日~2月末までの期間限定・予約制で、坂網鴨堪能コースを3種類提供。そのうち、一番人気のコース「鷹打坂(たかうちざか)」をいただきます!
山ぎし鴨料理コース「鷹打坂」
▲坂網鴨堪能コース「鷹打坂」(1人前税込10,800円)

ご覧ください!肉は全て坂網鴨!

鴨のしぐれ煮から始まり、ロース煮、治部(じぶ)すき、串焼き、朴葉焼きと種類豊富。それぞれの料理にはキモやムネ、モモ、ナンコツなど坂網鴨のさまざまな部位が使われていて、まさしく坂網鴨尽くし。

先付けでいただいた鴨のしぐれ煮はキモの部分だったので、旨味が凝縮されてかなり濃厚です。

コースの中でも注目の一品は、メインの治部すき。加賀藩の郷土料理「治部煮(じぶに)」をすき焼き風にアレンジした、山ぎし独自のメニューで、治部煮のように肉の旨みを閉じ込めて口当たりを柔らかくするために、小麦粉を薄くはたいてから鍋に入れます。

とはいえ、加減がわからないので、最初は「料亭 山ぎし」の専務取締役であり料理人、そして坂網猟師でもある山岸和伸(やまぎしかずのぶ)さんにお願い。
山ぎし料理人とライター
▲坂網鴨についていろいろ解説してくださった山岸さん

「薄めにはたくくらいでいいんですよ」とのこと。
山ぎし治部すき小麦粉有り
アドバイス通り、鴨肉に小麦粉を薄くはたいて、鍋の中へ。

これが…坂網鴨の味。弾力があり、噛むほどに味が染み出てきます。

ためしに小麦粉無しで食べてみると、肉の触感がまるで違いました。小麦粉有りの方が肉に熱が通り過ぎないため柔らかく、鴨の旨味もしっかり味わえます。
山ぎし料理試食ライター
▲口の中で脂がスッと溶けていくので、味わいあっさり

治部すきとして煮込んだムネ肉はぷりぷりの弾力。

創業以来変わらず作り続けている鴨のガラからとった鴨出汁と、すき焼きを意識した甘い味付けがとっても絶妙!

坂網鴨のお肉はさほどクセもないので、ジビエ初心者にも食べやすい味わいです。
鴨肉は肉類の中でも脂の融点が低いので、消化もいいのだそう。また、鉄分やビタミンも多く含まれているので、髪や肌が喜ぶ食材とも言えますね!

コースのシメにはよもぎ蕎麦がついてきます。「鍋のシメは白飯がいい」と希望される事もあるそうですが、鴨の味わいがたっぷり染み込んだ出汁は、さっぱり味のよもぎ蕎麦と驚くほど相性がいいので、ここはお蕎麦をおすすめします!

坂網鴨が卸される認定取扱店では、山岸さんのように坂網鴨を深く知るために坂網猟を行なう料理人もいます。
「通年入手できる合鴨と比べて、天然の鴨は味が濃厚。その中でも坂網鴨は無傷で捕獲しているのも特徴で、そのため肉に血が回ることがなく、鴨肉本来のおいしさを味わっていただけます」と話してくれました。

天然ゆえのバランスが取れた上質な脂と濃厚な鴨肉は、今まで食べたことのある鴨料理とは違う、滋味深い味わいでした。

坂網鴨のストーリーを追って

冬だけに出合える、坂網鴨の味覚。
この地方の冬の味覚として有名なのに、狩猟数は年間約200羽。なぜこんなにも希少なのか深く知るため、まずは坂網猟の対象となるマガモが集まる「加賀市鴨池観察館」を訪ねました。
加賀市鴨池観察館内観
▲「加賀市鴨池観察館」の中からは片野鴨池が一望できます

むやみに人が立ち入らないように整備されている片野鴨池は、広さ約10ha。小さいながらも西日本最大級のガンカモ類の越冬地なのです。飛来する渡り鳥たちを「加賀市鴨池観察館」のレンジャーたちが日々守っています。
加賀市鴨池観察館の豆粒な鳥の群れ
▲この中にはマガモ、トモエガモ、マガンなど数千羽のカモ類が
加賀市鴨池観察館マガモ
▲マガモ。左が雄、右が雌。片野鴨池で坂網猟の対象となる鳥のひとつです

1993年にラムサール条約湿地として登録された片野鴨池。渡り鳥の生活地である湿地を国際的に保全しているこの池には、貴重なガンカモ類が越冬に訪れています。
片野鴨池に飛来するカモ類のうち、マガモを筆頭にカルガモやコガモ、オナガガモなど11種類が坂網猟の対象となり、坂網猟で獲ったマガモは「坂網鴨」として扱われます。合鴨やアヒルなどの家禽(かきん)と違い、遠い距離を飛来した鴨は体力と筋力がとても強いそうです。

「飛来する鴨たちは、少し前と比べて数が減ってきています。その中で、坂網猟は銃猟と異なり、休息地の中を乱さないで行われる猟。自然の恵みのおすそわけをいただいている感じですね」とレンジャーが教えてくれました。だから坂網鴨はこれほどまでに希少なんですね。

江戸時代から続く伝統的投網猟「坂網猟」

片野鴨池を取り囲む丘には、現在9つの猟場(やま)があり、そこで坂網猟が行なわれています。

坂網猟はY字型の大きな網を鴨が飛ぶ軌道上に10m以上も投げ上げて捕らえる古式猟法。無造作に広範囲を囲って捕る猟法ではなく、坂網1つで1羽を狙う猟法です。

現在、約30人の大聖寺捕鴨猟区協同組合のメンバーが継承している坂網猟。石川県の登録文化財のため、猟具は昔からの素材を使うなど細かく指定されています。もちろん猟場は一般人の立ち入りは禁じられています。(今回は特別に入らせていただきました)
また、猟師たちは、猟をするには欠かせない片野鴨池周辺の里山の管理も積極的に行っており、持続可能な方法で片野鴨池を守り続けています。
坂網猟師の中村さんと山岸さん
▲鴨に見つからないよう迷彩服に身を包んだ坂網猟師の中村さん(右)と、「料亭 山ぎし」の料理人でもある山岸さん(左)

中村さんと山岸さんは、坂網猟を始めて4年目の若手猟師。
中村さんは本業の傍ら高齢化が進む坂網猟の未来を担うために、山岸さんも坂網鴨を扱う料理人として坂網猟のこれからを考えて坂網猟の道に入ったそうです。
猟場で坂網を広げる猟師
▲坂網を広げて具合を確認。この状態の坂網を5本近く用意します

狙う時間は日没頃、餌を求めて鴨が飛び立つ瞬間。その勝負はわずか15~20分。
猟場の足場で猟師スタンバイ
▲この猟場では足場があるので、各自足場に登ってスタンバイ

「鴨が頭上を通る時を五感を研ぎ澄まして待ち、いかに瞬時に判断して坂網の投げ方をコントロールできるかにかかっています」と中村さんと山岸さん。
獲れそうな鴨が10回頭上に来て、3回獲れたら名人級と言われるほど、この猟は難しいものなのです。
猟場で坂網を投げる猟師
▲鴨を狙って坂網を投げるも、直前で進路を変えて逃げられることも多々…

「坂網猟が地域財産であることを認識して、受け継いでいくことに価値と興味を持ってもらえる新人が増えると嬉しいです」と中村さん。「ラムサール条約湿地の池で猟を行なう以上、必要最低限の量を最もおいしい時に獲らせてもらって味わうのが、この地域の坂網猟です」と山岸さんも話してくれました。
現在、加賀市では坂網鴨のブランド化に取り組んでいます。

江戸時代から大切に守り受け継いでいる坂網猟。冬に加賀温泉郷を訪れる際には、坂網で捕えた坂網鴨のおいしさを、ぜひ味わってみてください。
SARYO

SARYO

石川県の温泉地として名高い南加賀在住のライター・エディター、時々シナリオライター。北陸の地域情報誌に10年勤めていた経験と、国内も国外も興味津々な好奇心をフル活用し、さまざまな情報をお届けします。歴史、神社仏閣、旅、温泉に強く、利用者と同じ目線を重視するスタイル。

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