地ビールならぬ“自”ビールを造りに「常陸野ネストビール」の蔵元へ

2015.11.27 更新

大手ビールメーカーもその製造を手掛ける、“クラフトビールブーム”ともいえる昨今。ビール好きの方ならブルワリー見学などに行ったことのある人も多くいるかもしれませんが、自分でビール造りをするとなると体験できる場所が限られているので少ないのでは?今回は、世界でも人気の「常陸野ネストビール」を造る「木内酒造」へお邪魔しました。一体どんなマイビールを造れるのでしょう!

茨城県那珂(なか)市にある「木内酒造」へのアクセスは、JR常磐線水戸駅からJR水郡線の郡山(常陸大子)方面行きの電車に乗り換え、常陸鴻巣駅下車徒歩5分。東京・上野駅からだと約2時間で着きます。天気にも恵まれ、なんだか大人の遠足気分でワクワクします。
▲立派な趣ある店構え。入り口の上に飾られている「杉玉」が造り酒屋である証拠

組み合わせは無限大。試飲しながらビールのタイプを決める

早速、敷地内にある「手造りビール工房」へ。この日の体験は平日の12時スタートでしたが、私たちを含めて3組が参加しました。
まず初めに、ビールの試飲を行いながら、どんなビールを造りたいかを決めていきます。この日はビールを造るだけで、飲めるとは期待していなかったので、テンションが上がります!
▲試飲するビールのタイプは、左からホワイトエール、ぺールエール、アンバーエール、スウィートスタウト
▲テイスティングシート

ビールは、原料である麦芽(モルト)とホップ、スパイス、そして醸造期間などによって、色味や風味などが変わってきます。原料の組み合わせは無限大で、ついつい悩んでしまいます。
▲色味や苦味は試飲の4種を参考に、アルコール度数は軽めの5%からしっかり重めの8%の間で決めていく

ここでじっくりテイスティングを楽しみながら…と言いたいところですが、これからビールを仕込んでいく訳なので意外と考える時間はなく、パパパッと決断をしなくてはなりません。きちんと悩みたい人は事前にメールなどで相談もできるようなので、あらかじめどんなビールを造りたいかを考えてから行くことをおすすめします。

「それでは最初に、希望の色味、苦味、アルコール度数を決めていきますね」とスタッフに促され、今回私たちが選んだのは、色味「ホワイトエールとペールエールの間」、苦味「ペールエール程度」、アルコール度数「5%」。この時点でベースとなる麦芽の配合が決まってくるようです。

苦味と風味を決める、ホップ選び

続いて、ビールの苦味と風味を決める「ホップ」選びですが、ホップにもいろいろと種類があるということにまず驚きました。ホップは長く煮込むほどに苦味がつくそうですが、逆に香りは飛んでしまうことから、3回に分けて使用するのだそう。
▲ペレット状のホップ

1回目に入れて主に苦味をつける「ビターホップ」は2種類。苦味が強くアロマの品質が良好な「Chinook(チヌーク)」か、フルーティーでややスパイシーな良質のアロマと苦味質を持つ「Perle(パール)」。

そして、2回目、3回目に入れる香り付けの「アロマホップ」は、柑橘系、スパイシー系、マイルドな甘いタイプ、花のようなアロマ…など、7種類から選びます。
ここまで来ると、かなり本格的。一つずつホップの香りを嗅ぎながら、あとは勘に頼って、1回目のビターホップに「Chinook」、2~3回目のアロマホップに柑橘系と花のようなアロマをミックスして使うことに。最初に決めた「ペールエール程度」の苦味になるように配合はスタッフが決めてくれます。

さらに、風味を付けるためのスパイスなども選択。風味付けの材料は持ち込むことも可能で、今回一緒に参加した方は「日本酒の風味を出したい」とあらかじめ相談し、「甘酒」を用意していました。私たちは特に準備をしていなかったので、工房にあったコリアンダーとオレンジピールを入れることにしました。

原料が決まったら計量。スタッフが作成してくれたレシピを見ながら、麦芽、ホップ、スパイスをそれぞれ用意していきます。
▲私たちのビールは2種類の麦芽を使用。計量後、合わせて破砕しておく
▲左からコリアンダー、3回分に分けたホップ、オレンジピール

いよいよ“自”ビールの仕込みへ

それでは、いよいよビールの仕込みです。
▲「手造りビール工房」には8つの釜(糖化釜と煮沸釜)が用意されている

まず、破砕した麦芽を「糖化釜」のお湯の中に入れ、木ベラで撹拌しながら釜の温度を65~67℃まで上げていきます。
▲酵素が働きやすい温度を保つことで、麦芽に含まれるデンプンが酵素によって分解され、糖に変わる「糖化」が起こる。67℃を超えると、酵素が死んでしまうので要注意!

続いて、釜の中身を均等化させるために、釜の下から“麦汁”を出して釜に戻す「循環」という作業を3回ほど行います。
ここまでで開始から45分ほど。釜の蓋を閉めて、「糖化」のために40分間寝かせていきます。

「さばサンド」でひと休み

さて、ここでランチタイム。事前予約制で「常陸さばサンドランチ」を工房内で食べることができるんです!
▲常陸さばサンドランチ 1,000円(税別) ※事前予約制(予約日の3日前までに連絡)

トルコのイスタンブール名物として有名な“さばサンド”ですが、日本ではあまり見かけたことがなく「なぜここで?」と疑問に思っていると、なんでも茨城県は日本一の鯖の漁獲高を誇るんだとか。
▲木内酒造の敷地内では蕎麦屋も営業しているのですが、「常陸さばサンド」は手造りビール工房の利用者限定のランチ

揚げてからマリネにした酸味のある鯖と、たっぷりのマスタードが効いたサンドウィッチ。これはビールに合う!グラスビール(別途注文)と一緒に味わえば、至福のひと時です。

「循環」がビール造りのポイント

40分経ったら再び「循環」作業を行い、「糖化」したかどうかをヨウ素液で確認していきます。
麦汁にヨウ素液を垂らした時に紫色に変化してしまうと、「糖化」がまだ完了していないということだそう。なんだか理科の実験を思い出しますね。今回は3組とも色の変化が起こらずに、無事に「糖化」に成功!
▲「糖化」が完了した麦汁。飲んでみるととても甘い

「糖化」が済んだら、酵素の働きを止めるために釜の温度を80℃まで上げて加熱し、再び「循環」作業を繰り返します。
10分ほど「循環」させてろ過していくと、麦汁と麦芽粕が分離され、徐々に麦汁がクリアーに。いよいよビールの色合いに近づいてきました!
▲左がろ過前、右がろ過後

ろ過が終わったら、今度は隣の「煮沸釜」に麦汁を移動させます。
▲「煮沸釜」に入れる麦汁の量は仕込む分だけ(最低1.5リットル~)

この時、「糖化釜」から最初に出てくる麦汁が「一番麦汁」と呼ばれるもの。釜内の麦汁が減ってきたら麦芽粕にお湯のシャワーをかけて二番麦汁、三番麦汁…と糖分を抽出していきます。熱湯をかけることで、より深い風味になるんだとか。
▲「糖化釜」に残った麦芽粕に熱湯を注いでいく
▲最後に残った麦芽粕は家畜のエサにするために回収しておく

ホップ、ステップ、ジャンプ

煮沸釜に麦汁の準備ができたら、ここから苦味と風味付け。先に選んでおいた「ホップ」を3回に分けて入れていきます。
▲麦汁を100℃に上げ、沸騰を確認したら「ビターホップ」を投入

このまま20分間沸騰状態をキープさせたら2回目の「アロマホップ」を、さらに10分後に3回目の「アロマホップ」とコリアンダーを入れます。5分経ったらオレンジピールを入れて一方向にかき混ぜたら、そのまま15分間置いておきます。最後に麦汁を20℃に冷却して仕込みは終了です。
▲釜から冷却器を通して樽へ移す
▲手前が私たちのビール(15リットル)
▲仕込みが終了した時点のビール

ゼロから仕込んだマイビール、自然と笑みがこぼれますね。それでは早速いただいてみましょう!
▲しっかりした苦味とコリアンダー、オレンジピールの香りが印象的

この時点ではまだアルコールは入っていないのですが、苦味と香りはしっかりついていてビール風味。感無量です!ちなみに今回同じタイミングで仕込んだ他の参加者のビールも味見し合いましたが、見事に味が違います。甘酒を入れたものは糀の香りが強くまろやかな味わいでした。
▲3種3様のビール。色だけ見ても全く別物に仕上がっているのがわかる。今後の醗酵・熟成を経て、味わいはかなり変化するそう。一体どんな味のビールに仕上がるのか待ち遠しい!

この後は酵母菌を加えて醗酵(アルコールになる過程)、熟成、瓶詰めする工程を「木内酒造」のスタッフが代行してくれます。熟成期間はアルコール度数によって異なり、5%で3週間、8%で6週間かかるといいます。

こうして12時からスタートしたビール造りは、15時過ぎに終了。普段から飲んでいるビールですが、今回初めて醸造を体験してみて、ビールがどのようにして造られるのか、味の違いがどのように生み出されるのかを知ることができました。原料の掛け合わせ、熟成期間などによって無限に味の違いを生み出すことのできる「クラフトビール」、かなり奥深いです!

なお、ラベルもオリジナルで作成することができるんです。写真やロゴを入れたりもできるので、サプライズの贈り物や、結婚式の引き出物として造る人も多いそうですよ。
▲既存の36種類のラベルから選べるほか、ゼロから自分でデザインしたラベルを使用することも可能

世界中で愛されている「HITACHINO NEST BEER」

「手造りビール工房」を運営する「木内酒造」は、文政6年(1823年)創業の老舗酒蔵。杜氏の高齢化に際し、自社で職人を育てようと考えたのが1994年のこと。日本酒造りは仕込みが冬の時期だけなので、通年できるものづくりとして、当時ちょうど日本で醸造が解禁になった「クラフトビール」を手掛けることを決めたといいます。

それから準備に奔走し、構想から18ヶ月の歳月を経て1996年10月に「常陸野ネストビール」が遂に誕生。ビール醸造解禁後、日本で造られる「クラフトビール」は海外のクラフトビールを参考に日本人向けに造られるものが多いなか、「常陸野ネストビール」は当初から海外輸出を目論んで、“日本らしい”ビール造りを模索してきました。

その甲斐もあり、現在ビールの売り上げのうちなんと65%が輸出、35ヶ国へ展開しているというから驚きです。また、「常陸野ネストビール」は種類がとても豊富ですが、その理由も輸出先の国によって嗜好が異なるからだそう。
▲全部で15種類ある「常陸野ネストビール」。ネストビールの名前の由来は、蔵のある地名「鴻巣(こうのす)」の“巣=ネスト”から。ロゴデザインはその巣に暮らすフクロウ

「クラフトビール醸造が盛んなアメリカやカナダ、オーストラリアでは、気軽にビール造りを体験できますが、日本にはその文化がなかった。そんななか弊社では2000年から『手造りビール工房』を始めて、多くの方にビール造りを楽しんでもらっています」と、担当の鈴木ひとみさん。

鈴木さんは新卒で入社後、すぐに「手造りビール工房」の担当になり2015年の今年で3年目。入社当初に比べると、ここ最近“クラフトビール好き”な人の参加がかなり増えているといい、「私もビールが大好きなので、お客様とビールの情報交換ができて楽しいです」と話します。
▲地元出身の鈴木ひとみさん。「常陸野ネストビール」を知ったのは、大学在学中の東京のバーだったそう

そんな鈴木さんの一押し商品を聞いてみると、迷わず「NIPPONIA(ニッポニア)」と即答。

「NIPPONIA」は、日本で最初に開発されたといわれるビール麦の原種「金子ゴールデン」と、日本で育てられていたホップ「ソラチエース」を使用して、その名にもある通り日本ならではのオリジナルビールとして開発されました。

「他にはない味わいですよ。ここでしか造れない、私たちが造る意味のあるビールの象徴だと思っています。よかったら帰りに飲んで帰ってください」と、勧められたのは水戸駅にある、木内酒造直営のビアカフェ「true brew(トゥルー・ブルー)」。
▲駅ビル内にあるから、気軽に立ち寄ってちょっと一杯できるところが嬉しい

早速、旅の締め括りに立ち寄りました。「NIPPONIA」の味わいはというと、確かに初めて飲む味!爽やかな柑橘系の甘さも感じるけれど、深くてしっかりした味わい…文字で伝えるのは難しいのでこれはぜひ飲んでみてほしいです。
▲NIPPONIA グラス一杯500円(税込)

ビールの試飲から始まり、ビール造り体験、ランチビア、お疲れビール…とビール好きにはたまらない一日を過ごした今回の旅。一人旅で、女子会で、飲み仲間と“ビール尽くしの旅”へ出掛けてみませんか?

待ちに待った“自”ビールがお目見え!

さて、待つこと1ヶ月弱。ついに自分たちで造ったマイビールが自宅に届きました!
▲既存ラベルに「ぐるたび」のロゴを入れてオリジナルラベルに!

待ちに待ったその味は・・・オレンジピールとコリアンダーが見事に効いていて、爽やかなフルーツビールのような香りとスパイシーな風味がアクセントになり、飲みやすいのに独特な世界観を思わせる狙い通りの味わいに仕上がっていました!

手元に届くまで、完成の味が分からないので多少の不安もありましたが、初めてのマイビールの出来栄えは100点満点!このビールを、体験の話とともに誰に振る舞おうか、またワクワクしてきました。
長谷川浩史・梨紗(株式会社くらしさ)

長谷川浩史・梨紗(株式会社くらしさ)

広告出版社を退職後、世界一周、日本一周を経て「くらしさ」を設立。全国各地のモノ・コト・ヒトを伝え、つないでいく活動に尽力している。全国の仕事人に会いに行ける旅「Life Design Journey」も運営。http://lifedesign-j.com/

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