石川県の「かぶら寿司」。雪のような糀をかぶったその正体とは?

2015.12.31

「かぶら寿司」とは、塩漬けにしたカブに塩漬けにした鰤(ぶり)を挟み、人参や鷹の爪などと共に米糀で漬け込んで発酵させた保存食のこと。石川県では今でも各家庭でこしらえ、お正月に家族親戚と一緒に食べたり、お歳暮がわりにご近所に配ったりする家もあるほどの冬の風物詩です。

北陸では、11月下旬頃からの雪の降る時期に冷たい雨と共に鳴り響く雷を「鰤起こし」と呼びます。鰤起こしが鳴る季節は水温が下がり、脂ののった立派な鰤が南下して能登半島にまで下りてきます。時期を同じくして畑のカブも寒さで甘みを増し、最盛期を迎える海と陸の食が一つになるのが「かぶら寿司」。昔の人の知恵の豊かさには脱帽します。

金沢東山にある創業200年近い歴史をもつ「高木糀商店」。糀専門店がつくる「かぶら寸し」に舌鼓を打つ

▲天保元年(1830年)創業の糀専門店「髙木糀商店」

現在8代目の髙木竜(りょう)さんが当主を務め、昔ながらの製法で造る糀のほかにも、塩糀、味噌、甘酒などの製造販売を行う「高木糀商店」。この店に、1年の間で約2ヶ月の限定販売商品として11月末から並ぶのが「かぶら寸し」です。

糀専門店がたっぷりの米糀に漬け込んで作る「かぶら寸し」は、食文化が高いといわれる金沢の地でも、格別な美味しさと美しさで今年も登場しました。
▲かぶら寸し 1,500円(税別)

カブの葉っぱがくるりと巻かれている「かぶら寸し」は、「髙木糀商店」オリジナルのスタイル。一般的に見るカブよりも一回り以上も大きい立派なカブに、糀がたっぷりとのり、花形に抜かれた人参が加賀百万石の品格を漂わせます。
▲「髙木糀商店」オリジナルの「かぶら寸し」


それでは、いざ、「高木糀商店」の「かぶら寸し」をいただきます。
▲包丁を入れると中からピンク色の鰤が顔を出す

なめらかな口当たりのカブは、噛むたびにざくっと軽快な歯音がして、素材の新鮮さが酵母の中に息づいているのが分かります。芯まで発酵しているのに、いわゆる漬け物とは違った生感とでもいいましょうか、カブのフレッシュさも残っています。

そして脂ののった鰤の塩気とカブの甘みに酸味が合いまじり、とろりと贅沢にのった糀にはほんのりゆずの香りが漂います。この糀一粒まで、残さずお皿まで舐めてしまいたくなるほどの美味しさです。
大人のおかずと思われがちな発酵食も、ここまで甘みと塩味と酸味がバランスよく絡んでいると、子供でも食べたら止まらなくなることでしょう。竜さんの7歳と5歳のお子さんも大きな口を開けてぺろりと食べてしまうそう。私も5年ほど前に初めて食べてから、毎年お正月にはここの「かぶら寸し」を食べないと年を越した気がしないほどです。

髙木糀商店の「かぶら寸し」は髙木竜スタイル

この味わいを生み出すのは相当の試作を重ねたのではないでしょうか、と当主の竜さんに聞くと、「祖父が家で作っていた時のレシピを母から聞いて、そこから自分流に変えていきました。僕はわがままな程にこだわりが強いので、聞いたままのレシピではなく、塩の漬け具合からカブの大きさ、鰤の使う部位まで自分が納得いくものになるまで試作を重ねました」と答えてくれました。
▲8代目当主の髙木竜さん

この「かぶら寸し」の特筆すべき特徴は、おそらくどこの「かぶら寿司」にもない、カブの厚さです。見た目にも豪華なこのスタイルは、「ひとつの『かぶら寿司』でひとつのカブの美味しさを葉っぱも含めて丸ごと使って味わってもらいたい」という竜さんの思いから生まれたそう。
▲金沢の農家さんから50kg程買って、皮むきしてから塩漬けにする大きなカブ。4,300個分の「かぶら寸し」になる

カブの味を引き立てる立役者のように新鮮な天然鰤は、竜さんの父・高木進(すすむ)さんが早朝の中央卸売市場で仕入れるというこだわりよう。竜さんの編み出した「かぶら寸し」は良質な材料を揃え、家族で丹精込めて作られます。
▲味の大きなポイントでもある天然鰤を選ぶ竜さんの父・髙木進さん(左)。中央卸売市場にて
▲突き抜けた天井の高い商店内にて。仕込みは全て手作業で行われる

そのまま食べられるほどおいしい糀。手仕事が生む本物の味わい

昔ながらの曲げわっぱの道具で造られている「髙木糀商店」の糀は、柔らかい白色の菌糸が表面をまんべんなく覆い、まさに糀という言葉の通り、蒸し米に咲く花のようです。お米は石川産コシヒカリを使用。
▲糀を仕込む糀蓋(こうじぶた)は昔ながらの杉や檜でできた曲物。今は少ない曲げわっぱ職人の仕事が目をひく
▲糀 一枚(920g)1,100円(税別)

菌糸の美しさに手を伸ばして一口食べてみると、オリゴ糖のような自然な甘さが噛むほどに口に広がります。噛めば噛むほど甘くなる滋養のあるお菓子のような味わいから、甘酒や味噌を造ったらどれほどおいしいものができるか、想像しただけでも気持ちが高鳴ります。

糀菌にも何千もの種類があると言いますが、こだわり派の竜さんはもちろん糀にも日々探求を重ねています。味噌にしても塩糀にしても甘酒にしても美味しいという、いろんな力をバランスよく兼ね備えた糀造りを目指しているといいます。
▲美味しい糀から生まれた発酵食品の数々。左から塩糀500円(税別)、杉桶みそ(1kg)1,000円(税別)、オリジナルてぬぐい900円(税別)~も人気

元々は家族で食べる分や年末年始のご挨拶に配るために造っていたという髙木家の「かぶら寿司」が、その美味しさから、もっと食べたい、大事な人へのお歳暮にしたいからぜひ売ってほしいという声が増えたことから、販売を始めたのが約10年前。
▲左から当主髙木竜さん、妻・真利子さん、母・篤美さん、父・進さん

当初は家族4人で作れる量のみの生産でしたが、評判が評判を呼びすぐに完売してしまうため、昨年からは数を増やして4,300個限定の販売となりました。

しかし油断は禁物!筆者は今年も安心して年を越せるように急いで買いに行きたいと思います。
中乃波木

中乃波木

東京に生まれ、幼少期はインドネシア、芦屋と移り住む。13歳の夏に母と二人で能登に移住したことから能登の原風景に魅了される。美大卒業後、広告制作会社amanaに入社。アシスタントを経て独立後2007年に写真集「Noto」を出版(FOIL刊)。2010年より季刊誌「能登」にてフォトエッセイ大波小波を連載中。写真家としての活動を軸にイラストレーター、ライター、ムービーカメラマンとしても活動している。(編集/株式会社くらしさ)

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