シャキシャキした歯ごたえ抜群の「大鰐温泉もやし」。温泉水を活用した350年以上続く伝統野菜に迫る!

2016.01.19 更新

青森県大鰐町(おおわにまち)は弘前の奥座敷と呼ばれ、湯治場として800年の歴史がある。この土地に350年以上の間、一子相伝の栽培方法で作り続けられている野菜が「大鰐温泉もやし」。浅草の老舗料理屋のメニューに並んだり、全国の有名シェフから問い合わせが入ったりするほど、ここ数年でジワジワと注目を浴びている。青森県内でもなかなか手に入らないという「大鰐温泉もやし」を現地で調査してみた。

▲長さがおよそ30cmもある長~い「大鰐温泉もやし」

大鰐で湧き出る天然の温泉水のみで生育しているという「大鰐温泉もやし」。収穫は主に11月~4月頃。しかし、昨今メディアなどで取り上げられることも多く、需要に供給が追いついておらず、県内でもなかなかお目にかかる機会が少ないのが現状だ。

大鰐温泉もやしを現地で食べてみる。その味は…

▲大鰐駅のすぐ側にある「山崎食堂」。お昼時は地元の人で賑わう

そんな貴重な「大鰐温泉もやし」を食べられるという、大鰐駅近くにある「山崎食堂」へ向かう。飾りっ気のない看板と赤いのれんの入口。まさに「町の食堂」。「大鰐温泉もやし」が食べられるこのような食堂が町内には数店舗ほどある。
▲昭和の食堂といった雰囲気が残るレトロな店内

迷わず選んだメニューは、「大鰐もやし炒め」と「大鰐温泉もやしラーメン」。どちらももちろん「大鰐温泉もやし」が使われているが、入荷状況によってはメニューに並ばない日もあるそう。
▲「大鰐温泉もやし」を豚肉と一緒に醤油で味付けた「大鰐もやし炒め」(800円・税込)

「大鰐温泉もやし」が想像以上にたっぷりと入ったもやし炒め。さすが地元の食堂。昔、津軽のお殿様にも献上されていたという「大鰐温泉もやし」の味は一体どんなものだろうか。正直、もやしにこんなに期待を寄せるのは初めてだ。
▲いざ実食!

一本一本が奇麗に際立った見た目通り、豆の部分だけではなく全体がしっかりとした食感。普段食べているもやしより細いのに、「大鰐温泉もやし」の方が圧倒的な歯ごたえがある。食べる毎にシャキシャキという音が歯を伝わって、口の中から耳の奥へと響いていく。

そして、土の香りがする様な独特の強い風味。具材と味付けがシンプルなだけに「大鰐温泉もやし」の特徴が良く味わえる一品だ。
▲「大鰐温泉もやし」が乗った「大鰐温泉もやしラーメン」(650円・税込)

続いて「大鰐温泉もやしラーメン」。津軽ラーメンの特徴である煮干し出汁のスープに細めのちぢれ麺。そんなラーメンに、歯ごたえ抜群の「大鰐温泉もやし」が乗っかっている。一口毎にもやしと麺を一緒に箸に乗せて口へ運び、もやしの食感と優しい麺の味わいを楽しむ。素朴なスープに「大鰐温泉もやし」独特の力強い風味が合わさって印象深い味だ。
もやし炒めもラーメンも、「大鰐温泉もやし」をふんだんに使い、十分すぎるほどその味を堪能できた。その他の料理も魅力的な「山崎食堂」。かつ丼、チキンライス、鍋焼きうどん…と並ぶ“鉄板メニュー”に、「大鰐温泉もやし」を使用したメニューと合わせていろいろ食べてみたくなる。

入手困難な大鰐温泉もやしを現地で探してみた

「大鰐温泉もやし」を食べられる店は少しずつ増えてはいるようだがまだ少なく、県外で入手することは限りなく難しい。プロジェクトおおわに事業協同組合の相馬康穫(そうまやすのり)さんによると、生産された「大鰐温泉もやし」は地元で70%が消費され、残りの30%しか県外には出回らないという。
▲温泉、売店、レストランの揃う複合施設「鰐come(わにかむ)」でも、「大鰐温泉もやし」を購入できる

地元消費の内訳には、地域の学校給食への使用も含まれている。長い間、町民に親しまれ生活に密接な野菜である証拠といえる。この日訪れた複合施設「鰐come」の産直・売店「メルカート」には、もやしの入荷が「お休み」と書かれてあった。
▲繊細な「大鰐温泉もやし」は生育状況によっては、地元でも手に入らないこともある

代わりに見つけたのが、「大鰐温泉もやし御ひたし」。大鰐高原産リンゴのりんご酢とだし醤油を使ったおひたしで、日持ちが短い大鰐温泉もやしを冷蔵で長期保存可能にした商品。こちらは通販での購入も可能だとか。
▲「鰐come」で買うことのできる「大鰐温泉もやし御ひたし」(800円・税込)
「鰐com」から少し足を伸ばし、町内の小さな商店で「大鰐温泉もやし」を見つけることができた。店長の話によると、朝一で入荷した「大鰐温泉もやし」は1時間ほどで完売。この在庫はつい先ほど、生産者さんが直接届けてくれた追加分だという。
▲この日、「大鰐温泉もやし」を唯一販売していた「福士酒店」
▲追加分だという「大鰐温泉もやし」。運がよかった!

ちなみにもう一軒、別の商店を覗いてみたが既に完売していた。最近では県外に住んでいる家族や親戚に送る地元民が多く、午前中には売り切れてしまうことが多いという。

門外不出の生産現場を見学!

「大鰐温泉もやし」の味を楽しんだところで、実際に生産している現場へお邪魔した。青森の寒い冬の中で、無肥料、無農薬で温泉の地熱を利用した昔ながらの製法を今も大事に受け継ぎ、「大鰐温泉もやし」は育てられている。
▲「大鰐温泉もやし」を作る作業場

午前9時過ぎ、薄暗い小屋の中で、二人一組で黙々と作業が続けられている。一人は収穫と土の入れ替え。土は無肥料であるため、すぐに連作障害が起きてしまうという。生育しては土をその度に寝かせる。閉め切られた室内に掘られた沢と呼ばれる穴の中で作業する姿は、何かの儀式のようだ。
▲土の中には温泉を流すパイプがあり、土の中はだいたい30度くらいに保たれているという

もう一人は収穫されたもやしの土を一つ一つ丁寧に洗い落とす。温泉の温度は常に監視し、限られた温泉水を大事に使っている。完全に分業された作業を2人の若者がそれぞれ淡々と行っていた。
▲土を洗い流すのにも温泉水を使用。栽培から出荷まで水道水は一切使われない

近年、生産者の減少により、大正時代に29軒あった「大鰐温泉もやし」の生産者は4軒まで減った。そこでこの製法を絶やさぬために後継者を募集し、「大鰐温泉もやし」の歴史上、初めて一子相伝の定めを越えて新たに若者が「大鰐温泉もやし」を作り始めたのだ。
▲後継者の八木橋順さん(右)と八木橋祐也さん(左)。 2人とも大鰐町生まれ、大鰐町育ち

2人は日々緊張感の中、長い伝統と繊細な作業に向き合っている。夫婦のようにお互いを補いながら作業し、細く、長いもやし一本一本に詰まる伝統の重みに緊張する毎日だと明かす。
▲洗いたての「大鰐温泉もやし」

温かい温泉水で洗っても茹で上がることはないらしい。気になって思わず聞いてしまった。
冷える作業場の中、湯気を上げる温泉水でじゃぶじゃぶと洗われ、輝くような「大鰐温泉もやし」は、すでに美味しそうだ。
▲大鰐温泉には無料の足湯もあり、観光客も気軽に温泉を楽しむことができる

最後に大鰐温泉の熱い湯に浸かりながら、「大鰐温泉もやし」の長き伝統に思いを馳せてみた。湯に浸かれば、温泉を利用して大事に育てられている「大鰐温泉もやし」の気分も味わえるのではないだろうか。
くどうたける

くどうたける

東京でウェブライターを経験し、2012年に青森へ移住。地域新聞や地域の情報を発信するお仕事をいただきながら、田舎でせっせと暮らしてます。(編集/株式会社くらしさ)

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