湘南唯一の酒蔵「熊澤酒造」の蔵元レストランで、クラフトビールと地酒に飲まれる!

2015.12.23

湘南に唯一残る酒蔵「熊澤酒造」は、茅ヶ崎市にある。敷地内には蔵出しの「湘南ビール」が味わえるトラットリアから、地酒「天青(てんせい)」が堪能できる和食レストランまで。そこには造り酒屋に留まらない光景が広がっていた。

▲2015年9月16日に敷地内にオープンした「mokichi wurst cafe(モキチ ヴルスト カフェ)」

茅ヶ崎駅から相模線で2駅の香川駅から徒歩約5分、茅ヶ崎海岸から内陸に5kmほどの場所に「熊澤酒造」はある。酒蔵と聞くと、歴史ある建屋で緊張感ともいうような雰囲気を感じるところが多いが、ここ熊澤酒造は一風異なる。

敷地に一歩足を踏み入れると、迎えてくれるのはビール工場を横目に抜ける緑のトンネル。
▲夜にはライトアップされたトンネルに

その先には、風情ただよう蔵を改装したカフェやベーカリー。
▲カフェに併設するのは、蔵を改装したベーカリー

築約200年の蔵や移築した築450年の古民家建屋に囲まれて広がる、木漏れ日あふれるテラス席。
▲平日の昼下がりは、地元の主婦たちがあつまる

これが湘南の空気感というのだろうか。おごそかな蔵元の雰囲気を残しつつも、実にナチュラルで和やかなムードに包まれた空間が広がっている。

蔵出しビールが美味しく飲める環境

テラス席で談笑する女性たちの多くが手にしているのは「湘南ビール」。湘南が誇る、「熊澤酒造」が手がけるクラフトビールだ。
▲左からインペリアルスタウト、シュバルツ、ピルスナー、アルト、ヴァイツェンポック

ドイツの伝統的な製法に則りながらも、湘南の様々な産品とのコラボレーションも図る湘南ビールは、ピルスナー、シュバルツ、アルト、ゴールデンエール、IPAといった定番の他に、1年を通じて約40種類もの味わいを楽しむことができる。

この雰囲気に飲みこまれるように、筆者も到着するや否や、2015年9月にできたばかりというカフェ「mokichi wurst cafe」に入って、ビールとつまみを注文してみた。
▲湘南ビール「ピルスナーのショートグラス(税込560円)と、「ヴルスト特製ソーセージ&ベーコンのミックスプレート」(税込1,380円)

「プハッー!」と、思わず声を出してしまったその味わいは、フルーティーかつ繊細で、まさに湘南らしい爽やかなのど越し。自家製というソーセージやハムの味わいが、これまたビールを進ませる。
▲併設するベーカリー「MOKICHI Baker & Sweets」で購入したパンやスイーツもカフェに持ち込んで食べることができる
カフェの奥に佇む「MOKICHI TRATTORIA(モキチ・トラットリア)」では、ビールに合った本格的なイタリアンのランチやディナーを味わうことができる。

メニューも、湘南の食材をイタリアンで調理したものが目立つ。
▲青海苔と湘南シラスのペペロンチーニ(M:1,280円、L:1,860円・ともに税込)

もちもちとした生パスタを口にすると、湘南の海の風味が広がった。また、湘南ビールに合うメニューのみならず、なかには湘南ビールそのものを使ったものまである。
▲名物!豚バラ肉の湘南ビール煮(1,860円・税込)

ホロホロに崩れるほど柔らかい肉には、思わず舌鼓を打った。肉を煮込むのに使ったビールは、2008年にワールドビアカップでも金賞に輝いたシュバルツというから贅沢だ。
▲トラットリア内は、イタリア語で「大衆食堂」を意味するように、カジュアルながらオシャレな雰囲気に包まれている

自分たちの酒は自分たちで売る

「熊澤酒造」が敷地内に「MOKICHI TRATTORIA」をオープンしたのは、1996年のこと。開発したばかりのクラフトビールは当時、流通から相手にされず、仕方ないから自分たちで提供する場をつくろうと始めたのがきっかけだったそう。
▲MOKICHI TRATTORIAはランチとディナータイムのみオープン

そもそも酒蔵でクラフトビールを造るようになったきっかけは何だったのだろうか?「全ては危機感から」と話すのは、熊澤酒造6代目蔵元、熊澤茂吉(もきち)さんだ。

バブル絶頂から崩壊にかけて、アメリカ留学中だったという熊澤さんは、現地で人生相談していた人に、「これから日本で造り酒屋は厳しい」と言われたんだとか。

「自分のルーツを否定された感じがしましてね。そこで逆に使命感が生まれたんですよ」

帰国後、「熊澤酒造」の後継ぎとなったのは1993年、24歳の時。実はその頃、熊澤酒造は蔵を閉める決断を下そうとしていたんだそう。

そこから熊澤さんの挑戦が始まる。それまで出稼ぎ杜氏(冬の間だけ地方から酒を仕込みに来る職人集団)に任せていた酒造りを自前で行うべく、1995年からの5年間、これまでのスタイルの酒造りを休止。地元の若者を募り、湘南らしい個性ある酒造りを追求した。

新しい酒造りは研究中とはいえその間、まったく何もしなかったわけではない。酒は寒い時期に仕込むため、夏場には蔵人たちの手が空く。その時期に当時、既に解禁になっていたクラフトビールを仕込んだのだ。
▲今では自ら、ビールのアクセントになる地元の素材にアンテナを張っているという蔵人

いわばブームを迎えつつあったクラフトビール造り。大手メーカーからも下請け醸造の話は多くあったという。ただ、画一的なビールにしてしまっては、かつての日本酒造りと同じと断り、本場の製法を学ぼうとドイツに渡って、醸造家を招へい。自社ブランド「湘南ビール」を造り上げたのだ。

さらに熊澤さんはドイツを訪れた際に、ドイツの民宿ではおばちゃんがビールとパンを一人で造っていることを知る。ビールの醸造過程で捨てられる、一番栄養価の高い沈殿した酵母がパン作りにも使えるのだ。敷地にベーカリーを構えているのも、そうした理由からだった。
▲フランス語で「ビールのパン」を意味する「パン・アラビエール」※写真手前右(300円・税込)

突き抜けるような涼やかさと潤いに満ちた酒の誕生

そして2000年、クラフトビール造りと並行して行っていた新酒の開発に成功。5年の歳月を経て日本酒「天青」が誕生する。
地元の地下水を使い、できるだけ生酒の風味を生かすため、“瓶燗(びんかん)一回火入れ”という製法を採用。酒を瓶に詰めたあと一度だけ湯煎殺菌するという、通常、鑑評会の出品用にしか採用されない手間のかかる手法だ。

私も先述のトラットリアで、「天青四種利き比べ」という醸造酒、吟醸酒、純米吟醸酒、純米大吟醸酒を味わえるお得なセットを頂戴したが、その澄み切った味わいと潤いある口当たりには「美味い!」と声を上げてしまうほど。なかなか製法の違いによる利き比べをできる機会も少ないが、個人的には、醸造酒の切れ味がとてもよく飲みやすかった。
▲「天青四種利き比べ」(1,480円・税込)

そんな「天青」に合った料理を楽しめる「蔵元料理 天青」も、2001年にオープン。
酒蔵に併設する形のため、蔵を見ながら食事をすることができる贅沢な席も用意されていた。
残念ながら今回は胃袋の余地が許さなかったが、提供されている料理は湘南の食材を生かした創作和食。熊澤さんが「地元のいい食文化に欠かせないお酒」と表現するように、天青は湘南の“食中酒”としての地位を築いていっている。

地元の人が交わる場としての酒蔵

最後にもう1か所、熊澤酒造を訪れたら立ち寄って欲しい場所がある。「okeba(オケバ)」と呼ばれるギャラリー兼ショップだ。
▲「蔵元料理 天青」の隣に立つ「okeba gallery&shop」

ここでは、器やアクセサリーといった地元・湘南の作家やアーティストたちの作品などが常時販売されている。
▲陶磁器作家の作品
▲blackcoffeeのピアス

かつては「桶場」と呼ばれ、文字通り、酒を仕込むための木桶や道具を修理・制作するための場所として使われていたそうだ。
「昔酒蔵は、地域の寄り合い所のような場所でもあったんです。農作業の後に酒を買いに来がてら、飲んだくれる人もいたし、お祭りなども開かれていたんですよ。かつての酒蔵のように、地域の人たちが交われる場でありたいんです」

この熊澤さんの言葉に表れているように、「熊澤酒造」は湘南地域の拠点としてこれまでもこれからも存在し続けるだろう。熊澤酒造が掲げる「よっぱらいは日本を豊かにする。」という社是を堪能しに、ほろ酔い気分で湘南の豊かさを味わいに来てみてはいかがだろうか。
長谷川浩史・梨紗(株式会社くらしさ)

長谷川浩史・梨紗(株式会社くらしさ)

広告出版社を退職後、世界一周、日本一周を経て「くらしさ」を設立。全国各地のモノ・コト・ヒトを伝え、つないでいく活動に尽力している。全国の仕事人に会いに行ける旅「Life Design Journey」も運営。http://lifedesign-j.com/

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