日本で唯一、村名に「温泉」がつく野沢温泉村。全国屈指の名湯で湯めぐりを堪能!

2016.01.03 更新

開湯700年以上の歴史をもつ、長野県の野沢温泉村。多くの源泉が自噴している村内には13の外湯(共同浴場)があり、江戸時代から村人たちの共有財産とされ、「湯仲間」という制度で大切に守り継がれてきました。また、外湯は入浴だけでなく、洗濯場や台所の役割も果たし、村人たちの生活と深く結びついています。

泉源地の「麻釜(おがま)」は90度近い熱湯が湧出する村指定の天然記念物で、村人たちが野菜や卵などを茹でることから「野沢温泉の台所」とも称されています。

野沢温泉では欠かせない外湯めぐり

鎌倉時代中期には「湯山村」として歴史に登場し、江戸時代初期にはすでに24軒もの宿屋があったといわれる野沢温泉村。明治3~5年にはおよそ2万5,000人の湯治客が訪れていたという記録が残っています。村内には30余りの自然湧出の源泉があり、温泉街のなかにはそれぞれに特徴をもつ源泉掛け流しの13の外湯があって、周辺住民による「湯仲間」によって江戸時代から大切に守られてきました。
▲外湯の近隣住民からなる「湯仲間」。各外湯ごとにその人数は異なり、10人弱~70人強ほどで組織されていて、掃除や管理、光熱費の負担、建物の保全などを行っています

この外湯の素晴らしさは、効能豊かな泉質はもちろんのこと、観光客にも無料で開放されている点があげられます。例えば、近隣の渋温泉郷の外湯は基本的に温泉宿の宿泊者しか利用できませんし、信州最古の温泉といわれる別所温泉では150円とはいえ有料での利用になります。また、自然湧出量日本一を誇る群馬県の草津温泉にも無料の外湯はありますが、いくつかの外湯を除き、地元民専用時間が設けられています。

その点、野沢温泉村では観光客も地元の方と同じように外湯を使えるため、地域の人との交流の場にもなるおもしろさがあります。
▲野沢温泉のシンボルともいえる「大湯」。温泉街の中心にあり、江戸時代の趣を現代に伝える美しい湯屋建築が目を引きます。湯船は「あつ湯」と「ぬる湯」に分かれていますが、観光客にとっては「ぬる湯」ですら熱い!

それにしても、野沢温泉の外湯はとにかく熱い! 42~90度の源泉が自然湧出で注がれているため、先客がいないとほぼ熱湯のような熱さで、やけどをする勢いです。とはいえ、地元の人たちはこの湯温で慣れているため、むやみに水を入れるのはNG(ちなみに、こうした水道代も湯仲間の負担によるものです)。湯もみ板も使用しながら、どうしても熱い場合のみ水を注ぎ、入れるようになったらすぐに水を止めましょう。
▲外湯はいずれも水が出る水道のみで、タオルや石鹸、シャンプー・リンス等は各自で持ち込みます
▲外湯のなかで一番大きい木造湯屋建築の「中尾の湯」。源泉は麻釜から引湯しています

野沢温泉観光協会の森博美事務局長によると、熱い湯に入るコツは「お湯を少しずつ体にかけて湯温に慣れていくとよい」とのこと。それに、観光客が入れずに困っている場合は、地元の人が入るコツを教えてくれるそう。実際、私も熱くて入浴を躊躇していると、地元の人が効率的に源泉を排出しながら水を注いで湯温をさます目から鱗の方法を教えてくれました。こうした地元の人との交流こそ、外湯の醍醐味といえます。

ただし、これらの外湯はあくまで「湯仲間」が守り続けてきたもの。だからこそ、観光客である私たちは「貸していただく」気持ちで、地元の方が気持ちよく使えるように配慮をしなければなりませんし、当然のことながら、入浴前には体を洗う、湯上がりにはスノコ板に上がる前にしっかりと体を拭くといった基本的なマナーも守らねばなりません。

また、外湯の掃除や管理のほかに、老朽化した建物の建て替えなどもすべて「湯仲間」によって行われています。だからこそ、観光客は協力金として、各外湯に設置されている賽銭箱に寸志の寄付をしたいものです。

さらに、野沢温泉の外湯には「洗濯場」が併設されていることが多いのも特徴。「洗濯場」では、その名の通り、地元の人が洗濯に使うのはもちろんのこと、野菜なども洗い、11月上旬には、野沢温泉が発祥の地とされる野沢菜を洗って漬ける様子を見ることもできます。
▲外湯に併設されている洗濯場。洗濯や野菜洗いのほか、温泉水を各家庭に持ち帰って食器洗いにも使っているそうです。昔は布おむつを温泉水で洗うと汚れがよく落ちると重宝されたそう
▲毎年11月4~8日頃には、村人たちが「麻釜」で野沢菜を洗う「お菜洗い(おなあらい)」の様子を見ることができます。こうした洗濯場は近隣住民の社交の場にもなっています
▲村では「お菜」「お葉漬け」とよばれている「野沢菜漬け」。冬は青菜が貴重だったことから、「お」をつけて丁寧な呼称にしているそうです
▲外湯では、湯に20分ほど卵を浸けておいて自分で温泉卵が作れる場所もあります

こうしたところから、野沢温泉村ではいかに地元の人の生活に温泉が密着しているかを垣間見ることができる魅力もあります。

芸術家・岡本太郎も愛した温泉宿

ところで、野沢温泉を歩いていると、ところどころに日本を代表するアーティスト、岡本太郎氏が書いた「湯」の文字をあしらったポスターやパンフレット、そして数々の芸術作品を目にします。

実は岡本氏、昭和49(1974)年に野沢温泉村から記念碑のデザイン依頼を受けたことからすっかりこの村の虜になり、以来、毎年足繁く通っていたのだとか。きっかけは、偶然、国の重要無形民俗文化財に指定されている村の伝統行事「道祖神祭り」に立ち合ったことだそうです。こうして岡本氏は、平成3(1991)年、村で初めての名誉村民にも就任しました。
▲毎年、旧正月の1月15日に開催され、国の重要無形民俗文化財にも指定されている日本屈指の奇祭「野沢温泉の道祖神祭り」
▲岡本太郎氏と、野沢温泉村役場前に設置されている「乙女像」
▲野沢温泉の観光宣伝のイメージロゴとして観光パンフレットやポスターなどに使われている岡本氏の「湯」の文字
▲温泉街の外湯前や観光スポットには「集印台」が設置されていて、全26カ所のうち、10カ所以上集印すると岡本太郎氏の「湯」タオル、20カ所以上だと「外湯巡り手拭い」または岡本太郎氏「湯」タオルがもらえます

そんな岡本氏が野沢温泉に滞在する際に常宿にしていたのが、温泉街の中心にある「大湯」に隣接する「旅館さかや」です。
▲「大湯」に隣接する「旅館さかや」。江戸時代は造り酒屋を営んでいました

敷地内から自然湧出する2本の自家源泉を持つ老舗の湯宿で、創業は明治43(1910)年。この「さかや」の特徴のひとつが、宮大工による伝統的な湯屋建築造りの大浴場です。風格ある木造建築で、薄暗い独特の雰囲気は温泉情緒にあふれています。

そして何より、泉質の素晴らしさが「さかや」の自慢。温泉は大気に触れると刻々と変化(老化)し、源泉が持っていた特徴を失って効能も薄れてしまうのですが、「さかや」の源泉から湯船まではわずか15メートル。湯は変化することなく、新鮮な状態で湯船に注がれています。
▲大浴場「鷹の湯」。湯はポンプなどで汲み上げたりせず、地中深くでじっくりと熱成された源泉が自然湧出したもので、「あつ湯」「ぬる湯」「腰湯」と温度によって分かれています
▲大浴場に隣接している露天風呂「月見の谷」は、季節の移り変わりを間近で感じることができます。サウナと天然の清水が注がれる水風呂も併設しているので、バリエーション豊かな湯浴みが楽しめます

なお、日本温泉総合研究所の調査によると、野沢温泉の湯は国内有数の高い還元性(老化を防ぐ新鮮さ)を持っています。そのなかでも「さかや」は源泉をすぐに湯船に供給しているため、源泉の効果を損ねることはありません。

肌は加齢とともに酸化傾向を示すことから、これを還元傾向に導く「さかや」の湯はアンチエイジングに期待が持てます。また、2カ月間、毎日入浴した場合には、肌の弾力性が回復する効果も確認されています。
つまり「さかや」の湯は正真正銘の美肌の湯といえます。しかも、たった5分の入浴でもその効果が味わえるとか。

ちなみに、「さかや」では日帰り入浴は受け付けていません。この上質な湯は宿泊者しか味わえない贅沢なのです。
▲「さかや」に掲げられている日本温泉総合研究所発行の「還元系温泉認定書」
▲宿の廊下には岡本太郎氏の2つの書画が飾られており、いかにこの宿を気に入っていたかがうかがえます

滋味深い料理と昔ながらの風情あふれる温泉街散歩

「さかや」の特徴は料理にもあります。奥信濃で採れた山菜やきのこなど地元の素材の旨みを生かし、できる限り海の幸は使わず、産地直送以上にフレッシュな産地直結の新鮮野菜をふんだんに使った信州創作和食を提供しています。

また、器も備前焼や美濃焼などの陶芸作家による特注品を使用、本格派の器が料理を引き立てます。
▲陶芸作家によるオリジナルの器で、奥信濃の郷土色豊かな料理を楽しめます
▲締めは「さかや」の名物「あんかけ飯」。奥信濃の季節の食材を豊富に使ったゆるめのあんを白飯にかけて、さらさらといただきます。満腹でも不思議と食べられる逸品
▲朝食には飲泉できる温泉で炊いたおかゆが提供されます。美肌の湯を外からも内からも感じることができます

なお、野沢温泉には部屋数が少ない小さな旅館が多いため、団体ツアー客が訪れることもほとんどないのだそう。そのため、昔ながらの穏やかな温泉情緒が漂っています。

また、野沢温泉の旅館では宿泊客に街歩きを楽しんでもらえるよう、館内でのバー営業や必要以上の土産品を揃えることをなるべく控えているため、温泉街には多くの土産店が軒を連ねています。だからこそ、おすすめしたいのが温泉街のそぞろ歩き。

「さかや」の専務・森晃さんも「一軒宿の温泉旅館に行った場合は、一度チェックインをしたら、チェックアウトするまで宿から出ないこともありますが、野沢温泉の場合は魅力的な温泉街があるので、浴衣に下駄をひっかけてカランコロンと歩いていただきたい」と話します。
▲「さかや」の専務・森晃さん
▲野沢温泉のキャッチフレーズは「浴衣姿の似合う街」。「さかや」では毎日無料の温泉街案内も行っています
「さかや」の向かいに2014年1月にオープンしたビール醸造所兼パブ「里武士(LIBUSHI)」は、森専務おすすめの観光スポットのひとつ。英国人のトーマス・リヴシーさんと日本人の絵美子さん夫妻が営む、野沢温泉の湧き水を使用したドラフトビールが最大12種類楽しめ、クラフトビール愛好家の間で話題になっています。

古き良き温泉の情趣だけでなく、そこから広がる人々の温かさや昔ながらの暮らし、そして野沢菜やスキー、芸術作品や奇祭など、さまざまな魅力があふれる野沢温泉村。ここでは、この村でしか味わえない旅情をしみじみと感じることができます。
島田浩美

島田浩美

編集者/ライター/書店員。長野県出身・在住。信州大学卒業後、2年間の海外放浪生活を送り、帰国後、地元出版社の勤務を経て、同僚デザイナーとともに長野市に「旅とアート」がテーマの書店「ch.books(チャンネルブックス)」をオープン。趣味は山登り、特技はマラソン。体力には自信あり。(編集/株式会社くらしさ)

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報は直接取材先へお問い合わせください。
また、本記事に記載されている写真や本文の無断転載・無断使用を禁止いたします。

こちらもおすすめ

もっと見る
PAGE TOP