ご当地グルメの横綱・静岡おでんの魅力に酔う!

2016.01.14

富士宮やきそば、静岡おでん、浜松餃子など、庶民的なご当地料理がひしめく静岡県はB級グルメの王国です。中でも静岡おでんは、扱う飲食店の数が推定600軒(一説では1,000軒以上)と言われ、静岡市特有の食文化を形成しています。その圧倒的なスケール、そして市民の生活に深く根ざした存在感は、日本中を探してもなかなか見つからないでしょう。そんな静岡おでんの魅力を紹介します。

黒くて、うまくて、優しい静岡のソウルフード!

▲最大の特徴はスープが黒いこと。串に刺さっているのも特徴です
▲スープの色は店によって濃淡があります。タネは静岡産の練り物が中心です

静岡おでんは黒いスープに浸っています。店によって濃淡はありますが、真に真っ黒な場合は、中に何が入っているのか見えないため、串を引き上げてタネを確認する作業が必要になります。そんな光景も静岡おでんの特徴と言っていいでしょう。

スープが黒い理由は、牛スジからダシをとったスープを何十年も注ぎ足しながら使い続けているからです。終戦直後から続く老舗では60年以上経過したものもあります。ただし、味は決して濃くありません。タネの旨みがよく染み出た柔らかい醤油味です。一般的なおでんにはない力強さもありますが、食べ飽きることのない優しさもあります。
▲静岡おでんには必ず「黒はんぺん」(写真左)が入っています

静岡おでんの特徴は、1.牛スジを使った黒いスープに浸っていること、2.タネが串に刺さっていること、3.黒はんぺんが入っていること、4.だし粉をふりかけて食べることの4つです。黒はんぺんはサバ、アジ、イワシなどの青魚をすり身にして、はんぺん型に加工した練り物で、静岡県ではポピュラーな食材です。県外ではほとんど知られていませんが、静岡おでんのブレイクによって全国的な知名度は高まりつつあります。味はイワシのすり身「つみれ」に似ています。ただ、静岡県人にとって黒はんぺんとつみれは似て非なるモノです。

会計は最後に串の数を数えて計算する方法が主流です。価格は駄菓子屋系の店で1本あたり80円、酒類を扱う居酒屋系や横丁系で1本150円が目安です。
▲だし粉をふりかけた静岡おでん。だし粉は富士宮やきそばでもおなじみです

静岡おでんはだし粉をかけて食べるのが一般的です。だし粉とはイワシやサバなどの削り節を細かく粉末状にしたもので、店によっては青のりを混ぜている場合もあります。だし粉はタネの風味に奥行きを与えてくれますが、タコ焼きにかけるカツオ節みたいなものなので、無理に使う必要はありません。辛子も同様です。タネは静岡産の練り物が中心で、ほかにはジャガイモ、ダイコン、厚揚げ、コンニャクなども入っています。黒はんぺんと牛スジを除けば、一般的なおでんのタネと大きな差はありません。

魅力満載の駄菓子屋系と横丁系!

▲おにぎり、団子、かき氷などを販売している駄菓子屋系の店

静岡おでんを提供する店の形態は3つに分けられます。居酒屋系、駄菓子屋系、横丁系です。言い換えれば大衆的な飲食店であれば、静岡おでんを扱っているケースはとても多く、だからこそ「全部で何軒あるのか分からない」という状況になっています。

3形態の中で特徴的なのは駄菓子屋系です。駄菓子屋系の店は酒類を扱っていないので、子どもも容易に立ち寄ることができます。最近はコンビニにその座を奪われてしまいましたが、以前はサッカーや野球に興じる子ども達が腹ごしらえに駄菓子屋で静岡おでんをほおばる姿は日常的でした。
▲部活の帰りに駄菓子屋系の店で静岡おでんをほおばる女子高生

静岡おでんは静岡市民にとって生活の句読点です。遊びに行く前の腹ごしらえ、買い物の帰りのひとつまみ、仕事帰りのちょい飲みなど、おでんを食べることで生活のリズムを生み出しています。言い換えれば、静岡おでんはオヤツであり、ファストフードであり、おかずであり、酒肴でもあります。ですから駄菓子屋系の店には子ども、学生、主婦、ビジネスマンが自然に集まり、一種の社交場を形成しています。その世界観も静岡おでんの大きな特徴です。
▲横丁系の店が軒を連ねる「青葉おでん街」は今や観光スポットです
▲青葉おでん街には現在21のおでん屋が入っています
▲青葉おでん街の「愛ちゃん」はいつもたくさんの酔客で賑わっています

静岡おでんを語る時に外せないのは横丁系の店です。現在、静岡市には、おでん横丁がいくつも存在しますが、双璧をなすのは「青葉おでん街」と「青葉横丁」です。21軒のおでん屋が集まる「青葉おでん街」は幾重にも連なる提灯が昭和の風情を色濃く漂わせているため、県外客の観光スポットにもなっています。「青葉横丁」は入っているビルが最近建て替えられてしまい、昭和の風情はありませんが、静岡おでんの黎明期から続く店が多いため、地元の人に人気です。

静岡おでんは店舗数がとても多いため、どこへ行けばいいのか分からないという声もよく聞きます。そんな時は「静岡おでんの会」の初代会長・大石正則さんも足繁く通う「青葉おでん街」の「愛ちゃん」がおすすめです。
▲「愛ちゃん」のおでん鍋。希望を言えば店主が皿に盛ってくれます
▲「愛ちゃん」の店主・松本義和さん。きさくな人柄で全国にファンがいます

「愛ちゃん」は10席のカウンターしかない小さな店です。満席になると隣の人と肩が触れるほどですが、だからこそ家庭的な雰囲気があり、知らぬ同士が酒を片手に盛り上がります。若い女性客の姿も珍しくありません。おでんの価格は1本100円、150円、250円(すべて税込)の3種類で、串の形で見分けが付きます。食べ終えた串はカウンター上にあるコップの中へ入れておきましょう。会計時に店主が本数を数えて計算してくれます。
▲「静岡おでんの会」を立ち上げた初代会長の大石正則さん
▲ここに居合わせたのも何かの縁。知らぬ同士の会話にも花が咲きます

大石さんは「お酒を出す居酒屋で静岡おでんを食べると味が濃かったりしますが、愛ちゃんは濃すぎず、薄すぎずで丁度いいですね。それと店主の人柄も魅力です。実直できさくな人柄があるからこそ、おでんがおいしくて、居心地も良くて、ファンも多いんです」と語っています。
▲手前から、コンニャク100円、牛スジ150円、信田(しのだ)巻き100円、(すべて税込)。串の形で価格が異なります

「静岡おでんは店によってスープの味が大きく異なるので、最初に味の差が少ないコンニャクを食べれば、その店のスープの特徴が分かります」と大石さん。ちょっとマニアックな食べ方ですが、静岡おでんを何軒もハシゴする時は覚えておくと良いでしょう。
▲「愛ちゃん」の人気メニュー「黒はんぺんフライ」150円(税込)

「愛ちゃん」にはおでん以外にも焼き物、揚げ物などの酒肴があります。中でも人気なのは「黒はんぺんフライ」です。上質な黒はんぺんを丁寧に揚げているので、サクッという食感と、はんぺん特有のフワッとした舌触りを同時に味わえます。ただし、「愛ちゃん」では食べ方にルールがあります。最初は何も付けずにそのまま、次に醤油をちょっとかけて、最後にソースをかけて食べてください。黒はんぺんの奥深い魅力に気付くはずです。

静岡おでんの歴史と系譜

▲駄菓子屋でおでんをほおばる親子。こうして食文化が伝承されていきます
▲駄菓子屋系の店では焼きそばやお好み焼きを出すところもあります

静岡おでんは大戦後の食糧難の頃、それまで処分していた牛スジを生かす方法として誕生しました。原形は大正時代までさかのぼることができるという説もあります。静岡市の隣にある焼津市の練り製品とともに発展し、昭和30年代の初頭には静岡市の目抜き通りに数百を超える屋台が並んでいました。その後、昭和34(1959)年の静岡国体の時、街の美化を推進するために屋台は一掃され、数百におよぶ店が横丁や住宅街に散らばって現在に至っています。

ちなみに全国のご当地グルメの店舗数は1料理あたり20~50軒、多くても200軒程度と言われています。ところが静岡おでんは推定600軒、ひょっとすると1,000軒を超えるかもしれないと言われているので、そのスケールの大きさは別格です。
▲静岡おでんにはダシ粉ではなく味噌を付けて食べる店もあります
▲味噌を付けた上にダシ粉をのせるパターンもあります

黒いスープ、串に刺さったタネ、黒はんぺん、ダシ粉という特徴を持つ静岡おでんですが、それらの条件を満たした上で、さらに違った食べ方をする店や地域があります。例えば静岡市の清水区では味噌ダレを付けて食べる店が多く、隣の焼津市ではカツオのヘソ(心臓)がタネとして入っています。どちらも静岡おでんに属しますが、最近は「焼津おでん」「清水おでん」という分け方をするケースもあります。ただし、前述の条件を満たしたおでんは静岡県の中部(富士川以西、大井川以東)に数多くあり、それらを総称して「静岡おでん」と呼んでいます。

約100年にわたる歴史を持ち、老若男女に親しまれている静岡おでんは、静岡市を代表する食文化です。食べておいしいのはもちろん、人との触れ合いや昭和の風情も味わえる魅力は、B級ご当地グルメの横綱と言っても過言ではないでしょう。

静岡おでんの会

佐野正佳

佐野正佳

1960年、静岡市生まれ。25年間、東京で暮らした経験を持つため、静岡の魅力を外からの視線と合わせて語れることが強みです。音楽家、音楽ライター、フリー編集者を経て、現在は出版社「マイルスタッフ」に勤務。旺盛な好奇心と「のぞきや精神」で全国各地を東奔西走しています。

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