焼酎銀行にオーナー制度!?四万十の名物蔵「無手無冠」へ

2015.12.03 更新

高知県南部、日本最後の清流・四万十川のほとりに、小さな酒蔵があります。その名も「無手無冠(むてむか)」。焼酎好きなら知らない人はいない銘酒「ダバダ火振(ひぶり)」を生んだ蔵です。季節は秋、仕込みまっただ中の蔵を訪れました。

「ダバダ火振」は、栗の産地である地元・四万十町の町おこしをきっかけに生まれたお酒。しかし、ここ近年はあまりの人気に販売制限をする状況が続いているといいます。「ありがたいことに、全国各地からお問い合わせいただいています」と話すのは、番頭の福永太郎さん。

ひと味もふた味も違う、贅沢な栗焼酎

「ダバダ火振」は、地元産はもちろん、国産の栗をたっぷり50%も使用した栗焼酎。栗の豊かな香りを封じ込めるように、低温でゆっくりと蒸留しています。

今でこそ「ビールも日本酒も焼酎もワインも何でもござれ!」な酒好きの私ですが…、ダバダ火振に出会うまでは、正直、焼酎が苦手でした。小料理屋さんで初めてロックでいただいたとき、あまりの美味しさに目からウロコが落ちたのを覚えています。
角がなく、まろっとしたやさしい飲み口。鼻腔をくすぐる栗のほのかな香り…。じっくりいただくも良し、食中酒として料理に合わせるも良し。全国各地にファンがいるのも納得の逸品です。

天然セラーで、四万十時間お預かりします

そんな、「ダバダ火振」で有名な「無手無冠」。オリジナリティあふれる試みを、次々と打ち出すことでも有名なんです。
13年前に、現会長の山本彰宏さんが始めた「ミステリアス・リザーブ」は、洞窟を利用した長期貯蔵オーナー制度のこと。昔、生姜の貯蔵庫として使われていた洞窟を、そのまま活用しています。(高知は生姜の生産地としても有名なんです!)
▲薄暗い洞窟の中にはリザーブされた焼酎がぎっしり。開封の日を静かに待っています

春夏秋冬、16度をキープする天然のセラーで、栗焼酎特上原酒を四万十時間(40,010時間/約4年7ヶ月)貯蔵。丁寧に梱包して発送してくれます。貯蔵することでまろやかさとコクが増し、ふくらみのある味わいが楽しめるそうです。四万十の自然を生かした粋な試みですよね。
▲「ミステリアス・リザーブ」は、美濃焼き瓶入り18リットル40,010円(税別/送料別)。毎年限定500瓶のみ。例年完売してしまうそう

当行は「預貯金」ならぬ「預貯酎」専門の銀行です

▲「無手無冠」から100メートルほど歩いたところにある「四万十川焼酎銀行」

また、5年前には、空き物件となった銀行の建物を利用した「四万十川焼酎銀行」を創設。こちらで預け入れできるのは、現金でなく、なんと“焼酎”!

栗を75パーセント使用した「預貯酎 栗75%」を預け入れ、定期預貯酎の場合は引出しの際に5パーセントの利息分の小瓶がつくという、心憎いしくみです(笑)。

価格は720ミリリットルで税込5,000円(送料別)。毎年500壺の限定販売です。「普通預貯酎は1カ月以上1年以内。定期は1年、2年、3年がありますが、だいたいみなさん3年を選ばれます」とのこと。全国のどの酒屋さんにもない、この焼酎銀行に預け入れした人だけが味わえる逸品というのもプレミアム感を増します。
また、この銀行ではさらにプレミアムな逸品「馬之助 栗90%」が購入できます。こちらは栗を90%使用するという、圧倒的な純度を誇る栗焼酎。1割だけ使用しているという米麹も国産とこだわり満載です。素材にこだわり、1年かけて熟成させるため、生産できるのは1年に1,000リットルのみとのこと。栗の芳醇な香りと甘みがガツンと堪能できます。まずはロックで。そして冷凍庫で容器ごと凍らせて氷結でいただくのもおすすめです。
▲銀行時代に使われていた重厚な金庫扉を開くと、巨大な焼酎瓶が(笑)!
▲焼酎“銀行”なので、預かり証はもちろん通帳です

酒づくりは米づくりから

様々なアイデアを生み出し、周りをアッといわせてきた彰宏さん。5年前に社長業を引退し、息子の勘介さんに引き継ぎました。現在、生産量はまだ少ないですが、日本酒づくりに力を入れています。

使用するお米は、地元・高知でつくられている「ひのひかり」。地元農家と提携して米づくりをするだけでなく、「無手無冠」では蔵人が世話をする自社の田んぼがあります。その栽培方法にもこだわりが!有機肥料とマルチ(雑草の成長を抑制する覆いのこと)を使用し、無農薬栽培で育てています。自然に還る紙製のマルチを使っているので、環境にも優しいんだそう。「酒づくりのために、四万十の自然を壊すわけにはいきませんから!」
私が蔵を訪れたのは、年に6回ほどしかない日本酒の仕込みの日。めったにない機会なので見学させてもらいました。もうもうと湯気をあげているのは、お米の蒸し器です。ご飯の炊ける甘~い香りが作業場いっぱいに広がり、思わずよだれが…。
▲黙々と身体を動かす職人さんたち。働く男の背中はカッコいい!焼酎の仕込みは、なんと年間200回にも及ぶそう
炊きあがったお米はツヤツヤと光ってなんともおいしそう。ことあるごとに「あー、おいしそう」とつぶやく私を見かねて、炊き上がったお米を少し分けてくださいました(笑)。モチモチとした食感、噛めば噛むほど上品な甘みが広がります。このお米で仕込んだお酒はさぞかし美味しいだろうな。
▲純米生原酒の「無手無冠」(720ミリリットル/税込1,430円)。生産量が少ないため、ほとんど市場に出回らない幻の酒との呼び声も高い
おすすめの飲み方は冷や、もしくはぬる燗とのことだったので、今回は冷やでいただきました。ズッシリとしたお米の旨みを感じます。ガツンと濃厚な味わいですが、後味はスッキリなので食事と合わせてもいいかも。

自然と人を大切に、四万十発の名物蔵

蔵と道を挟んだ向かいの作業場では、お母さん達がラベル貼りをしていました。瓶をチェックしながら、「お客さんに喜んでもらえますように」と、一本いっぽん丁寧に。流れるような手つきにじっと見入っていると、「機械やないき、よーく見たらちょっと曲がったりしちゅうけど」と照れ笑い。いえいえ、それもまた味になって良い感じです。
「うちの社名に“酒造会社”って肩書きが付いていないのにお気づきですか? 生業は“地の酒づくり”ですが、それだけが目的やないんです。地元・四万十の魅力を、酒を通じて多くの方に知ってもらいたい。四万十の自然に、そして、そこで暮らす人たちに恩返ししたい。その想いから、酒蔵にしては珍しい取り組みを昔からやってきたんです」と福永さん。
▲左から、良質の栗75%と米麹のみを使用した特別古酒「四万十大正」(720ミリリットル税込5,698円)。無手無冠の代名詞・栗焼酎「ダバダ火振」(900ミリリットル 税込1,696円)。猪肉などのジビエと合わせると最高な燗の酒「千代登(ちよのぼり)」(720ミリリットル税込822円)

明治26年、“冠におぼれず、飾らず、素朴な心を大切に、ひたすら自然を生かした地の酒づくりを”との想いで創業した「無手無冠」。名は体を表すとはこのこと。酒づくり、地元への想いを聞いて、ますますファンになりました。
伊藤秀美

伊藤秀美

愛媛生まれ、愛媛育ちの編集者。地元の出版社でタウン情報誌、女性誌の編集を経て、旅雑誌「四国旅マガジンGajA」の編集長に。食べること・飲むこと・自然の中で遊ぶことが大好きで、不便さや田舎っぷりもひっくるめて四国を愛している。リサーチ(仕事)と称し、年中、四国中をふらふらしている。

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