山村一帯が梅酒にほろ酔う二日間 徳島県・美郷梅酒まつり

2017.11.11

徳島県吉野川市の中心部に、蛍の里として知られる「美郷(みさと)」地区があります。山深く、耳を澄ませば清流のせせらぎが聞こえるこの地区は、梅の生産地としても有名で、2008年には全国で初めて梅酒特区に認定されました。現在5つの梅酒蔵が美郷の梅をつかって、個性豊かな梅酒づくりに取り組んでいます。

※本記事は2015年の取材を元に一部修正したものです。
秋風が心地よい10月初旬。11月の最終土・日曜に行われる「梅酒まつり」の準備で大忙しの美郷地区を訪ねました。梅酒特区に認定された当初、1つだけだった梅酒蔵も現在は5蔵にまで増えました。今日は、その最初の蔵「東野リキュール製造所」を立ち上げた、梅酒まつりの実行委員長でもある東野宏一さんのもとへ。

美郷の人は梅酒づくりがDNAに組み込まれてるんよ

▲いつも笑顔で出迎えてくれる東野さんご夫妻

東野宏一さんは美郷のご出身。2002年までは京都の会社で働いていましたが、定年退職を機に美郷に戻ってこられました。「帰郷したら若い人も減って、村がなんとも寂しい雰囲気でね。どうにかできんかと思っていたときに、美郷が梅酒特区に認定されたんです」と東野さん。

本来、酒類製造免許を取得するには年間6,000リットルの生産が義務付けられていますが、梅酒特区内で生産された梅を原料に使い、同区内で梅酒を製造した場合は基準が年間1,000リットルまで引き下げられ、少量生産の事業者でも酒類製造免許を取得できます。これが「梅酒特区」です。
▲吉野川の支流・川田川沿いに佇む「東野リキュール製造所」

もともと梅の産地であった美郷では、どの家でも梅酒を漬けており、それが特区認定の後押しとなったそう。帰郷早々、梅酒づくりに乗り出した東野さん。「梅酒の漬け方?それはもう体に染み込んでいます。美郷の人のDNAには梅酒の漬け方が組み込まれているといっても過言ではないですよ」とにっこり。
東野さんの蔵は、日本一小さな酒造蔵とも言われています。使用するのは家庭用の8リットル瓶。美郷の契約農家からもぎたての梅を仕入れています。「梅はもぎとったその瞬間から風味が落ちていきます。梅本来の風味を感じてもらうために、収穫から24時間以内に漬け込むのがこだわりです」。梅の収穫期である6月は、一年で一番忙しい時期。朝から夫婦で梅の実を水洗いし、陰干しで水を切り、さらに傷物を選別。どの瓶も同じ味になるように漬け込むのが、難しいそう。1年に1,500リットルしか生産できないというのも納得です。
▲酒造蔵の中には梅酒の瓶がずらり

また、梅酒といえば何年も熟成させたものが多いですが、東野さんが提供するのは「新酒」。6月に仕込んで同年の11月に出荷しはじめ、1年以内にほぼ売り切ってしまうそうです。こぢんまりとした蔵の中には、今夏仕込んだばかりの梅酒瓶がずらり。瓶の底に梅の実が沈んでいるものは昨年仕込んだ梅酒。もう残りわずかです。
▲出荷を待つ1年ものの梅酒。濾したてを提供できるのも瓶醸造の魅力の一つ

「そうそう、女性むけに新作をつくったんよ」。そう言って出してくれたのは、きれいなうぐいす色の箱に入った梅酒。「ホーホケキョ」は、竜狭(りゅうきょう)という小梅を仕込んだアルコール度数が低めの一本。昨年の梅酒まつりで試験販売したところ、用意していた100本があっという間に売り切れてしまったそうです。
▲新作の「ホーホケキョ」(500ミリリットル・税込3,000円)

黄金色に澄んだ梅酒をまずはストレートで。ふわっと鼻をくすぐる芳醇な梅の香り、フルーティーな甘さとキレのある味わい。飲みやすいので、知らないうちに飲みすぎてしまう、なんとも危険なお酒です(笑)。
▲ぜひ無色透明のグラスで、ロックもしくはストレートで味わっていただきたい

たった一つの蔵から始まった梅酒での村おこし。その盛況ぶりが感じられるのが、毎年11月の最終土・日曜に行われている「梅酒まつり」です。5つの梅酒蔵と3軒の農家民宿、温泉1軒をシャトルバスで巡るこのおまつり。各蔵自慢の梅酒が飲み比べできるほか、農家民宿では美郷の特産品を購入したり、秋の味覚が味わえます。

2014年は、人口1,000人の村に対し、およそ3,000人以上の客が訪れたというから驚きです。「今年もたくさん人が来てくれるとええな」と東野さん。美郷の梅酒と美しい景色を求めて、まつり以外の日も、村に人々が訪れるようになってきているといいます。
▲過去の梅酒まつりの様子。期間中はJR阿波山川駅からの無料シャトルバスが運行するので、ハンドルキーパーも必要ありません

「梅酒づくりは手段の一つ。目的は美郷全体が元気になること。のんびりなんかしてられんのです」と東野さん。聞けば、明日は徳島市内、明後日は大阪、来週はまた徳島市内と、直販のために全国を飛び回る多忙なスケジュール。「通販も便利やけど、やっぱり直接お客さんと会うのが一番元気をもらえるんです。その場で感想も聞けるので、梅酒づくりの参考にもなるしね」。
▲左から、クセのない白鶯梅(はくおうばい)を漬け込み、シソで色と香りをつけた「紅竜狭(こうりゅうきょう)」。鶯宿梅(おうしゅくばい)を使った濃厚な味わいの「高越山(こうつざん)」。梅干し用の竜狭小梅を使い、すっきりフルーティーに仕上げた「白竜狭(はくりゅうきょう)」。(すべて500ミリリットル・税込2,500円)

夫婦二人三脚の“日本一小さな酒造蔵”が全国に発信する“美郷の梅酒”。ぜひ、梅酒まつりに訪れて、飲み比べてみませんか。
帰り際、「せっかく来たんやから、いろいろ寄って帰り」と東野さんにオススメされたお店へ。「美郷物産館 みさと屋」は美郷の特産品がギュッとあつまるアンテナショップです。

見よ、この梅干しの棚を!さすが梅の里・美郷

必見はこちらの棚。6軒の農家さん自慢の梅干しがずらりと並びます。「美郷は上質の梅がたくさんとれるんです。どの農家さんもオリジナルの配合で漬けているので、味は様々ですが、共通して言えるのは塩漬け・しそ漬けのみということ。蜂蜜や花鰹などの風味づけを一切せず、梅の実の良さを大切にしています」と話してくれたのは店長の和泉さん。
▲お話を聞いた店長の和泉さん(左端)とみさと屋のスタッフのみなさん。きれいどころ揃いの美郷小町

梅の実が良いので、余計な風味づけが必要ないんですね。しかし、これだけあるとどれを選んで良いのやら…。と思ったら、ご安心ください。試食できますよ!
その他にも、程良い甘さの粒あんが詰まった「田舎だんご」(5個入り400円・税込)や、冬の間だけ登場する鳴門金時を使用した「芋もち」(3個入り200円・税込)も人気。午前中には売り切れてしまうので注意が必要です。
梅酒はもちろん、高地ならではの高原野菜や、特産の柑橘を使用した味噌などもあり、あっという間に買い物かごがいっぱいになってしまいました。
▲さすが徳島、すだちがこれだけ入っていて120円(税込)とは…。
お土産に夢中になっていましたが、時刻はお昼すぎ。お腹がすいてはなんとやら。えっちらおっちら、東野さんのおすすめ「美郷の湯」へ向かいます。

森の中に佇む小さな食堂で贅沢ランチ

美郷の湯」は古くから地元の人々に愛されている温浴施設。2014年のリニューアル時に、食堂も改装し、連日お客さんでにぎわっています。
▲旧・東山鉱山鉱泉水を利用したお風呂。日帰り入浴は中学生以上500円、小学生以下250円(ともに税込)/10:00~21:00(受付20:30まで)
「ORGANO(オルガノ)」は美しい森の景色を眺めながら食事が頂ける、まさに“森の中の食堂”。こちらでキッチンを任されているのが、東京の南フランス料理店にいらした富山さんと、仙台の和食ダイニングにいらした遠藤さん。自家農園でとれた新鮮野菜や、美郷の特産品をたっぷり使用した創作料理を提供しています。
▲富山さん(右)と遠藤さん(左)

縁があって美郷にIターンしたお二人。「最初は美郷の人たちに、自分たちの料理が受け入れられるか不安でした」といいます。それもそのはず、リニューアル前の美郷の湯では、お蕎麦やうどん、定食などがメイン。パスタなどの洋食はあまりなじみのない料理でした。
「だからといって、同じようなメニューを出していても挑戦にならない。美郷の食材で、自分たちの美味しいと思える料理を提供しようと思ったんです」と富山さん。最初は恐る恐るだったご年配のお客様も、今では好んで生パスタやタンシチューを口に運んでくださっているそう。
一番人気の「日替わりランチ」(税込880円)を頂きました。美郷や徳島県の野菜をたっぷり盛り合わせたサラダと、この日のメイン「白身魚(鰆)のポワレ マリナーラソース」。徳島県産のコシヒカリのライスか、阿波市の「K-FACTORY」のバゲットを選ぶことができます。さらにミニスイーツとドリンク付き!
メインは魚と肉が日替わりで登場します。880円とリーズナブルなお値段ながら、コース料理を頂いているような贅沢な気分になりました。

そのほか、仙台出身の遠藤さん渾身の「タンシチュー」(ランチタイムセット税込1,280円)もとろけるような美味しさでオススメとのこと。これは、また食べに来なくちゃですね。
梅酒特区認定から9年。年々魅力を増している美郷地区へ、ぜひ足を運んでみてください。

文・写真:伊藤秀美
ぐるたび編集部

ぐるたび編集部

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