天下の台所を支える黒門市場へ買い出しに

2015.12.28

大阪ミナミの中心部・難波からほど近い黒門市場。ここは食の都・大阪の名だたる料理店、レストランの調理人御用達のプロの市場。けれども近年は、最上級のマグロやフグ、ウニや貝類を求めて、リッチな中国人グルメ客が日本人観光客を上回る勢いで押し寄せている。そして年末は恒例、極上の「おせち料理」や「正月のごちそう」の食材が並ぶ。わざわざ行く価値十分の年末の買い出し、ついでに名物「てっちり」とともに。

食べ歩き、つまみ食い天国となった黒門市場

東西300メートル、南北800メートルのアーケードの下に約150の店が並ぶ。
なかでもやはり鮮魚店が目立っていて、グルメ垂涎のフグ専門店が1割。ほかにマグロ、貝類、海老、カニ、そしてスッポンの専門店も。
このところ香港や上海のグルメ誌に紹介され、リッチで口の肥えた中国人観光客が店先のテーブルで、マグロの刺身や鮨、ウニや貝類、魚介の串焼きをがっついている。
それも大阪の味を支えるプロが買い付ける魚屋さんや精肉店の店頭にテーブルや椅子が据え付けられ、そこで本格的なランチ、というシーンも目にする。
もちろん中国語のメニューや写真紹介もあって抜かりない。
こちらは買い出しが目的だが、つられてつまみ食いしたくなる。
しかし高級なフグ、マグロのトロ、ウニや牡蠣、チャイニーズマネーはすごいな。

有名料理人、板前、シェフが毎日買い付ける「プロの魚屋」。こんなふうに買おう

北新地の料理屋の板前さんが友人にいて、その紹介で「一般のお客さんもオッケーです」とうれしい取材掲載承諾。
この店はアーケードから一筋はずれたところにあるプロ専門の店。朝からグルメ誌で有名な料理人たちが買い出しに来ている。
この鮮魚店「岩瀬」。料理人たちが「品物は最高、とても親切、丁寧」と口を揃える店だ。
専務の岩瀬毅佳(きよし)さんが、わたしたち一般客にこの店での買い方をアドバイス。
まず松葉ガニなら松葉ガニ、クエならクエ、というふうに食べたい魚種を決め、そして鍋にしたいのか刺身にしたいのか、などなどを相談。するとその料理がすぐできるように下準備してくれるのだ。ただし1匹まるごと買いが基本。
この日の香住・柴山港の松葉ガニは、1kgのもの17,000円と値段も高級だ。けれども「カニすきにしたいんです」と頼めば、きれいに捌いてくれて、そのまま持って帰ってすぐ食べられる。

また聞けば、豆腐はどこの店で、野菜ならどこで、と教えてくれるから、そこで買い出して万事オッケー。
言うなれば、黒門市場の最高の魚介のアドバイザー兼私設調理人になってくれる強い味方なのだ。
もちろん予約を入れて、相談しておくのが一番。
▲ 職人気質のスタッフ

強みは大間産マグロから、クエ、甘鯛、ブリ、カニ、タコとナンでもござれだ。
ただし「シロウトさんは昼過ぎに来てくださいね」とお願い。
上の甘鯛はこの季節の京・大阪料理の花形。この日の甘鯛1.8kgは宇和島産。「デカいですね」の声には「3kg以上のものが出てきますよ」。きんきも極上。
▲出たあ。グルメ垂涎のクエ。日本海・島根のもので19kg
▲大間産の極上マグロ。トロの部分に注目。1kg2万円なり
▲シマアジ。もちろん天然物
▲伊勢エビは600gで4,200円。「造りにして」「ボイルして」と注文すれば完璧にしてくれる。
※値段はすべて税別

野菜くだもの一筋で90余年

創業大正8(1919)年。4代に渡る野菜果物商の「なべじ」。
この店は黒門市場のど真ん中の角地にあってひときわ目立っている。
「とびきりのおいしい果物」「よそでは置いていない野菜」を求めて北新地から毎朝通う料理人など、プロたちが買い出しにやってくる。
松茸や椎茸などの茸類、ワサビといった高級食材はとびきりで、このところ人気の加賀野菜も10年以上前から扱っている。
12月になると、クワイや金時ニンジン、レンコン、ユリ根などなど、おせち料理の材料が並びだし、「年末毎年必ず来ます」という主婦も多い。
3代目のおかみ、中村雅子さんによると「年末は普段の10倍ぐらいの一般家庭のお客さんで賑わいます」とのことで、評判ぶりが分かる。
▲観光客にも好評のジュース・スタンド
このほか、プロ御用達の黒門市場の店、とくにわたしたち一般客も買って帰れる店を、毎朝買い出しに来る北新地の料理人にチョイスしていただいた。早速ダイジェストしよう。
▲創業91年の豆腐店「高橋」のご主人。北新地の有名うどん屋さんが毎朝、きざみやきつねうどん用の油揚げを買いに来る有名店
大阪の食文化はダシの文化、といわれるほど、どの店も家庭もこだわるのがダシ。昆布とカツオ節の店「二葉商店」。名だたる有名うどん屋、そば屋がこの店の顧客。昆布は羅臼昆布が大阪流。
▲乾物店のワゴンには、からすみ、ばちこ(干しくちこ)といった高級珍味が並ぶ

買って帰るのも、食べるのもどちらもOKのフグ

大阪は全国のフグ消費量の半分を占めるという「フグ王国」。
その首都がもちろん黒門市場。

「活ふぐ専門」と謳う店、店頭に大きなフグを並べている店、スーパーの店先にもてっちり用のパックが並ぶほど。扱われるフグはもちろん王者のトラフグ。
てっちり好きの大阪人なら一度は黒門を訪ねて、専門店で買って帰っているはず。ファンになるとフグそのものから切り方、熟成のされ方、そして各店自慢の自家製ポン酢まで、好みがあるほど。

ちなみに「てっちり」とは「てっぽう(鉄砲)の、ちりなべ」を略したもの。ちなみに「てっさ」は「てっぽうのさしみ」。
フグは可食部分以外はテトロドトキシンという猛毒を持っていて、食べると当たる。そしてまた、鉄砲に当たると死んでしまう。それをひっかけて「てつ」という隠語が長く使われてきた。

まあしかしながら、いやな魚臭さがなくおいしい身、グルメ垂涎の白子と、そして腹を膨らませたユニークな姿…と、フグの魅力はつきない。
奥では職人さんが長い刺身庖丁の見事な腕を見せ、てっさ(刺身)を引いている。明治創業という冬はフグ、夏はハモ専門の老舗「みな美」で、てっさを引くのは女性名人。かっこいい。


黒門市場のフグ専門店の中でも有名な「浜藤(はまとう)」。
こちらは、店頭売りお持ち帰りもいいが、1階のテーブルとカウンター席、2階の座敷で「てっちりコース」が食べられる。
一番コンパクトな「浜」コースは、5,500円(税サ込)。
付き出し、湯引き、てっさ、唐揚げ、そしてメインのてっちり、雑炊と、順番に出てくるフルコース。
▲見事なてっさが出てきてため息

お酒はもちろん「ヒレ酒」(税込1,000円)。乾燥させて炙ったフグのヒレに熱燗を注いだ香ばしい酒だ。
▲ よく炙られたヒレなので、おかわりはつぎ酒でOK
▲歴史を感じさせるコンロとアルミのぶ厚い鍋。シブい通好みの感覚だ
てっちりも唐揚げも、ゴツく身がほぐれやすいように切られたアラ身。この店独特のもの。
▲フグの旨みが染みたおいしい雑炊。ネギと海苔をあしらって満腹

とびきり濃厚、老舗の大阪流珈琲

黒門市場には飲食店が多い。
そして、市場は食べ物のプロが集まるし、市場内の素材は新鮮で良いからどの店もうまい、はここでもあてはまる。
うどん、そば、海鮮もの、鰻、ビフテキ、食堂、カレーの店…。
そのなかから昭和9(1934)年創業の「伊吹珈琲店」をご紹介しよう。
知る人ぞ知る自家焙煎の「とびきり濃い」コーヒーが自慢の店だ。
レトロな店内は、食材の仕入れついでに立ち寄る料理人や、買い物帰りの主婦、長靴を履いた市場の人たちも休憩にやってくる。
そしてこれも定評通り「市場の古い喫茶店のトーストやサンドイッチはうまい」。
ドリンクが半額になるセット「玉子トースト」「ハムトースト」(税込540円)を2人でひとつずつ注文して分けて食べる。
540円とホットコーヒー480円÷2=240円だから、ひとり780円(税込)ということになる。
その都度、丁寧につくってくれるそれらのトースト、つまり焼いたパンのサンドイッチは抜群で、量もたっぷり。
塩を少しふりかけると懐かしい味がして、コーヒーが余計にうまくなる。
コーヒーはスプーン角砂糖2つ乗せられて出てくる。常連客は「ここのコーヒーは絶対2つ入れなアカン」と言う。「冷めてからが、またうまいんや」とも。ほんとうにその通り。

もちろんこの「伊吹珈琲店」目当てで、はるばる他所から黒門市場にやってくるファンも多い。
▲焙煎室と各国各地方の豆の販売は隣の建物に
黒門市場はプロ仕様の市場だが、このところ観光客「ウェルカム」のスタンス。ありがたい時代だ。
江弘毅

江弘毅

編集者。京阪神エルマガジン社時代に雑誌『ミーツ・リージョナル』を立ち上げ、12年間編集長を務める。著書『街場の大阪論』(新潮文庫)、 『「うまいもん屋」からの大阪論』(NHK出版新書)、『飲み食い世界一の大阪』(ミシマ社)など、主に大阪の街や食についての著書多数。最新刊は7月15日発売の『濃い味、うす味、街のあじ。』(140B)。編集出版集団 140B取締役編集責任者。

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