粋なおとなが集うバーVol.2 神戸「バー・ローハイド」「ムーンライト」

2016.01.25 更新

それぞれの街ならではの空気がただよう酒場に、客が今日も集まってくる。立ち上がるその「香り」は店の数だけある。共通しているのはどこも「顔のあるバーテンダー」がいて、それ目当てに機嫌のいい酒好きがカウンターで飲んでいることだ。

神戸。古くからのバーが似合う港町。神戸に数あるバーの中から、最も神戸という街を具現している2軒の「おとなのためのバー」をご紹介したい。「世界の酒、世界の音楽」を標榜して半世紀以上の「バー・ローハイド」。この店ができてから街が変わったといわれる「ムーンライト」。ミナト神戸の酒場を感じてほしい。

若き3代目が引き継ぐ1960年創業のバー

「バー・ローハイド」の創業者、つまり初代の山本忠治(ちゅうじ)さんは粋人として知られていた。
彼のハイカラ精神は、看板に掲げられた「世界の酒、世界の音楽」そして、いち早くダーツ・ゲームを取り入れて(昭和42(1967)年、自ら設立した日本ダーツゲーム連盟会長に就任)、神戸のバーの流行を牽引してきた。
店内は旧いレコードとダーツ、客席以外はぎっしり酒瓶で埋めつくされている。その数1,000本を超える。モルトからモンゴルの酒まで、さすが「世界の酒」を標榜するだけある。
カウンターは長く、ずらっと10人以上が一列に並んで座れる。
バックバーに並べられている端から順番に、毎日飲んでいっても数年かかるし、水割りやカクテルなど、その飲み方も考慮するとおそらく一生はかかるだろう。
店内の柱時計は、昭和13(1938)年まで灘中学校にあったもの。忠治さんは名門・灘校出身。
「作家の遠藤周作氏や俳人の楠本憲吉氏などが、よくイタズラをしてあの前に座らされたといういわくつきのものです」と1970年代の西日本経済新聞社「異色探訪」のインタビューに答えている。
この店は1995年に神戸市の中心部を壊滅させた阪神・淡路大震災で被災し、現在の地に移転。その時の看板や調度をそっくりそのまま持ってきて、店内の内装も空気も前の店を引き継いでいる。
3代目のバーテンダー林寛三(ひろみ)さんは、忠治さんと息子の和夫さんが2代にわたって洗練させたカクテルのレシピを2013年に引き継いだ。
▲林さんは「世界の音楽」の3,000枚のレコードを3年かけてすべて聴いた

この日注文した1杯目はテキーラ・サワー(1,000円)。
強いテキーラ独特の風味をうまく手なずけたカクテル。酸っぱすぎず甘すぎず、すっきりした飲み口。
この店では厳選したレモンやライムを使った柑橘系のカクテルが好評。
▲カクテルに合わせてちょこっと出てくる数種のチャーム(350円)も抜群

2杯目はジョスメイヤーのオー・ド・ヴィー(フルーツ・ブランデー)からアリーゼ(紅すぐり)をストレートで(2,000円)。
果実の香りの良いところだけ取ったというような、「香りを飲む」フルーツ・ブランデー。
ファンには抜群の醸造所として知られ、入手困難なジョスメイヤー、フランスに長く住んでいた客が感激して「1本××円で売ってください」と言われたことがある。
この店を知る、酒好きのみんなが「あそこは別格だ」と口を揃える神戸の名店である。JR三ノ宮駅すぐそばなので、つい寄ってしまうことが多い。
※価格はすべて税込

いちばん港町のバーらしい店

「ムーンライト」はオープンして20余年。
多くの銀行の神戸支店が並ぶ栄町通の一本裏路地のロケーションゆえ、開店当初は「こんなところでバーを?」と驚かれたらしい。
実際に銀行の職員通用口が店の前にある。
▲ドアにはクッションが張られている

このバーが出来てからこの辺りに人が集まるようになり、阪神・淡路大震災をはさんで、ぽつりぽつりと店が増えた。
現在はこの界隈にブティックやカフェが集まり、神戸でも「一番お洒落なエリア」といわれるようになった。
店が客を呼び、客がまた店を呼ぶという、現在進行形の街そのものの形成のされ方だ。

その街のパイオニアであるマスターの宍戸哲也さんは、ソウル・ミュージックのレコード・コレクターでもあり、全国からの音楽ファンが訪れるバーでもある。
宍戸さんの格好良さに憧れて、近所にパブやおでん屋を開いたかつての若者もいるほどだ。
シンプルなカウンターで、ひじをつくバーにはドア同様クッションが張られている。そしてキャッシュ・オン・デリバリーのシステム。旧いアメリカの酒場で見られるスタイルだ。
▲ジュークボックスも現役バリバリで鳴っている

いつも注文するのが「ムーン・シャイン」。ブランデー・ベースでレモン、ハチミツ、氷砂糖のオリジナル・リキュール。
ロック、お湯割り…と飲み方はオール・マイティーだが、この日はソーダ割りで(600円)。
インテリチックで快活な奥さんの寿美(ひさみ)さんがつくってくれる。バーフードのお薦めは手作りピザ(800円~)など。
このバーはマスターによると、カウンターの広い幅やスツールの高さ置き方など、50~60年代の神戸・元町界隈にあった外国船員、米兵たちで賑わっていた「ガイジン・バー」を復元したいとの意向もあったそうだ。
ミナト神戸のバーならではの空気感を揮発させているゆえんだ。
よって「飲める」ムード抜群のバー。
※価格はすべて税込
江弘毅

江弘毅

編集者。京阪神エルマガジン社時代に雑誌『ミーツ・リージョナル』を立ち上げ、12年間編集長を務める。著書『街場の大阪論』(新潮文庫)、 『「うまいもん屋」からの大阪論』(NHK出版新書)、『飲み食い世界一の大阪』(ミシマ社)など、主に大阪の街や食についての著書多数。最新刊は7月15日発売の『濃い味、うす味、街のあじ。』(140B)。編集出版集団 140B取締役編集責任者。

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