粋なおとなが集うバーVol.1 大阪「堂島サンボア」「エルミタージュ」

2015.12.01 更新

それぞれの街ならではの空気がただよう酒場に、客が今日も集まってくる。立ち上がるその「香り」は店の数だけある。共通しているのはどこも「顔のあるバーテンダー」がいて、それ目当てに機嫌のいい酒好きがカウンターで飲んでいることだ。

旧いバーが旧いまま残っている。それも長い歴史を磨き上げたようなビカビカな佇まいで。北新地にある名門「堂島サンボア」。大阪、京都そして東京にある「サンボア」系列の筆頭店だ。
加えて、大阪が誇る技巧派バーテンダー、田外(たげ)博一さんの「エルミタージュ」。大阪のバーのレベルの高さを物語る「大人のための」2軒を紹介しよう。

昭和10年に開店、大阪最古級のバー

北新地にある「堂島サンボア」。
「サンボア」は大正7(1918)年(コースターやマッチに記されている)に神戸花隈にオープンした「岡西ミルクホール」が前身。そして大正14(1925)年、大阪北浜に開店した「北浜サンボア」が直接のルーツとなる。
店名の命名者は文豪・谷崎潤一郎で、朱欒(ざぼん)のポルトガル語ZAMBOAのZを左右反転させてSAMBOAとなったことが伝えられている。

この「堂島サンボア」は初代・鍵澤正男氏が「北浜サンボア」から独立し、中之島につくったバー。昭和10(1935)年開店と公称している。
昭和11(1936)年に堂島川対岸の北新地に移転し、現在の店は戦後すぐの昭和22年に開店、昭和30(1955)年に改装するも同じ造りのバーを再現、現在に至っている。
▲磨き込まれた真鍮の看板、1935年創業とあるが、正確には1934年12月だ。この店の実直なセンスを物語っている
▲創業者の鍵澤正男さんの肖像画がかかっている

大阪ではだれもが知る有名なバーであり、現在は3代目の鍵澤秀都さんがご主人。
ドアの真鍮の押し板から磨き込まれている。初めてドアを開けると「あっ」と息を飲むスタンディングスタイルのバースペース、客がカウンター前に立つとすっと出てくるおしぼりと渋皮つきピーナッツのチャーム、氷を入れないハイボールなどなど、創業からの伝統を守っている。
▲ご主人でありバーテンダーである鍵澤秀都さん。カクテルをつくる姿がスマートで美しい

客たちの間でスタンダードなのが、なんといってもハイボール(864円)。
サントリー角瓶のダブル(60cc)をグラスに切られている目印まで注ぎ、炭酸水1本分(190cc)を一気に注ぐ。
氷は入れない。ステアもしない。
あらかじめよく冷やされたウイスキー。グラスの中のウイスキーをかき回すように注ぐ炭酸水もベストの温度に冷やされている。
レモンピールで仕上げ。
あらかじめそのようにつくられた専用グラス。数十秒で出来上がり。
固定された栓抜きで炭酸水をその都度抜く音、注ぐ音までおいしい。
▲もちろん「氷入りで」というオーダーも可能。ちょっぴり出てくるチャームのピーナッツ(216円)もイケる

店はL字型にカーブしたスタンディング・バーほかシンプル極まりなく、また真鍮部分などがビカビカに磨き込まれている。歴史は「守る」のではなく「磨き上げる」ものだと、店の姿勢を物語っているようだ。
中之島時代の写真やその当時から引き継がれているポスター類も健在だ。
▲80年代中ほどには、奥をダイニングに増築してフランス料理を出していた。つまみに「サンボア風フォアグラ」(756円)があるのはその名残

真鍮の肘掛け、そして足掛けのバーに身体をあずけると、なんだか立ち呑みスタイルが決まるようで、リラックスして飲める。
ここ「堂島サンボア」は、このほど大阪市が推進する「生きた建築ミュージアム事業」で、大阪ガスビルや大丸心斎橋店といった名近代建築とともに50セレクションの中に選ばれている。
ガイドブックには「内部見学のみを目的とした店内への立入はできません」と書いてある。
※価格はすべて税込

凄腕バーテンダー定評のフルーツ・カクテルを飲みに行く

バーテンダーの田外(たげ)さんが一人で切り回している、カウンター1本10席足らずのバー「エルミタージュ」。1998年にオープンしている。
カクテルそれも「フルーツ・カクテル」を飲みに行くバーとして知られている。
▲新地本通から堂島上通へ通り抜け可能な、まこと北新地らしいビルのその通路にひっそりとある
▲“HERMITAGE”のラスト4文字は、店主・田外(TAGE)さんの名前とかけてある

田外博一さんは独立してこの店を開店早々、日本バーテンダー協会ほかのカクテルコンペ上位入賞の常連になり、とくに「フルーツ部門入賞」で注目されてから、大阪のカクテル系バーに田外流フルーツ・カクテルの旋風が吹いた。
その中心人物である田外氏がつくるカクテルの凄腕は、まだまだ現在進行形で、世のバー好きの間で話題として上ることも多い。
そのひとつの「フルーツ・マティーニ」。生の果実を使ってアレンジするカクテルで、ジンベースなので「フルーツ・マティーニ」と呼んでいる。
季節になればイチゴやキンカンのマティーニをよく飲むのだが、
マティーニの名前で連想するのとはまったく違ったニュアンスのカクテルで、フルーツの香り酸味甘味…と、その果実独特の特徴をすっきりとしたジンで揮発させているようなカクテルだ。
▲本日のフルーツは黒板に書かれてある通り。かぼちゃというのもある

加えて、ほのかにアルコールが入った香り高い生ジュースのようなカクテル、どろっとした果実のフランス料理を思わせるカクテル、スピリッツやリキュールの特徴を活かしたカクテル…。レパートリーは広く、その味は変幻自在だ。
▲以前、一口飲んであまりにおいしいので、思わずiPhoneで撮った写真。アメリカンチェリーを使ったカクテル。リンゴのブランデーのカルバドスがベース。酒というよりデザートだ

この日、黒板に書かれたフルーツのリストから注文したのは「柿」。和風のカクテルというのもいいだろう、どんなのが出るのだろうとあれこれ想像しながら、手順を拝見。
熟した柿がベースとなるが、この日の柿は少し固いので、まずミキサーにかける。お酒はカルバドスがベース。それにパッションフルーツのリキュールを隠し味に。レモンとシロップも少々。
ボストンシェイカーに移し替え、さらにつぶしていく。
丁寧に丁寧に手でつぶす。
使う道具はすりこぎ状の「ペストル」。
やっとでかいボストンシェイカーを持ってシェイク。田外さんのさすがのフォームと手つき。美しい。
どろりとした柿のカクテルが冷やされたグラスに注がれる。生ツバが出てきてゴクリと喉が鳴るが、まだ完成ではない。
トニックウォーターを足されて、柿を飾られて完成。秋の味覚・柿のカクテル(1,300円)。ごくり。まぎれもない淡い柿の風味がする。これはまぎれもなく新しい味覚、だが懐かしい味。
また、「さっぱりですっぱ甘いカクテル」などと、イメージだけ伝えて田外さんのスタイルにお任せ、という客も多い。

いずれにしても何から何まで一人でやらないと気が済まない完璧主義バーテンダー田外さん、チャームにはピーチのクリームチーズ(800円)が。これでまたこちらの局面が変わり、次は何を…。おなじカルバドスがベースのポピュラーなカクテル「ジャックローズ」を(1,300円)。
この店は1軒目に行く場合、食事をしてからの場合、さまざまあるが、それをまず田外さんに告げて、何を飲むか決めた方がいい。また食後の場合は、フレンチ、イタリアンなのか、和食だったら鍋なのかお鮨なのか肉なのか、といった具合。
極上のフルーツ・カクテル、そのために北新地に行くことがあってもいい。

※価格はすべて税込
江弘毅

江弘毅

編集者。京阪神エルマガジン社時代に雑誌『ミーツ・リージョナル』を立ち上げ、12年間編集長を務める。著書『飲み食い世界一の大阪』(ミシマ社)、『「うまいもん屋」からの大阪論』(NHK出版新書)など、主に大阪の街や食についての著書多数。編集出版集団140B取締役編集責任者。

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