炎に厄祓いを託した男と男のぶつかり合い!野沢温泉村で300年以上伝わる日本有数の奇祭「道祖神祭り」

2015.12.26 更新

長野県の北部に位置し、温泉とスキーの村として発展してきた野沢温泉村は、昔ながらの温泉街の風情と古き良き伝統が今なお色濃く残り、訪れる旅人たちを魅了しています。そんな村の名物のひとつといえば、日本屈指の奇祭「野沢温泉の道祖神祭り」。この祭りにかける村人たちの情熱は相当なもので、毎年、道祖神祭りの開催日である1月15日(旧成人の日)には国内外から多くの観光客が押し寄せます。

▲村の平安や子どもたちの健やかな成長、村人の良縁、厄祓いなどを祈念して行われる道祖神祭り。国の重要無形民俗文化財に指定されています

そもそも「道祖神」とは、集落の境や村の中心に祀られ、災厄や悪霊の侵入を防いで子どもの成長や子孫繁栄などをもたらす守り神。一般的には石碑や石像の形で知られていますが、野沢温泉村の道祖神は木で作られている珍しいタイプです。

1本の丸太をそのまま御神体にした男女一対の手作りの道祖神は、村の境や辻、店舗や一般住宅の前にも祀られているほか、各家庭などの神棚には小さな道祖神が祀られていて、民間信仰としてこの地に根付いているのがよくわかります。
野沢温泉村では「ドウロクジン」「サエノカミ」などとも呼ばれる道祖神。縁結びと子宝の神とされ、道祖神祭りの当日には会場にある大きなたらいに自分の家の神様を納め、他の家から来た気に入った神様を持ち帰ることで“縁結び”となります。

村民VS厄年男の激しい攻防戦が見もの「野沢温泉道祖神祭り」

この道祖神を祀って野沢温泉村で盛大に行われるのが「道祖神祭り」です。小正月に注連縄やしめ飾りなどを焼き、無病息災や五穀豊穣を祈る「どんど焼き」は全国各地で行われていますが「道祖神祭り」もそのひとつ。

村の平安や初子の祝い、良縁祈願や厄祓いなどの性格を持ち、その激しさや壮大さから日本三大火祭りのひとつに数えられています。
▲江戸時代後期にはすでに盛大に行われていたとされる「道祖神祭り」。1993年12月13日に国の重要無形民俗文化財に指定されました

というのも、この祭り、高さ10数メートル、広さ8メートルにも及ぶ巨大な社殿を舞台に、火を付けようとする村人と、それを防ごうとする厄年の男衆が激しい攻防戦を繰り広げるのです。

火がついたたいまつや松の枝で互いにバシバシと叩き合う男たちの姿は、本気の喧嘩さながら。飛び交う火の粉のなか、まさに命がけの戦いが目の前で展開されます。
▲激しい攻防戦が繰り広げられる「道祖神祭り」。祭り会場は多くの観光客でごった返します

野沢温泉で生まれた男たちの宿命、終われば「一人前の男」

この「道祖神祭り」は、野沢温泉村で男として生まれたからには誰もが通らなければならない伝統行事。参加必須の宿命ともいえる儀式で、ここに参加したことでやっと「一人前の男」として村で認められるようになります。参加しない場合はのけ者になるのだとか。
祭りの主役は数え年で42歳と25歳の本厄にあたる村の男衆。祭りの前日から2日間かけてつくられた社殿の上に42歳の男衆が上がり、その下で25歳の厄男たちが立ちふさがって、火消し役として村人からの攻撃を阻止します。

そして、地区を代表する地縁団体の野沢組惣代が祭りの総元締めとなり、経験者から選ばれた山棟梁や社殿棟梁などの役員の指揮のもと「三夜講(さんやこう)」とよばれる厄年の男衆らが祭りを執行します。
▲社殿に火をつけようとたいまつを手に襲ってくる村人たちを、25歳の厄男たちが松の枝で阻止します
▲42歳の男衆は社殿の上に上がり、社殿の前で戦う25歳の厄男たちを援護します

「三夜講」とは、42歳に連なる3学年(各学年30名程度)の男衆による組織。基本的に42歳・41歳・40歳で編成されますが、この3学年によるメンバーは翌年になっても入れ替わることなく、43歳・42歳・41歳の組織となって再び祭りに携わります。

ただし、祭りの中心となるのは42歳の本厄の男衆。これを3年間繰り返し、次の「三夜講」へと引き継がれていきます。

この「三夜講」と25歳の厄男は、祭り当日はもちろんのこと、準備のために1週間以上も仕事を休んで作業にかかります。地元を離れている厄男も、よほどの予定がない限り、この祭りの日には村に戻ってこなければいけません。祭りにかける本気度が違います!
▲42歳を中心とした「三夜講」は、3年間、同じ仲間で祭りに携わりますが、祭りの中心になるのは42歳。代々この制度が受け継がれています

4カ月前からはじまる祭りの準備を通して団結力もアップ

社殿の芯に入れる燃え草集めや材木集めなどの準備は前年の9月から始まり、10月中旬には三夜講と25歳の男衆とで5本の御神木(芯木)の伐採が行われます。そのうちの2本を村内にある野沢温泉スキー場の日影ゲレンデに移動させておき、1月13日、そこから25歳と42歳の二手に分かれてメイン会場まで引き回します。

温泉街を通り、会場までは3時間あまり。沿道の家からお神酒が献納されると、厄年代表が村に伝わる「道祖神の唄」を大声で披露し、村人や観光客問わず、男衆からお神酒を振る舞われます。これで一気に祭りムードが高まります。
▲1月13日に温泉街を練り歩く25歳と42歳の男衆

翌日14日の朝から深夜までと祭り当日の15日の午前中にかけては、祭り会場で社殿づくりが行われます。社殿はすべて昔ながらの手作業で、釘や針金を一切使わない方法でつくられます。危険も伴うため、このときばかりは男衆も酒を断ち、完成まで黙々と作業が続けられます。
▲完成した社殿は、桁までが高さ約7メートル、神木の上部はさらに10数メートル突き出ています。幅は桁部分で8メートル四方、広さ約40畳。祭りではこの桁に42歳の男衆が立ちます

いざ本番!1時間以上にわたる村人同士の本気の戦い

そして、祭り当日。19時に厄男の代表6人が、代々火元を務める河野家の囲炉裏から火打ち石で採火した種火を大たいまつに点火。囲炉裏の周りで大量のお神酒を飲まされた男衆は、そのまま「道祖神の唄」を歌いながら祭り会場へと大たいまつを運びます。
20時30分頃、会場に到達したら、いよいよ激しい攻防戦の開始。村人たちは社殿に火を放つために、大たいまつから火を移したたいまつを手に、正面の厄男たちを次々と攻撃します。子どもたちも火付け役を担い、伝統儀式を体感して覚えていきます。
▲攻防戦は命がけで、毎年けが人が出る本気の戦いです

観光客に気をつけていただきたいのは、あくまでこの攻防戦に参加できるのは村人のみということ。祭りには「社殿の正面からしか攻めない」「腕を下げない」といった独自のルールがあるので、それを知らない観光客の参加は厳禁です。また、祭り会場では日本酒が振る舞われますが、飲み過ぎにも注意!
白熱の攻防戦はおよそ1時間半にも及びますが、その間、松の枝で火を叩き消す25歳の厄男たちは、やけどをしたり煙で喉を痛めたり、目が開かなくなることも。そこで、社殿の上に陣取る42歳以外の三夜講は、負傷者を戦いの渦から引っ張り出し、社殿の裏で水をかけたり励ましたりして、再び攻防戦へと送り出すのだそうです。

あくまで戦いは続きます!

そして、22時すぎ。壮絶な攻防戦の末、双方の手締めにより社殿に火が入れられると祭りは最高潮に。大きな炎が上がり、雪に包まれた周囲を明るく照らしながら社殿が燃え盛る姿は圧巻です。その火力は遠く離れていても熱が伝わってくるほど。こうして燃え落ちた社殿は翌朝までくすぶり、この炭で焼いた餅を食べると1年間は風邪を引かないと伝えられています。
全国各地の祭りは、時代に応じて内容や開催日が変更になっていますが、道祖神祭りは昔から旧成人の日に行われ、内容も変わりません。伝統を継承し続ける背景には、祭りに対する村人の熱意があるのでしょう。

ところで、会場にギュウギュウに詰めかける観客を見渡すと、外国人観光客の多さに驚きます。野沢温泉観光協会の事務局長・森博美さんによると、近年なんと観客のおよそ6割は外国人旅行者なのだとか。
▲豪快な炎や攻防戦は国を越えて人々を魅了します

日本有数の豪雪地帯でもある野沢温泉村は、良質な雪とダイナミックなコースからなるスキー場があり、これを目当てに国外から訪れるスキーヤーが多数。さらに、現在、外国人経営の宿泊・飲食施設が100以上あるといわれる白馬村からも観光客が押し寄せ、2015年の祭りには白馬村からバス17台分の外国人ツアー客が訪れたそうです。

日本で伝統的な行事に触れたいと考える外国人観光客にとって、「知る人ぞ知る」といった趣もある「日本屈指のファイヤーフェスティバル」はうってつけの祭りといえます。
なお、野沢温泉では、オーストリア陸軍のレルヒ少佐によって日本で初めてスキー指導が行われた明治44(1911)年の翌年にスキーが伝わり、大正12(1923)年には村人によってスキー場が設立されました。今では日本有数の規模を誇るスキー場となっています。

今年の冬は、温泉やスキーとともに、村人たちの情熱がぶつかり合う奇祭も間近に体感してみませんか。見物しているこちらもアドレナリンが放出されること間違いなしですよ!
島田浩美

島田浩美

編集者/ライター/書店員。長野県出身・在住。信州大学卒業後、2年間の海外放浪生活を送り、帰国後、地元出版社の勤務を経て、同僚デザイナーとともに長野市に「旅とアート」がテーマの書店「ch.books(チャンネルブックス)」をオープン。趣味は山登り、特技はマラソン。体力には自信あり。(編集/株式会社くらしさ)

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