香川県の「あん餅雑煮」は白味噌の汁にあんこ入りの餅が入っている!?未知の味に出会うため、高松へ!

2016.01.01

「お雑煮」と一口にいっても、餅も具材も、お出汁も味付けも全国様々です。特に香川のお雑煮は、白味噌の汁の中に「あん餅」が入っているという「あん餅雑煮」で、味の想像が付きにくいもの。家庭料理なので気になってもなかなか口にできないなか、珍しくお店で出している高松市の甘味喫茶「エビスヤ」を訪ねました。

甘味喫茶「エビスヤ」は、香川県の中心地、高松市の片原町商店街で40年以上に渡り営業している甘味処。明治43(1910)年の創業から100余年、地元で親しまれている餅屋「エビスヤ」に併設しています。
▲左側に甘味喫茶「エビスヤ」、右側に餅屋「エビスヤ」がある。餅屋では「あん餅」を購入できる。「あん餅」を売る餅屋は香川県でも少ないのだそう

餅屋の前には「あん餅始めました」と、「あん餅雑煮」を愛する香川らしい立て看板があり、喫茶店の前にもあちこちに「あん餅雑煮」の文字がありました。
中は落ち着く和のしつらい。奥の暖簾から迎えてくれた女将・福井美恵子さんに「あん餅雑煮」を注文し、待つこと10分弱。鰹節の良い香りを漂わせながら「あん餅雑煮」がでてきました。
▲「あん餅雑煮」。青のりとお茶がついて650円(税込)

いよいよ「あん餅雑煮」をいただきます!

女将さんはお盆をそっと机の上に置き、「あん餅雑煮」とお茶の間にある小さな器を手で示して「青のりは、お好みでかけてくださいね。全部入れても良いと思いますよ」と一言。

おぉ、青のりが添えられるんだ。そのことも新鮮。実は筆者は香川県の小豆島で生まれ育ったのですが、小豆島では「あん餅雑煮」を食べないので今日が「あん餅雑煮」初体験です!

「あん餅雑煮」とは一体どんなものだろうとワクワクしながらお椀の中を覗くと、見た目はいたってシンプル。白味噌の汁の中に、丸く切られた金時人参と大根、そしてかまぼこが入り、上には鰹節がかかっていました。
▲金時人参と大根は輪切りに。家内円満に何事も丸く平和に納まるようにという願いが込められているそう

気になる「あん餅」はまだ汁の中。まずは汁をひとくち。あ、白味噌ということで、こくのある甘さのイメージがあったけれど、「エビスヤ」の汁は澄んでいて品があります。控えめな甘みと塩味のバランスも絶妙。お出汁も効いていて、人参と大根の繊細な味わいも活きています。

さて、お目当ての「あん餅」はどちらに…とお箸を汁の中へ。白い汁の中に白い餅が入っているのでちょっとした宝探し気分。
あった!と持ち上げると、ゆっくりとろけて中からあんこが見えました。紅白の具材の入った汁に深い小豆色が見えるのはなんだかインパクトがあります。
いざパクリッ!確かに「あん餅」そのものの味と食感。初めての経験に新鮮さを感じつつも、予想外に合います。あんこの甘みに品があり、小豆そのものの持ち味を楽しめます。お餅も絹のように舌ざわりなめらか。
▲これが「あん餅」。上品な味が調和し合って美味しい

「正直言って、美味しいのだろうか…と思いながら口にしたのですが、美味しいですね。もう一杯食べたくなります」と女将さんに感想を言うと、

「そうなのよ。初めて食べる人には『大丈夫?』って尋ねるの。『ぎゃー』なんて言うのかな?って毎回思うんだけど、『あれ…美味しい』ってキョトンとした表情で言うの。そして、『いや…予想外なんですが、これ美味しいですよ!』って。なんかこっちが逆に期待を裏切られちゃう(笑)」と、くったくのない笑顔で話してくれました。

香川で「あん餅雑煮」を食べる理由

そもそもなぜ香川県は「あん餅雑煮」を食べるのか。江戸時代、当時「讃岐国」だった香川県では塩・砂糖・木綿が特産で、「讃岐三白」と呼ばれていました。このうち「砂糖」は幕府への献上品にされ、庶民の口には滅多に入らなかったそうです。

「せめて正月ぐらいは砂糖を口にしたい。でも、口にしているところが殿様の目に触れたら叱られる。それなら餡に砂糖を入れて餅に包んで雑煮にして食べよう」という農民の想いから「あん餅雑煮」が誕生したと言われています。

2009年発行の四国学院大学情報誌「インタレスト」によると、香川県でお正月に「あん餅雑煮」を食べる家庭の率は約60%。ただし、具だくさんだったり、出汁の取り方が違ったりと味わいは家によって様々だそう。

今回「美味しい!」と感じた「エビスヤ」の「あん餅雑煮」に対するこだわりをうかがいました。

美味しさの秘訣は、こだわり地元食材にあり

「素材以上の味は出せませんから」と女将さんが話すように、エビスヤで使う素材はあん餅、白味噌、金時人参、大根、いりこだし、青のりと全てにこだわりぬきます。

雑煮に入れる「あん餅」は、餅屋「エビスヤ」が当日に杵いたもの。なめらかだったと伝えると「臼杵きの餅だからね。最近は羽根をモーターで回転させて餅を作る小型の機械が広まっているけれど、その機械では米の繊維質が分裂してしまって、伸びやコシがなくなる。雑煮にした時に、餅が溶けてあんこが出ちゃうこともよくある。でも、臼で杵く時は一人が折りたたんで、もう一人が上から杵く。繊維質がつながるので、びよーんって伸びて滑らかな食感になるんだ」とご主人の福井博文さん。
▲あん餅に使うもち米は、粘りと甘みに長けている佐賀の「ひよくもち米」。餅屋「エビスヤ」4代目・前川勁(つよし)さんが惚れ込んだもち米で、舌触りも味わいも格別

そしてあんこは、国産小豆の代表産地・北海道産の小豆を、「白双糖(しろざらとう)」で炊いたもの。「白双糖」は「砂糖」の中で純度が最も高く、高級菓子に使われるものだそう。

「あん餅雑煮の美味しさの要は、やっぱりあん餅や」とご主人。
▲あんこに使う「白双糖」

「あとはお出汁ね。いりこ出汁をしっかりとること。入れている具はお野菜と蒲鉾とあん餅とシンプルなもの。鶏肉や化学調味料も入れていないから、いりこで出汁をしっかり取らないと白味噌の味だけになってしまうの」と女将さん。

使ういりこ(煮干)は、代表産地である香川県の伊吹島産のもの。カタクチイワシを水揚げし、茹でて、乾燥機に入るまでの間がわずか30分以内と、鮮度の良いまま加工した高品質のものです。

そして白味噌は、地元味噌屋「中屋醸造所」のもの。「甘すぎず、後口のひきが良いの」と女将さん。
▲香川に根付いたみそ「白味噌」を溶く。もともとは京都から伝わったものだが、香川で造られる味噌の約8割が「白味噌」で、京都のものよりすっきりとした味わいだとか

なお、「エビスヤ」であん餅雑煮を出すのは、毎年11月~3月。香川県が生産量日本一の「金時人参」が採れる時期に限定しているそう。「西洋人参より金時人参の方が品があるから、金時人参じゃないとだめ」と女将さん。

そして、気になるのが添えられた「青のり」。乗せるとさらに彩りがよくなり、爽やかな香りが添えられます。滑らかな食感で、ほろ苦さが「あん餅雑煮」の甘みを引き締め、より深い味わいに仕立てます。
▲青のりを乗せると彩りも香りも変化し、味にも深みが出る。2度楽しめるのが嬉しい

「『川海苔』を使うの。お好み焼きに使う『あおさ海苔』より香りと味が上品なん。値段も10倍するんだけどね。「あん餅雑煮」のなかで、キロ単価が一番高いのは実は海苔よ(笑)」。

おまけのようについていた海苔が一番高かったとは!

地元の人も認める美味しさ

聞けば聞くほど出てくる「エビスヤ」のこだわり。「あん餅雑煮」がこんなに奥深かったとは…。

「『あん餅雑煮』って、家で食べるものでしょ。だから店で出すからには…って思って。テレビで『あん餅雑煮』が取り上げられたりすると、『あん餅雑煮出して』って言われることもあって10年位前に出してみたの」

「エビスヤ」では宣伝をすることもなく、注文が入るとは思っていなかったそうですが、ホテルが情報を出したり、食べた人から口コミで広がったりして、今では東京や北海道など遠方からもお客さんが来るといいます。

「話していたら面白いよ。あん餅の前に『白味噌』で盛り上がる人もいたり、『そもそもあんこの入った餅がないから、大福で代用できないですか?』って聞く人もいたりね」と女将さんとご主人の思い出話に花が咲きます。

そして、やっぱり一番多いお客さんは香川で生まれ育った人。

「帰省した人が、故郷の味を求めて『あん餅雑煮』を食べにくるの。リピーターがあん餅を2個、3個入れてって言うこともある。そうなったらお椀に入らないから、丼で出すのよ(笑)。あとはご年配の人も多い。家で餅つきをしなくなったからって。そして正月はすごいわよ。三が日はお休みをもらっていて、1月4日からお店を開けるんだけど、途切れることなく『あん餅雑煮』を求めに来るのよ」

「エビスヤ」の「あん餅雑煮」は、地元の人も認める美味しさなのです。
▲地元の常連さんのほのぼのとした会話が良い

未知の味だった「あん餅雑煮」。単純に白味噌のお汁の中にあん餅を入れたものを想像していたけれど、「エビスヤ」の「あん餅雑煮」は全くの別ものでした。この美味しさは、香川県の食材、そしてあん餅、出汁、味噌、野菜、全てに対する「エビスヤ」の愛情あってこそ。
▲いただいた絵手紙を飾っている。「あん餅雑煮」とお客さんへの愛情が伝わってくる

なお、一声かければ「あん餅雑煮」のレシピもくれます。隣の餅屋で「あん餅」を買って、「エビスヤ」の味をご自宅で再現してみるのも良いですね。
黒島慶子

黒島慶子

醤油とオリーブオイルのソムリエ&Webとグラフィックのデザイナー。小豆島の醤油のまちに生まれ、蔵人たちと共に育つ。20歳のときに体温が伝わる醤油を造る職人に惚れ込み、小豆島を拠点に全国の蔵人を訪ね続けては、さまざまな人やコトを結びつけ続けている。 (編集/株式会社くらしさ)

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