老舗茶商「中村藤吉本店」の挽き茶体験へ。石臼で挽いた茶葉で点てた貴重なお茶を味わう

2015.12.16

「中村藤吉本店(なかむらとうきちほんてん)」は、安政元年(1854年)の創業時から、宇治茶のおいしさを世に伝え、地元の人たちから愛されてきた茶商です。京都府宇治市にある「中村藤吉本店」では、宇治茶の味わいや香りをより一層楽しめる「挽き茶体験」ができます。自分で挽いた抹茶で点(た)てられた一杯をじっくり味わってみませんか。

▲宇治の重要文化的景観に選ばれている趣のある建物

「中村藤吉本店」は、安政元年(1854年)に初代中村藤吉によって開業。天皇陛下や有名な茶道家たちにも信頼された茶商として成長し、多くの人においしい宇治茶を届けてきました。

趣ある建物ののれんをくぐると、さわやかなお茶の香りにつつまれます。店内にはショップのほかにカフェもあり、お茶スイーツも楽しめるとあって大賑わいです。

今回は、「中村藤吉本店」で開催している「挽き茶体験」にやって来ました。
まずはショップで受付をして、「挽き茶体験」のチケットを受け取ります。

「挽き茶体験」では、原料となる碾茶(てんちゃ)を石臼で挽いて抹茶を作り、敷地内にある茶室で、挽きたての抹茶を使って点てたお茶をいただくことができます。
▲受付時にもらえるチケットを「挽き茶体験」担当の横山萌さんに渡して体験スタート
▲チケットは「鳥獣戯画」の絵柄だ
▲銘茶売り場には茶葉を保管する茶壷がズラリ
▲ふすま紙には昔から使用されていた落款の模様が施されていた

石臼をまわす音とともに、色鮮やかな抹茶があらわれる

「お茶で有名な宇治ですが、じつは広いお茶畑がありません。家と家のあいだにあるような小さな茶畑が主流です。茶葉は日光を浴びると、旨み成分が苦味・渋みへと変化するので、このあたりでは黒い寒冷紗(かんれいしゃ)をかけて光をさえぎり、旨み・甘みの強い茶葉をつくります。その茶葉を乾燥させたものが碾茶になり、挽くととてもまろやかな抹茶になるのです」と、横山さん。
▲横山さんが、「挽き茶体験」と茶室での「お茶席体験」をナビゲートしてくれる。ほかに2名のスタッフがいる

さっそく挽き茶に挑戦です。
▲挽き茶は畳の間で行う
▲茶葉を挽く専用の石臼

持ち手をにぎり、まずはひと回し。想像以上に重く、スムーズに回せません……。横山さんにお手本を見せてもらいながら、出来るだけ同じ速度で回します。

ぐっと力を入れながら回していると、抹茶の香りがふわりと漂ってきました。とてもさわやかな香りです。
石臼で挽くと、石同士の摩擦から発生した熱が茶葉に加わり、香りが立っておいしい抹茶になるそうです。いまは機械で挽くことが多くなりましたが、昔はこのように手作業で抹茶を作っていました。
▲上部に碾茶を入れる穴がある。挽く前の茶葉は少し大きめの青海苔のような見た目
▲重い!全身に力を入れて挽きます(とは言え女性でも回せるくらいですのでご安心を)

コツもつかめてきて、なんだか楽しくてぐるぐる……。ゴォーゴォーゴォーと、石臼を回す音が静かに響きます。
「この石臼を回す音がいい、と言うお客さまも多いんですよ」と、横山さん。

石と石の間から抹茶が出てきました!深緑色だった碾茶が、目が覚めるような色鮮やかな萌黄色になっています。
▲鮮やかな色をした抹茶が出てきた
▲棗(なつめ)に抹茶をすくい入れる
▲水鳥やアヒルの羽で抹茶を掃って集める

挽き立ての抹茶はほんとうにいい香り!たっぷり挽いたように思いましたが、約2杯分の抹茶を点てられるくらいの量とのこと。たった2杯のお茶を入れるためにこの手間隙がかかると知り、これからいただくお茶のありがたさを感じました。

「お茶席では、お茶をいただく前に茶懐石料理をいただくことがあります。そのときに、この石臼をまわす音が別の部屋から聞こえてくることがあります。“亭主がわたしに点てるお茶のために、茶葉を挽いてくれているんだなぁ”と思いながら料理をいただくのも、ぜいたくなひとときですよ」

茶室へ移動し、まずは濃茶をいただく

つづいて茶室へ移動します。茶室は「瑞松庵(ずいしょうあん)」と名付けられていて、貴重な元禄様式の建物です。茶室と聞くと、出入口が小さく、かがんで入るイメージがありますが、「瑞松庵」は身をかがめずに入ることができる造りになっていました。

茶室の入口の開け方、上がり方などひとつずつていねいに教えてくれます。
▲庭の中に茶室がある
▲茶室の入口が少しだけ開いており、これを「手がかり」といいう。手がかりに手をかけて障子を静かに開け、ぞうりを脱いで上がる
▲人がたくさん中に入れるように、ぞうりの裏を合わせて石の間にはさむ
▲茶室

正座をして座り、ひと呼吸。こころを鎮めてお茶席がはじまるのを待ちます。ふすまが開き、まずは亭主(横山さん)からお茶菓子が出されます。
この日は人気の生茶ゼリイ。抹茶の香りが立ち、甘さひかえめでおいしい!お茶菓子は季節によってかわります。

「ほかのお茶席とちょっと違うものをお出ししています。夏はひんやり冷たいゼリイや、冬にはガトーショコラを出すこともありますよ。和菓子だけでなく、洋菓子もお抹茶に合うことを知っていただけたら嬉しいです」
▲お茶の前のお茶菓子が運ばれる
▲生茶ゼリイ、白玉、あんこがたっぷり。食べ終わると、ちょうどお茶を飲みたくなる

こんなにたっぷり!?抹茶の量にびっくり

まずは濃茶をいただきます。
抹茶を茶さじに山盛り3杯ほど茶碗に入れたかと思うと、棗(なつめ)をひっくり返して茶碗に抹茶を直接振り入れるのでびっくり。「濃茶」と書くとは言え、これは相当濃いぞ……わたしに飲めるかなと心配になりました。
▲茶碗に振り入れられる抹茶

そこに湯を少し入れ、お茶を「点てる」のではなく、「練る」ように濃茶を作ります。亭主の手元を見ると、しなやかな動きでありながら、ぐっと力を込めているのが分かり、粘度の高さが伝わってきました。
▲はじめて見る濃茶に興味深々
▲手先に力を集中させて濃茶を練り上げていく

お点前をしているあいだは、気になることがあっても亭主に話しかけないようにしましょう。亭主は、お客さんのために、最高の一杯を作ろうと集中しているので、じゃまをしないためです。同時に、もてなされる側のお客さんも静かにお点前を見守ることで、気持ちを整えます。

いよいよ濃茶をいただきます。深い緑色をした濃茶は、どろりとしていて茶碗を傾けてもすぐには口まで流れてこないほど。
▲表面には光沢が生まれている。この濃さ伝わりますか?

ひと口いただくと、あまりの濃さに一瞬言葉を失います。でも、思ったほど苦くないから不思議。抹茶の持つ苦味、甘み、香りがじんわりと伝わってくるような味わいです。上質なお茶だからこそ、これほど濃く作ってもおいしくいただけるのですね。
▲いただきます……
▲想像以上の濃さに思わず笑ってしまった。次のお客さんも同じものをいただくので、半分残す
▲飲み終わったら飲み口を拭く(塗らした茶巾が用意されています)
▲濃茶は次のお客さんへ手渡しする

挽き立ての抹茶で点てられた薄茶を味わう

つづいて、薄茶をいただきます。この薄茶は、さきほど自分で挽いた抹茶で点ててくれます。
シャカシャカシャカ……と、薄茶を点てる音が静かな茶室に心地よく響きます。
▲流れるようなお点前

濃茶に比べると、薄茶はふんわりとやさしい萌黄色。挽き立ての抹茶を使ったからか、どこか青々しいフレッシュな香りがしました。
まろやかで、ひと口いただくたびに、どこかほっとする味です。
▲薄茶。表面を細かーい泡が覆っている
▲薄茶は2~3口半で飲み干す
▲飲み終えたら、ひじをひざに置くようにしてお茶碗の模様を見て愛でる
▲こちらは横山さんのお友達がハワイで焼いたというお茶碗

濃茶と薄茶では、同じお茶でも、味わいや香りの感じ方がかわり、抹茶の豊かな表現力を体感できたような気がしました。
そして、茶室の落ち着いた空間の中でゆっくりとお茶をいただく時間は、忙しい毎日を忘れて、ほっとリラックスできる時間でもありました。

しばらくたってもお茶の味わいが口の中にそっと残り、さわやかな気持ちがつづきました。
▲お茶席も終わり「挽き茶体験」終了。久しぶりの正座に足がしびれた……。正座ができない人は足を崩して座ってもOK

美しい所作が自然と身に付く茶道

「お茶をはじめてから、ふだんの生活でも指先に気をつかうようになりました。物を取ったり置いたりするときに、自然と指をそろえたり、ていねいに扱います」と、横山さん。

ついつい雑になってしまう動作も、指先を少し意識するだけで、見ていて美しい女性らしい所作につながるのですね。
▲床の間にはホトトギス、フジバカマの花が野に咲くように生けてあった。四季を感じ、こころを磨く時間

「『中村藤吉本店』には、お茶のおいしさを伝えていく使命があります。そこで、少しでも“お茶”というものを体験していただきたくて、この挽き茶体験を行っています。お茶をおいしいと感じていただける思いや経験を積み重ねていってくださればうれしいです」

宇治の町で、茶業一筋に営んできた「中村藤吉本店」だからこそ実現したこのプラン。お茶の新たな味わいを知り、ふだん飲んでいるお茶の入れ方を少しかえたり、抹茶を飲む機会を増やしたくなるはずです。
まだふれたことのない“お茶”の世界にふれてみませんか?
▲ショップには抹茶や煎茶、ほうじ茶などさまざまなお茶がそろっている


撮影 祐實知明
齋藤春菜

齋藤春菜

編集者、ライター。出版・編集プロダクションデコ所属。女性の美容・健康・ライフスタイルに関する書籍、雑誌を多数編集・執筆。文芸、料理、アート本の編集も行う。全国各地へと取材に訪れたさいには地元のおいしいお店を必ずチェックする。編集を担当した本に『お灸のすすめ』『瞑想のすすめ』(ともに池田書店)、『足もとのおしゃれとケア』『わたしらしさのメイク』(ともに技術評論社)、『はじめてのレコード』(DUBOOKS)、『顔望診をはじめよう』、『月の名前』、『健康半分』などがある。

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