「浄敬庵」で夜のお茶席を体験。幻想的な空間のなかで自分とゆっくり向き合う

2015.12.16

「浄敬庵(じょうけいあん)」では、ろうそくのほのかな灯りのなかで伝統的な茶道の体験ができます。暗闇で茶道とは……?わくわくしながら向かうと、そこには、心のこもったおいしいお茶と、忙しい日常を忘れて自分とゆっくり向き合える特別な空間がありました。

「浄敬庵」は、JR奈良線・京阪本線の東福寺(とうふくじ)駅から徒歩10分。「泉涌寺総門(せんにゅうじそうもん)」の先にある閑静な住宅地のなかにあります。

参加する「夜のお茶席体験<コースD>」の開催時間は17時からと19時からがあり、今回は17時からのコースを予約しました。
▲泉涌寺総門をくぐり、参道をまっすぐ進む
▲にぎやかな京都の街の中心部から少し離れているため、参道に入るととっても静かで落ち着いた雰囲気
▲浄敬庵に到着

茶道の作法を知らなくてもご安心を

茶道初心者でも大丈夫かな?と心配しつつ、玄関のチャイムを鳴らすと、亭主の松本宗幸(そうこう)さんが笑顔で迎えてくれました。
しんと静かな空気に包まれ、玄関の入り方、靴のぬぎ方ひとつに緊張……。まずは「待合(まちあい)」という部屋で身支度を整えます。

「それでは茶室へ」と、松本さんの案内に従い茶室へ入ります。このとき、畳のへりを踏まないように気をつけましょう。またぐときは右足でまたぎます。
ドキドキしながら正座していると松本さんからアドバイスが。

「茶道では正座をしないといけない、作法を知らないといけない、と敷居を高く感じる方も多いと思います。でも、何も知らなくても気にすることはありません。それよりも、まずはおいしいお茶とお菓子を味わい、お点前を見て、自分なりに何かを感じていただけたらと思います。気になるポイントがあれば、お点前の途中でもいいので質問してくださいね。正座ができない方はあぐらをかいてもいいんですよ」
▲亭主の松本宗幸さん。お客さんのお出迎えから茶事まで、すべてをひとりで行う

正式なお茶席(茶事)では、お茶をいただく前に一汁三菜を基本とした「茶懐石料理」が作法に準じて供されます。この日予約した<Dコース>では、茶懐石料理の一部である「小吸物」と「八寸」、酒が出され、中立ち(休憩)をはさみ、干菓子、薄茶と続きます。

料理が運ばれてくるのを待つあいだ、床の間に目を移すと掛け軸と生花がありました。ススキやシュウカイドウ、ワレモコウなど秋の植物を眺めるのも、四季をいつくしむ和のこころを感じる時間です。
▲掛け軸も秋を意識したもの。「吾心似秋月」(吾が心、秋月に似たり)と書かれていた

目でも楽しめる美しい料理

ふと、どこからかいいにおいがしてきました。亭主が自ら腕をふるって料理を作っているのです。出来たてをいただけると知りびっくり。なんてぜいたくなのでしょう!

ふすまが開き、まずは小吸物が運ばれてきました。小吸物は「箸洗(はしあらい)」ともいわれ、口と箸を清める役割があるそうです。小さなお椀に戸惑いながらいただくと、出汁がきいたやさしい味に、「おいしい……」とひと言。緊張もほどけるやさしい味わいです。
▲はじめての「小吸物」にドキドキ
▲まずは小吸物をいただく
▲作法が間違っていないか気になりつつお箸をとる
▲お箸の使い方、合っていますか……?

つづいて「八寸」とお酒が運ばれてきました。八寸とは、お酒の肴として出てくるもので、八寸(約24cm)四方の杉木地盆に盛りつけてあります。
▲八寸とお酒。お酒は盃とともに運ばれてくる

「八寸」は、海の生臭物(なまぐさもの)と山の精進物の2種を取り合わせることが原則とのこと。この日は、鱧(はも)の天ぷらと枝豆でした。

「枝豆にさしてある松は庭でつんだものですよ」と、松本さん。
美しく盛られた料理には、「お客さんに季節を感じながら食事を楽しんでほしい」という亭主の工夫や気持ちがつまっているのですね。
▲鱧の天ぷらと枝豆が美しく盛られている
▲木地八寸からそれぞれ取り分けられる
▲お酒は「礼儀」と「交歓」の意味から出されるもの
▲鱧の天ぷらとお酒がよく合う

静かな茶室のなかでいただく料理は、味だけでなく、香りや歯ごたえまでも、ふだんよりしっかりと感じとれるような気がしました。忙しいと、つい急いで食べてしまいがちですが、ひと口ひと口味わうことで、おなかもこころも満たされました。
▲料理を食べ終えると、すっかり日が暮れて外は真っ暗

鐘の音を5回聞いたら、いざ真っ暗な茶室へ!

一度茶室を出て、待合で「夜のお茶席」の準備が整うのを待ちます。5分ほどすると、ふすまの向こうから松本さんの「鐘の音を5回聞いたらお入りください」という声が。

カーン、カーン、カーン、カーン、カーン

響きわたる鐘の音に、いざなわれるように茶室へ――。
▲待合で夜のお茶席が整うのを待つ
▲待合のふすまを開けると、廊下からすでに暗い! ※ここからは、あまりに暗いので写真は少し明るめに調整してお届けします
▲茶室のふすまをそっと開けると……

茶室に入ると、「ぉお~」と思わず声が出てしまうほど暗くてびっくり!
短檠(たんけい)と呼ばれるろうそくが2つあるだけで、ほのかな灯りに照らされた茶室はなんとも幻想的です。
非日常の空間にわくわくしながら、料理をいただいたときと同じ場所に座ります。

「夜の茶会は、浄敬庵だけの催しものではありません。茶道の世界では古くから行われている伝統的な茶会なんですよ」

昔は電気がないので、日が暮れると茶室もまっ暗になります。そんな中で、短檠や竹檠(ちくけい)、座敷行灯(あんどん)などでささやかな灯りをつくり、趣深い時間を楽しんだのが、夜の茶会のはじまりだそうです。
▲短檠。短檠とは、油の入った皿に灯芯をひたして火をともしたもの
▲ろうそくのあたたかい光に包まれる

流れるようなお点前にうっとり

ろうそくの灯りはやさしくて、ぼーっと眺めているだけで心地いい時間に包まれました。
亭主が暗闇のなかを一歩一歩進む姿や、ひとつひとつの動作をじっと見つめます。
▲亭主は手燭(てしょく/蝋燭を立てる台で、手で持ち歩けるように柄がついている)を持って登場
▲お茶をいただく前に干菓子が運ばれる。干菓子は、季節をあらわす植物や食材の形をしていたり、旬の素材が使われたりする
▲懐紙(かいし)に自分の分をとっていただく

亭主が、“一杯のお茶”を点(た)てるまでに実にたくさんの工程をふむことに驚きました。ふくさをさばき、抹茶が入った棗(なつめ)や、茶杓(ちゃしゃく)を清め、茶せんや茶碗を湯に通して準備を整える。
流れるようなお点前は、無駄な動作が一切なく、見ているだけでうっとり……。

「静寂の中で、電気のない時間、ろうそくの灯り、水の音などひとつひとつを体験していただき、日常に少しでもこの空間を持っていってもらえたらと思います」

柄杓(ひしゃく)から茶碗へ注がれる湯の音や、お茶を点てるときのシャカシャカという音も、なんて耳に心地いいのでしょう。必要最低限の光のなかにいるからか、不思議と感覚が研ぎ澄まされてきました。
▲ふくさ(右手に持った赤い布)で棗のふたの上下をなでるように拭き、棗を清める
▲ふくさをさばき直し、茶杓をふわりとはさんで清める
▲気づけばお点前に見入っていた
▲暗いなかに抹茶の鮮やかな緑色が映える
▲柄杓から落ちる清らかな水の音も楽しみたい
▲お茶を点てる音にも耳をすましてみて

“一期一会”を大切にするこころを学ぶ

差し出されたお抹茶を、まずはひと口。
抹茶特有の苦味が口の中にひろがりますが、ふんわりとやわらかい口当たりです。

亭主のこころのこもった一杯に、緊張もどこかへ消えていきました。
「お客さまとの出会いは一期一会です。たとえ、何回来ていただいたとしても、この時間、この一杯のお茶は、今日限りのもの。一期一会と思ってお茶を点てています」

日々の暮らしの中でも、ついつい「また次がある」と思ってしまいがいですが、その時間はその時だけのもの。日々の生活の中の、どんな場面でもそんな「一期一会」の精神を忘れずに過ごしたいと思いました。
▲差し出されたお茶は右手で持って自分のところへ運ぶ
▲次席の人に「お先に」と挨拶をしてからいただく
▲お抹茶を頂いたのはいつぶりだろう……。おいしい……

「お抹茶には、ビタミンAやビタミンCなどが豊富に含まれていて、美容効果も高く、とても体にいいんですよ。なかなか飲む機会がない方もいると思いますが、ぜひお店や自宅でお抹茶をいただく機会をつくっていただけたらと思います」
▲お茶を頂いたあとは、茶道具を拝見する。一つの灯りを囲むようにして愛でる
▲棗に描かれた蒔絵(まきえ)や光沢が、暗闇の中で輝き本当にきれい
▲茶道具を拝見したら、お茶席は終了。亭主がゆっくりと退席

ふだんの生活にも生かされる茶道の奥深さ

静寂の中で、心地よい時間を過ごすことができ、なんとも清々しい気分に。そして、お客さんへこころを尽くす茶道の奥深さにふれることができました。

「茶道は、お茶席の時間だけでなく、日常のさまざまな場面で生かされます。畳の歩き方やお箸の持ち方、立ち居振る舞いなど礼儀作法の基礎が自然と身につきますよ」

松本さんのように女性らしい立ち居振る舞いができるようになりたいな……。今回のお茶席体験をきっかけに、茶道を習いたくなりました。

「浄敬庵」の<夜のお茶席体験>は、おいしいお茶とおいしい料理をいただけるだけでなく、忙しい日常を忘れて自分とゆっくり向き合える時間となりました。

京都を訪れたら、ぜひこの極上の時間を過ごしてみてください。

撮影 玉永俊輔
齋藤春菜

齋藤春菜

編集者、ライター。出版・編集プロダクションデコ所属。女性の美容・健康・ライフスタイルに関する書籍、雑誌を多数編集・執筆。文芸、料理、アート本の編集も行う。全国各地へと取材に訪れたさいには地元のおいしいお店を必ずチェックする。編集を担当した本に『お灸のすすめ』『瞑想のすすめ』(ともに池田書店)、『足もとのおしゃれとケア』『わたしらしさのメイク』(ともに技術評論社)、『はじめてのレコード』(DUBOOKS)、『顔望診をはじめよう』、『月の名前』、『健康半分』などがある。

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