国産漆の産地・岩手県浄法寺でうるわしき漆器と出合う!
2015.11.03 更新
国産漆の一大産地、岩手県二戸市浄法寺町。国内生産量の約7割を占め、その漆を使った「浄法寺塗(じょうぼうじぬり)」は、器好きの間でじわじわと人気上昇中だ。そんな漆の里・浄法寺で、「浄法寺塗」の魅力に触れてみた。

岩手を代表するブランド、「浄法寺塗」
漆器というと、お正月など特別な食事に使う華やかなイメージを持つ人も多いかもしれない。しかし、「浄法寺塗」はきらびやかな加飾を施さず、ただひたすら漆を塗り重ねたマットな質感が特徴。無地を基本とするシンプルなデザインは、ふだんづかいの器にもぴったりだ。

二戸市は、全国に知られる漆の産地。そこで採れた漆は「浄法寺漆」として全国に流通している。とはいっても、日本で使われる漆の約98%は中国から輸入されており、残りわずか2%の国産漆のうち約7割を二戸市が担っている。
浄法寺漆は伸びが良く、硬化するととても堅い膜になるので、丈夫で長持ちするのが特徴。こだわったものづくりをする作家たちに使われるほか、日光東照宮や金閣寺、中尊寺金色堂など、世界遺産や国の重要文化財修復にも使用されている。
浄法寺漆は伸びが良く、硬化するととても堅い膜になるので、丈夫で長持ちするのが特徴。こだわったものづくりをする作家たちに使われるほか、日光東照宮や金閣寺、中尊寺金色堂など、世界遺産や国の重要文化財修復にも使用されている。

▲掻いたばかりの漆(写真提供・日本うるし掻き技術保存会)
毎年1本の漆の木から採れるのは、わずか200g程度。そんな貴重な漆をふんだんに使った「浄法寺塗」は、岩手県を代表するブランドの一つ。その起源は定かでないが、地元の人々が「御山」と呼び昔から親しんでいるみちのくの霊山、八葉山天台寺が発祥と云われている。
戦後は、ライフスタイルの変化やプラスチック製品の台頭により一時その製作が途絶えたものの、地元で掻いた漆で漆器を再び作ろうと職人たちが県や町を巻きこんで復活させ、独自の技術を確立させたのが現在の「浄法寺塗」だ。
毎年1本の漆の木から採れるのは、わずか200g程度。そんな貴重な漆をふんだんに使った「浄法寺塗」は、岩手県を代表するブランドの一つ。その起源は定かでないが、地元の人々が「御山」と呼び昔から親しんでいるみちのくの霊山、八葉山天台寺が発祥と云われている。
戦後は、ライフスタイルの変化やプラスチック製品の台頭により一時その製作が途絶えたものの、地元で掻いた漆で漆器を再び作ろうと職人たちが県や町を巻きこんで復活させ、独自の技術を確立させたのが現在の「浄法寺塗」だ。
幅広いデザインとアイテムに、わくわく!
「滴生舎(てきせいしゃ)」は、「浄法寺塗」の工房兼販売施設。この土地に受け継がれ、復活した漆文化を伝えていくため、下地から上塗りまですべて浄法寺漆を使った漆器づくりを続けてきた。

▲八戸自動車道浄法寺ICから5分ほどの小高い場所にある「滴生舎」
ここでは、4人の塗師(ぬし)たちが、汁椀や飯椀、皿や重箱など伝統的な漆器をつくる一方、今の生活に合った新しいアイテムも生みだしている。
ここでは、4人の塗師(ぬし)たちが、汁椀や飯椀、皿や重箱など伝統的な漆器をつくる一方、今の生活に合った新しいアイテムも生みだしている。

▲椀の塗り作業をする塗師たち
販売フロアには、「滴生舎」の作品以外に、浄法寺漆を使う県内外の作家たちの作品が並び、見ごたえ十分。
販売フロアには、「滴生舎」の作品以外に、浄法寺漆を使う県内外の作家たちの作品が並び、見ごたえ十分。


▲箸やスプーンなど、気軽に使えるアイテムも 税込1,620円~
そんな中、ふと目を留めたのがバリエーション豊富な「フリーカップ」。「滴生舎」の塗師それぞれの発想でつくったもので、大きさ、色合い、デザインなどに個性があふれている。
そんな中、ふと目を留めたのがバリエーション豊富な「フリーカップ」。「滴生舎」の塗師それぞれの発想でつくったもので、大きさ、色合い、デザインなどに個性があふれている。

▲使い道もいろいろ、フリーカップ 税込8,424円~
また、ちょっと小ぶりサイズの「小丼」も用途が広い。お湯をかけるだけのお茶漬けも、これならご馳走に見える。手抜き料理を器がカバーしてくれそうだ。
また、ちょっと小ぶりサイズの「小丼」も用途が広い。お湯をかけるだけのお茶漬けも、これならご馳走に見える。手抜き料理を器がカバーしてくれそうだ。

▲日々重宝しそうな小丼 税込16,200円~
キズがついても塗り直せば新品同様になる漆器は、長く使いながら「育てる器」なのだと塗師たちは口をそろえる。
店内には、新品と5年使ったお椀が並べてあった。あえて仕上げを磨き上げない質感が浄法寺塗らしさだが、使うなかで自然に生まれた艶が惚れ惚れするほど美しい。
キズがついても塗り直せば新品同様になる漆器は、長く使いながら「育てる器」なのだと塗師たちは口をそろえる。
店内には、新品と5年使ったお椀が並べてあった。あえて仕上げを磨き上げない質感が浄法寺塗らしさだが、使うなかで自然に生まれた艶が惚れ惚れするほど美しい。

▲右が新品、左が5年経過した漆器
滴生舎
岩手県二戸市浄法寺町御山中前田23-6
[営業時間]8:30~17:00
[定休日]年末年始(1月~3月は火曜日)
0195-38-2511
一滴ずつ手作業で掻きとる、漆
漆は、初夏から秋にかけて漆掻き職人たちが地元の山に入り、手作業で一滴ずつ掻きとっていく。木肌に「辺」と呼ぶキズをつけ、にじみ出た漆をゴミが入らないよう丁寧にヘラで掻きとる、何とも繊細な作業だ。

▲1日で約100本、4日で400本の漆の木を順番にまわっていく(写真提供・日本うるし掻き技術保存会)

▲一滴一滴がとても貴重な漆(写真提供・日本うるし掻き技術保存会)
1シーズンで1本の木から採れる漆は、牛乳びん1本程度。季節によっても漆の質は変化し、7月頃は水分が多く硬化が早い「初辺(はつへん)」、真夏の8月頃は粘度が低く伸びがよい「盛辺(さかりへん)」、9月頃からは盛辺よりやや粘度が高い「末辺(すえへん)」と呼んで採れる季節ごとに区分けしている。
1シーズンで1本の木から採れる漆は、牛乳びん1本程度。季節によっても漆の質は変化し、7月頃は水分が多く硬化が早い「初辺(はつへん)」、真夏の8月頃は粘度が低く伸びがよい「盛辺(さかりへん)」、9月頃からは盛辺よりやや粘度が高い「末辺(すえへん)」と呼んで採れる季節ごとに区分けしている。

▲昔から変わらない漆掻きの道具(写真提供・日本うるし掻き技術保存会)
マニアックさ漂う「うるしまつり2015」
そして、漆の収穫シーズンを終えた二戸市浄法寺町内では、11月7日(土)から、「うるしまつり2015」が開催されるそうだ。これまでも同様のイベント「めっせうるしさま」を開催してきたが、2015年は市外から来る人が気軽に楽しめる企画を増やし「うるしまつり2015」と名称を新たにした。とはいっても、なかなかディープな企画が満載だ。
例えば、「うるし体感ワークショップ」では、漆器の素材となる木を削り出してつくる「箸・さじづくり」(参加料 税込300円)や、漆樽の梱包に欠かせない藁細工を漆掻き職人と一緒につくる「漆樽用輪っかづくり」(無料)なども体験できる。(いずれも事前申し込みが必要)
例えば、「うるし体感ワークショップ」では、漆器の素材となる木を削り出してつくる「箸・さじづくり」(参加料 税込300円)や、漆樽の梱包に欠かせない藁細工を漆掻き職人と一緒につくる「漆樽用輪っかづくり」(無料)なども体験できる。(いずれも事前申し込みが必要)

▲昨年のワークショップで、さじを作る様子
また、「ウルシの木」保育管理研修会では、実際に漆林に入って、漆の成長過程に合わせた手入れの仕方を学べるという。漆の木の育成に興味がある人なら参加できる(無料、事前申し込み不要)。
また、「ウルシの木」保育管理研修会では、実際に漆林に入って、漆の成長過程に合わせた手入れの仕方を学べるという。漆の木の育成に興味がある人なら参加できる(無料、事前申し込み不要)。

▲漆林のイメージ(6月時)。植樹から14~15年かけて育てる
どれも、漆の里ならではの企画。ちょっぴりマニアックだけれど、漆器ができるまでの物語を知る貴重な機会だ。深まる秋、二戸市を訪ねてみてはいかがだろう。
どれも、漆の里ならではの企画。ちょっぴりマニアックだけれど、漆器ができるまでの物語を知る貴重な機会だ。深まる秋、二戸市を訪ねてみてはいかがだろう。
うるしまつり2015
2015年11月7日(土)~15日(日)
[概要] うるし体感ワークショップ(11/14・15)、「ウルシの木」保育管理研修会(11/13)ほか、なかにし正コレクション展示会(11/7~15)、てくてく体感うるしさんぽ(11/14・15)など
※ワークショップ等は定員があるので、募集状況や開催時間などは直接お問い合わせください
[問い合わせ先]浄法寺総合支所うるし振興室 0195-38-2211

水野ひろ子
岩手県在住フリーライター。行政や企業等の編集物制作に関わる傍ら、有志とともに立ち上げた「まちの編集室」で、ミニコミ誌「てくり」やムック誌の発行をしている。(編集/株式会社くらしさ)
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また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。
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